イケメン・美少女の緘黙児は大人から共感されない? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙児(選択性緘黙児)の容姿が良いと周囲の大人から共感をもらえず、援助もしてもらえないかもしれません。これが本当ならばイケメン・美少女の緘黙児は不利な状況に置かれます。この考察は以下の論文から得られたもので、まずその研究内容を見ていきましょう。

Fisher, R. J., & Ma, Y. (2014). The Price of Being Beautiful: Negative Effects of Attractiveness on Empathy for Children in Need. Journal of Consumer Research, 41(2), 436-450. DOI: 10.1086/676967.

カナダのアルバータ大学の研究者たちの論文です。彼らの研究はまず顔刺激の開発からスタートしました。発展途上国の子ども100人以上の写真から魅力度が異なる20人の男子と女子の刺激を選択しました。彼らは無表情で民族性(エスニシティ)・年齢・服装も似たようなものでした。彼らの写真はAmazon’s Mechanical Turkで募集した119人(男性58%、平均年齢32歳)が評価しました。 

*Amazon’s Mechanical Turkとは低コストで多くの被験者を集めてオンライン調査・実験を実施できるAmazonのサービスのことです。近年心理学でAmazon’s Mechanical Turkを用いた調査・実験が出てきています。

各実験手続きの詳細は後述しますが、最初に子供の顔の魅力の高さが情動や知能、社会性の知覚に与える影響を調べた結果を書きます。

調査の結果、低魅力条件と比較して高魅力条件の子供は魅力度が高く評価されました。また、高魅力条件と比較して低魅力条件はネガティブ表情(心配・悲しみ・恐怖・孤独)が強く感じられ、社交性が低く(友達作りが苦手等)、知能が低く、非協力的で冷酷だと思われました。これらは実験1~実験4を通して一貫して生じた結果なので、以下の実験1~実験4では説明を省略します。なお、魅力が高いと社交性や知能、協力性が高く感じられることを「美は良いステレオタイプ」(beautiful is good stereotype)と言います。

*ネガティブ表情はRichinsの情動的経験セット(Consumption Emotion Set:CES)で評価。社会的能力(social competence)の3側面(社交性・知能・協力性)は意味差異法(Semantic Differential Scales:SDS)で評価。

また、ニーズの高さを以下のように操作しました。これは実験1~実験4を通して同じ操作です。ただし、自然災害は土石流か津波のいずれかで実験によって違いました。

高ニーズ条件:自然災害で子供の家が破壊され、両親が死亡

低ニーズ条件:自然災害が子供の住む村を襲ったものの、家と家族は無事

災害の子供への影響の評価でニーズ条件の高低の違いを検討しました。その結果、低ニーズ条件と比較して高ニーズ条件は子供への影響が深刻で、壊滅的、苦痛であるという評価が高くなりました。なお、実験1・2ではニーズの高さの違いによって魅力が知能や社交性、協力性の評価に与える影響に違いがあるというエビデンスはありませんでした。

○実験1

Amazon’s Mechanical Turkの実験で、参加者は152人(男性42%:平均年齢34歳)でした。魅力の高低とニーズの高低によって自然災害の被害にあった子供に感じる共感性の強さに違いが生じるかどうかを調べることを目的としました。

顔ではなく言葉で魅力を操作する実験を行いました。仮想シナリオは災害復旧事業者がチャリティのウェブサイトに掲載する子供の写真を決める場面です。以下の2つの魅力条件を設定し、被験者を割り当てたのですが、どちらも同じ女の子の写真を見せました。

高魅力条件:少女が千人の大人(ウェブサイト訪問者)から平均より魅力度が高いと評価されたという情報を被験者に呈示

低魅力条件:少女が千人の大人から平均より魅力度が低いと評価されたという情報を被験者に呈示

実験の結果、低ニーズ条件(家と家族が無事な条件)では魅力的な子供への共感性が低くなりました。一方、高ニーズ条件(家が壊滅・両親が死亡した条件)では子供の魅力の影響はありませんでした。また、ネガティブ表情は有意な共変量でした。

○実験2

実験2では魅力の操作を言語的情報ではなく、写真で視覚的に行いました。また、ニーズ感覚が媒介変数(=魅力→ニーズ感覚→共感性)かどうかや魅力的な子供に悪い印象を持っていることが共感性の低さの原因になるかどうかを調査しました。魅力的な子供が悪い印象を与える可能性を検証するのは大人の先行研究で魅力的な人はうぬぼれていて、自己中心的、物質主義であるという印象を与えるという結果が報告されているためです。

*ここでのニーズ感覚とは写真の子供が助けをどれだけ必要としていると感じるかという意味です。平たく言えば「今すぐ助けなければ」と感じているほどニーズ感覚が高いということになります。

被験者は138人(男性41%:平均年齢42歳)でした。

魅力操作方法として同じ写真を写真編集ソフトで編集する方法を行いました。具体的には顔の魅力を下げるのに鼻や目を非対称的にし、皮膚の色のばらつきを高めました。魅力を高めるには皮膚の色のばらつきを抑えました。写真は女の子のものを用いました。

その結果、魅力度やニーズレベルが子供の純粋さ・無垢さの評価に影響しないことが分かりました。また、実験1と同じく低ニーズ条件で魅力的な子供への共感性が低下する一方、高ニーズ条件では魅力度の影響はないという結果が得られました(ネガティブ表情が有意な共変量)。

さらに、低ニーズ条件では子供の魅力が高い→ニーズ感覚が低い(援助を緊急に必要としないと感じられる)→共感性が低いという媒介関係が得られました。しかし、高ニーズ条件では媒介変数の効果は得られませんでした。

*研究チームは魅力が高い子供は知能や社会スキル(ソーシャルスキル)が高く感じられるので、援助が必要でないと考え共感性が低くなると考察しています。

○実験3

実験2では女の子の写真しか使っていませんでした。したがって、今回は男の子の写真も使って実験を行いました。また、子供への親近感の影響を調査することも実験3の目的としました。というのもブサイクな被験者が魅力度が高い子供よりも魅力度が低い子供に親近感を抱き、結果として魅力度が高い子供への共感が低くなる可能性があるからです。

被験者はアルバータ大学に通う227人の大学生(男性51%:平均年齢20歳)。

写真の魅力操作は実験2と同じでした。ただし、実験2とは違って女の子の写真と男の子の写真の両方を用いました。親近感は自己内他者包含尺度(Inclusion of Other in the Self Scale:IOS)で評価しました。IOSとは2つの円(1つは被験者を、1つは子供を表現)が重なっている程度で親近感や同化レベルを計測する方法のことです。

その結果、実験1・2の結果が再現されました。つまり、低ニーズ条件でのみ、魅力が高い女児・男児に対する共感性が低く、高ニーズ条件では魅力の影響はありませんでした。ただし、低ニーズ条件での女児の魅力の影響は1%水準で有意でしたが、男児の魅力の影響は有意傾向にとどまりました(p=.07)。また、ニーズの高低を問わず、子供の性別が共感性に影響していることはありませんでした。さらに被験者の性別を考慮しても結果は変わりませんでした。

実験2で調べたニーズ感覚の結果も再現されました。つまり、低ニーズ条件では子供の魅力レベルと共感性の間をニーズ感覚が媒介していました。しかし、高ニーズ条件ではニーズ感覚の媒介変数としての役割は有意ではありませんでした(ネガティブ表情が有意な共変量)。

また、魅力が低い子供よりも魅力が高い子供の方が親近感が強くなりました(ネガティブ表情が有意な共変量)。また、女児よりも男児の方が親近感が強くなりました。しかし、統計的に心理的親密度が美男子・美少女に感じる共感性の低さを説明するとの証拠は得られませんでした。

○実験4

実験4では魅力の操作に言葉や画像編集を使わず、2人の異なる子供の写真をそのまま使用しました。魅力度を人工的に加工するのではなく、リアルな子供の写真を使うことで、実際の生活場面に近づけました。また、実験1~3までは共感性を指標としていたのですが、今回は実際の援助行動を指標(従属変数)としました。

被験者はAmazon’s Mechanical Turkで募集しました。192人(男性55%:平均年齢33歳)が協力しました。仮想のチャイルド・スポンサーシップサイトで5人の子供(少年が3人、少女が2人)を見せ、その中の1人について質問に回答してもらいました(実際には魅力が高い少女か魅力が低い少女のどちらかの質問しかない)。

*チャイルド・スポンサーシップとは経済的に貧しい国の子供の生活を支援する事業のことで、個人単位で寄付をすることが可能です。

被験者に参加報酬の何割を寄付するか質問しました。選択肢は0%、25%、50%、75%、100%の5つです。回答結果を平均すると30%になりましたが、低ニーズ条件では魅力が高い子供への寄付金額が16%に低下しました(有意差も検出)。一方、高ニーズ条件では魅力の高低に関わらず寄付金額は32~37%ほどで有意差は検出されませんでした。ネガティブ表情は共変量として有意ではありませんでした。

以上の結果は寄付した人の割合のデータでも出ました。つまり、低ニーズ条件では、魅力が高い子供へ寄付する人の割合が40%、魅力が低い子供へ寄付する人の割合が61%で、これに有意差がありました。しかし、高ニーズ条件ではブサイクな子供へ寄付する人の割合は53%、容姿が良い子供へ寄付する人の割合は52%で、これに有意差はありませんでした。

また、ニーズ感覚が子供の魅力と寄付行動の間の媒介変数であることも判明しました。つまり、写真の女の子が美少女だったり可愛らしいと子供が援助を必要としているという感覚が低下し、寄付行動が減少しました。もちろんこれは低ニーズ条件だけで、高ニーズ条件では有意ではありませんでした。

さらに、親近感が魅力が高い子供への寄付行動の低さを説明するという証拠は得られませんでした。

○まとめ

実験1~実験4を通して容姿が魅力的な子供はそうでない子供と比較して、社交性や知能、協力性が高く感じられましたが、ネガティブ表情は弱く感じられました。

津波や土石流の被害を受け、家を失い、両親を亡くした子供に対しては魅力の高さによって共感(実験1~3)や寄付金額・寄付した人の割合(実験4)が違うことはありませんでしたが、自然災害の被害を受けても家や家族が無事だった場合、子供の容姿が良いと共感性が低く(実験1~3)、寄付金額や寄付した人の割合が低く(実験4)なりました。子供が女の子であった場合に効果が顕著でしたが、男の子でも魅力レベルの影響が示唆されました(実験3)。顔が全く同じでも他の人の魅力評価が高ければ共感を感じにくくなり(実験1)、同一人物の顔の魅力を写真編集ソフトで加工しても(実験2・3)、魅力度が異なる全く別の子供の写真(実験4)を使っても同じ結果が得られました。

子供の家や家族が崩壊しなかった場合に子供の魅力が高いと共感性が低下するのは、ニーズ感覚が媒介変数として機能しているからです。つまり、低ニーズ条件で子供の魅力が高い→援助を緊急に必要としないと感じられる→共感が低い(実験2・3)・寄付行動が低下(実験4)というパス(経路)がありました。

以上の結果は魅力が高い子どもが悪い印象を与えるという理由(実験2)や子供に感じる親近感(実験3・4)では説明できません。

○疑問点

実験1~3を通して魅力が共感に与える影響はネガティブ表情が有意な共変量ということになりました。つまり、魅力が高い子供はネガティブ表情が弱く感じられる(実験1~4)ので、それが共感性へ影響した可能性もあるわけです。論文中にはこのあたりの考察が少なく、物足りなさを感じました(と言っても私が読んだのはアブストラクトと実験の目的、方法、結果、ミニ考察ぐらいなので、他の部分に考察が書かれているのかもしれませんが)。

本研究は魅力が低い条件と魅力が高い条件の比較であり、魅力が平均的な中立条件を設定していません。したがって、魅力が低い子供に対する共感が高いのであって、魅力が高い子供への共感レベルは普通と解釈することも可能です。

○場面緘黙症への応用

長くなりましたが、本題はここからです。以上のアルバータ大学の研究が場面緘黙症にどのように関係してくるのでしょうか?

まず場面緘黙児が男前・美少女であった場合、緘黙の苦しみが大人に強い共感を与える可能性や緘黙児へ支援行動をする可能性が低下します。特に緘黙児が美少女の場合に顕著な可能性があります。また、同じ緘黙児でも周りに容姿が良いという評判があることを知っている場合、共感が低下しやすいかもしれません。

ただし、場面緘黙症が深刻な精神的・社会的ダメージを子どもに与えるという認識があれば、緘黙児の容姿が共感・援助行動に与える影響は小さくなります。

以上の考察は場面緘黙症の啓発をする際にも重要なポイントになりますね。緘黙症の啓発に美少年・美少女の写真を使うのは逆効果かもしれません。また、啓発で場面緘黙症が子供に与える影響は深刻なものであると訴えることができれば、緘黙児の魅力が周囲の人の共感や援助行動に与える悪影響は小さくなります。

実験1~3では魅力の共感性に対する影響を示していただけで、実際の援助行動や援助意図に影響するかどうかは分かりませんでした。しかし、実験4で実際の援助行動(寄付行動)に影響することが示されています。もしかしたらイケメン・可愛い場面緘黙児は周囲の人から援助をもらうことが少ないかもしれません。本研究が場面緘黙児への支援に直接当てはまるかどうかは分かりませんが、もしそうだとしたら魅力的な緘黙児への共感が低く、援助行動も少ないのはすぐに緘黙児を支援しないでもいいだろうというニーズ感覚が媒介していると考えられます。

○元場面緘黙症のカースティー(・ローズ)・ヘイズルウッド(Kirsty Rose Heslewood)さん

ところで、元場面緘黙症のカースティー・ヘイズルウッド(ヘィズルウッド)さんは2012年ミスハートフォードシャー、2013年ミスイングランド、ミス英国(ミスイギリス)の経歴のあるモデルさんです。カースティーさんは2013年2月13日、日本テレビで放映されたザ!世界仰天ニュース(司会:笑福亭鶴瓶・中居正広)の「静かな少女の秘密」や2014年9月24日のザ!世界仰天ニュースの「人前で喋れない…沈黙の少女」で場面緘黙症の経験者として取り上げられました。彼女はイギリスの緘黙支援団体SMIRA(Selective Mutism Information & Research Association)の拠点があるレスター地方の新聞(オンライン版)でも話題になりました。また、カースティーさんは2014年の秋にイギリスの公共テレビ局であるチャンネル4にも登場予定で、さらにBBCのテレビドキュメンタリーにも登場する可能性があります

ネットサーフィンをしていると、カースティさんは容姿が良いから皆に認められたという意見を見かけることがあります。この皆はおそらく同級生(子ども)のことを指すのでしょう。しかし、容姿が良い緘黙児で、なおかつ緘黙の苦しみが伝わらなかった場合は大人から軽んじられるかもしれませんね。ただし、緘黙が重篤だと感じられる場合には魅力の効果がないと考えられます。なので、カースティさんの緘黙症状が重いと感じられた人には当てはまりません。

時々、カースティさんの美貌に嫉妬していると思われる書き込みを見つけることがあります。しかし本研究が示したことが確からしいならば美貌にも欠点があることになります。男前・美女であるのもほどほどが肝心というわけです。ただし、美貌があだとなることを実験的に示したのは本論文が初めてであり、追試による再現が望まれます。

なお、この研究成果が即、場面緘黙症に当てはまるかどうかは分かりませんから、その点割り引いて考える必要がありそうです。さらに緘黙児が大人の共感や援助行動を引き起こすかどうかは子供の容姿以外の要因も関わってくることでしょう。たとえば、本研究は全く関係のない子供への共感・寄付行動を調べていましたが、知り合いの子供の魅力度は調査していませんでした。実際の緘黙児支援ではもうすでにその子のことをある程度知っていることが多いと考えられますから、本研究がどの程度当てはまるかは不明です。しかし、緘黙児の身体的魅力が相手の共感や援助行動に影響する可能性を頭の片隅に置いておいても損はないと思います。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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