ウィスコンシンカード分類課題が苦手な社会不安障害患者 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   社交不安(社会不安)に関する興味深い研究  »  ウィスコンシンカード分類課題が苦手な社会不安障害患者

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)と研究手法、研究結果それから考察の一部を読んだ、社会不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社会不安なのかというと、場面緘黙症児(選択性緘黙症児)は社会不安が高いか、もしくは社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。

今回は社会不安障害患者はウィスコンシンカード分類課題の成績が悪く、障害の重篤度と成績も相関するという研究です。

なお、社会不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒セラピストが見た、クライエントが登場する夢とその影響

↑セラピストはクライエントが夢に登場すると、その内容をクライエントや患者の家族に話すことがある、多くのセラピストはクライエントが夢に登場すると起床する等という質的研究です。このセラピストは臨床心理士のことなのか、それとも心理療法士のことなのか。いやそもそも両者の違いが私には分かりませんが、はたして場面緘黙症を担当する臨床心理士・心理療法士あるいは精神科医はたまた教師は緘黙児・者が登場する夢をみるのでしょうか?

Fujii, Y., Kitagawa, N., Shimizu, Y., Mitsui, N., Toyomaki, A., Hashimoto, N., Kako, Y., Tanaka, T., Asakura, S., Koyama, T., & Kusumi, I. (2013). Severity of generalized social anxiety disorder correlates with low executive functioning. Neuroscience Letters, 543(24), 42-46. DOI:10.1016/j.neulet.2013.02.059.

北海道大学大学院医学研究科・医学部の藤井泰助教授、清水祐輔助教授、三井信幸特任助教授、豊巻敦人特任助教授、橋本直樹助教授&デイケア医長、賀古勇輝助教授、田中輝明講師&医局長、朝倉聡准教授、小山司名誉教授、久住一郎教授(精神医学分野)、北海道医療大学の北川信樹教授(看護福祉学部)による研究論文です。ちなみに、北海道大学の橋本直樹助教授は北海道大学保健センターの助教授を、北海道大学の朝倉聡准教授は北海道大学保健センター准教授を、北海道大学の小山司名誉教授は医療法人重仁会大谷地病院臨床研究センター長を兼任されています。

○研究手続き

合併障害のない社会不安障害患者30人(女性10人,平均年齢24歳)と性別・年齢・教育水準をマッチングさせた健常者30人(女性10人,平均年齢26歳)が参加。なお、IQ(知能指数)にも群間で有意差は検出されませんでした。

*IQはJART(Japanese Adult Reading Test)で評価。

神経心理学的検査の内、実行機能はウィスコンシンカード分類課題(Wisconsin Card Sorting Test:WCST)で評価。ちなみに、ウィスコンシンカード分類課題は慶応版(Wisconsin Card Sorting Test Keio Version:KWSCT)を用いていました。

実行機能とは目標を達成するために行われる認知的制御のことで、主に前頭前野の機能に支えられていると考えられています。課題ルールの維持やその切り替えを行えるのも実行機能によります。ウィスコンシンカード分類課題とはその実行機能を計測する課題のことです。具体的には図形(三角形や星型等4種類)、その図形の色(赤色や青色等4色)、その図形の数(1~4個)がそれぞれ異なるカードを図形・色・数のいずれかの分類基準に従って分類します。学習水準に達したら、その分類基準を被験者に知らせずに変更します。変更した後に新しい分類基準を学習できるかどうかが問題となります。

*実行機能と似た言葉に中央実行系という認知心理学用語があります。私は学生時代、実行機能と中央実行系って違うのだろうか?違いがあるとしたら何?と疑問を抱いていました。中央実行系はアラン・バドリー(Alan Baddeley)氏のワーキングメモリモデルに登場する用語で、記憶貯蔵庫(視空間スケッチパッド・音韻ループ)を調整するために必要な注意を制御しています。なお、ワーキングメモリモデルでは記憶貯蔵庫にある視覚的・空間的情報と言語的情報を統合する等の機能を担うエピソード・バッファも提案されています。

○研究結果

以下の神経心理学検査の統計解析はうつ症状や状態不安を統制して実施したので、これらの影響は排除されます。ちなみにうつ症状はべック抑うつ質問紙第2版(Beck Depression Inventory – Second Edition:BDI-II)、状態不安は状態-特性不安質問紙の状態不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI-S)で評価していました。

健常者群と比較して社会不安障害群はウィスコンシンカード分類課題で達成したカテゴリー数が少なく、固執エラーが多くなりました。両者ともに論文中に詳しい定義がなかったのですが、おそらく達成したカテゴリー数とは学習基準に達した分類基準数のことだと思われます。また、固執エラーとは分類基準が変更されても、前に達成した分類基準にとらわれて、間違う誤りのことです。

*その他、心理運動速度や持続注意を持続処理課題(Continuous Performance Test:CPT)、実行機能をトレイルメイキングテスト(Trail Making Test:TMT)、言語的流暢性を言語流暢性課題(Word Fluency Test:WFT)、記憶力を聴覚性言語学習検査(Auditory Verbal Learning Test:AVLT)で評価していましたが、これらは社会不安障害の有無で有意差は検出されませんでした。

社会不安障害が重篤であればあるほど、ウィスコンシンカード分類課題の固執エラーが多く(r=.532)、社会的・職業的機能が低いほど、ウィスコンシンカード分類課題の固執エラーが多くなりました(r=−.377)。また、社会不安障害の重症度が重いほど、ウィスコンシンカード分類課題での達成されたカテゴリー数が少なくなりましたが、有意傾向でした(r=−.350, P=.058)。

*社会不安障害の重症度はリーボヴィッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale:LSAS)、社会的・職業的機能は機能の全体的評定尺度(Global Assessment of Functioning:GAF)で評価。

一方、社会不安障害の持続期間、状態不安、うつ症状、抗うつ薬の用量はウィスコンシンカード分類課題の成績と相関しませんでした。

○コメント

本研究成果から社会不安障害の人は実行機能に障害があると研究チームは考察しています。

ただ、10人の社会不安障害患者がSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を服用していました。SSRIはパキシル(パロキセチン)またはデプロメール(フルボキサミン)でした。これらの影響が気になります。

トレイルメイキングテスト(TMT)で実行機能を計測していたのに、ウィスコンシンカード分類課題とは違ってTMTでは有意な結果が得られませんでした。TMTよりもウィスコンシンカード分類課題の方が実行機能の検査として優れているのか、それとも両者で評価している実行機能は微妙に異なるものなのか、良く分かりません。

社会不安障害ではありませんが、臨床閾値以下の社会不安の認知機能に関しては「社会不安が高いと顔のアイデンティティを再認するのが苦手」というオーストラリアの研究もあり、実行機能以外の認知機能についても調査が必要です。

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP