インターネット認知行動療法の副作用(社会不安障害) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)と研究手法、研究結果、考察の結論部分を読んだ、社会不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です(後日全文読みました!)。

なぜ、社会不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児(選択性緘黙症児)は社会不安が高いか、もしくは社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。

今回はインターネット認知行動療法+注意バイアス修正訓練(統制訓練)は社会不安障害患者に副作用をもたらすことがあるという研究です。

なお、社会不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒自我消耗は害ならず

↑心理学の自我消耗(ego depletion)という言葉をご存知でしょうか?自我消耗とは認知的制御が必要なことを行った後に、抑制が利かなくなり、衝動的になる現象のことです。それが自分を守る行動につながるというのがリンク先の記事になります。

Boettcher, J., Rozental, A., Andersson, G., & Carlbring, P. (2014). Side effects in Internet-based interventions for Social Anxiety Disorder. Internet Interventions, 1(1), 3-11. DOI:10.1016/j.invent.2014.02.002.

スウェーデンのストックホルム大学心理学部、ドイツのベルリン自由大学臨床心理学部、ストックホルムのカロリンスカ研究所臨床神経科学部、リンショーピング大学スウェーデン障害研究機関行動科学学習研究科の研究者達の論文です。

○背景と目的

近年、インターネット心理療法の研究が進んでおり、実際の臨床現場に導入している国・地域もあります。たとえば、バーチャルリアリティのセカンドライフによる治療(Yuen et al., 2012)インターネット回線を利用した無料電話ソフト、Skypeによる治療(Yuen et al., 2013)の後に社会不安障害の症状が緩和したという研究報告がされています。しかし、副作用のようなネガティブな効果はないのでしょうか?本研究の目的はインターネット心理療法のネガティブな影響が社会不安障害で生じるかどうかを調査することでした。

○方法

133人の社会不安障害患者が参加(平均年齢33歳,男性が48%)。18歳以上で自殺念慮・希死念慮(suicidal ideation)がない人が対象。

心理療法は注意バイアス修正訓練とインターネット認知行動療法を組み合わせたものでした(66人)。ただし、注意バイアスの統制訓練群も参加しました(67人)。統制訓練群はインターネット認知行動療法も受けていました。

*注意バイアスについては「吃音者も注意バイアスを示す(反応形式が口頭の場合)」を参照してください。今回は注意バイアス修正(統制)訓練にドット・プローブ(dot-probe)手続きを用いていました。 ドット・プローブ課題とは何ぞや?という方は「行動抑制+注意バイアス=ひきこもり」を参考のこと。ちなみに本研究ではドット・プローブ訓練を毎日196試行行っていました。これは5~10分に相当します。

心理療法は11週間の指導療法(guided treatment)の元で行いました。注意バイアス修正訓練または統制訓練は最初の2週間の間に行い、インターネット認知行動療法は3週から11週の間に実施しました。ネット認知行動療法は社会不安障害のセルフヘルプマニュアルに則っていました。内容は認知再構成(cognitive restructuring)や暴露エクササイズ等です。この認知行動療法を宿題として課し、成果をEメールで臨床心理士に送ってもらい、フィードバックをもらいました。

副作用の評価は心理療法開始から2週間後と治療終了後の11週間後、4か月の追跡期間後に行いました。自由回答式質問(open-ended questions,open formatted questions)を用いました。また、社会不安症状とうつ症状、QOL(生活の質:Quality Of Life)については悪化率と無反応率を算出しました。無反応率と悪化率は信頼変化指標(Reliable Change Index:RCI)で評価しました。

指標:社会不安は自己報告式のリーボビッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale self-report:LSAS-SR)・社交恐怖評価尺度(Social Phobia Scale:SPS)・社会的交流不安尺度(Social Interaction Anxiety Scale:SIAS)で、うつ症状の変化は自己報告式のモントゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery Åsberg Depression Rating Scale — Self-Report:MADRS-S)で、QOLの変化は生活の質尺度(Quality of Life Inventory:QoLI)でネット評定。

○結果

両群ともにネット心理療法後に社会不安症状が減少し、群間に有意差はありませんでした。これは4か月後でも持続しました。以下は両群を合わせた副作用についてのデータです。

133人中4人(4.5%)に注意バイアス修正訓練(統制訓練)と関連した副作用があったと判断されました。1人は社会不安症状の悪化、1人は頭痛や胃痛の出現、1人は集中力不足、そして最後の1人は注意バイアス訓練をやっているところを他人に見られて、社会不安障害の治療をやっていることがばれるのを恐れていました。

*副作用が心理療法に関連しているかどうかの判断はインターネットによる心理療法に精通した臨床心理士2人が判断。また、心理療法の副作用を体験した人の内、3人は臨床試験中に他の心理療法や薬物療法を開始したので、どちらの治療と関連しているのか判断が難しくなりました。

上の結果はオープンエンド型質問の結果ですが、別の指標を用いると注意バイアス修正訓練(統制訓練)後に社会不安の症状が悪化したのは1~7人(0.8~5.3%)でした。社会不安・うつ症状・QOLの中で少なくとも1つが悪化した人は19人(14%)でした。 70%~87%の人は社会不安症状に何の変化もありませんでした。

ネット経由の認知行動療法が終了した後では17人(12.9%)の人がネガティブ反応を示しました。5.5人(4.4%)が不眠や不安、うつ症状など新しい症状を示しました。社会恐怖の強さとその影響に接して悲観的になった人が2人いました。社会不安症状が悪化したのは4人(3.2%)でした(これはオープンエンド型質問の結果で、別の指標では社会不安が悪化した人はいませんでした)。認知行動療法で自らの社会的行動への認識を深めることで逆に社会的場面に居づらくなったと語った患者もいました。社会不安・うつ症状・QOLの中で少なくとも1つが悪化した人は9人(6.8%)でした。

しかし、注意バイアス修正訓練(統制訓練)後・ネット認知行動療法後のどちらの場合も副作用は中程度(moderate)でした。副作用の多くは一時的なもので幸福感に持続的に悪影響を及ぼすことはありませんでした。

ネット経由の認知行動療法終了後に社会不安が悪化した患者はいませんでした(ただし、オープンエンド型質問では4人が悪化)が、うつ症状が悪化した人が9人(6.8%~7.1%)いました(QOLが悪化した人はいませんでした)。社会不安障害の症状に対して治療効果のなかった無反応者は約30%で、うつ症状に変化のなかった人が57%、QOLに変化のなかった人は90%でした。

4か月の追跡期間後では社会不安が逆戻りした患者が1~3人(0.8~2.5%)、うつ症状が悪化した人が5人(3.8%~4.3%)、QOLが悪化した人が2人(1.5%~1.7%)いました。社会不安の症状に対して治療効果のなかった無反応者は約30%、うつ症状に変化のなかった人は約66%、QOLに変化がなかった無反応者は85%でした。

心理療法開始前の社会不安症状が重い人は注意バイアス修正(統制)訓練+ネット認知行動療法直後に社会不安・うつ症状・QOLのどれかが悪化している可能性が高まりました(OR=1.07(CI:1.02–1.13))。

○コメント

Jonsson et al.(2014)によると、心理療法の副作用はランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)の文献中で言及されることが少ないです。たとえ言及されることがあっても、簡単に済まされることが多いのが現状です。しかし、実際には副作用が生じることもあります。心理療法の副作用に関する文献が知りたい方は私の別のブログにある記事「2014年08月14日のつぶやき(心理学、脳科学の最新研究ニュース)」をご覧ください。

*Jonsson et al.(2014)とは以下の文献のこと。

Jonsson, U., Alaie, I., Parling, T., & Arnberg, F. K. (2014). Reporting of harms in randomized controlled trials of psychological interventions for mental and behavioral disorders: A review of current practice. Contemporary Clinical Trials, 38(1), 1-8. DOI:10.1016/j.cct.2014.02.005.

心理療法は長期的には症状の改善に役立ちますが、短期的には副作用をもたらす可能性を常に念頭にあいておかなければなりません。もっともこの研究はインターネット心理療法の結果ですから、対面形式の場合は不明です。それにスマートフォン(スマホ)で注意バイアス修正訓練(統制訓練)を行い、社会不安を寛解させた研究(Enock et al., 2014)が2014年に初めて発表されましたから、スマホでの副作用も調査する必要があります。

参加者は全員18歳以上でしたから、子供の副作用については分からないままです。今回の結果は心理療法が短期的に悪影響をもたらすことがあることを示すものであり、敏感な?子どもの場合はもっと副作用があるかもしれません。

本研究では12週間の認知行動療法終了後や4か月の追跡後にうつ症状が悪化した人が3.8%~7.1%いました。これは社会不安障害の治療により逆に別の精神症状が悪化する人がいることを示唆するものです。特に治療開始前の社会不安症状が重篤な人は心理療法直後の精神的健康が悪化している可能性が少し高くなりました。臨床心理士は主症状以外にも気を配らなければなりませんね。

インターネットではありませんが、場面緘黙症(選択性緘黙症)の治療にもIT技術が使われることがあります。たとえば、認知行動療法のオンラインポータル(ゲーム)を場面緘黙症の治療に活かした研究があります。日本でも場面緘黙で知的障害の高校生をiPad・アプリで支援したという事例があります。特に場面緘黙症の認知行動療法にコンピュータを用いた研究は注意バイアス修正訓練はないものの、今回の研究と似たところがあります。これらの場面緘黙症の治療実践で副作用がなかったか気になりますね。

*追記(2014年8月24日):本研究は統制群(注意バイアス修正訓練(統制訓練)もネット認知行動療法もやらない群)を設けていませんでした。したがって、今回の研究成果がどの程度心理療法の副作用を反映したものなのかどうかは不明です。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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