統合失調症で場面緘黙症状のある人は86% | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は少し趣向を変えて、統合失調症(旧称:精神分裂病)の緘黙症状に関する文献を読んでみました。もっとも、この論文は統合失調症の緘黙を直接調べたものではなく、あくまで疫学調査の一環として場面緘黙(選択性緘黙)がでてきたものなのですが。

Waldo, M. C. (1999). Schizophrenia in Kosrae, Micronesia: prevalence, gender ratios, and clinical symptomatology. Schizophrenia Research, 35(2), 175-181. DOI: 10.1016/S0920-9964(98)00118-2.

○方法

ミクロネシア連邦コスラエ州に住む統合失調症の人の症状と有病率の男女比を主な調査対象としました。具体的な方法としては統合失調症の事例を人力で収集しました。その際にコミュニティメンタルヘルスケア勤務の方にもインタビューを実施し、事例を収集しました。先行研究の事例もできるだけかき集めました。

これらの事例をレビューして統合失調症の可能性のある人にDSMのための構造化臨床面接(SCID:Structured Clinical Interview for DSM)を実施しました。構造化臨床面接ができない事例もありましたが、家族やメンタルヘルススタッフへのインタビュー等を実施し、できるだけの情報を集めました。

○結果

49人の「疑惑事例」の内、29人に統合失調症や精神病性うつ病、双極性障害(躁鬱病)があり、その中で統合失調症だと判断されたのは22人でした(DSM-IV基準)。男性が19人、女性が3人(男女比6.3:1)で、全員3年以上統合失調症でした。平均発症年齢は男性で20.6歳、女性で22.7歳でした。

合併症はアルコール依存症が3人で、大麻依存症が1人でした。マリファナ使用者は11人、喫煙者は12人でした。統合失調症患者の全員に幻聴があり、幻視は11人でした。9人に暴力的行動歴があり、パラノイド妄想・被害妄想?・偏執性妄想?(paranoid delusions)は12人でした。

22人の内、19人(86%)に場面緘黙エピソードがありました。これは統合失調症の後期症状というよりは初期の崩壊のサイン(earliest sign of breakdown)のようでした。この「初期の崩壊のサイン」という表現の意味するところが私には分かりませんでしたが、統合失調症の前駆症状のことを指しているのかなと思います。

場面緘黙がある患者に統合失調症に伴うカタトニア(緊張病性症状)があった事例はありませんでした。約20年間緘黙していた患者もいましたが、3年間緘黙していた患者もいました。緘黙患者が表情でコミュニケーションをとろうとすることがしばしばありました。

デカン酸フルフェナジンやハロペリドールの投与後、緘黙症状から急速に回復しました。約20年間緘黙していた患者も薬を服用し始めてから3か月後にしゃべり始めました。ただし、発話は直接的な質問に対する応答等に限定されていました。

22人の内、8人が治療しに来た(または治療しに連れてこられた)理由として引きこもり行動?(withdrawn behavior)と緘黙をあげており、これが最も多くなりました。これは日本で緊張型統合失調症(カタトニア型統合失調症)既往歴のある33歳の場面緘黙の女性が精神科の診察を受けた理由と一致します。ちなみに2番目に多い理由が暴力的行動でした。

○コメント

これはあくまでもミクロネシア連邦コスラエ州での調査であり、他の国・地域に統合失調症患者で場面緘黙症状を呈する人がどれだけいるのか分かりません。

これだけ統合失調症患者に場面緘黙症状が多いと、これは不安障害・情緒障害としての場面緘黙症ではなくて、陰性症状としての緘黙であると考えられます。カタトニアとしての緘黙も考えられますが、緘黙以外のカタトニア症状がないところを見ると、カタトニア性緘黙ではなさそうです。なお、ネット上には統合失調症の緘黙は陽性症状だと書いているサイト(医療法人啓光会HIKARICLINIC:岡山)もありますが、陰性症状だと思います。

しかし、これはあくまで解釈で本当に不安障害・情緒障害としての場面緘黙症がないかどうかは詳しく調べてみないことには分かりません。また、統合失調症やその前駆症状が生じる前から不安障害・情緒障害としての場面緘黙症がどれぐらいの人にあったのかも知りたいですが、論文だけでは良く分かりません(特に約20年間緘黙していた男性が気になります)。

デカン酸フルフェナジンについては知らないのですが、ハロペリドールは統合失調症の治療薬です。ハロペリドールは幻聴や幻視など幻覚症状(陽性症状)には効果的で、引きこもりや意欲の減退等の陰性症状には効果が薄いとされています。このハロペリドールが緘黙の解消に効果があったとはどういうことなのか疑問です。単なる偶然にすぎないのか、薬以外の要因が原因なのか、それとも本当に何らかの効果があったのか、謎です。

○統合失調症の疫学調査の結果について(自己満足のための記述ですから、読み飛ばしてもかまいません)

本論文の序論では、15歳以上の統合失調症有病率について、同じ西太平洋に位置するパラオ共和国で0.76%、ミクロネシア連邦のヤップ州で0.97%である一方、コスラエ州(ミクロネシア連邦)で0.12%、マーシャル諸島で0.082%であったという先行研究が引用されています。つまり西太平洋諸島と比較して、東太平洋諸島では統合失調症の発症率が低いのです。ただ、この点に関してはいささか疑問の余地があります。筆者は別の論点でコスラエ州の統合失調症有病率が0.64%だとする文献を引用しており、これだと有病率が高い部類に入るのではないかと思うのです。これはもしかしたらサンプル場所(クリニックやコミュニティ)の違いによるのかもしれませんが、詳しいことは私には分かりません。

*ミクロネシア連邦はヤップ州、チューク州、ポンペイ州、コスラエ州の4州から構成されている国家で、オセアニア地域にあります。

また、他の発達途上国では統合失調症の男女比が2:1なのに、太平洋諸島の国の男女比は4:1~12:1になり、男性が多いと考察しています(ただし、パラオ諸島は2.28:1だそうです)。これは男女比6.3:1で男性が女性の4倍以上という本研究成果と一致します。

○まとめ

1つの調査報告だけで、統合失調症患者に場面緘黙の症状を示す人が多いと言いたくはないのですが、他に体系的研究が見つからないのだから仕方ありません。普通の場面緘黙症の有病率よりも統合失調症の場面緘黙症状の発生率の方が高い可能性を頭に留めておくことにします。もちろん緘黙の様態や対処法、支援方法は不安障害・情緒障害としての場面緘黙症と統合失調症の1症状としての場面緘黙では異なってくると考えられます。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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