社会不安が高い人は鏡を見ると視線を受けている感覚が強まるが… | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)と実験方法、実験結果を読んだ、社会不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社会不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児(選択性緘黙症児)は社会不安が高いか、もしくは社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は社会不安が高い人は視線を感じやすく、それは鏡で自分の姿が見える時に顕著であるが、鏡の影響は時間とともに消失するという研究です。

なお、社会不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒信仰心が強い人はお酒で攻撃性が増す

Bolt, O. C., Ehlers, A., & Clark, D. M. (2014). Faces in a Crowd: High Socially Anxious Individuals Estimate that More People Are Looking at Them than Low Socially Anxious Individuals. PLoS ONE, 9(9): e106400. doi:10.1371/journal.pone.0106400.

2014年9月10日に科学雑誌『プラスワン』にオンライン公開された論文です。イギリスのキングスカレッジロンドン心理学部、英国国立健康研究所(National Institute for Health Research:NIHR)サウスロンドン精神衛生生医学研究センター(Mental Health Biomedical Research Centre)、モーズリーNHS財団トラスト(Maudsley NHS Foundation Trust)、オックスフォード大学実験心理学部の研究者達の論文になります。

○実験の背景

社会不安障害では視線恐怖症というものがあるように視線にとても敏感な人がいます。実際に社会不安が高いほど逸れた視線を直視と感じやすい(Schulze et al., 2013)社会不安が高い男性は視線を直視と感じる範囲が広がっている(Jun et al., 2013)という研究論文が近年公刊され始めています。

○実験の目的

社会不安が高い人は視線を向けられていると感じる集団の人数(割合)が大きいかどうか、それが自己焦点型注意によって調整されているかどうかを調査することを目的としました。

○実験方法

社会不安が高い人48人(女性38人)と社会不安が低い人48人(女性32人)が参加。平均年齢はともに30歳。

*社会不安は否定的評価恐怖尺度短縮版(Brief Fear of Negative Evaluation Scale:bFNES)とオールバニーパニック恐怖質問紙(Albany Panic and Phobia Questionnaire:APPQ)の社会恐怖下位尺度で評価。 また、ベックうつ評定尺度(Beck Depression Inventory:BDI)でうつ症状を、自意識尺度(Self-Consciousness Scale:SCS)で公的自意識・私的自意識を、自己焦点注意尺度(Self-Focused Attention Scale:SFAS)で自己焦点注意を評価。

課題は「集団の中の顔」課題コンピュータ版(“faces in a crowd” computer task)を用いました。この課題では顔が18個ある顔マトリックスを用い、被験者を直視している人の割合を22%(4/18)~78%(14/18)に操作しました(直視以外は45°横向きか下向き)。被験者には顔マトリックスの中で自分を見ている人の割合を推定してもらいました。顔の呈示時間は顔の数がカウントできない2,750msとしました。

上の課題は鏡で自分の姿を見れる条件と鏡で自分の姿が見れない条件(鏡の裏を被験者に見せる条件)の2回実施しました(被験者内実験計画:within subjects design)。鏡は周辺視野に入る位置に設定しました。大きさが異なる2種類の鏡をそれぞれ2枚ずつ用い、2つの小さい鏡はコンピュータモニターの横のデスクに、2つの大きな鏡は被験者が座っている椅子の横の床に置きました。鏡は自己焦点型注意を促す役割をすると考えられました。

実験の途中休憩中に注意の焦点が自己/自己身体か課題/環境のどちらにあるかを両極尺度(bipolar scale:BS)で、実験の休憩中の自己評価と不安は視覚的アナログ尺度(visual analogue scales:VAS)で評価しました。自己評価では他者から自分がどのように見えるかの印象についての評定を求めました。

○実験結果

高社会不安群、低社会不安群ともに被験者を見ている人の実際の割合と主観的な割合が強く相関しました(r=.985~.987)。実験の進行とともにこちらを見ている人の推定割合が増加しました。両群ともに実際の割合を低く評価していました。しかし、低社会不安群と比較して、高社会不安群は視線をこちらに向けている人の割合を高く感じました。これはうつ症状を統制しても有意なままでした。

鏡で自分の姿を見れない条件よりも鏡で自分の姿を見れる条件の方が自己焦点型注意と不安が高まりました。また、低社会不安群よりも高社会不安群の方が自己焦点型注意と不安が高かったのですが、群と鏡条件の交互作用は有意ではありませんでした。

一方、自己評価は鏡で自分の姿を見れない条件よりも鏡で自分の姿を見れる条件の方が高社会不安群で強まり、低社会不安群では鏡の向きの影響を受けませんでした。高社会不安群では鏡で自分の姿を見れる条件で自己焦点型注意と自己評価に有意な負の相関関係(r=−.362)がありましたが、低社会不安群では有意な相関関係はありませんでした。

鏡で自分の姿を見れる条件では、低社会不安群よりも高社会不安群の方が被験者に視線を向けている人の主観的割合が高く、鏡で自分の姿を見れない条件では両群に違いはありませんでした。ただし、これは実験の初めの段階だけで、社会不安の高低にかかわらず実験の半ばから鏡の影響はありませんでした(→鏡を無視できるほど課題に集中?)。

○コメント

冷たい氷水に手を浸す寒冷昇圧試験で逸れた視線を直視と感じやすくなる(Rimmele & Lobmaier, 2012)社会不安障害患者は認知行動療法で視線を感じる範囲が狭まる(Harbort et al., 2013)という研究報告があり、視線への敏感性には可塑性があります。したがって、鏡でも視線の感じ方が変わるということを示した本研究は鏡による可塑性効果と考えることが可能です。ただし、その効果は社会不安が高い人で顕著ですが、時間経過や実験への馴れ、集中等とともに鏡の影響が消失していくようです。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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