冷静になるよりも、不安=興奮と再評価する方が良い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)と実験の目的・方法・結果・ミニ考察を読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙症児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症(選択性緘黙症,選択的緘黙症,選択緘黙症)が不安障害(不安症)になりました。

今回は不安なことに取り組む前に「私は興奮している」と叫び興奮すると、カラオケや面接でのスピーチ、時間制限のある計算が得意になるというお話です。ただし、不安や心拍数は低下させません。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒他者と運動を協調させると自尊心が高まる

Brooks, A. W. (2013). Get Excited: Reappraising Pre-Performance Anxiety as Excitement. Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 1144-1158. doi:10.1037/a0035325.

ハーバードビジネススクールの研究者による論文です。

○予備研究(Pilot Study)

不安制御に関する素人信念(Lay Beliefs)を調査するために予備研究を実施しました。

アメリカの300人の協力者がAmazon’s Mechanical Turkを通して調査に参加しました(平均年齢35歳:男性159人)。

*Amazon’s Mechanical Turkとはオンラインでの実験や調査の参加者を募集し、実験・調査を実施できるAmazonのクラウドソーシングサービスのことです。

仮想シナリオを読んでもらい、質問に回答してもらいました。仮想シナリオはCEO(最高経営責任者)を含む約500名の社員の前で行うスピーチが明日に控えている場面でした。この仮想シナリオの設定としてスピーチを行うのが調査協力者自身の場合と同僚の場合の2つを用意しました。

この仮想シナリオでスピーチに臨む協力者自身(または同僚)へのアドバイスを考えてもらいました(オープンエンド型質問)。これは第三者の方で不安を受容するアドバイス、不安を隠すアドバイス、不安を興奮や怒りなどに再評価するアドバイスに分類しました。次に多選択式の質問でベストなアドバイスを選んでもらいました。候補の選択肢は1.リラックス2.スピーチをキャンセルするか代役を探す3.不安ではなく、興奮を感じるように試みるの3つでした。

予備調査の結果、オープンエンド型質問に対する回答の85%がリラックスしよう/冷静になれというアドバイスで、21%が興奮への認知的再評価アドバイスに分類されました。多選択式質問では自分がスピーチする側なら91%の人がリラックスして冷静になるを、1%の人がスピーチのキャンセルか代役を探すを、8%の人が不安ではなく、興奮を感じるようにするを選択しました(同僚に対するアドバイスも同様)。

これらの結果から、ほとんどの人がスピーチ不安に対するコーピング方略(対処方略)としてリラックスする・冷静になるという方法を選択し、不安を興奮として認知的再評価することをコーピング方略として考える人は少数であることが分かりました。

○実験1

実験1の目的は不安状況の前に不安を興奮として再評価できるかどうかを調査することとしました。

被験者はノースイースタン大学の学生113人(男性54人:平均年齢20歳)でした。

任天堂のWiiゲーム、カラオケレボリューショングリー(Karaoke Revolution: Glee)でカラオケをしてもらった実験です。実験者の前でのカラオケです。カラオケをする前に実験者が「感じはどう?」と聞いたのですが、これに「私は不安である」と返答する群、「私は興奮している」と返答する群、言うことを指定しない群の3つを設けました(実際にそのような心理状態であると思うように指示しました)。指標はカラオケソフトが評価する歌唱の質で、高得点なほど追加の報酬金額が多くもらえました。

なお、別のサンプル(97人:平均年齢20歳:男性44人)で「私は不安である」「私は興奮している」「私は冷静である」「私は怒っている」「私は悲しい」と叫ぶ効果を検証しました(何も叫ばない条件も設定)。その結果、他人の前でカラオケする前に不安を強く感じていて、これは実験条件間で差がないこと、「私は興奮している」と叫んだ群は他の条件よりも歌う前に興奮レベルが高いことが分かりました(他の条件間では有意差なし)。また、他者の前でカラオケをする実験と知ってから心拍数が上昇しましたが、実験条件の影響はありませんでした。

元の実験:その結果、歌唱得点の成績は以下の順に高くなりました。興奮条件>指定なし条件>不安条件。これは年齢や性別の影響を受けませんでした。また、別のサンプルのデータとも一致して、興奮条件では実際に興奮レベルが高かったことや不安レベルに条件間の差異がないことが分かりました。カラオケの自己効力感は興奮条件で高くなりました(不安条件・指定なし条件との比較)。しかし、自己効力感が興奮による歌唱成績の高まりを媒介しているとの証拠はありませんでした。

○実験2

実験2の目的は興奮と冷静の効果を比較することと興奮効果がカラオケだけでなく、スピーチにも及ぶかどうかを調査することとしました。

ノースイースタン大学の学生140人(男性63人:平均年齢20歳)が参加しました。

実験2はカラオケではなく「自分が仕事のパートナーとして如何に有用か」という2分間のスピーチをしてもらいました。スピーチは実験者の前で行い、後の判断のために録画すると被験者に教示しました。

実験条件は「私は興奮している」「私は冷静だ」の2つで、この叫びをスピーチの準備が終わった後に行いました。指標は第三者が行ったスピーチの評定でした。

その結果、興奮条件のスピーチは冷静条件のスピーチよりもスピーチの説得力が高く、話し手の能力が高く、自信や粘り強さがあると評価されました。また、興奮条件ではスピーチも長くなりました(冷静条件との比較)。スピーチの長さと評定者による粘り強さの評価が強く相関しました(r=.87)。しかし、不安や興奮レベルの群間差は第三者の評定ではありませんでした。ただし、被験者自身の評価では興奮条件は冷静条件よりも興奮レベルが高く、自己効力感も有意傾向でしたが高くなりました(不安レベルに群間差なし)。

○実験3

実験3の目的は「私は興奮している」ではなく、「私は興奮しようとしている」の効果を検証することを目的としました。また、カラオケやスピーチ面接ではなく、時間制限付きの計算課題でも興奮効果が生じるかどうか調査することも目的としました。

被験者はノースイースタン大学の学生188人(男性80人:平均年齢20歳)。

実験3では計算問題(被験者にはIQテストと教示)を時間制限付きで回答してもらいました。正誤のフィードバックは各問題終了後に与えました。正解するごとに4$獲得できましたが、間違うと0.5$失いました。

興奮条件は「興奮しようとする」、冷静条件は「冷静になろうとする」、中性条件は「数分待つ」でした。

その結果、算術問題の正解数が多かった順に興奮条件>冷静条件≒中性条件でした。年齢・性別の影響はありませんでした。また、計算問題の指示を読んだ後に心拍数が上昇し、これは課題中でも持続しました。しかし群間で心拍数の違いはありませんでした。

計算課題の成績を統制すると、興奮条件は興奮レベル・自己効力感が高くなりました(冷静条件・中性条件との比較)。冷静条件と中性条件の間に有意な興奮レベル・自己効力感の違いはありませんでした。また、群間で不安の違いはありませんでした。

○実験4(心理的メカニズムの調査)

被験者はノースイースタン大学の学生218人(男性94人:平均年齢22歳)。

課題は実験3と同じ計算課題でした。ただし、中性条件はなく、興奮条件と冷静条件の2つだけでした。

実験1~3までとは違って、被験者に計算課題に関する考えをオープンエンドで聞きました。次に「IQテストは楽しむ機会である」「IQテストを脅威よりも挑戦だと捉えている」というような質問に7件法で回答してもらいました。これは被験者のmind-set(思考態度)が脅威焦点型なのか、挑戦(機会)焦点型なのかを調べるために行いました。

*一般に脅威のマインドセットはネガティブな感情状態の人が抱きやすいとされ、挑戦のマインドセットはポジティブな感情状態の人で強いとされています。研究者は興奮条件で挑戦的マインドセットが促され、冷静条件で脅威的マインドセットが固定化されるので成績に違いがでると考え、両者を調べました。

その結果、冷静条件よりも興奮条件で算術課題の成績が良くなり、機会型のマインドセットが強まりました。また、興奮条件と計算課題の成績の関係はマインドセットが媒介していました。すなわち、「私は興奮しようとしている」と叫ぶ→計算課題を脅威というよりも機会(挑戦)だと捉える→計算課題の成績が向上というパス(経路)がありました。

○まとめ

少なくともアメリカ在住の人の85%以上がスピーチ不安への対処方略にリラックスする・冷静になることを思いつき、不安のコーピング方略として興奮することを考え付く人は21%以下です(予備研究)。しかし、不安状況前に興奮を高めることは不安(実験1・2・3)や心拍数(実験1・3)を低下させませんが、カラオケ(実験1)やスピーチ(実験2)、計算(実験3・4)のパフォーマンスや自己効力感(実験1・2・3)を高めます。

不安課題の前に興奮することは、少なくとも不安を高める算術課題に対して挑戦型(機会型)のマインドセットを促すことになり、それが計算課題の成績を高めることになります(実験4)。

論文では一貫して不安を興奮として再評価し直すという表記を用いていますが、この点私は懐疑的です。というのも実験操作としては単に興奮を高めることしか行われていないため、今回の実験だけでは不安=興奮という認知的再評価が効果的とまでは断言できないからです。ベンゾジアゼピンなど抗不安作用のある薬を服用しながら興奮すると、成績が向上しないことを示す必要があると考えられます。逆に抗不安薬+興奮で成績が向上したならば、不安=興奮という再評価ではなく、興奮自体がパフォーマンスを向上させていると解釈することができます。

*抗不安薬が興奮そのものに影響する可能性を考慮するならば、不安が低い課題で興奮の効果を試す実験の方が良いのかもしれません。

関連記事⇒ホラー映画鑑賞後に興奮するとリスク行動が増加する
↑シックス・センスとザ・リング(ホラー映画)を観た後に高まった不安・恐怖は後の課題で興奮と再解釈されると、リスクテイキングを増加させるという研究です。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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