暗闇で状態不安が高い人は怒り顔の再認記憶が苦手になる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。今回はTwitterでお世話になっている社会心理学者さんが著者の1人ということで、本文をすべて読みました。掲載雑誌はFrontiers(フロンティア)誌なので、オープンアクセスですしね。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙症児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症(選択性緘黙症,選択的緘黙症,選択緘黙症)が不安障害(不安症)になりました。

今回は暗闇では状態不安が高い人は怒り表情(脅威顔)の再認記憶が低くなり、実験室が明るいと状態不安と再認成績の間に何の関係もなくなるというお話です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒公務員勤務の遺伝率は40%

Nakashima, S. F., Morimoto, Y., Takano, Y., Yoshikawa, S., & Hugenberg, K. (2014). Faces in the dark: interactive effects of darkness and anxiety on the memory for threatening faces. Frontiers in Psychology: Emotion Science, 5:1091. doi: 10.3389/fpsyg.2014.01091.

神奈川県厚木市森の里若宮のNTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部感覚共鳴研究グループ・科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)の中嶋智史博士、高野裕治博士、総合研究大学院大学大学院先導科学研究科生命共生体進化学専攻の森本裕子特別研究員、京都大学こころの未来研究センターの吉川左紀子教授、アメリカ合衆国オハイオ州オックスフォードのマイアミ大学心理学研究科のカート・フーゲンベルク(Kurt Hugenberg)教授による論文です。

○研究目的

暗闇と不安が表情の記憶に及ぼす影響を調べることを目的としました。研究チームによれば、暗闇が表情記憶に及ぼす影響を直接調べた研究はないそうです。また、不安による暗闇効果の調整を調べたのも今回が初めてです。

○実験手続き

被験者は京都大学の大学生44人(男性20人:平均年齢19.6歳)。

被験者には電気を消した暗闇の部屋か電気をつけた明るい部屋のどちらかで表情課題を行ってもらいました(被験者間計画)。実験室で顔を3秒間見せ、幸福-怒り度を評定してもらいました。

表情刺激は中性表情(無表情)、怒り顔、幸福顔を用いました。全てモノクロ写真に加工しました。なお、刺激呈示はパソコンモニターで行ったので、暗闇でも見ることが可能でした。

次に不安質問紙への回答を求めました。不安は日本語版の状態-特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)の状態不安尺度で評価しました。STAI日本語版には以下の清水・今栄(1981)を用いました。これはSpielbergerらのSTAIを翻訳したものです。これもパソコンモニターに表示しましたから暗闇でも質問紙に回答することが可能です。

清水秀美・今栄国晴(1981). STATE-TRAIT ANXIETY INVENTORYの日本語版 (大学生用) の作成 教育心理学研究, 29(4), 348-353. JOI:DN/JST.JSTAGE/jjep1953/29.4_348.

STAIの回答終了後、先ほどと同じ顔や別の顔(妨害刺激)を見せ、以前見た顔と同じかどうか回答してもらいました(再認課題)。制限時間はありませんでした。重要なことは記憶実験について被験者に実験開始前から知らせなかったことです。

○実験結果

被験者が表情から感じた怒りレベルは怒り表情>無表情>幸福表情の順に高くなりました。表情の種類とは関係なく、電気がついているよりも暗闇の方が顔が怒っているように見えましたが、有意傾向にとどまりました。また、明るい部屋よりも暗闇の部屋では怒り表情が強く感じられましたが、幸福表情と無表情では照明条件による違いはありませんでした(ただし、照明×表情の交互作用自体は有意傾向)。

状態不安が高いほど、無表情・怒り表情の再認成績が低い結果となりました(状態不安と幸福表情の再認成績は相関せず)。暗闇では状態不安が高い人は怒り顔の再認成績が低くなりましたが、状態不安が低い人では照明条件との関係はありませんでした。また、実験室の明かりをつけた条件では状態不安と再認成績の間に何の関係もありませんでした。

無表情(中性表情)の再認成績は女性で高くなりました。また、状態不安が強い人は無表情の再認が苦手でした。しかし、怒り顔とは違って照明条件の影響はありませんでした。

幸福表情の再認成績についてはどの独立変数も有意ではありませんでした。つまり、部屋の明かりを消していようが、状態不安が高かろうが、男性だろうが女性だろうが関係ないわけです。

*顔の再認成績は信号検出理論(Signal Detection Theory)の弁別力d′(discriminability)で定量化。 信号検出理論とは信号(signal)を見つけるのはノイズ(noise)の中からと仮定し、そこから弁別力や反応バイアスを評価する時に用いられる方法のことです。本研究以外にも信号検出理論を不安の研究に用いた論文には不安の高さによって恐怖表情・幸福表情の認識の仕方に違いがあることを示したFrenkel et al.(2009)があります。

○コメント

まとめ:怒り表情は暗闇で少し強く感じられました。暗闇では状態不安が高い人は怒り顔の再認成績が低くなり、実験室が明るいと状態不安と再認成績の間に何の関係もなくなりました。しかし、状態不安×暗闇が再認記憶に与える効果は怒りという脅威表情に対してだけ生じ、無表情・幸福表情では影響はありませんでした(無表情の再認記憶は状態不安が高いほど悪くなりましたが、これは照明条件の影響を受けなかったことに注意)。

本研究が確からしいならば、夜中の犯罪は犯人に有利かもしれませんね。犯人は怒った顔を心がけるべきです(笑)。まあ、幸福表情(≒笑顔)で犯行に及ぶ犯人もいないと思いますが。なお、女性は無表情の再認記憶が良いため、目撃者(被害者も含む)が女性の場合、無表情はまずいことになります。

*実際の犯罪被害で感じるのは不安よりも恐怖ですが、あえてその違いには目をつぶっています。ただし、これから犯罪にあうことが予測できる場合は先に感じるのは不安です。また、暗闇では犯人の顔を見ることは難しいですが、懐中電灯で顔を照らせば本実験と同じように顔だけが明るくなります(そんな都合よく懐中電灯持ってるか!というツッコミが飛んできそうです)。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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