場面緘黙者への就職支援-VOCAを用いて- | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

高校を卒業した場面緘黙者(選択性緘黙者)への就職支援に関する報告記事がパシフィックサプライ株式会社(大阪府大東市)のHPに掲載されています。高校で喋れなかった彼(彼女)は就労移行支援事業所に入所したのですが、そこでも緘黙したままでした。しかし、職員と緘黙本人の努力のためか、カードによるコミュニケーションやVOCAによる支援の最中(または後)に話すことができるようになっていったというお話です。

VOCAとはVoice Output Communication Aidの略語で、直訳すると声産出コミュニケーション援助になります。携帯用会話補助装置と呼ばれることもあります。VOCAはヴォカと読みます。VOCAの機能にはあらかじめ録音していおいた内容を音声化するもの(録音音声方式)やキーボードで文字を打ち込み、その場で音声化するもの(合成音声方式)があります。

この緘黙人への支援記事は中村隆行氏(株式会社コスモスのコスモス共生社会研究所)が「就労移行支援事業所によるVOCAの取組み コミュニケーションがとれる喜び」と題するパシフィックニュース記事で執筆されています。ただし、序文は中村隆行氏ではなく、パシフィックサプライ株式会社による筆と思われます。株式会社コスモスと検索すれば、人材派遣会社や広告・宣伝・販促会社等多くの企業がヒットするので、どれが中村隆行氏の勤務先なのか探すだけでも一苦労です。なお、記事では「就労移行事業所株式会社コスモスさま」と紹介されています。

中村隆行氏(関西大学大学院)は以前、2012年に九州看護福祉大学で開催された日本職業リハビリテーション学会第40回(熊本)大会にて「緘黙症者に対する代替的コミュニケーショントレーニングの試み」 というタイトルのポスター発表をされたことがあります。なので、その内容がパシフィックサプライ株式会社のパシフィックニュース記事になった可能性がありますが、本当のところは分かりません。

また、未確認情報によれば、臨床心理士の坂本亜里紗氏(コスモス自立訓練事業所『こすもすくらぶ』主任)が今回の緘黙者支援に携わった可能性があります。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が関わる2014年12月に東京ビッグサイトで開催予定の第22回職業リハビリテーション研究・実践発表会でも、就労移行支援事業<コスモス>ケアサービスの伊藤麻希氏が本事例?を口頭発表する予定です。以下の緘黙文献が引用される予定です。

浜田貴照・藤田継道・宮田裕子・秋田実・川崎淑子・加藤哲文(2010). 緘黙症の支援方策を考える : 成人当事者の実態を踏まえて 特殊教育学研究, 47(5), 409-410.

○場面緘黙者への支援の内容

この緘黙者はカードを用いたコミュニケーションや非言語コミュニケーションの訓練により少しずつ話せるようになっていきました。職場実習など経験も積みました。しかし、多くの人の前ではカードによるコミュニケーションも困難でした。そういう時期に、カードとVOCAのどちらが良いか緘黙者に聞いたところ、VOCAが良いということでしたので、VOCAを使い始めたとのことです。

なお、この緘黙事例で用いられたVOCAはスーパートーカーで、アメリカのエーブルネット社製コミュニケーションエイド商品になります。パシフィックサプライHPによると、スーパートーカーは1ヶ月レンタル料が3,000円(税込)、3ヶ月レンタル料が5,000円(税込)、サポートサービス料が6,000円(税込)です。本体価格は62,800円になります。発達障害サポート企画BIRD会社の発達障害サポートショップFLY!BIRDにおいてもスーパートーカーをレンタル・購入することが可能です。スーパートーカーの録音時間は16分で、メッセージは最大で64通り録音することができます。

スーパートーカーに関する動画一覧(YouTube検索結果)→https://www.youtube.com/results?search_query=%E2%80%9D%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E2%80%9D

この緘黙者は朝礼と終礼の時の挨拶も沈黙していたのですが、VOCAに録音したスタッフの挨拶を再生するところから始め、日直当番で先陣を切ってVOCAのボタン押しで挨拶するトレーニング、自分の声を録音したVOCAで挨拶する試みも行いました。その結果かどうかは分かりませんが、小さな声が大きくなっていき、面談・就職もできたとのことです。

VOCAを利用した(元)緘黙者の感想は以下の通りです。

・VOCAは使いやすい

・VOCAに録音した自分の声によるコミュニケーションは不思議

・コミュニケーションの楽しさを発見

・VOCAを再び使用したくはない

○コメント

大人の緘黙への介入事例は小児の事例と比較して、報告が少ないと思われます。そのなかで、成人の場面緘黙者への支援を報告した本事例は高く評価すべきです。しかも、それは緘黙者の就職支援にもつながった可能性があるということですから、家でひきこもっている緘黙者にとっても希望の持てる内容となっています。もっとも、ひきこもりをしている場合には支援を受けるまでの過程も難しいかもしれませんが。

VOCAによる支援ではスタッフの声を再生するところから始めて、少しずつ挑戦していきました。これは場面緘黙症へのスモールステップによる介入と似ていますね。たとえVOCAによる支援を行う場合でもスモールステップの原則は当てはまるということでしょう。

ただし、問題なのは就労移行支援事業所のスタッフ以外の人とも問題なく会話ができるようになったかということです。この(元)緘黙者は無事に就職できたのですが、職場でも普通に発話ができるほど緘黙が治ったのでしょうか?また、たとえ喋れるようになったとしても生活の質(QOL)が低かったり、日常的な不安感が高かったりする可能性もあります。さらに、長年の緘黙の間に培われるはずだったソーシャルスキルや社会経験をカードやVOCAによる支援だけで取り戻せたとは思えません。もっとも、パシフィックサプライ株式会社の記事だけでは高校と就労移行支援事業所で緘黙していたことしか分からないため、幼稚園(保育園)・小学校・中学校でも場面緘黙の症状があったかどうかは不明です。そのため緘黙症状が何年継続していたのかも不明なので、「長年の緘黙」かどうかは分かりません。

VOCAをもう使用したくはないとの感想でしたが、その理由は何なのか具体的な記述がありませんでした。「訓練場面以外での自発的なVOCAの使用」が困難なことが理由として示唆されているだけです。実際にVOCAを使用した感想をもう少し掘り下げる余地があるのかもしれません。しかしながら、日常生活でVOCAを使うには周りの理解が前提になることは容易に想像できます。

VOCA以外にもiPadやアプリによる場面緘黙の高校生(知的障害あり)に対する支援実践が長野県で報告されています海外でもポータル端末で認知行動療法プログラムを行った場面緘黙児の治療報告があります。シンガポールの学会で最優秀ポスター発表賞の銅賞になったのは場面緘黙児へのコンピュータ補助による認知行動療法の報告でした。なので、必ずしもVOCAにこだわる必要はなく、個々の事情に応じて使い分けるという形になります。

関連記事⇒東京大学が緘黙者を障害者雇用プロジェクトに起用

関連記事⇒定時制高校の緘黙生徒への進路支援

○参考URL&引用URL(2014年10月6日現在)
就労移行支援事業所によるVOCAの取組み AAC(コミュニケーション) パシフィックニュース パシフィックサプライHOME
https://www.p-supply.co.jp/pnews/detail/142/page~1

障がいと共に働く人々を支援する機関紙 コスモス Letter2014年秋号 Social Inclusion ~障がいと共に働こう!~
http://www.jobcosmos.jp/cosmosLetter3/cosomosletter2014_3aki.pdf

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ニュース平成26年9月24日第165号
http://www.jeed.or.jp/jeed/news/download/news_165.pdf

日本職業リハビリテーション学会 第40回(熊本)大会
http://vocreha.jp/taikai/40kai/program/index.html

●追記(2014年11月19日):本事例の詳細な報告が以下のURLで読めます。PDFファイルです。PDF文書によればこの場面緘黙者は軽度の知的障害があり、幼少期から物静かだったとのことです。

伊藤麻希・藤木美奈子・中村隆行・坂本亜里紗・野口真紀(2014). 就労訓練による場面緘黙症状の変化 第22回職業リハビリテーション研究・実践発表会発表論文集, 296-299.
http://www.nivr.jeed.or.jp/download/vr/vr22_essay21.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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