広島大学の学生で社交不安障害を知らない人は70.4% | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

広島大学の保健管理センターが大学生の社交不安障害に関する意識調査を実施しました。その結果が興味深いので、取り上げたいと思います。

*本ブログは基本的に社会不安障害と記載しています。これはなにも深い考えがあってのことではなく、単にウェブ検索では社交不安障害よりも社会不安障害の方が多いという事情によります(指標はGoogle トレンド2014年9月時点)。しかし、本記事では論文に則って社交不安障害とします。

三宅典恵・岡本百合・神人蘭・矢式寿子・内野悌司・磯部典子・高田純・小島奈々恵・二本松美里・横崎恭之・日山亨・吉原正治(2014). 社交不安障害に対する大学生の理解について 総合保健科学:広島大学保健管理センター研究論文集, 30, 1-6.(Miyake, Y., Okamoto, Y., Jinnin, R., Yashiki, H., Uchino, T., Isobe, N., Takata, J., Kojima, N., Nihonmatsu, M., Yokosaki, Y., Hiyama, T., & Yoshihara, M. (2014). University students' understanding of social anxiety disorder. Bulletin of General Health Research, Hiroshima University Health Service Center, 30, 1-6.)

序盤はレジュメ形式でお送りします。

○調査の背景

・社交不安障害は児童期から青年期に発症することが多く、不登校や引きこもり、学業困難のリスクとなり得る
・社交不安障害は二次的抑うつ症状・二次的気分障害(うつ病など)を引き起こす+うつ病等の併存は社交不安障害の予後や経過に悪影響
→以上の2つの理由から社交不安障害者への支援・治療が重要で、特に抑うつ症状の影響を踏まえると、早期の発見や治療介入が重要

○調査目的

・社交不安障害の支援のあり方を考えるためには大学生の社交不安障害への理解を調べる必要がある
→本調査の目的は大学生の社交不安障害に対する理解を調べること

○調査手続き

調査参加者は広島大学の大学生324人(男性200人、女性124人、平均年齢は18.6±1.0歳)。彼らは全員教養科目の受講者。彼らにアンケート質問紙への回答を求めた。

○調査結果

・社交場面でどの程度不安や緊張を感じるかに関する調査結果
社交場面非常に強く感じるはっきりと感じる少しは感じる全く感じない
大勢の前で話す15.4%30.6%47.5%6.5%
公式な席であいさつをする17.3%34.6%42.0%6.1%
集会で自己紹介する13.0%27.2%51.8%8.0%
講義や会議で指名されて意見を言う10.8%32.1%49.7%7.4%
権威のある人と話をする8.7%28.4%50.9%12.0%
あまりよく知らない人に電話をかける8.3%31.2%45.1%15.4%
初対面の人と話をする6.5%19.8%58.6%15.1%
試験や面接を受ける23.5%34.9%36.4%5.2%
人に見られながら字を書く4.0%10.5%50.9%34.6%
外で食事をする1.2%4.9%34.3%59.6%
10項目のため、社会生活に大きな支障がある2.5%7.7%37.0%52.8%

上の表から「非常に強く感じる」と「はっきりと感じる」の合計では「大勢の前で話す」で46.0%、「公式な席であいさつをする」で51.9%、「集会で自己紹介する」で40.2%、「講義や会議で指名されて意見を言う」で42.9%、「権威のある人と話をする」で37.1%、「あまりよく知らない人に電話をかける」で39.5%、「初対面の人と話をする」で26.3%、「試験や面接を受ける」で58.4%、「人に見られながら字を書く」で14.5%、「外で食事をする」で6.1%の大学生に不安・緊張があることが判明。

*社交場面での不安や緊張は以下のリーボビッツ社交不安尺度日本語版(Liebowitz Social Anxiety Scale-Japanese Version:LSAS-J)の質問24項目中、大学生活に深く関連すると考えられた10項目で評価。

朝倉聡・井上誠士郎・佐々木史・佐々木幸哉・北川信樹・井上猛・傳田健三・伊藤ますみ・松原良次・小山司(2002). Liebowitz Social Anxiety Scale(LSAS) 日本語版の信頼性および妥当性の検討 精神医学, 44(10), 1077-1084.

社交不安障害の説明を行った後に知っているかどうか問うたところ、「知っている」と回答したのは11人(3.4%)、「聞いたことがある」と回答したのは85人(26.2%)、「知らない」と回答したのは228人(70.4%)でした。

社交不安障害の対応については、「こころの治療が必要」と回答した人が155人(47.8%)、「ストレス解消や気分転換で治る」と回答した人が113人(34.9%)、「周囲が社交不安障害を理解して配慮する必要がある」と回答した人が82人(25.3%)、「気の持ち方で治る」と回答した人が61人(18.8%)、「性格の問題だと思う」と回答した人が61人(18.8%)でした(重複回答あり)。

社交不安障害の説明から自分のことを社交不安障害だと思うかどうか聞いたところ、「あてはまる」と回答したのは11人(3.4%)で、「少しあてはまる」と回答したのは47人(14.5%)、「あまりあてはまらない」と回答したのは45.7%、「全くあてはまらない」と回答したのは36.4%でした。

・全学生に気分が落ち込むことはありますか?不安になることがありますか?と聞いた結果
よくある時々あるあまりない全くない
気分の落ち込み17.6%56.5%21.3%4.6%
不安17.0%52.8%25.0%5.2%

・社交不安障害に「あてはまる」/「少しあてはまる」と回答した58人の回答データを抽出
よくある時々あるあまりない全くない
気分の落ち込み39.7%55.2%5.1%0.0%
不安43.1%48.3%8.6%0.0%

次に、社交不安障害に「あてはまる」/「少しあてはまる」と回答した58人に以下の質問をした結果を記述します。
学生生活に支障をきたしていますか?→「はい」が17.2%、「いいえ」が50%、「わからない」が32.8%。
不安や身体症状のために講義を欠席したことがありますか?→「ある」が12.1%、「ない」が87.9%。
治療の必要性を感じていますか?→「はい」が10.4%、「いいえ」が58.6%、「わからない」が31.0%。
治療を受けたいと思いますか?→「受けたい」が17.3%、「受けたくない」が37.9%、「わからない」が44.8%。

なお、学生生活の困難さや悩みが軽減するのに効果的な周囲の人の配慮を自由記述で調査していましたが、省略します。

○コメント

この広島大学の大学生では「試験や面接を受ける」、「公式な席であいさつをする」で不安や緊張を「非常に強く感じる」/「はっきりと感じる」割合が5割を超え、「大勢の前で話す」や「講義や会議で指名されて意見を言う」、「集会で自己紹介する」でも4割を超えていました。「あまりよく知らない人に電話をかける」と「権威のある人と話をする」は3割半以上4割未満となりました。「初対面の人と話をする」は26.3%でした。

しかし、社交場面での不安や緊張のために社会生活に大きな支障があるとしたのは「非常に強く感じる」と「はっきりと感じる」を合わせて10.2%にとどまりました(「少しは感じる」を入れると47.2%)。どうやら人前で不安や緊張を感じても社会生活に大きな支障がでると感じるのはごく一部の人間なようです。

社交不安障害を知っていると回答したのは3.4%で、聞いたことがある人も含めると29.6%でした。本調査では知っているかどうか質問する前に社交不安障害の説明をしていました。説明には「…(省略)"強い不安"や"恐怖"を感じてしまい、身体症状が現れることなどで、日常生活に支障をきたす病気です」とありました。私は「身体症状が現れることなどで…」という文面に一瞬「ん?」と思ってしまいました。もしも私が回答者だったならば、この疑問で「知っている」/「聞いたことがある」から「知らない」に回答を変更したかもしれません。

深く考えれば、不安や緊張で赤面や発汗、腹痛、震え、動悸などの身体症状がでることに思い至ります。しかし、ただ単に「身体症状」と説明するだけでは社交不安障害を「知っている」/「聞いたことがある」と自認する人でも「知らない」と回答する人が出てきたかもしれません。もっとも身体症状に思い至らなければ社交不安障害を深くは知らないということになるので、私の言いぐさは言い訳がましく感じられます。

ただ、「知っている」/「聞いたことがある」と回答した人でも知識には幅があるはずで、その点を深く掘り下げることが今後の課題でしょう。

○場面緘黙症(選択性緘黙症)は?

324人の広島大学の学生の内、社交不安障害を知らないとしたのは228人(70.4%)でした。社交不安障害でこうなのですから、場面緘黙症だとどうなるでしょうか?非常に気になります。愛知県と静岡県の公立小学校の一般教諭・養護教諭の95%以上の教員は場面緘黙症という名称や症状を知っているという研究(杉森・石原, 2011)があるので、学部や希望進路ごとの違いもありそうです。ただし、学部や希望進路ごとの違いは学年が上にならないと出てこない可能性があります。また、小学校の先生とは違って、中学校の教員は選択性緘黙という名前を全く知らない教師が約24%を占めます(成田・斉藤, 2012)から、たとえ大学生の希望進路が教師だったとしても、狙いが小学校か中学校か、はたまた高校かによって場面緘黙症の認知度は大きく異なるかもしれません。

*場面緘黙症とは喋る能力があり、家など特定の環境では話せるのに、学校などの他の環境では話せなくなる症状のことを言います。米国精神医学会が発行するDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では場面緘黙症が不安障害に位置づけられています。

○場面緘黙経験者の喋ることへの不安との関係から

不安や緊張を感じる社交場面はリーボビッツ社交不安尺度日本語版(LSAS-J)から抜粋した10項目を調査していました。このうち、普通なら必ず話すことが要求されるのが7~8つです。話すことが必要ない「人に見られながら字を書く」と「外で食事をする」で不安や緊張を感じる大学生は「非常に強く感じる」と「はっきりと感じる」を合わせてそれぞれ14.5%、6.1%と他の項目と比較して少ない割合となりました。

*ただし、「外で食事をする」に関しては家から弁当を持参する場合などを除き、メニューから選択した料理をウェイトレスに伝える際にしゃべる必要がありますし、58.4%の大学生が不安や緊張を感じる「試験や面接を受ける」では喋ることが必要でない試験も交じっています(広島大学の学生が試験という単語から筆記試験を連想したことが前提条件)。

したがって、仮に現役の場面緘黙症の人や元緘黙症の人が喋ることに不安を感じていたとしてもそれは一般の大学生とそんなに変わらないかもしれません。しかし、本調査結果を詳細に検討すると、「大勢の前で話す」や「公式な席であいさつをする」などの特殊な状況での発話で不安や緊張を感じる人が4割~5割という結果になっています。一方、「あまりよく知らない人に電話をかける」では39.5%の大学生が不安・緊張を感じるものの、「初対面の人と話をする」では26.3%です。ゆえに、仮に(元)緘黙症の人の多くが初対面の人との会話で不安や緊張を感じるならば、普通の大学生とは少し違うといえるかもしれません。

あるいは場面緘黙経験者は初対面の人となら話せるという声も聞きますので、もしかしたら初対面の人と話をする状況で不安や緊張を感じるのは26.3%よりも少ない可能性もあります。いや、そもそも本調査結果と場面緘黙症を無理やり関連づけて考察すること自体が間違いなのかもしれません。

しかし、「初対面の人と話をする」は「公式な席であいさつをする」や「大勢の前で話す」よりも少ないとはいえ、それでも26.3%ですよ。「人に見られながら字を書く」は14.5%で、「外で食事をする」は6.1%であったことも思いおこせば、結構多いといえるのかもしれません。この結果をどう解釈すれば良いのか、難しいですね。若者だから不安や緊張を覚える人が多いのでしょうか?

それにしても「初対面の人と話をする」よりも「あまりよく知らない人に電話をかける」で不安や緊張を感じる大学生が多くなっているのは興味深いですね。相手が目の前にいない方が不安や緊張を感じるものなのでしょうか?

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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