選択性緘黙を克服した平均年齢は18歳 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

筑波大学の奥村真衣子氏と園山繁樹教授による研究によれば、選択性緘黙(場面緘黙症)を克服した平均年齢は17.6歳です。この研究成果は2014年度日本特殊教育学会第52回大会(高知大学・高知県立県民文化ホール オレンジホール)でポスター発表されたので、もうご存知の方もおられると思います。

奥村真衣子・園山繁樹(2014). 選択性緘黙の症状克服に影響を与える要因の検討-経験者への質問紙調査から 日本特殊教育学会第52回大会ポスター発表.

奥村・園山(2014)は選択性緘黙者の視点に立った緘黙の克服要因を探索した研究です。選択性緘黙の団体に所属する緘黙経験者に質問紙に回答してもらいました。回答者は22名(男性5人)でした。平均年齢は32.9歳で、その範囲は20~47歳でした。尋ねた項目は症状克服の有無や克服年齢、克服の契機、症状改善に影響したエピソードでした。

○調査結果

選択性緘黙経験者である22名の内18人(81.8%)が緘黙を克服したと感じていました。緘黙症状が治った平均年齢は17.6歳(範囲:9~30歳)でした。

テキストデータの分析により、緘黙克服の契機として環境変化・他者からのはたらきかけ・自らのはたらきかけの3つが浮上しました。

環境変化は喋らないことを知られていない環境に身を移すこと(転校など)と「立場上、話さざるを得ない状況」に直面したことがあげられました。後者では仕事で喋らなければならない状況に置かれたことが緘黙克服のきっかけとなった例が挙げられていました。

他者からのはたらきかけは「心理的安心感の高い友人の存在」と「脅威的存在からの賞賛」に分けられました。後者の驚異的存在の例としてあげられているものは学校の先生でした。

自らのはたらきかけは「発話行動の実践」と「一時的な日常と異なる環境での生活」、「継続的な治療」の3つでした。

症状改善に影響したエピソードは他者からのはたらきかけと自らのはたらきかけの2つに分けられました。他者からのはたらきかけでは「他者からの賞賛・評価」と「信頼感、安心感、好意を感じられる対人関係」、自らのはたらきかけでは「発話行動の実践」と「発話を要することへの挑戦」、「活動参加」の3つに分けられました。

○コメント(以下、場面緘黙症という表記を主とする)

筑波大学の場面緘黙症の研究では奥村真衣子氏と園山繁樹教授のペアを見かけることがありますが、これもその1つです。緘黙症の研究内容を褒めるだけでは考察が進まないので、以下は批判的検討を主とします。

緘黙を克服した平均年齢が18歳と言っても範囲は9~30歳とばらつきが大きく、個人差があります。したがって、克服年齢の個人差と関連する要因について検討が必要です。

克服を「必要な場面である程度話せる」としていますが、これでも意味が曖昧です。克服の定義が個人ごとに異なれば当然克服時期に違いが生じるわけで、このあたりが問題になってきます。

克服の意味を「必要な場面で」ある程度話せるとしていますが、必要な場面に職場での業務上の会話を含めても、他者との円滑な対人関係のための雑談を含めない人や雑談で話せることも含めて克服と考えている人もいるかもしれません。また、必要な場面での発話能力だけで、克服と定義していいものかどうか疑問に感じます。他者との関係の滑潤油となる雑談ができなければ、社会的に満足した生活を送ることが難しく、結局仕事等社会的生活にも差しさわりが生じかねません(雑談を「必要な場面」に含めない場合)。

本研究ははおそらく早期の介入がない場合の話で、支援・治療があればもっと克服時期が早まることでしょう。また、早期の支援・治療を受けた緘黙経験者とそうでなかった経験者では克服に影響する要因は異なるかもしれませんので、過剰な一般化は禁物です。さらに自閉症等の発達障害の有無などで緘黙の克服時期や克服に影響する要因が異なってくる可能性もあります。

緘黙克服の契機では「心理的安心感の高い友人の存在」で、緘黙の改善に影響を与えたエピソードでは「信頼感、安心感、好意を感じられる対人関係」で人間関係の重要性が指摘されていました。しかし、友人に関しては少なくとも子供では場面緘黙児の友達の多さ・関係の質には個人差があり(Diliberto & Kearney, 2014)、友人との対人関係ができていない緘黙児では環境変化や教職員の働きかけ、自らのはたらきかけの重要性が増すのかもしれません。

場面緘黙症の団体に所属している人への質問紙調査ということからサンプルに偏りが出ている可能性があります。緘黙関係の団体に所属している人と所属していない人とで何らかの特性が違う可能性を排除できないわけです。それが結果に影響しているかもしれません。質問紙に回答した22人中女性が17人と男女差があり、男性の緘黙経験者にも協力してもらいたいですね。緘黙を克服したと感じている人が22人中18人(81.8%)で大多数だったことから、緘黙から回復していないと思っている人への調査も必要になります。

「心理的安心感の高い友人の存在」で自分に話しかけてくる子がいて、話せるようになったという例が紹介されていました。しかし、私の体験から言うと、話しかけてくれる同級生がいたとしても必ずしも話せるようになるとは限りません。これはもしかしたら「発話を意識した自らのはたらきかけ」が私に欠如していたからかもしれませんが、なぜ話しかけてくる子がいても話せるようになる人と話せないままの人がいるのか、詳細な分析が必要です。

参考記事⇒緘黙人生
↑中学時代の友達?が私に話しかけてくれました。

クラスメイトや先生など「他者からの賞賛・評価」が場面緘黙症の症状改善に影響したエピソードとしてあげられていましたが、近年の心理学の実験では子供の才能を褒めることは逆効果であることが示されています。ただ単に賞賛すれば良いというのではなく、どのような褒め方が場面緘黙児・者に効果的なのか詳細な検討が必要です。

関連記事⇒自尊心が低い?緘黙児を褒め過ぎるのは逆効果

「立場上、話さざるを得ない状況への直面」が症状克服の契機となった経験は私にもあります。「緘黙する場面が逆転」でも書いたように、私は大学生も後半になると、必要最低限のことは話せるようになりました。これは心理学の勉強が専門化していくにつれ、心理学を学ぶ学生集団の輪の中に入らざるを得なくなったからです。特に心理学実験演習の授業では他の心理学専攻生と交流する機会が生じ、これが場面緘黙の克服に一役買ったものと思われます。しかし、それでも心理学の実験演習中に緘動の症状がでるなど、とても克服とは言えない状態でしたが、必要な場面での発話ならある程度できるようになりました。

*緘動とは身体が固まって動けなくなる症状のことを言います。

なお、筑波大学の園山繁樹教授は学苑社から『場面緘黙のある人の理解と支援(仮)』という書籍を2015年に出版する予定です。学苑社はかんもくネット・角田圭子編集『場面緘黙Q&A―幼稚園や学校でおしゃべりできない子どもたち』やはやしみこ・金原洋治・かんもくネット監修『なっちゃんの声ー学校で話せない子どもたちの理解のために』、はやしみこ・金原洋治監修・かんもくネット編集『どうして声が出ないの?: マンガでわかる場面緘黙』の出版社です。

場面緘黙Q&A―幼稚園や学校でおしゃべりできない子どもたちなっちゃんの声ー学校で話せない子どもたちの理解のためにどうして声が出ないの?: マンガでわかる場面緘黙

参考記事⇒園山繁樹教授による選択性緘黙の研究概要

○引用URL(2014年10月12日現在)
奥村真衣子・園山繁樹(2014). 選択性緘黙の症状克服に影響を与える要因の検討-経験者への質問紙調査から 日本特殊教育学会第52回大会ポスター発表.
論文集原稿
http://www.human.tsukuba.ac.jp/~kanmoku/html/okumura2014.pdf
ポスター
http://www.human.tsukuba.ac.jp/~kanmoku/html/okumura2014Poster.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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