社会不安が高い人に抱く第一印象は間違っている | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)と実験方法、実験結果、ミニ考察を読んだ、社会不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社会不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児(選択性緘黙症児)は社会不安が高いか、もしくは社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は社会不安が高い人との3分間の会話から第一印象を正確に形成するのは難しいという研究です。

なお、社会不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒妊娠中に運動すると赤ちゃんの頭が良くなる?
↑実はラットによる動物実験で妊娠中の運動が仔ラットの海馬での神経新生や記憶力、学習能力を高めるという研究があります。ヒトでも2013年、カリフォルニア州サンディエゴで開催された北米神経科学会で妊娠中の運動が赤ちゃんの脳の発達を促すという初めてのランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)が報告されました。北米神経科学会での報告によれば、週3回20分間の運動で赤ちゃんの脳が反復して聞いた音と新しく聞いた音の区別をするのが得意になるのです。別の言い方をすれば、聴覚記憶が良くなるということですね。

Aiken, A., Human, L. J., Alden, L. E., & Biesanz, J. C. (2014). Try to find me: Social anxiety and peer first impressions. Behavior Therapy, 45(6), 851–862. DOI: 10.1016/j.beth.2014.08.001.

カナダのブリティッシュコロンビア大学、アメリカ合衆国のカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者達による論文です。

○実験1

ラウンドロビン(Round-Robin)の実験です。フリー百科事典ウィキペディアによると、ラウンドロビンとは「何かの役割・出番をたくさんの物事・人員で交替しあう」という意味です。

被験者は互いに赤の他人の大学生104名(女性81人,平均年齢20歳)。彼らで3~10人の集団を16個作りました。集団内で2人1組のペアを作り、3分間自由に話し合いをしてもらいました。すべてのペアが終了するまで会話を繰り返しました。

性格検査はビックファイブ質問票(Big Five Inventory:BFI)で行いました。性格以外にも知性と好ましさの評価を追加しました。

*ビックファイブとは性格心理学において性格を5つの因子に分ける考え方のことです。性格の5因子とも呼ばれ、情緒安定性(神経質傾向)、外向性、調和性、勤勉性、開放性の5つが性格の基本的要素であるという理論です。

ビックファイブ質問票(BFI)+知性+好ましさの評定は自分だけでなく、相手に対しても行い、相手が不安を感じているように見えるかどうかの評価も実施しました。

最後に社会的交流で感じる不安を評価するため、社会的相互作用不安尺度(Social Interaction Anxiety Scale:SIAS)への回答を求めました。

実験の結果、SIASで社会不安が高かった人ほど、ペアでの会話で相手に不安を感じているという印象を強く与えました(r=.24)。しかし、相手に与える性格的な印象や好ましさは社会的交流不安が高い人と低い人とで違いはありませんでした(これは実験2でも同じ)。

本論文のポイント:社会不安が高い人の性格を3分の会話から正確に評価するのは難しいことが判明しました(社会不安が低い人との比較)。つまり、社会不安が高い人との会話から形成された第一印象は間違っていることが多かったのですが、それに相手への好感度が影響しているとの証拠はありませんでした(実験2でも一緒)。

○実験2

実験2では実験1とは違って、被験者の知人が行った性格評価も追加しました。これは社会不安が高い人は自分のことを否定的に考えるバイアスがあると考えられるためです。たとえ自己評価と他者評価の一致レベルが低かったとしても、それは社会不安が高い人の第一印象を正しく形成することが難しいことを反映しているのではなく、単に社会不安が高い人が自分の性格を正確に評価できないこと、つまり相手が感じた第一印象の方が真実に近いことを意味している可能性があるのです。

実験2もラウンドロビンの実験でした。被験者は114人(女性81人,平均年齢20歳)。グループは4~11人で16個。

実験手続きは実験1とほとんど同じです。しかし、性格検査は被験者や会話の相手だけでなく、被験者の親(保護者)や2人の友人にも回答を求めました。尺度はビックファイブ質問票(BFI)でした。親や友人の回答は自己評定値と組み合わせました。

さらに実験1とは違ってRosenbergの自尊心尺度(Self-Esteem Scale:SES)や人生に対する満足尺度(The Satisfaction with Life Scale:SWLS)、心理的幸福感尺度(Psychological Well-Being Scale:PWBS)の他者との関係の良さ(Positive Relations With Others)という下位尺度への回答も求めました。これらを平均して心理的適応(Psychological Adjustment)の指標としました。

心理的適応を調べたのは社会不安そのものではなく、社会不安と関連する心理的特徴が相手に第一印象の形成を難しくしている可能性があるためです。

その結果、たとえ親や友人の性格評定を入れても実験1と同じ結果が再現されました。つまり、社会不安が高い人の第一印象を形成するのは難しい結果となりました(性格の自己評定+親/友人の性格評定は会話相手が行った性格評定との関連性が低い)。好感度は第一印象の正確性とは関係しませんでした。

また、心理的適応(自尊心+人生満足感+対人関係)が第一印象の形成のし易さと関連しましたが、有意傾向でした(効果量はd=.35)。しかし、社会的交流不安と心理的適応を同時に統計モデルに投入すると、前者は第一印象の形成の困難さと関連しましたが、後者は関連しませんでした。

なお、実験1でも実験2でも自分の社会不安自体が相手に抱く第一印象の正確性に影響することはありませんでした。また、実験1・2で平均的な性格の人の好感度が高い結果となりました。

○まとめ

人は3分間の会話で相手の不安感を感じ取れる(実験1)ものの、社会的交流不安が高い人の性格を正確に判断することは難しい(実験1・2)。これは性格の自己評価だけでも(実験1)、親や友人が行った他者評価も含めても(実験2)、生じる現象。

社会不安が高い人は相手にネガティブな性格的印象を与えないし、好ましさも低くない(実験1・2)ので、ネガティブな第一印象や好感度では説明できません。また、自尊心や人生満足感、対人関係といった心理的適応だけでは説明できません(実験2)。

補足的な結果としては、社会不安が高くても会話相手の性格を判断する能力は社会不安が低い人と同程度にできることが明らかになっています(実験1・2)。


研究チームは自己隠蔽が社会不安障害(社交不安障害)の認知モデルに果たす役割から実験結果を考察しています。以下の松山東雲女子大学の研究者の論文(河野, 2001)によると、自己隠蔽とは「否定的(negative)もしくは嫌悪的(distressing)と感じられる個人的な情報を他者から積極的に隠蔽する傾向」のことです。

河野和明(2001). 自己隠蔽尺度(Self-Concealment Scale)・刺激希求尺度・自覚的身体症状の関係 実験社会心理学研究, 40(2), 115-121. doi:10.2130/jjesp.40.115, JOI:JST.Journalarchive/jjesp1971/40.115.(英語Kawano, K. (2001). Correlational Analysis among Japanese Self-Concealment Scale, Kida's Stimulus-Seeking Scale and self-reported physical symptoms. Japanese Journal of Experimental Social Psychology, 40(2), 115-121. doi:10.2130/jjesp.40.115, JOI:JST.Journalarchive/jjesp1971/40.115.)

この実験、場面緘黙症(選択性緘黙症)でやったらすごいことになりそうですね。家庭と学校やその他の社会的状況での様子が違うというのが場面緘黙症の特徴ですから、性格の自己評価と他人が緘黙人を評価したのとでは大きく結果が異なることが予想されます。ただし、本実験は会話が求められるので、場面緘黙症を克服した人しか参加できません。しかし、実験手続きを工夫すれば現役の緘黙人でも似たような実験が可能かもしれません。

*場面緘黙症とは発話能力があり、ある特定の環境(家庭など)では話せるにもかかわらず、他の環境(学校など)では一貫して話すことができなくなる症状のことを言います。米国精神医学会が発行するDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では場面緘黙症が不安障害に位置づけられています。

関連記事⇒一人称代名詞を使わなければ、異性に与える第一印象が良い?
↑特性社会不安が高い人でも低い人でも一人称代名詞を使用しなければ、異性に対する初対面の印象を良くしたり、スピーチによる心理的ストレスを減らすことができるという研究です。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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