ICD-11は選択性緘黙か場面緘黙か? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙症Journalブログでも紹介されていた不安症研究掲載のレター論文『Selective mutismの訳語は「選択性緘黙」か「場面緘黙」か?』が一般公開されたので、本ブログでも取り上げたいと思います。

場面緘黙症Journalブログの記事⇒「選択性緘黙」を「場面緘黙」に変えようという論文

不安症研究は以前は不安障害研究と呼ばれていた雑誌です(英語名はAnxiety Disorder Research)。これは米国精神医学会のDSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)が公刊されたのをきっかけに不安障害が不安症に変更されたことに伴う措置です。ちなみに、学会名も日本不安障害学会から日本不安症学会に変更されています(英語名はJapanese Society of Anxiety and Related Disorders)。

久田信行・藤田継道・高木潤野・奥田健次・角田圭子(2014). Selective mutismの訳語は「選択性緘黙」か「場面緘黙」か? 不安症研究, 6(1), 4-6. doi:10.14389/adr.6.4, JOI:DN/JST.JSTAGE/adr/6.4.(英語ではHisata, N., Fujita, T., Takagi, J., Okuda, K., & Kakuta, K. (2014). A Proposal to Adopt “Bamen Kanmoku” Rather than “Sentakusei Kanmoku” as the Japanese Translation of “Selective Mutism”. Anxiety Disorder Research, 6(1), 4-6. doi:10.14389/adr.6.4, JOI:DN/JST.JSTAGE/adr/6.4.

このレター論文ではselective mutismの日本語訳をどうするかが問題になっています。選択性緘黙の歴史をDSM-IIIからDSM-IVへの変更を中心に振り返り、最後にDSM-5で不安症(Anxiety Disorders)になったことに言及しています。

当事者の意見としては緘黙だけにとらわれないで「動きが固まる,食事や排泄などの日常生活動作も困難になるなど」、他にも問題になることがあることへの理解が重要なことが取り上げられています。

○コメント

・全般的印象

DSM-IIIからDSM-IVに改訂された際にelective mutismからselective mutismに変更されたにもかかわらず、日本語訳は選択性緘黙のままでした。elective mutismを採用している世界保健機関(WHO)のICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版,International Classification of Diseases-10th revision)の改訂版となるICD-11ではselective mutismに変更する予定なので、DSMと同じ轍を踏まないためにも、ICD-11では場面緘黙を採用してほしいというような趣旨に感じられました。

*本レター論文にはICD-10の改訂版、ICD-11が来年(2015年)発表される予定とあります。しかし、ICD-11の発表は2017年に延期されているので、ご注意ください。

・個別感想

自称場面緘黙当事者である私の意見としては緘黙の喋らないという定義だけにとらわれるとそれ以外の問題を見落としてしまうという点ではレター論文にある当事者の主張と同じですね。論文にはなかった意見を書くならば、緘黙経験者の声の大きさの問題について述べたいと思います。

喋ることができるかできないかという全か無の法則のような捉え方では、緘黙から少し回復してささやき声になったら定義上緘黙ではなくなるわけです。もっとも喋るという行為は相手に聞こえなければ意味がないわけで、ささやき声を喋ることに含めるかどうかは意見が分かれるかもしれませんし、実際の臨床現場ではささやき声になったからといって即緘黙から回復したと断定することはないはず?です。いずれにせよ、ささやき声の段階では緘黙から回復したとはとても言えません。また、ささやき声よりは大きいけれども周囲から「声が小さい」と言われる緘黙経験者のQOL(生活の質)も考えなければなりません。こちらは場面緘黙の後遺症の問題になるかもしれません。

さらに、緘黙にはなっていない子・人のささやき声はもしかしたら将来の緘黙リスクを反映しているかもしれません。実際、私は小学校4年生の時に引っ越して、完全な場面緘黙(自己診断)の状態になりましたが、引っ越し当初は学校で話せました。しかし、同級生から「蚊の鳴くような声」と言われたのをきっかけに話さなくなりました。以上の理由から話せるか話せないかという二元論にとどまらず、声の大きさも問題にしてほしいと思います。

最初にリンクした場面緘黙症Journalの記事『「選択性緘黙」を「場面緘黙」に変えようという論文』においては緘黙の部分を分かりやすい名称にした方が良いという意見が紹介されていますが、名前にはもう1つ問題があります。それは「緘黙症」か「緘黙障害」か(あるいは「緘黙」か)?というものです。Twitterにおいても場面緘黙症よりは場面緘黙障害の方が生きやすいという意見があります。

問題のツイート(よの子さんのアカウント@gs__koより)⇒https://twitter.com/gs__ko/status/471989171540602881

今回の論文はひねくれものの私からすると、選択性緘黙を場面緘黙にしたいという主張しか書かれておらず、説得力は強くありませんね。個人的な意見を書けば選択性緘黙だとわざと黙っているという印象があるので、場面緘黙の方が良いと思います。しかし、片方だけの意見を聞くだけでは一面的です。選択性緘黙のままで良いという意見がもしあるならばその論拠についても議論し、総合的に判断する必要があります。

○引用URL(2014年10月30日現在)
久田信行・藤田継道・高木潤野・奥田健次・角田圭子(2014). Selective mutismの訳語は「選択性緘黙」か「場面緘黙」か? 不安症研究, 6(1), 4-6. doi:10.14389/adr.6.4, JOI:DN/JST.JSTAGE/adr/6.4.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/adr/6/1/6_4/_pdf

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Comment
164
たしか、園山先生のところがあえて「選択性緘黙」という言葉を使っていたような。
http://www.human.tsukuba.ac.jp/~kanmoku/html/summary.html

あ、こちらでは初めまして。いつも参考にさせていただいています。

165
Re: タイトルなし
こちらこそ、初めまして。でも、Twitterではお世話になっていますね。コメントありがとうございます。

たしかに園山先生はあえて「選択性緘黙」という用語を使用されていますね。ただ、この説明が私には釈然としなかったりします。場面という言葉には場所?(学校や幼稚園など)というニュアンスだけでなく、刺激(人や物理的環境)や活動というニュアンスも含まれていると考えることも可能ですから。

しかし、先生は誤解を避けるためには場面緘黙でも良いということなので、選択性緘黙に固執しているわけではなさそうです。実際に園山先生は2015年に学苑社から出版予定の本で『場面緘黙のある人の理解と支援(仮)』というタイトルを仮にとはいえ、HPに載せています。

166
返信ありがとうございます。
たしかに、その記事を読んだときは私も「場所・人・活動を総称して『場面』と呼んでいたんじゃなかったの?」と思いました。誰か実際に誤解している人に遭遇したとかなのでしょうか…。

たしかに先生も「選択性緘黙」という用語に固執しているわけではないですね。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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