児童不安障害の半数は自然治癒する(8年の追跡研究) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

児童不安障害の半数は8年間の間に自然治癒するという興味深い論文が発表されました。不安障害児で認知行動療法を受けた人と受けなかった人の両方を2年以上追跡調査したのはこの研究が初めてです。興味があったので、全文読みました。勉強成果を本記事で発揮させたいと思います。なぜ興味があったのかというと、私の関心分野である場面緘黙症は幼児期や児童期に発症が多い不安障害だからです。

*場面緘黙症とは別名、選択性緘黙症ともいう症状のことです。場面緘黙症の人は話す能力があっても家の外などある特定の場所で話せなくなったり、一定の人に対して喋れなくなったりします。米国精神医学会が発行するDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では場面緘黙症が不安障害に位置づけられています。

なお、不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒発散的思考で対人的信頼性が増す

Adler Nevo, G. W., Avery, D., Fiksenbaum, L., Kiss, A., Mendlowitz, S., Monga, S., & Manassis, K. (2014). Eight years later: outcomes of CBT‐treated versus untreated anxious children. Brain & Behavior, 4(5), 765-774. doi: 10.1002/brb3.274.

カナダのトロント大学精神医学部サニーブルック健康科学センター、トロント小児病院(Hospital for Sick Children Toronto)精神医学科、ヨーク大学の研究者達による論文です。ちなみにラスト・オーサー(Last Author)のキャサリーナ・マナサス(Katharina Manassis)正教授は場面緘黙症の遺伝子研究を行っています。キャサリーナ・マナサス教授らの緘黙症の遺伝子研究はトロント小児病院とアイルランドのキングス・カレッジによる3年の協同研究となる予定です。

○研究背景と目的

児童不安障害の治療効果を長期的に追跡した研究は少なく、治療を受けなかった児童を追跡した研究は全くありません。ゆえに、認知行動療法の効果を長期的に検証するために、治療を受けなった不安障害児の追跡も行い、治療群と予後を比較することを目的としました。

○方法

参加者は120人の不安障害児(年齢は8~12歳)。内60人が認知行動療法を受け、残りの60人が認知行動療法を受けませんでした。以下、認知行動療法を受けた群をCBT群、受けなかった群を統制群と表記します。

不安障害の内訳は分離不安障害が20%(CBT群13%:統制群27%)、全般性不安障害が61%(CBT群63%:統制群58%)、社会不安障害(社交不安障害)が13%(CBT群15%:統制群10%)でした(主診断のみ)。残りは特定恐怖症、強迫性障害、パニック障害、特定不能の不安障害で2~5%でした。副診断も含めると、うつ病、AD/HD(注意欠陥・多動性障害)、反抗挑戦性障害の合併児がいました。

CBT群と統制群のマッチングは年齢、性別、診断、初回評価時点における不安症状・抑うつ症状の重篤度、機能の全体的評定。

認知行動療法は個人CBTか集団CBTで、親が参加するセッションもあり。認知行動療法マニュアルはCoping Bear(熊へのコーピング)。

○結果

認知行動療法を受けたか否かにかかわらず、両群とも8年後に不安障害の診断率が半減していました。具体的な数字で書くと8年後に不安障害でなかった人はCBT群で50.0%、統制群で48.1%でした(有意差なし)。

8年前と同じ不安障害だったのが、CBT群で22.6%、統制群で26.9%でした。8年前と別の不安障害の診断が下されたのはCBT群で38.7%、統制群で46.2%でした。不安障害以外の診断が下されたのがCBT群で22.6%、統制群で26.9%でした(合併診断あり)。これらに群間差はありませんでした。

認知行動療法を受けなかった統制群で、最初の評価と比較して追跡後に不安レベルが低下していました(子ども自身の評定)。しかし、CBT群では最初の評定値と追跡後の評定値で不安レベルは有意に異なりませんでした。8年の追跡後の不安レベルはCBT群と統制群で有意に異なりましたが、有意差がでたのは子どもが不安を評定した場合で、親が子どもの不安を評価した場合は有意差が検出されませんでした。

追跡後にCBT群よりも統制群の方が損害回避や社会不安(子ども自身の評価)が低い結果となりました(身体症状と分離不安・パニック症状は有意差なし)。子どもの不安に関する親の知覚は追跡前と8年後で有意差はなく、これは統制群でもCBT群でも同様でした。

追跡前のうつ症状は通常範囲内で、それを統制すると追跡後の統制群のうつ症状とCBT群のうつ症状に有意差は検出されませんでした。8年後の機能に統制群とCBT群で有意差はありませんでした。両群ともに追跡前の機能の全体的評定と比較して、8年後の機能の全体的評定が改善していました。

QOL(生活の質)、自尊心、自己効力感は追跡後で通常範囲内で、統制群とCBT群の間に有意差は検出されませんでした。しかし、不安症状を予測する要因として自己効力感と自尊心が同定されました。すなわち、自己効力感や自尊心が高ければ高いほど、不安が低くなりました。なお、子供の頃に認知行動療法を受けたかどうかは8年後の不安レベルを予測しませんでした。

○コメント

以上の結果をまとめると

・小学生の頃に認知行動療法を受けたかどうかは8年後の予後とは関係しない(受けても受けなくても不安障害の診断が50%の確率で消失する)。認知行動療法を受けなかった方が不安が低下しやすいし、8年後の損害回避や社会不安も統制群の方が低い(子供自身が不安・損害回避・社会不安を評価した場合)。

・認知行動療法を受けたかどうかに関わらず、8年後に機能の全体的評定が改善。8年後のうつ症状、機能の全体的評定、QOL(生活の質)、自尊心、自己効力感でも認知行動療法を小児期に実施したかどうかは関係ない。

・8年の追跡後で自己効力感や自尊心が高いほど不安が低い。

となります。え!認知行動療法って効果がないの!と驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、先行研究ではあくまでも短期的な効果を調べたものであり、長期的な効果は不明でした。また、追跡調査(フォローアップ調査)がなされていたとしても1年かそこらで終わっているというものが比較的多いのです。

ただ、本研究はランダム化比較試験(RCT)ではないため、たとえ年齢、性別、診断、症状の重篤度、機能をマッチングさせていたとしても、CBT群と統制群の間に何らかの違いがある可能性は否定できません。RCTが難しいのは認知行動療法を何年間も受けない群にランダムに割り当てるというのは倫理的に問題があるためです。

本研究成果は自尊心や自己効力感が高い(もしくは成長過程で高くなりやすい)不安障害児は認知行動療法を受けない傾向があるという結果が得られれば、一見すると辻褄が合うように見えます(参加者の選別過程云々は考察を省略)。本研究では初回評価時に自尊心や自己効力感を評定していなかったため、最初からこの2つの心理的変数に違いがあった可能性を否定できないわけです。しかし、その場合でも8年後のフォローアップ調査で統制群とCBT群の間に自尊心や自己効力感の違いが検出されなかったという結果を説明するのは困難です。

統制群は認知行動療法を受けなかったとのことですが、それ以外の代替医療を受けた経験があったどうかが気になります。不安障害クリニック以外で認知行動療法を受けた人を除外してデータを分析していますが、薬物療法や支持療法、宗教的・スピリチュアル(霊的?精神的?)療法を受けた人は含めているようです(英語の書き方がいまいちよく分からなかったので間違っているかもしれません)。

8年後の自尊心や自己効力感が高いほど不安が低いという結果は相関にすぎませんが、もし因果関係ならば、自尊心や自己効力感を高める心理療法が必要になってきます。もっとも自尊心や自己効力感の何割かは遺伝によって決定されるので、どれくらい介入の効果が生じるのか気になりますが(不安症状/不安障害も遺伝しますけどね)。

*以下の2つの文献によると51~59歳の自尊心の遺伝率は44%(Kubarych et al., 2012)、若者の自己効力感の遺伝率は75%(Waaktaar & Torgersen, 2013)。ちなみに、Kubarych et al. (2012)によると51~59歳の幸福感(Well-being)の遺伝率は47%で、自尊心・幸福感と海馬体積の遺伝相関は0.12なので、自尊心・幸福感と海馬体積に共通の遺伝的因子がほんの少しばかりある可能性があります。

Kubarych, T. S., Prom‐Wormley, E. C., Franz, C. E., Panizzon, M. S., Dale, A. M., Fischl, B., Eyler, L. T., Fennema-Notestine, C., Grant, M. D., Hauger, R. L., Hellhammer, D. H., Jak, A. J., Jernigan, T. L., Lupien, S. J., Lyons, M. J., Mendoza, S. P., Neale, M. C., Seidman, L. J., Tsuang, M. T., & Kremen, W. S. (2012). A multivariate twin study of hippocampal volume, self‐esteem and well‐being in middle‐aged men. Genes, Brain & Behavior, 11(5), 539-544. doi: 10.1111/j.1601-183X.2012.00789.x.

Waaktaar, T., & Torgersen, S. (2013). Self-Efficacy Is Mainly Genetic, Not Learned: A Multiple-Rater Twin Study on the Causal Structure of General Self-Efficacy in Young People. Twin Research & Human Genetics, 16(3), 651-660. doi: 10.1017/thg.2013.25.

不安障害児に対する認知行動療法の効果そのものではなく、3~12か月後の予後に重要な遺伝子型としてセロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)(Eley wt al., 2012)神経成長因子(NGF)遺伝子多型(Lester et al., 2012)の存在が指摘されており、8年後の予後でも遺伝子多型の影響が生じるのかどうか気になります。

fMRI(機能的磁気共鳴画像法)でも大人の結果ですが、全般性不安障害・パニック障害に対する認知行動療法の効果を予測できたとの研究(Ball et al., 2014)があります。fMRIの結果によれば、認知行動療法の効果を79%の確率(感度0.86、特異度0.68)で個人ごとに言い当てることができます(再現研究が2014年11月時点でないことに注意)。しかし、fMRI研究は治療直後の効果の予測なので、予後の予測とは少し違います。それでも、fMRIで短期的、長期的な予後が予測できるかどうか検証してみる価値はあるでしょう。

本論文には認知行動療法の?副作用/悪影響(No adverse effects were documented.)がなかったと書かれていますが、安心することはできません。というのも認知行動療法の後に病態が悪化することがあるからです。たとえば、Kindlon (2011)によると、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対する認知行動療法の後に20%(範囲:7-38%)の患者で健康状態が悪化します。これを認知行動療法(CBT)の副作用と言っていいかどうかは私には分かりませんし、精神疾患に当てはめて考えることができるかどうかは分かりませんが、CBTにもコストがあるということです。CBTが効かない人もいますしね。

*Kindlon (2011)とは以下の文献のこと
Kindlon, T. (2011). Reporting of harms associated with graded exercise therapy and cognitive behavioural therapy in myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome. Bulletin of the IACFS/ME(International Association for Chronic Fatigue Syndrome/Myalgic Encephalomyelitis), 19(2), 59-111.

参考記事⇒インターネット認知行動療法の副作用(社会不安障害)

場面緘黙症に対する認知行動療法の効果は1年後の予後で年齢が高くなるほど悪くなるという報告(Oerbeck et al., in press)があるので、緘黙症は放置プレイにしてほしくないですね。しかし、治療しないままの場面緘黙児と治療を行った場面緘黙児を同時に追跡した研究はほとんどないので、放置が緘黙症の予後にとって悪いことかどうかは現時点では不明のままです。なお、本ブログの管理人は場面緘黙(自己診断)の経験者で、治療を受けず自殺願望がでることがある・うつ症状が高まることがある、何より○○である等心理的、社会的に望ましくない状況にあります(予後が悪いです)。しかし、これが場面緘黙の結果なのかどうか、もしそうだとしても何割が場面緘黙の影響なのかは分かりません。

*Oerbeck et al. (in press)とは以下の文献のこと
Oerbeck, B., Stein, M. B., Pripp, A. H., & Kristensen, H. (2014). Selective mutism: follow-up study 1 year after end of treatment. European Child & Adolescent Psychiatry, DOI:10.1007/s00787-014-0620-1.

関連記事⇒緘黙を知る前は自殺ばかり考えていた

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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