進化心理学モデル:父親の社交不安の方が母親の社交不安よりも影響力が強い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回はいつもの実証的研究とは違って理論編です。具体的に書くと、進化心理学の観点からは、母親の社交不安(社会不安)よりも父親の社交不安の方が子供の社交不安に与える影響が強いと考えられるというお話になります。

本モデルの趣旨は、母親よりも父親の方が外的世界で起こりうる脅威(現代社会では他人の行動)に対処してきたので、子供は父親の方が外的脅威の学習素材として適切だと認識しており、そのため、母親の社交不安よりも父親の社交不安の方が子供の脅威の知覚/解釈/信念、さらには社交不安に影響するというものです。

なお、社交不安(症/障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒マインドフルネス瞑想訓練を受けると松葉杖の女性に席を譲るようになる
↑ちなみに、マインドフルネス瞑想は不安障害(不安症)の改善に効果がある(Boettcher et al., 2014)とされます。

Bögels, S. M., & Perotti, E. C. (2011). Does father know best? A formal model of the paternal influence on childhood social anxiety. Journal of Child & Family Studies, 20(2), 171-181. DOI:10.1007/s10826-010-9441-0.

本論文はオープンアクセスでオリジナルの著者とソースを明示するかぎり、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(Creative Commons Attribution Noncommercial License)の下、商用でない使用、頒布、複製をいかなる媒体で行ってもかまいません。なので、著作権法侵害を恐れることなく、以下レジュメ形式でお送りします。

○序論

・社交不安障害人が出やすい家系がある。これは遺伝的要因だけでなく、子供が親の行動や反応をモデリングすることや養育(育児)方法が原因の1つであると考えられる。具体的には親の過保護やコントロールが子供の社交不安の維持や上昇に寄与しているというエビデンスがいくらかある。しかし、これらの要因は他の精神病理とも関連し、社交不安特異的ではない。

・子供の不安に果たす育児の働きを調べた先行研究では母親の役割ばかり注目されてきた。これは母親の方が影響力が高いという考えと研究協力者が父親よりも母親であることが多いという実際的理由によってである。しかし、これには問題があり、結果、父親の影響を過小評価することになりかねない。

●問題1:第一に子育ては父親と母親という2人の人間によって担われることが多いため、母親だけに注目するのはおかしい。たとえば、子供の社交不安の原因だとされる母親の過保護は実は父親の不干渉や介入不足の結果であって、子供の社交不安とは関係が薄いかもしれない。

●問題2:社交不安障害は男女ともに同じ有病率だという報告がある。また、男性内で見ると社交不安障害の有病率が最も高い。

●問題3:先行研究では父親を含めていたとしても母親と父親の役割の違いを区別していなかった。

●問題4:父親が参加した研究でも一定の特徴をもった父親が参加せず、体系的なサンプリングバイアスが生じている可能性。たとえば、離婚後に子供は母親と同棲することが多い、社交不安が高い父親や外で活発に活動している父親は研究に参加することが少ないかもしれない。

○子供の社交不安には父親の役割の方が重要だというエビデンス

・児童不安の原因、予防、治療における父親の役割をレビューした論文から以下のことがいえる

●健常児の発達研究では子供の社交性の発達、重篤な不安の予防には母親と父親で果たす役割が異なる

●発達精神病理学の研究では父親が不干渉、温かさに欠け、子供の自立を促さず、父親自身も不安を示していたら、子供の不安が高くなるリスクが高い

●実際、母親だけの研究よりも父親を含めた研究の方が親の統制と子供の不安の関係が強いというメタ分析(メタアナリシス)がある(ただし、違いは有意ではない)。

・母親より父親の方が子供の社交不安に重要だというエビデンスを以下に列挙

●乳児と父親の愛着が安定型だとよちよち歩きの幼児の段階で人見知りする可能性が低いが、母親との安定的な愛着は関係ない

●幼児期における父親の育児スタイル(養育スタイル)が3歳になった時の男児の行動抑制レベルを予測するが、母親の育児スタイルは関係しない。具体的に書くと父親の侵入的養育でネガティブ度が強く、感受性/ポジティブ度が低い養育(≒強い父親的育児)で行動抑制レベルが低くなる

●不安障害がない父親と比較して、不安障害がある父親は家族議論課題で子供をコントロールするが、母親では不安障害の有無で違いがない

●不安障害児に対する親参加型の認知行動療法で1年の予後の結果を予測するのは母親の治療前の不安ではなく、父親の不安である

●父親が社交不安が高い反応を示していると、小学校高学年の高社交不安児童は社交不安が高くなりそうだと想像し、父親が自信を持って行動していると高社交不安児童は社交不安が低くなると想像。一方、母親の不安/自信は高社交不安児の想像に影響せず。ただし、普通の子供や社交不安が低い子供では父親よりも母親に影響される⇒強い父親は社交不安児の自信を高めるが、社交不安が低い子供では母親が子供の不安を増幅させる?

以下、母親よりも父親の方が子供の社交不安にとって重要な理由を進化心理学的に考察

○人類の進化の過程における父親と母親の役割(結構ずぼらな要約)

・女性より男性の方が身長が高く、強く、攻撃的。父親の投資理論(Paternal investment theory:PIT)がこれらを説明。

*父親の投資理論とは性淘汰のメカニズムの説明のための理論です。親の投資理論(Parental Investment Theory:PIT)の父親バージョンでしょうか。子孫の生存のために繁殖行動を犠牲にして行う育児(養育行動)は父親よりも母親の方が多大なエネルギー、時間、資源を費やします。したがって、投資量が多い女性の方が配偶者選択を慎重に行い、逆に投資量が少ない男性の方が配偶者選択で互いに争いあうことが予想されます。また、進化論的に母親は子育てに熱心で、父親の役割は危険動物からの防衛や食物の探索です。このような役割分担が子供の生存率を高めます。ゆえに、それぞれに有利なように身体的・行動的・認知的に進化し、身体能力や空間認識能力に男女差が生じたというわけです。

・農業の発達で人口が増大し、野生動物の肉等の資源が減少。その結果、親が子孫の数を増やすことよりも子供の資源獲得スキル(例:社会的競争スキル)の成長のために投資するようになる。社会的競争スキルの育成は狩猟採集や外部の一族からの脅威に対する防衛等、家庭外で行われる。したがって、子供の社会的競争スキルの育成は父親が行う方が比較的有利。

・以上の理論的根拠により、子供は母親から情動的スキルを学び、父親から外界が危険か機会が豊富かどうか判断するスキルを学ぶことが予想されるし、これが最も子供の生存に有利であろう(おそらく子供は本能的に母親と父親から学習することの違いを認識していると思われる)。実際、群衆中の中から怒り表情を見つけるのは女性よりも男性の方が早いという実験がある。

・危険動物が征服された現代社会では最も脅威となる可能性があるのは他人の行動である。ゆえに他者が協力的か危険かを判断することが求められる。また、たとえ先進国で母親の役割と父親の役割の違いが消失し、外的脅威からの保護や戦闘スキルがいらなくなったとしても、進化で獲得した本能は簡単には変わらない。事実、ほとんどの文化で父親は乱闘遊び(rough and tumble play)で子供を鍛えていると考えられる。また、フランスの父親が1~3歳児の後ろに立ち、社会的環境に子供をさらす一方、母親は子供の前に立ち視覚的コンタクトを求めるという研究が存在する。

・社交不安は他者や社会的交流に関する非現実的なネガティブな認知から生じると考えられる。このネガティブ恐怖は生まれつきの可能性が高く、ポジティブな社会的経験や社会的コンピテンスの増加を通して低下していくものだと考えられる。

・母親の社交不安よりも父親の社交不安の方が重要だという本モデルの前提条件は1.子供は外的世界の手がかりを求めて親を見るということと2.親の信念が子供の現実的・非現実的な信念の形成に重要だということ。前者には親の恐怖や社交不安が子供の恐怖・社交不安行動に影響するというエビデンスが存在。後者には親と話し合った後に不安障害児が曖昧な社会的状況をネガティブに解釈する傾向が強まる、親の社会的関係に対する認知的表象がその後の子供の表象と関連する、母親の曖昧な出来事に対する脅威の解釈が子供の脅威の解釈を予測するというエビデンスが存在。

・子供の不安は親の行動から情報手がかりを得る合理的な認知過程によって生じるという行動モデルを提示。外的世界に対する子供の信念の形成は親の行動からベイズ推定されたものなのだ。このモデルで外的世界に対して手がかりを与える情報源としての父親と母親の相対的な有効性に対する子供の信念がもたらす結果を説明。子供は有効だと思う親の方を重視。本モデルでは外的世界の情報は母親よりも父親の方が有効だと仮定。

・次に以上の仮説モデルを検証するための数学モデルの説明。論文中には数式が登場しますが、ただでさえ堅苦しいブログで人気もないのにこれ以上難しくする意味はないので省略。ただ、数学モデルから予測できることを記述しておきます。

・もし父親の不安が高く父親の影響力が強ければ子供の不安が高まるだろう。逆に母親の影響力は低いと仮定されているので、父親の社交不安が低ければ母親の社交不安と子供の社交不安の関係は弱いはず。

・子供が不安だと子供の幸福感が低下するので、親はケアを手厚くするはずで、これは母親によって行われると仮定。ただし、ケアにもコストがかかる。ケアを止めるのは子供の快適感の増加とケアのコストが一致する点。父親の不安が高ければ高いほど子供への影響力が強い分、母親のケアが増加する傾向も高まるはず。

・母親のケアは社会的経験よりも家での経験を快適にすることに注がれること(「過保護」になること)が予想される。その結果、社交不安が高い子供はより社向性を失っていく。

・社会的交流を活発にする子供は社会的経験から初期の信念を更新し、社交不安を低下させることができる。一方、社会的交流を避ける不安が高い子供は学習経験不足に陥る。父親の社交不安の影響力が大きいことも考え合わせると、父親の行動から社会的交流を脅威に感じるようになった子供はそのネガティブ信念を更新する機会を失う。したがって、父親の社交不安は遺伝的影響がなくても次世代に受け継がれるであろう。一方で、母親も家でのケアを手厚くすることで、子供の社会的交流を減少させ、学習機会を失わせ、ネガティブな子供の信念を維持させると考えられる。

考察(Discussion)部分のまとめは省略します。

○所見(コメント)

もし、この論文の主張が確かならば、児童の社交不安障害の治療で母親が認知行動療法等に参加するよりも父親が参加した方が効果が高い可能性があります。あるいは子供の社交不安障害の予防プログラムに父親が参加した方が良いのかもしれません。他には、両親ともに参加するという方法もあります。スウェーデンの研究者が行ったメタ分析研究によると、児童不安障害への認知行動療法に親が参加しても効果が高まらないとされます(Thulin et al., 2014)が、これはもしかしたら母親が参加した研究が多くて、父親が不在かもしくは少数のまま介入を実施した結果からなのかもしれません。なお、本モデルは社交不安だけに当てはまるというよりは、そのほかの不安にも当てはまる可能性を秘めています。というのも、外的脅威は他人だけとは限りませんから。

実はこの論文以外にも育児スタイルの性差と子供の不安の関係を考察した文献(Möller et al., 2013)があります。それによると、少なくとも西欧社会では不安が高い男性は息子にジェンダー役割(外的世界の探索や他者との競合)を教えるのが難しい一方で、不安が高い女性が娘に庇護や思いやり、養育などのジェンダー役割を教えるのに何の障壁もないと考えられます。また、同じ養育行動でも父親が示した場合と母親が示した場合とで子供の不安の危険因子になるかリスク低減因子になるかは変わるともいわれています。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Möller, E., Majdandžić, M., de Vente, W., & Bögels, S. (2013). The evolutionary basis of sex differences in parenting and its relationship with child anxiety in Western societies. Journal of Experimental Psychopathology, 4(2), 88-117. DOI:10.5127/jep.026912.

Thulin, U., Svirsky, L., Serlachius, E., Andersson, G., & Öst, L. G. (2014). The effect of parent involvement in the treatment of anxiety disorders in children: a meta-analysis. Cognitive Behaviour Therapy, 43(3), 185-200. doi:10.1080/16506073.2014.923928.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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