アバターで他人の顔を設定すると、スピーチで生理的覚醒を感じにくい | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回はバーチャルリアリティの論文です。バーチャルリアリティのアバターの顔を自分とは違う顔にすることでスピーチ不安が緩和されるかどうか調べた研究です。興味があったので全文読んでしまいました。インターネットや論文は好奇心旺盛な人にとって凶器だということを実感する日々です。

なぜ、スピーチ不安(and/or社交不安・社会不安)に関する論文を読んでいるのかというと、場面緘黙症児(選択性緘黙症児)は社交不安が高いか、もしくは社交不安障害(社交不安症,社会不安障害)を合併していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になっています。

*本ブログでは従来、社交不安(障害)ではなく、社会不安(障害)という用語を使用していました。これは2014年までのGoogle Trendsでは社交不安(障害)よりも社会不安(障害)の方が検索が多いためです。しかし、最近、検索用語(社会不安 or 社交不安)×検索者の特性という交互作用があるかもしれないと思い、しばらく社会不安ではなく、社交不安という言い方をしようかどうか思案中です。そのため、本記事でも社交不安という書き方をします。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒ADHDの女性は青色と赤色の彩度を弁別するのが苦手
↑遊びではなくて、網膜ドーパミン仮説(retinal dopaminergic hypothesis)という理論的な根拠があるようです。

Aymerich-Franch, L., Kizilcec, R. F., & Bailenson, J. N. (2014). The relationship between virtual self similarity and social anxiety. Frontiers in Human Neuroscience, 8:944. doi:10.3389/fnhum.2014.00944.

アメリカ(カリフォルニア州)のスタンフォード大学コミュニケーション学部仮想人間交流実験室(Virtual Human Interaction Lab)の研究者達による論文です。

○方法&結果

●予備研究(Pilot Study)

予備研究ではバーチャルリアリティ空間で人前でスピーチをするなら、どのようなアバターが好まれるかを調査しました。

調査協力者は252人。男性が64%、年齢は18~74歳(25~34歳が49%)。被験者の募集はアマゾンメカニカルターク(Amazon Mechanical Turk)によりました。アマゾンメカニカルタークとは短時間、低コストで大規模な調査・実験ができるアマゾンのクラウドソーシングサービスのことです。

アマゾンメカニカルタークを用いた調査でバーチャルリアリティでスピーチをする際にどれぐらい自分に似ているアバターを選択するかどうか質問しました。その際にスピーチする教室の写真を見せるなどして現実感を持たせました。

その結果、人前でのスピーチ不安が高い人ほど、自分とはできるだけ外見が異なるアバターを使うのを好むことが分かりました(r=−0.37~−0.44)。

*人前でのスピーチ不安の評価はコミュニケーション不安個人報告(Personal Report of Communication Apprehension:PRCA-24)尺度による。PRCA-24への回答はバーチャルスピーチについて説明する前に実施。

●実験1

82人の大学生のデータが分析に用いられました。女性が51人、男性が31人、平均年齢は20歳(SD=1.88:範囲は18~32歳)。被験者は全員、社交恐怖質問紙ミニバージョン(Mini-Social Phobia Inventory:Mini-SPIN)で6点以上を示した高社交不安者。

実験条件は3つ(自己・他者・選択)。

・自己条件:アバターに自分の顔を設定

・他者条件:アバターに別の被験者の顔を設定(ただし、性別と肌の色は被験者と同じ)

・選択条件:被験者自身が同性の人物写真から仮想世界で行うスピーチ用のアバターを選択(選択肢数は18)

バーチャル世界での即興スピーチは3分間。バーチャルリアリティはヘッドマウントディスプレイ(HMD)と各種身体センサーで実現。被験者はアバターの姿をバーチャルミラーで確認。スピーチの前の不安を尋ねた何秒か後に、バーチャル聴衆の前で演説開始(聴衆は男性6人、女性6人)。実際のスピーチと違うのは自分の姿をいつでも確認できたこと。プレゼン終了後にスピーチ中の不安を質問。

バーチャルスピーチの前に回答した質問紙は特性スピーチ不安の評価のためにコミュニケーション不安個人報告(PRCA-24)と特性社交不安の評価のためにネガティブ評価恐怖尺度短縮版(Brief Fear of Negative Evaluation Scale:B-FNES)の2つ。

バーチャルスピーチの後に回答した質問紙はスピーチ中の生理的感覚の評価のために身体感覚質問紙(Body Sensations Questionnaire:BSQ)と自己存在感、社会的存在感、空間的存在感の評価のために存在感尺度(presence scale)を使用。

*自己存在感とはどれだけ仮想アバターの身体が自分の身体と感じられるかということ。また、社会的存在感とは仮想空間上にいた聴衆の存在感のことで、空間的存在感とはどの程度、バーチャル教室が現実世界のように感じられているかということです。

以下は実験1の結果です。

スピーチ後にはアバターの顔と自分の顔の主観的類似性を尋ねていましたが、他者条件よりも自己条件で類似性が高く評価され(効果量はCohen’s dで3.0)、選択条件は自己条件よりも他者条件と似た結果になりました。

自己条件よりも他者条件の方が身体感覚質問紙(BSQ)による生理的覚醒感覚が低くなりました(有意傾向)が、スピーチ直前の不安とスピーチ中の不安では有意差が検出されませんでした。選択条件では自己条件・他者条件と比較して、スピーチ直前の不安、スピーチ中の不安、生理的覚醒感覚で有意差が検出されませんでした。

自己条件と比較して選択条件では社会的存在感・空間的存在感、すべて合わせた全般的存在感が低くなりました(効果量はCohen’s dで0.79と0.59)。また、自己条件と比較して他者条件では社会的存在感が低くなりました(効果量はCohen’s dで0.62)。

●実験2

データが有効となった被験者は大学生105人(男性61人)。平均年齢は20歳(SD=2.43:範囲は18~39歳)。

基本的な実験構成は実験1と同じです。しかし、実験1とは違い選択条件は設けず、自分の顔をアバターにつける自己条件と他の被験者の顔をアバターにつける他者条件の2つだけにしました。また、実験1は3分間のスピーチでしたが、実験2は5分間のスピーチにしました。さらに即興だった実験1とは違って、準備時間を5分間与えました。

スピーチの前に回答した質問紙は実験1と同じで、特性スピーチ不安の評価のためにコミュニケーション不安個人報告(PRCA-24)を、特性社交不安の評価のためにネガティブ評価恐怖尺度短縮版(B-FNES)を使用。

スピーチの後に回答した質問紙は実験1とは違い、状態不安の評価のための状態-特性不安質問紙Form Y-1(State-Trait Anxiety Inventory-Form Y-1:STAI-Form Y-1)を追加。後は実験1と同じく生理的感覚の評価のために身体感覚質問紙(BSQ)を、自己存在感、社会的存在感、空間的存在感の評価のために存在感尺度を使用。

以下は実験2の結果です。

実験1と同様にスピーチ後にアバターの顔と自分の顔の主観的類似性を質問しました。その結果、他者条件よりも自己条件で類似性が高く評価されました(効果量はCohen’s dで1.9)。

性別とネガティブ評価恐怖尺度短縮版得点を共変量として統制すると、他者条件で生理的感覚の興奮が14%減少しました。一方、状態不安の変化はありませんでした。また、自己条件よりも他者条件の方が自己存在感が低くなりました(他の存在感は有意差なし)。

○コメント

以上をまとめると、

・スピーチ不安が高い人ほどバーチャルリアリティでのスピーチで自分とは異なる容姿のアバターを使用することを選好する(予備研究)。

・実験1でも実験2でもアバターに自分の顔を設定するよりも、他者の顔を設定した方が生理的覚醒感覚が低い(ただし、実験1は有意傾向)。しかし、スピーチ直前の不安やスピーチ中の不安(実験1)、状態不安(実験2)にはアバターの影響がない。

・自分の顔をアバターに設定する条件と比較して、被験者自身でアバターを選択できる条件では社会的存在感・空間的存在感・全般的存在感が低い(実験1)。また、自分の顔をアバターに設定するよりも他者の顔をアバターに設定する方が社会的存在感が低下する(実験1)かもしれないが、実験2では再現できず。さらに、自分の顔をアバターに設定するよりも他者の顔をアバターに設定する方が自己存在感が低下するかもしれない(実験2)が、実験1では自己条件と他者条件に自己存在感の有意差なし。


となります。なんだか、微妙な実験結果ですね~。自分の顔のアバターでスピーチするよりも他者の顔でスピーチした方が生理的覚醒感覚が低下していた点が重要ですが、実験1はサンプルが少なかったためなのか有意傾向。遅れましたが、ここでいうところの生理的覚醒感覚とは心臓ドキドキ(心臓動悸)や喉の渇きのことです。

ただ、論文によれば、本研究で用いたバーチャルリアリティには技術的問題があって、被験者の動きをすべてバーチャル世界で再現できていませんでした。また、アバターの身体は2種類(男性用と女性用)しか用意しなかったので、実際の被験者の身体とは異なる可能性がありました。これらの点を改善し、もっとリアリティが増せば自分とは異なるアバターでスピーチ不安・状態不安が軽減されるかもしれません。

本研究成果が発展して、バーチャルリアリティ暴露療法等でアバターを自分とは異なる人物に設定する治療に効果ありとなれば、場面緘黙症の治療に応用できるかもしれませんね(ちなみに、論文にはアバターの容姿を段階的に自分に近づける方法が書かれていました)。たとえば、実際の暴露療法の前にバーチャルリアリティで「別人」になって喋る練習をする方法が考えられます。もっとも、まずは社交不安障害(社交恐怖症・社会恐怖症)患者での臨床試験が先行するでしょうが。

関連記事⇒バーチャル世界、セカンドライフによる社交不安障害の治療

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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