場面緘黙症のRCT行動療法の効果 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は場面緘黙症(選択性緘黙症)のRCT(ランダム化比較試験)行動療法を取り上げます。私が知る限り、少なくとも英語論文(+日本語論文)では初の場面緘黙児の行動療法に関するRCTです(もしかしたら世界で初のRCTかもしれません)。

Bergman, R. L., Gonzalez, A., Piacentini, J., & Keller, M. L. (2013). Integrated behavior therapy for selective mutism: a randomized controlled pilot study. Behaviour Research & Therapy, 51(10), 680-689. doi:10.1016/j.brat.2013.07.003.

○方法

臨床試験参加者は場面緘黙児21名(平均年齢は5歳:範囲は4~8歳)。後に述べるIBTSM群は12人(男児7人)、待機群は9人(男児4人)。発症年齢の平均値は3~4歳。両群に性別、年齢、民族構成、発症年齢、ベースラインの臨床的重症度に有意差なし。

Treatment for Children With Selective Mutism: An Integrative Behavioral Approach (Programs That Work)ランダムな割り当ては24週間にわたる場面緘黙症への統合的行動療法(Integrated Behavior Therapy for Selective Mutism:IBTSM)20セッションか12週間の待機リスト(Waitlist)。待機リスト群も待機期間が終わり次第IBTSMを実施。

IBTSMとは場面緘黙症の治療マニュアル「Treatment for Children with Selective Mutism. An Integrative Behavioral Approach(場面緘黙児の治療:統合的行動アプローチ)」に基づく親参加型のセラピーのことです。IBTSMは段階的暴露療法(graduated exposure therapy)などの技法で場面緘黙症の克服を目指します。暴露療法は学校でもしますから先生の協力も重要になります。初めの方の治療セッション中の場面緘黙児の不安レベルは感情温度計(feeling thermometer)で把握するようです。ご褒美も用います。本論文を参考に書くと以下のようになりますが、詳しくはオックスフォード大学出版局から上梓された本、『Bergman, R. L. (2012). Treatment for Children With Selective Mutism: An Integrative Behavioral Approach. New York: Oxford University Press』を参考にして下さい。

・セッション1-3:セラピストへの発話を目指す(ラポート形成なども実施)
・セッション4-14:セラピスト以外(例:同級生)への発話を目指す
・セッション15-20:暴露療法のセッティングをセラピストではなく、親が実行し、場面緘黙症再発の防止を図る
*セッション1-14はセラピストが主体の行動療法で、セッション15-20は親が主導

IBTSM群は場面緘黙症の治療終了から3ヶ月経った後に予後を評定。

○使用尺度等
・場面緘黙症の診断評定:不安障害半構造化面接DSM-IV親版(the Anxiety Disorders Interview Schedule for DSM-IV parent version:ADIS-P)と臨床重症度評価(Clinical Severity Rating:CSR)。評価者は治療の割り当てを知らない臨床医。
・重症度、改善度、治療反応性:臨床全般印象–重症度尺度(Clinical Global Impression - Severity scale:CGI-S)と臨床全般印象–改善度尺度(Clinical Global Impression - Improvement scale:CGI-I)。評価者は治療の割り当てを知らない臨床医。
・家、学校、その他の場所での発話頻度:場面緘黙症質問票(Selective Mutism Questionnaire:SMQ)。評価者は親。

*場面緘黙児の発話頻度は親への質問紙調査だけでなく、独立評価者による行動評定(Independent Evaluator Behavioral Evaluation:IEBE)でも実施。IEBEでは言語的・非言語的な構造化された交流課題を実行。ただし、治療効果の指標とはせず、診断と全般的評定のために使用。

・学校での緘黙状態と学業への影響度:学校発話質問紙(School Speech Questionnaire:SSQ)。評価者は教師。
・社交不安(社会不安):児童社交不安尺度改訂版(Social Anxiety Scale for Children-Revised:SASC-R)の親版(Parent version:SASC-RP)と教師版(Teacher version:SASC-T)。
・絵本を見ながら聞いた物語を語る能力:強物語評価手続き(Strong Narrative Assessment Procedure:SNAP)で評価。なお、SNAPの手続きに関しては以前の記事「場面緘黙児は聞いた物語の産生が単純化している」が詳しいです。ただし、以前の記事で紹介した論文では家やクリニックで場面緘黙児の物語りを記録していましたが、今回は先生と学校で実施・録音し、専門家が分析しました。
・セラピー満足感:患者満足度質問紙(Client Satisfaction Questionnaire:CSQ)。回答者は親と教師。

○結果(多重比較の補正はなし)

・ベースラインでは62%の場面緘黙児がIEBEでの質問に口頭回答せず(質問は君の兄・弟・姉・妹の名前は何?等)。

・学校の先生はベースラインで場面緘黙症が学業に支障をきたしている程度を中~高と評価。

・IBTSM群の親・教師は行動療法開始から24週間後、治療に十分満足していた。

・12週間の待機群で改善した場面緘黙児は1人もいなかった。

・IBTSM群は12週間で25%の幼児・児童が場面緘黙症の診断基準に該当しなくなった(待機群との有意差は検出されず)。しかし、診断基準への該当とは別にIBTSM群は12週間後で改善が認められた(12週間後の待機群との比較)。指標は臨床全般印象–改善度尺度(CGI-I)と不安障害半構造化面接DSM-IV(ADIS)。

・24週間のIBTSM群で治療効果が認められたのは12人中9人(75%)で、治療効果がなかった場面緘黙児童は3人(25%)。指標はCGI-I。ADISによる診断を指標とすると、IBTSM群で行動療法の後に診断が外れた場面緘黙児は67%。

・親が評定した場面緘黙症質問票(SMQ):IBTSM群はベースラインと比較して12週間後・24週間後の場面緘黙症状に改善が認められた。一方、待機群はベースラインと12週間後にSMQ得点の変化なし。

・親が評定した児童社交不安尺度改訂版(SASC-RP):IBTSM群はベースラインと比較して12週間後・24週間後の社交不安に改善が認められた。一方、待機群はベースラインと12週間後で有意差なし。

・教師が評定した学校発話質問紙(SSQ):IBTSM群はベースラインと比較して12週間後・24週間後の場面緘黙症状に改善が認められた。一方、待機群はベースラインと12週間後で有意な変化はなし。

・教師が評定した児童社交不安尺度改訂版(SASC-RT):IBTSM群でも待機群でも場面緘黙(回復)児の社交不安は改善せず。これは12週間後のIBTSM群と待機群の比較、IBTSM群でのベースラインと24週間後の比較、待機群でのベースラインと12週間後の比較による。

・先生と学校で行った強物語評価手続き(SNAP):IBTSM群はベースラインと比較して24週間後の成績が改善したっぽい(群×時間の交互作用が有意傾向なので、曖昧表現)。一方、待機群はベースラインと12週間後で有意な変化は検出されず。

・場面緘黙症の治療終了から3ヶ月後:IBTSM群で2人脱落し、10人に(その2人は行動療法の効果がなかった緘黙児)。10人中8人(80%)に治療効果が継続。12人中9人で場面緘黙症の診断がなくなったことにも留意すると、10人中9人にIBTSMの効果があったことになる(24週間目が基準)ので、その9人に限定すると3か月の追跡後に行動療法の効果が持続していたのは89%(場面緘黙症の再発が1人)。SMQ・SSQ・SNAP・SASC-RPではベースラインと比較して追跡期間後に緘黙症状・社交不安が改善したが、24週間後との有意差は検出されず。SASC-RTでは何の有意差もなし。

○コメント

以上をまとめると、

・少なくとも12週間では場面緘黙症は自然治癒しない。

・統合的行動療法(IBTSM)を受けた場面緘黙児の25%が12週間で回復し、24週間では67%~75%が場面緘黙症の診断基準に該当しなくなった。IBTSM群は12週間後でも24週間後でも場面緘黙症状が改善するものの、社交不安の改善は親が評定した場合だけで、教師の評定では改善せず。

・先生と学校で行った強物語評価手続き(SNAP)では結果が微妙。

・24週間のIBTSMの効果があった場面緘黙児9人中8人(89%)は3カ月後の追跡後も症状が改善したまま。ベースラインと比較すると、IBTSM群は場面緘黙症状が3カ月のフォローアップ後も改善し、24週間後との有意差は検出されなかった(=緘黙症状の改善が持続)が、社交不安の改善は親が評定した場合だけ。


となります。

このような研究が発表されると、場面緘黙症は治療できるんだ!という話になりますが、12人中3人(25%)には効果がなかったことにも注目すべきです。この3人はIBTSMを24週間以上続けると効果が生じるのか、それとも全く生じないのか気になります。また、途中から薬物療法を場面緘黙症の行動療法に追加するとしても、いつから薬を服用したら良いのか検証する必要があります。さらに、IBTSMの効果があった場面緘黙児と効果がなかった場面緘黙児の違いについても調査しなければなりません。

純粋なRCTは12週間までで、それ以降の効果については科学的厳密性を欠いています。したがって、本研究だけでは24週間のIBTSMの効果を適切に評価することはできません。

本研究では統制群として待機群を使用していました。しかし、全般性不安障害(全般性不安症)の認知行動療法RCTに関するメタ分析・メタ解析(Zhu et al., 2014)では待機群よりも心理的なプラセボ(プラシーボ)群の方が症状が改善しやすいという結果が得られています。ただし、メタ解析をした12本のRCT論文の内、8本がバイアスリスクが高いと判断されましたから、まだまだ分かりません。質の高い研究が望まれます。いずれにせよ、待機群を統制群とした臨床試験だけで場面緘黙症の治療効果を評価するのは性急です。

本研究はカリフォルニア大学ロサンゼルス校のR・リンジー・バーグマン氏らによる単施設研究です。メタ疫学研究(meta-epidemiological study)によると、単施設試験のRCTは多施設試験のRCTよりも治療効果が大きく出ます(Dechartres et al., 2011)。さらに、もう1つのメタ疫学研究(Dechartres et al., 2013)によれば、RCTのサンプルサイズが大きい臨床試験よりもサンプルサイズが小さい臨床試験の方が治療効果が大きくなります。したがって、サンプルサイズが少なく、なおかつ単施設RCTの本研究は過大評価すべきではありません。

*メタ疫学研究とはメタ分析(メタ解析)を集めて分析する研究のことです。メタ分析とは複数の論文を同時に分析して総合的知見を得ることができる統計学的な解析方法のことです。

場面緘黙症の症状はクラス替えや引っ越し、進級・進学などの外部環境の変化を受けることが想定されます。しかし、本研究で用いられた場面緘黙症に対する行動療法が外部環境の変化が生じたとしても有効かどうかは不明です。事実、24週間目で場面緘黙症が改善し、その3か月後に再発した緘黙児は新学年になって先生が変わった子供だったそうです。

場面緘黙児への暴露療法を中心とした行動療法(IBTSM)は12人中9人に効き目がありました。ただし、3か月後の予後では効果があった緘黙児1人が場面緘黙症を再発しました。引き算をすると、3か月後まで含めたIBTSMの効果があったのは8人になります。しかし、場面緘黙症が治癒してもほかの不安障害を発症する可能性もあります。事実、認知行動療法を受けた不安障害児の38.7%が8年後の追跡後に最初とは別の不安障害になり、不安障害以外の診断がでたのも22.6%だったという研究(Adler Nevo et al., 2014)があります。ゆえに、3か月と言わず、年単位、しかも他の精神障害も評価するフォローアップ調査(追跡調査)も必要になります。

○その他

通常、場面緘黙児への支援というと、親、学校の先生、臨床心理士・心理療法士・セラピストの連携に注目されがちですが、本論文の方法欄にはセラピスト(臨床心理学研修生)同士のディスカッションという内部でのやりとりにも触れられています。学校の方でも先生方の連携が重要でしょうし、内部での連携と外部との連携の2つを同時に考慮しなければなりません。

先生と学校で行った強物語評価手続き(SNAP)の結果についてですが、待機群ではSNAP得点とその分散・標準偏差がともに減少していました。これは場面緘黙症の固定化と考えることができるかもしれません。一方、IBTSM群ではSNAP得点が改善しているものの、分散・標準偏差も大きくなっており、行動療法の効果に個人差がある可能性が示唆されます。

メタ疫学研究(Tam et al., 2014)によると、コクランレビュー(Cochrane Database of Systematic Reviews:CDSR)と5大医学ジャーナルのメタ分析研究647個の内、233個(36.0%)が最初の臨床試験で有意な結果でした。また、最初の臨床試験が有意だと、後に公刊されるメタ分析の84.1%(95%信頼区間は79.4%~88.8%)で同じ方向の有意差が検出されます。また、最初の臨床試験が有意でなければ後のメタ分析の57.9%(95%信頼区間は53.2%~62.8%)で有意差が検出されません。 したがって、本研究で生じた場面緘黙症状への行動療法の有意な効果が後に公刊されるであろうメタ分析で示される可能性は84.1%と予想できます。

*5大医学ジャーナルとはEngland Journal of Medicine(NEJM)、British Medical Journals(BMJ)、Annals of Internal Medicine(AIM)、Lancet、Journal of American Medical Association(JAMA)のこと。

また、初回の臨床試験の結果が公刊されてから、5回目の臨床試験がでるまで6.5年(中央値)かかります(Tam et al., 2014)。ということは今後5~7年間で場面緘黙症の臨床試験が1年に1本に近い割合で公刊されることが予測できます。

本ブログ記事ではメタ疫学研究なんか持ち出して鳥の視点で将来の予測を書きましたが、精神医学に限定した分析だとメタ疫学研究の結果が異なるかもしれませんから要注意です。ただ、医学研究で初回の臨床試験の結果がでれば、そのあとの道筋もある程度予測できるという論文が根拠ですので、単なるあてずっぽうやこれまでの経験則といった曖昧なものに頼るかは幾分ましです。

なお、社交不安の評定に関して親と教師で結果が異なりますが、論文中では緘黙行動が社交不安から身を守る防衛手段ならば、場面緘黙症が改善しても社交不安の改善が生じないか、もしくは悪化するかもしれないという解釈が記載されています。学校での緘黙症状が改善してもコミュニケーション不安が残っているので、先生による社交不安症状の評価に行動療法の効果がなかったというわけです。それ以外の解釈の仕方は「場面緘黙児の親は子どもの気持ちがどの程度分かるか?」という記事で詳しく議論しましたので、参考にしてください。

関連記事⇒心理社会的介入を場面緘黙児にしたRCT論文

○引用文献(アブストラクトと方法の一部だけ読みました)

Dechartres, A., Boutron, I., Trinquart, L., Charles, P., & Ravaud, P. (2011). Single-center trials show larger treatment effects than multicenter trials: evidence from a meta-epidemiologic study. Annals of Internal Medicine, 155(1), 39-51. doi:10.7326/0003-4819-155-1-201107050-00006.

Dechartres, A., Trinquart, L., Boutron, I., & Ravaud, P. (2013). Influence of trial sample size on treatment effect estimates: meta-epidemiological study. BMJ: British Medical Journal, 346:f2304. doi:10.1136/bmj.f2304.

Tam, W. W. S., Tang, J-L., Di, M-y, & Tsoi, K. K. F. (2014). How Often Does an Individual Trial Agree with Its Corresponding Meta-Analysis? A Meta-Epidemiologic Study. PLoS ONE, 9(12): e113994. doi:10.1371/journal.pone.0113994.

Zhu, Z., Zhang, L., Jiang, J., Li, W., Cao, X., Zhou, Z., Zhang, T., & Li, C. (2014). Comparison of psychological placebo and waiting list control conditions in the assessment of cognitive behavioral therapy for the treatment of generalized anxiety disorder: a meta-analysis. Shanghai Archives of Psychiatry, 26(6), 319-331.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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