社交不安→ポジティブ評価恐怖尺度得点が高い→注意バイアス | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(論文要旨)を読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は社交不安と注意バイアスの間をポジティブ評価恐怖が媒介しているという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒癌が原因の死はクリスマスの前に増加する
↑癌といえば統合失調症やアルツハイマー病等の患者は癌の罹患率が低い(Tabarés-Seisdedos & Rubenstein, 2013)のですが、クリスマス効果もあるのですね。

少し遅いですがクリスマス記事⇒クリスマス、新年に自傷が減少する(例外あり)
これもクリスマス記事⇒クリスマスや元日は死亡リスクが高い

Sluis, R. A., & Boschen, M. J. (2014). Fear of evaluation in social anxiety: Mediation of attentional bias to human faces. Journal of Behavior Therapy & Experimental Psychiatry, 45(4), 475-483. doi:10.1016/j.jbtep.2014.06.007.

オーストラリアのグリフィス大学グリフィス衛生研究所(Griffith Health Institute)応用心理学教室の研究者達による論文です。

○基礎知識1(注意バイアスとは?)

不安の一因として注意バイアス(attention bias)の関与が指摘されています。注意バイアスとは脅威情報に注意を向ける傾向が強い、あるいは脅威情報から注意を逸らす傾向が強いというようなバイアスのことです。たとえば、7-12歳の子供に怒りの表情に注意を向けさせる訓練をすると注意バイアスが生じ、ストレス課題後の不安が高まった(Eldar et al., 2008)嫌悪表情に対する注意バイアスを形成させると、サイバーボール課題で社会的に排斥(排除)された後に不安が高まった(Heeren et al., 2012)という研究が注意バイアスが不安の原因の1つであるエビデンス(科学的根拠・科学的証拠)としてあげられます。

*サイバーボール課題とは社会的排斥(社会的排除)の実験に用いられる心理学の実験課題のことです。

注意バイアスは修正可能で、(社交)不安の治療にも効果的である可能性を秘めています。たとえば、ネガティブ表情15個と笑顔1個の顔刺激の中から笑顔を見つける訓練でネガティブ表情への注意バイアスと社交恐怖が減少したという研究(De Voogd et al., 2014)脳波フィードバックで特性不安と注意バイアスが弱まったという研究(Wang et al., 2013)が報告されています。 なかには認知行動療法が効くのは注意バイアスが変化するからだと主張する研究者(Legerstee et al., 2010)もいるほどです。

○基礎知識2(ポジティブ評価恐怖とは?)

ポジティブ評価恐怖とは簡単にいえば褒められることが怖いということです。テンプル大学成人不安クリニック、ワシントン大学 (セントルイス)心理学部の研究者らが2008年に初めて社交不安とポジティブ評価恐怖とが関係することを定量的に実証しました。

ポジティブ評価恐怖の計測に用いられる質問紙の1つはポジティブ評価恐怖尺度(Fear of Positive Evaluation Scale:FPES)です。日本でも2013年8月に東京都豊島区の帝京平成大学池袋キャンパスで開催された日本行動療法学会第39回大会において『Fear of Positive Evaluation Scale日本語版の信頼性と妥当性の検討』と題するポスター発表が行われました。日本不安症学会(旧称:日本不安障害学会)の学会誌である『不安症研究(旧称:不安障害研究)』にも『Fear of Positive Evaluation Scale日本語版の開発』と題する論文が掲載予定です。

・ポスター発表:前田香・関口真有・坂野雄二(2013). Fear of Positive Evaluation Scale日本語版の信頼性と妥当性の検討 日本行動療法学会第39回大会,8月,東京.
・『不安症研究』へ掲載される予定の論文:前田香・関口真有・堀内聡・Justin W. Weeks・坂野雄二(印刷中). Fear of Positive Evaluation Scale日本語版の開発 不安症研究.

上のポスター発表と不安症研究掲載予定論文を見る限り、FPES日本語版の翻訳・開発作業を進めているのは北海道医療大学大学院心理科学研究科修士課程の前田香さん、同大学の博士課程で臨床心理士の関口真有さん、同大学の坂野雄二教授(臨床心理学者)が中心のようですね。論文には福岡県の久留米大学で心理学博士になられた堀内聡博士(日本学術振興会特別研究員PD)とFPES英語版を開発したジャスティン W. ウィークス助教(Assistant Professor)のお名前もあります。

関連記事⇒日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました

余談ですが、すでに1969年にはWatson氏とFriend氏がネガティブ評価恐怖尺度(Fear of Negative Evaluation Scale:FNES)を開発しています(Watson & Friend, 1969)。
Watson, D., & Friend, R. (1969). Measurement of social-evaluative anxiety. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 33(4), 448-457. doi:10.1037/h0027806.

なお、「偉い人から褒められると、落ち着かない」などの具体的なFPESの質問項目は以前の記事の「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?」を参考にしてください。

○目的

さて、本題です。

本研究の目的は社交不安と注意バイアスの間をネガティブ評価恐怖やポジティブ評価恐怖が媒介するかどうかを調べることとしました。

○方法

注意バイアスは画像によるドットプローブ課題(pictorial dot-probe task)修正版で評価。ドットプローブ課題とは何か?一言で説明するのは難しいので、「行動抑制+注意バイアス=ひきこもり」等の過去記事を参考にしてください。

研究参加者は中等度~強度の社交不安を訴える人38名。

被験者は2人~4人のグループを作り、即興スピーチをすると教示しました。その後、ドットプローブ課題で注意バイアスを計測しました。用いた表情のペアは怒り-中性、幸福-中性、怒り-幸福の3種類でした。

○結果

社交不安と怒り表情への注意の回避バイアスがポジティブ評価恐怖によって媒介されていることが判明しました。

○コメント

先行研究はポジティブ評価恐怖といえば質問紙調査、それも計量心理学な信頼性・妥当性の評価ばかりでした。今回、ポジティブ評価恐怖が媒介変数となって社交不安と注意バイアスの間の関係を強めている可能性が示唆されたので、非常に意義深い知見です(もちろん追試/再現実験が必要です)。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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