親始発的共同注意が場面緘黙児で成立しにくい(構造化課題) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

親と場面緘黙(選択性緘黙)児の共同注意に関する論文を読みました。この論文の一部はファーストオーサー(第一著者)の博士論文(マックマスター大学)がもとになっています。マックマスター大学はカナダのオンタリオ州ハミルトン市にメインキャンパスをかまえる大学です。

共同注意(joint attention)とは2人が同じ対象(物体や出来事など)に注目しており、なおかつ互いに相手の注意の対象を理解している(相手が自分と同じものに注目していることを理解している)状態のことです。

共同注意には始発的共同注意(行動)と応答的共同注意(行動)があります。始発的共同注意とは自分の視線や指差しで他者の注意を対象に向けさせることです。一方、応答的共同注意とは他者の視線や指さしを理解し、その指し示している対象に注意を向けることです。共同注意は自閉症スペクトラム障害(自閉症スペクトラム症)の勉強をしているとけっこう目にすることもあるかと思います。

Nowakowski, M. E., Tasker, S. L., Cunningham, C. E., McHolm, A. E., Edison, S., Pierre, J. S., Boyle, M. H., & Schmidt, L. A. (2011). Joint Attention in Parent–Child Dyads Involving Children with Selective Mutism: A Comparison Between Anxious and Typically Developing Children. Child Psychiatry & Human Development, 42(1), 78-92. DOI:10.1007/s10578-010-0208-z.

★概要

○実験手続き

場面緘黙児19人(平均月齢76ヵ月:少女が58%)、場面緘黙症がない混合性不安障害児18人(平均月齢75か月:少女が33%)、不安障害が1つもない統制児26人(平均月齢73か月:少女が38%)、および彼らの保護者が参加。

場面緘黙の子供14人の内、6人(43%)が分離不安障害か特定恐怖症を、1人(7%)が分離不安障害と特定恐怖症の両方を合併していました。社交不安障害を合併している場面緘黙児はいませんでした。なぜ分母が19人ではなく、14人なのか?主旨とは関係ないのでわざわざ書きません。詳しくは論文本体を読んでください。

混合性不安障害といっても何も難しいものではなく、単に不安障害(不安症)が1つ以上あるというだけです。12人(67%)が不安障害を1つ、3人(17%)が不安障害を2つ、3人(17%)が不安障害を3つ有していました。特定恐怖症が61%で、分離不安障害が39%、社交不安障害が33%でした。

●ビデオカメラが設置されている部屋で共同注意実験。

自由遊び(5分)→ディスカッション(2分)→スピーチの準備(5分)→バースデースピーチ(5分)

自由遊びでは文字通り自由にさせました。ディスカッションでは子供のラストバースデーについて親子で話し合ってもらいました。準備段階では親が子供にラストバースデーについてスピーチしなければならないと伝えました。スピーチ段階では子供にカメラの前に立ってもらい、スピーチしてもらいました。

記録したビデオテープの分析は最後のスピーチ段階以外で行いました。共同注意行動に注目しました。特に共同注意の開始行為、共同注意の成立、共同注意エピソードの長さの3つに注目して解析しました。

共同注意の開始行為:自発的な言語的・非言語的行動で、相手の注意を特定の物体や出来事に向けさせ、共有する意図を持ちます。親から開始した場合と子供から開始した場合に分けました。また、相手の反応が起きたものと起きなかったものに分けました。

共同注意の成立:開始行為を受けてパートナーが視線などで応答し、それに対して開始行為をした人が反応を返し、さらにそれを受けてパートナーが応答すること。これが延々と続くわけですが、どちらかが新しい開始行為やあさっての方向を見るなどすると、共同注意の終了としました。共同注意の成立は子供が開始行為をしたものと親が開始行為をしたものとに分けました。

共同注意エピソードの長さ:共同注意エピソードの長さを秒単位で計測。

ただし、ディスカッションやスピーチの準備段階は構造化課題ですので、共同注意は課題に関連した対象のものに限定しました。

○結果

混合性不安障害の親よりも統制児の親や場面緘黙児の親の方が教育水準が高くなりました(ただし、親の教育水準は共同注意と関連せず)。

自由遊び(非構造化課題)では親始発型共同注意の成立数に群間差は検出されませんでした。しかし、ディスカッション+スピーチ準備(構造化課題)では混合性不安障害群や統制群と比較して場面緘黙群で親始発性の成立共同注意数が少なくなりました。

群によらず、構造化課題よりも非構造化課題で子供からの開始行為数や子供始発性の共同注意成立数が多くなりました。また、成立共同注意エピソードの時間も群の効果はなく、構造化課題よりも非構造化課題で長くなりました。

★コメント

実は結果には書きませんでしたが、構造化課題でも非構造化課題でも親からの開始行為数に群間差はありませんでした。また、前述のように子供からの開始行為数や子供からの始発的共同注意成立数に群による有意差はありませんでした。これらのことから場面緘黙群で認められた構造化課題での親始発性の成立共同注意数の低下は子供の側の応答が原因だと考えられます。さらにそれは親からコミュニケーションを始めた場合に限られます。ただし、成立共同注意の時間に群間差がなかったことから、一度共同注意が成立すれば場面緘黙児と親はコミュニケーションの持続ができると推測されます。

論文中では場面緘黙児の不安と反抗挑戦性の2つともが本研究成果を説明できるとしています。場面緘黙児には反抗挑戦性障害(の症状)を併せ持つ子供がいるので、不安だけが原因だとは断定できないと議論されています。ただ、仮に場面緘黙児に反抗挑戦性障害の合併があったとしても、それは一部の子供に限られますから、どちらか一方というよりは両方ともかかわっている可能性があります。なお、不安障害と反抗挑戦性障害は併発することもある(Boylan et al., 2007; Cunningham et al., 2013)し、思春期の内在化問題行動(不安や抑うつなど)と外在化問題行動(非行、攻撃行動、注意の問題など)に共通の遺伝的要因・非共有環境要因がある(Cosgrove et al., 2011)ので、不安(障害)と反抗挑戦性障害/外在化問題行動は相互に排他的なものではなく、共存することがあります。また、内在化問題行動と外在化問題行動が併発するのはネガティブ感情が一因であるという双子研究(Mikolajewski et al., 2013)があります。

関連記事⇒反社会性人格障害と社会不安障害の合併患者は多い

共同注意は情動制御や問題解決のスキル、心の理論、発話順番の交替、表出言語能力、受容言語能力の発達に重要です。論文ではこのことと本研究成果とを踏まえて、場面緘黙児は本研究で用いた構造化課題のようなストレスフルな状況で親との交流をしなくなると、コーピングスキルや問題解決能力の学習機会を逃すことになり、これが場面緘黙症の維持のメカニズムの1つとなっていると考えられると議論されています。しかし、本当にそうなのかどうかは今後の検証を待つ必要があります。というのも、共同注意が健常児の発達にとって重要だとしても場面緘黙児の発達にとっても大切かどうかは分からないからです。ただ、少なくとも健常発達児では幼児期の共同注意エピソードが少ないと4年後の学童期に内在化問題行動が強くなりやすいという研究(Nowakowski et al., 2012)があることを指摘しておきます。

また、場面緘黙群で親始発性の成立共同注意数が構造課題で少なかった=場面緘黙児と親は共同注意が少ないということにはなりません。というのも、本研究はあくまで構造課題に関連する親始発的共同注意が場面緘黙群で低下していたことを意味するからです。事実、自由遊びでは共同注意の群間差がありませんでした。ただ、詳しくは論文を参照してほしいのですが、本実験状況では非構造課題よりも構造課題で親始発的行為・親始発的共同注意が多くなると考えられます。だとすると、構造課題で親始発性の成立共同注意数に群間差が認められたのは単に有意差がでやすい実験設定だったからと考えることも可能です。ゆえに、本研究だけで自由遊びで場面緘黙群とそうでない群との間に共同注意の差がないと断定することはできません。

本研究の別の解釈としては行動観察課題への慣れが内在化問題行動が弱い統制群や混合性不安障害群で進みやすく、場面緘黙児群では慣れが生じにくいというものがあります。これは全ての行動観察を非構造化課題→構造化課題の順で行っているために生じる解釈です。この可能性を検証するのが今後の研究テーマになり得ます。

自閉症スペクトラム障害の共同注意論文を読んだことがないので、よく知りませんが、たとえば自閉症の親子で子供からの開始行為数や子供からの始発的共同注意成立数が少なければ、場面緘黙症と自閉症スペクトラム障害との鑑別が共同注意でできる可能性があります。この辺、もっと研究されてほしいですね。現時点では対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale:SRS)による自閉症スペクトラム障害と社会恐怖症、場面緘黙症、健常発達者の鑑別研究(Cholemkery et al., 2014)があるぐらいです。

○さらなるツッコミ

正式な場面緘黙症の診断がされているかどうか怪しい研究です。場面緘黙の有無の判断を親と先生が回答した質問紙に頼っています。事実、場面緘黙児と判断された子供でも親の報告でしか緘黙症状の存在を確認できなかったのが2人(11%)、先生の報告でしか緘黙症状の存在を確認できなかったのが3人(16%)いました。実際の場面緘黙児への支援なら診断の有無にかかわらず、積極的に行ってもいいでしょうが、学術的な研究では厳密さが求められ、その点で少し方法論的な問題があります(もちろん、少し緩めの研究も重要です)。

*場面緘黙の判断には発話状況質問紙親版(Parent Version of the Speech Situations Questionnaire:SSQ-Parent)と発話状況質問紙教師版(SSQ-Teacher)を使用。なお、場面緘黙症以外の不安障害の診断についてはDSM-IVに基づいた電話インタビュー(Computerized Diagnostic Interview Schedule for Children-IV:C-DISC-IV)で確認していました。

本研究では場面緘黙児14名の内で社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を合併していた子供はいませんでした。一般的に場面緘黙児は社交不安障害の合併率が高いとされますが、本研究と食い違います。これはもしかしたら親と専門家の間に意見の相違があることを意味しているのかもしれません。事実、親は子どもの心配や不安を低く考えがちで、子どもの楽観性を高く考えるとの研究(Lagattuta et al., 2012)があります。なお、他にも場面緘黙児で社交不安障害を合併している割合が16%(Edison et al., 2011)と比較的低く併発率を報告した研究があることを参考までに付記しておきます。

一般に場面緘黙児の親にも精神疾患(特に不安障害)があることが多いとされます。しかし、本研究には親の精神病理に関する記述が見当たりませんでした。親のメンタルヘルス要因が共同注意に影響する可能性も排除できませんから、これも今後の課題かもしれません。また、やはりというべきか、母親が92%と大多数で父親が少数でした。進化心理学の理論上は母親の(社交)不安よりも父親の(社交)不安の方が子供の(社交)不安への影響が強いと考えられている(Bögels & Perotti, 2011)ので、不安障害の研究をするのならば父親も参加すべきです。

混合性不安障害群には特定恐怖症、分離不安障害、社交不安障害が混在していましたが、果たしてそれでよかったのでしょうか?たとえば、社交不安障害児だけにするとかそういう方法もあるはずです(この点に関しては論文中にも言及あり)。事実、共同注意の調査ではないものの、場面緘黙児と社交不安障害児を直接比較した研究(McInnes et al., 2004)も存在します。

実験者が同伴していない状況とはいえ、ビデオカメラが設置されているというのは場面緘黙児やその他の不安障害児にとってどうなんでしょうか?もっともこれは子供だけでなく、親にもストレスかもしれませんが。

神経科学的には6か月での扁桃体と腹内側前頭前皮質/側頭極前部を結ぶ鉤状束の右半球側の拡散異方性(fractional anisotropy:FA)が9か月での応答的共同注意を予測します(Elison et al., 2013)。なので、場面緘黙症のDTI(拡散テンソル画像法)をするのならば、鉤状束が1つのターゲット領域となってきます。これは右鉤状束は社交不安障害群で異常だという研究(Phan et al., 2009)が存在することを考えても一定の妥当性を有します。

なお、拡散異方性(FA)とは脳内での水分子がどの程度自由に動き回れるかを表す指標のことです。FA値が0だと水が自由に拡散できますが、1に近づくと白質線維に邪魔されて水が自由に動き回れません。したがって、FA値が高いと白質の存在を示唆します。FA値は白質の統合性の指標だといわれています。DTIとはMRIを用いて水分子の拡散運動を撮像する技法のことです。DTIにより脳白質の解析が可能になります。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Cholemkery, H., Mojica, L., Rohrmann, S., Gensthaler, A., & Freitag, C. M. (2014). Can Autism Spectrum Disorders and Social Anxiety Disorders be Differentiated by the Social Responsiveness Scale in Children and Adolescents?. Journal of Autism & Developmental Disorders, 44(5), 1168-1182. DOI:10.1007/s10803-013-1979-4.

Elison, J. T., Wolff, J. J., Heimer, D. C., Paterson, S. J., Gu, H., Hazlett, H. C., Styner, M., Gerig, G., & Piven, J. (2013). Frontolimbic neural circuitry at 6 months predicts individual differences in joint attention at 9 months. Developmental Science, 16(2), 186-197. DOI:10.1111/desc.12015.

Nowakowski, M. E., Tasker, S. L., & Schmidt, L. A. (2012). Joint Attention in Toddlerhood Predicts Internalizing Problems at Early School Age. Clinical Pediatrics, 51(11), 1032-1040. doi:10.1177/0009922812441670.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
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緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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