拒食症になった場面緘黙症の男子青年 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は場面緘黙症(選択性緘黙症)があり、拒食症になった男性の事例をとりあげます。この論文が後に更新予定の記事の伏線となります。

予告通り更新しました⇒拒食症リスクが高い不安障害(特に強迫性障害)

De Santis, M. B., Koritar, P., Turkewicz, G., Vieira, R. M., Cobelo, A., Fleitlich-Bilyk, B., & Alvarenga, M. S. (2014). Anorexia Nervosa, Aids and Selective Mutism in a Male Adolescent: A Case History. Austin Journal of Nutrition & Food Sciences, 2(9):1047, 1-3. ISSN: 2381-8980.

ブラジルのサンパウロ国際大学?(University of S&aTilde;o Paulo)医学研究科、PROTAD-精神医学研究所das Clínicas da FMUSP?(PROTAD/AMBULIM - IPq-HC-FMUSP,Instituto de Psiquiatria do Hospita)の栄養士&医者&心理学者&精神分析学者&技監&栄養管理者による事例報告(ケースレポート)です。

○拒食症治療の症例(男性)

・4歳で後天性免疫不全症候群(AIDS)と診断され、8歳に学校で場面緘黙症状をきたし始め、12歳に下剤を使用する拒食症(神経性無食欲症/神経性食欲不振症/神経性やせ症)となる。両親もヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しており、本事例はHIVの母子感染(垂直感染)だと推定される。

・知能は正常範囲で言語理解、注意スパン、集中力、抽象力、批判的精神に異常なし。しかし、完璧主義的態度を示し、視空間処理に困難を抱える。

・4歳で治療抵抗性肺炎、熱性けいれん(熱性痙攣)を経験後、抗レトロウイルス治療を開始

・入院時には母親とのみ喋る場面緘黙症状となる

・11歳で父親が死亡。死因は二次性リンパ腫(転移性リンパ腫?)とAIDS

・拒食症症状がでたのは親しくしていた父方の祖父が死亡してから

・極端な摂食制限、パージング(浄化行動)による体重減少のため小児病棟に入院し、経口栄養・経腸栄養を受け、拒食症と診断される(後に摂食障害専門チームによる治療を受ける)

・抑うつ症状が見受けられたため、抗うつ薬、セルトラリン(ジェイゾロフト/ゾロフト)を服用

・社会的コンタクトに関する不安が高く、孤立で自己防衛し、身体、衝動性、ファンタジー(空想)を厳しく制御している

・不安の治療は個人認知行動療法と精神分析学に基づく精神力動療法を毎週

・摂食障害は快方に向かい退院するも、毎週外来患者として精神医学的治療を受ける(精神力動療法は他の青年と一緒に行う集団療法)

・外来治療から7か月後、母親と歩行中に車に轢かれ、脛骨に開放骨折を負い、ギプスを装着

・開放骨折(+ギプス)による運動制約で拒食症が悪化し、再度精神病院に入院

・入院中、中咽頭や骨折で動けなくなった場所に病変が生じる&日和見感染症も発症するが、治療により回復(日和見感染症とは免疫力が低下したときにかかる感染症のことです。なにせAIDSがありますからね)

・退院後、外来治療を再開。週1回のペースで診療を受ける(コミュニケーションは筆談だが、母親を介したやりとりも実施)。

○コメント

拒食症は女性の方が多いので、男性の拒食症事例は珍しいですね。しかも場面緘黙症やAIDSも併存しているということで稀有な事例かもしれません。なお、論文著者によると、青年男性でAIDSと摂食障害が併発した事例報告はこれが初めてらしいです。AIDSは基礎エネルギー消費量(BEE,Basal Energy Expenditure)の増加の原因となります、このため、AIDS併発がある拒食症の栄養療法では高カロリー食や経口サプリメントが必要になるという特殊事情がでてくるらしいです。

本論文には場面緘黙症の記述がほとんどなく、主に拒食症治療の事例研究でした。ではなぜ、この論文をとりあげたのかというと後に記事にする論文への布石にするためです。また、インターネット上では私以外の人間がこの論文に言及しているのをほとんど見たことがないので、こういう症例研究もあるという紹介の意味もあります。

後続記事の伏線として本論文をとりあげただけなので、別に特別なコメントをしようとは思わないのですが、日本での事例研究にも言及しておきましょう。日本で緘黙(症)と摂食障害(症状)の併発に関する文献というと私が確認しただけでも9本あります。そのほとんどが拒食症状と緘黙(症)の併発に関するものです。少なくとも私がインターネットで探した限りでは緘黙(症)と過食症(神経性大食症/神経性過食症)、緘黙(症)とむちゃ食い障害(過食性障害)との併発などについてはほとんど文献が見つかりません。

もっとも、拒食症状と緘黙(症)の併発を報告した文献でも本文を読んでいない(というか読めない・ 読めない状況にある/実際には方法があるのに読めないと思い込んでいる)ため、緘黙(症)が場面緘黙症(あるいは全緘黙症)のことを意味しているのかどうかは分かりません。また、タイトルや研究者名を見る限りどうも事例の重複がありそうで、文献数=事例数と即断することはできません。

なお、筑波学園病院小児科の先生方による仁井・尾崎・牧・柴崎・藤田(2008)については第86回日本小児科学会茨城地方会(現在、茨城小児科学会に改名)のPDFファイルで概要が公開されています(2016年1月31日現在)。ファイルはこちらです⇒http://plaza.umin.ac.jp/jps-iba/files/program86.pdf

仁井他(2008)は「小学5年で選択性緘黙を発症し、中学1年で摂食障害を来たした1女児例を経験した」そうです。また、「行動療法を中心とした58日間の入院治療において、目標体重には達したが、医療スタッフに対する緘黙は持続した」のだとか。

○追記(2016年2月2日):私でも論文概要が読める文献がもう1つありました。西方・野崎・玉川・河合・河合・瀧井・久保(2003b)です。ただ、西方他(2003b)は概要で選択性緘黙症状についてほとんど何も触れていません。選択性緘黙症よりも命に直接かかわる拒食症の方が治療が優先されるからでしょうかね。概要へのリンク(九州大学附属図書館のサイトです)⇒http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/recordID/1003284?hit=-1&caller=xc-search(2016年2月2日現在)。

関連記事(ダメ出し)⇒拒食症リスクが高い不安障害(特に強迫性障害)

○緘黙(症)と摂食障害(症状)の併発に関する日本語文献一覧(ほとんどはタイトル等の書誌情報だけ確認)
榎戸芙佐子・堀内真希・藤川明希・川田広美(2015). 神経性無食欲症と緘黙を併存した女性例 心身医学, 55(3), 281-281.

西藤奈菜子・田中英高・吉田誠司・寺嶋繁典・玉井浩(2013). コラージュ療法をコミュニケーションツールとして用いた緘黙を伴う摂食障害へのアプローチ 子どもの心とからだ, 22(3), 246-246.

鈴木拓也・小林賢一・関根由美子(2015). 緘黙,拒食,胃瘻造設からお寿司を食べるまでのA氏の310日 東京精神科病院協会学会抄録, 29, 86-86.

仁井純子・尾崎俊介・牧たか子・柴崎佳代子・藤田光江(2008). 選択性緘黙に神経性食欲不振を合併した1女児例 日本小児科学会雑誌, 112(5), 898-898.

西方宏昭・野崎剛弘・玉川恵一・河合宏美・河合啓介・瀧井正人・久保千春(2003a). 選択性緘黙を合併した拒食症の患者に対し非言語的交流技法を導入した1治療例 心身医学, 43(9), 630-630.

西方宏昭・野崎剛弘・玉川恵一・河合宏美・河合啓介・瀧井正人・久保千春(2003b). 選択性緘黙を合併した神経性食欲不振症の患者に対する非言語的交流技法を用いた治療的介入 心身医学, 43(10), 699-706.

振角代里子・多羅尾陽子・大原貢・古井景(1999). 拒食・緘黙を呈したMR症例の回復過程について 薬物療法から精神療法的対応へ 精神神経学雑誌, 101(9), 757-758.

振角代里子・多羅尾陽子・大原貢・古井景(2001). 拒食症状への理解と対応について-拒食・緘黙を呈したMR症例を提示して- 心身医学, 41(5), 378-379,

和田良久・山下達久・崔炯仁・高橋泰子・中前貴(2008). 選​択​性​緘​黙​に​神​経​性​食​欲​不​振​症​が​合​併​し​た​女​児​例​ 日本摂食障害学会学術集会プログラム・講演抄録集, 4, 64-64.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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