ペアレンタルコントロールが強い場面緘黙児の親 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙(選択性緘黙)児とその親とのやり取りを行動観察した論文を読みました。この論文は第一著者(ファーストオーサー)がカナダのグエルフ大学大学院で書かれた博士論文がもとになっています。

Edison, S. C., Evans, M. A., McHolm, A. E., Cunningham, C. E., Nowakowski, M. E., Boyle, M., & Schmidt, L. A. (2011). An investigation of control among parents of selectively mute, anxious, and non-anxious children. Child Psychiatry & Human Development, 42(3), 270-290. DOI:10.1007/s10578-010-0214-1.

★概要

○実験手続き

内在化問題症状が何もない統制児25人(女児14人,男児11人)、場面緘黙症がない不安障害(不安症)児17人(女児8人,男児9人)、場面緘黙児21人(女児13人,男児8人)とその両親が参加。子供の年齢の範囲は4~13歳。両親は57人(90%)が母親で、6人(10%)が父親(義理の親が1人)。子供の年齢と性別に有意差はありませんでしたが、場面緘黙症がない不安障害児(以下、不安障害(児)とする)群の世帯の平均年収および場面緘黙群の世帯の平均年収と比較して統制児群の世帯の平均年収が高くなりました(しかし、実験結果は年収の違いを取り除いても変わりませんでした)。

なお、不安障害の内訳は特定恐怖症が13人、全般性不安障害が3人、パニック障害が1人、社交恐怖症(社会恐怖症,社交不安障害)が1人、分離不安障害が3人、強迫性障害が3人、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が1人でした(合併児が6人)。場面緘黙児の合併症は特定恐怖症が3人、社交恐怖症が3人、分離不安障害が3人でした(複数該当あり。2人は合併診断の有無が不明)。

ラボでの観察は自由遊び(5分間)→子供の最近の誕生日の出来事について親子で話し合う(2分間)→親が子供にカメラの前で最近の誕生日のことについて話さなければならないと伝える(5分間)→子供がカメラの前でスピーチ(3分間)の順番で行いました。

自由遊びでは親子に好きなことをさせました。カメラの前でのスピーチでは他の子供がそれを視聴すると信じさせました。

ビデオテープによる行動観察評定(盲検法)ではペアレンタルコントロール(parental conrol)に注目しました。ここでのペアレンタルコントロールとは親が子供の活動を必要以上に制御する、独裁的な意思決定を行う、過保護であるなどを意味します。本研究では自主性/自律性の付与(granting of autonomy)と会話の主導権/制御(conversational control)の2つを調べていました。

自主性の付与では得点が高いほど親が子供の自主性を促す働きかけをしていると判断しました。たとえば、子供の意見を尋ねたり、意見の違いを受け止めたり、子供の考え方を尊重する等を自主性の付与が高いと判断しました。

会話の主導権では親の発言が子供への命令である、イエス/ノーや2択の質問をする、5W1Hの質問をすると親が権力(パワー)の高い発言をしていると判断しました。親の権力が低い発言は行動寄与自体に関する言及や子供の行動を認めることや子供への話しかけとしました。子供の発言は自発的なものと親に促されたものに分けました。

その他、親子の交流中の親の不安と子供の不安を研究者が観察して評定しました。具体的にはそわそわしている/貧乏揺すり、(くすくす)笑いが神経質かどうか、姿勢、表情、声、アイコンタクト等で親子の不安が高いかどうか判断しました。

○結果

親による自主性の付与は場面緘黙群の方が不安障害群や統制群よりも低くなりました(不安障害群と統制群に有意差なし)。また、文脈と群の交互作用は検出されなかったものの、親による自主性の付与はスピーチの準備期間やスピーチ段階よりも自由遊び段階の方が高くなりました(すべての群で文脈による自主性の付与の違いあり)。

親の権力の高い発言割合は場面緘黙群の方が不安障害群や統制群よりも高くなりました(不安障害群と統制群に有意差なし)。また、文脈と群の交互作用は検出されなかったものの、権力発言の割合が高い順にスピーチ段階>誕生日話し合い段階>スピーチ準備段階・自由遊びとなりました(すべての群で文脈による権力の高い発言割合の違いあり)。

以下、統制群と不安障害群を合わせて1つにまとめ、統制不安群とした分析。

・スピーチでは親による自主性の付与と権力の高い発言割合に負の相関関係(自由遊びでは有意な相関関係が検出されず)。

・統制不安群では子供の年齢とスピーチでの自主性の付与/自発的な子供の発話に正の相関関係があり、子供の年齢と権力の高い発言割合の間に負の相関関係がありましたが、場面緘黙群では相関関係が検出されず。

・自由遊び:親の不安が高いほど親による自主性の付与が低くなりました。子供の不安が高いほど親による権力の高い発言割合が高くなりました。また、子供の年齢が低いこと、場面緘黙症であること、子供の自発的発言が少ないことが権力の高い発言割合の多さと関連しました。さらに、統制不安群では子供の年齢が高くなると権力の高い発言割合が減少したのに対し、場面緘黙群では年齢と権力の高い発言割合が関連しませんでした。

・誕生日スピーチ:子供の不安が高いほど親による自主性の付与が低くなりました。また、子供の年齢が低いことや場面緘黙症であることも自主性の付与の低さと関連しました。さらに、子供の年齢が低いと権力の高い発言割合が増加しました。統制不安群では子供の年齢が高くなると権力の高い発言割合が減少したのに対し、場面緘黙群では年齢と権力の高い発言割合が関連しませんでした。

なお、これらは研究者がビデオテープの記録から親子の不安を評定した結果で、自己報告の親の不安や親による子供の不安障害の評価では関連性がありませんでした。

*親による子供の不安評定は児童不安障害尺度(Screen for Child Anxiety Related Emotional Disorders:SCARED-Parent Version)というスクリーニング尺度で、親自身の不安はベック不安評価尺度(Beck Anxiety Inventory:BAI)で、親自身の社交不安(社会不安)は社交不安障害尺度(Social Phobia and Anxiety Inventory:SPAI)で評価。

★コメント

以上をまとめると

・場面緘黙児の親は不安障害児の親や内在化問題行動が弱い子供の親と比較して、親による自主性の付与が低く、権力の高い発言割合が高い

・子供が場面緘黙症であっても不安障害であっても内在化問題行動が低くても、自由遊びよりも誕生日スピーチで親による自主性の付与が低く、権力発言の割合が多い

・自由遊びでも誕生日スピーチでも統制不安群では子供の年齢が高いほど親による権力の高い発言割合が減少するのに対し、場面緘黙群では関連しない

となります。本研究の解釈としては子供の年齢が若いことや場面緘黙症による「未熟さ」が高いと親が子供を制御し始めるということが論文に書かれています。特に親の不安や子供の不安が高い時に親によるコントロールが高まるようです(子供の不安も「未熟さ」に含まれるかもしれません)。子供の苦痛を緩和しようとして親がペアレンタルコントロールを発揮するという解釈が本論文中に説明されています。あるいは親の不安も自主性の付与と関連することから、親が自分自身の苦痛を緩和しようとしてペアレンタルコントロールが行われることもあるかもしれません。ただし、これらはあくまで解釈にすぎないので、要注意です(事実、論文にはその他の解釈についても述べられています)。また、正確な書き方をすれば「未熟さ感覚」であるということにも注意が必要かもしれません。というのも、客観的に子供が成熟していたとしても親が未熟だと感じていれば、ペアレンタルコントロールが高まることが予想されるからです。


なお、本研究ではペアレンタルコントロールが子供に与える影響を調査していませんでした。したがって、場面緘黙児の親のペアレンタルコントロールが高いにしてもそれが子供にどのような影響をもたらすのかまでは分かりません。

場面緘黙児の合併症として社交恐怖症が3人/19人(16%)というのは先行研究と比較して少ないですね。やはりすべての場面緘黙児が社交不安障害(社交不安症)を合併しているというわけではないようです。逆にいうと今回の結果が社交不安障害を併発している場面緘黙児とその親にどれだけ当てはまるか未知数なことになります。

*分母を21人ではなく、19人としたのは場面緘黙児の内2人は合併症の診断が不明なため。

ペアレンタルコントロールの高さが場面緘黙症の原因になるかどうか、今回の研究だけでは判断できません。今後前向き研究(prospective study)などによる検証が望まれます。前向き研究とは健常者コホートの追跡調査で、場面緘黙症の罹患者が出た場合に以前の患者の特徴を洗い出すことで疾患の原因を探求する研究方法のことです。

研究に参加した父親が6人(10%)というのは57人(90%)が母親であることと比較して少ないです。心理学の理論には母親の社交不安よりも父親の社交不安の方が子供への影響力があるというモデル(Bögels & Perotti, 2011)があり、場面緘黙症の研究でも父親の参加が必要です。また、場面緘黙児の発話障害・言語障害のチェックを親の報告だけに頼っているというのもいささか心もとないです。

たとえ親相手でも場面緘黙児の多くは自分の言葉で物語を語るのが苦手(Klein et al., 2013)です。今回の場面緘黙症研究では物語能力の評価が行われていなかったので予断は禁物ですが、場面緘黙児の表出言語能力の低さゆえに誕生日スピーチの内容がイマイチだったと親が感じて、ペアレンタルコントロールが強くなったという解釈も可能です。

事実、社交不安障害児と比較して場面緘黙児の方が物語りスキルが低いという研究(McInnes et al., 2004)があり、これが今回の「場面緘黙群は統制群だけでなく、不安障害群と比較しても親による自主性の付与が低く、権力の高い発言割合が高くなった」という研究成果と関連しているかもしれません。このことを検証するには物語りスキルが低いけど、場面緘黙症ではない子供(障害/症状の有無を問わない)と場面緘黙児、不安障害児、健常発達児を比較すると良いでしょう。

また、(神経)心理学研究によれば、不安が高い人は言葉の選択が苦手(Snyder et al., 2010; Snyder et al., 2014)だとされます。言葉の選択が苦手な状態は見ている親にとってフラストレーションがたまり、ついついおせっかいを焼いてしまい、ペアレンタルコントロールが高くなったとも考えられます。

不安障害児への認知行動療法終了後から6か月の追跡後に親の自主性付与/自律性付与(質問紙)や過剰関与/過保護(行動観察)が変化したという研究(Esbjørn et al., 2014)があり、場面緘黙児への認知行動療法の後でも同様に親の育児スタイル(養育スタイル)や育児行動(養育行動)が変わるのか興味が湧いてきます。

最後の私独自の考察になりますが、自由遊びでは親の不安が高いほど親による自主性の付与が低くなりました。だとすると、親の過保護質問紙の結果と自主性付与(行動観察)との関連も気になります。というのも、親過保護尺度(Parental Overprotection Measure:OP)という母親の過保護質問紙(セルフレポート)を用いると、子どもの不安と過保護は関係しないにもかかわらず、母親の不安が過保護レベルと関係するという結果の論文(Clarke et al., 2013)があるからです。もっとも、Clarke et al. (2013)を軽く読んだところ親過保護尺度と関連するのは行動観察での母親の不安ではなく、質問紙での不安みたいでしたが。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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