SLC6A4プロモーター領域のメチル化率が扁桃体活動を予測する | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

タイトルに「SLC6A4プロモーター領域のメチル化」って知らない人が見たらなんじゃこりゃ?ですね。SLC6A4とはセロトニントランスポーター遺伝子のことです。プロモーター領域とは遺伝子の転写を調整する部位のことです。ちなみに、セロトニンの別名は5-ヒドロキシトリプタミンです(ってこれはどうでもいいか)。

(DNA)メチル化とは遺伝子発現のオン/オフを切り替える働きをする分子的変化のことです。メチル化を分子的に記述するとC(シトシン)にメチル基(CH3)がくっついてメチル化シトシン(5-メチルシトシン)になることです。いわゆる「エピジェネティクス」という学問領域になります。

エピジェネティクスとはDNA配列の変化なしに遺伝子発現を切り替える生物学的機構またはそれを探求する学問分野のことです。DNA塩基配列は突然変異でもしなければ変わりませんが、遺伝子発現は環境の影響を受けて変化します。エピジェネティクス制御にはDNAメチル化の他にもヒストン修飾があります。ヒストン修飾も遺伝子発現の制御を担っています。

で、今回はセロトニントランスポーター遺伝子プロモーター領域のメチル化、つまり発現具合が表情刺激に対する扁桃体の興奮を予測するという研究です。プロモーター領域のメチル化が強いと遺伝子発現が抑制されます。

Nikolova, Y. S., Koenen, K. C., Galea, S., Wang, C. M., Seney, M. L., Sibille, E., Williamson, D. E., & Hariri, A. R. (2014). Beyond genotype: serotonin transporter epigenetic modification predicts human brain function. Nature Neuroscience, 17(9), 1153-1155. doi: 10.1038/nn.3778.

★概要

○実験1

服薬していない白人80名(女性42名,平均年齢は20歳)のデータを解析。このうち16人がDSMの第1軸障害(彼らを除外しても結果は変わらず)。

fMRI(機能的磁気共鳴画像法)実験は顔処理課題。統制課題は感覚運動課題。扁桃体活動に注目。

顔処理課題では無表情、怒り表情、恐怖表情、驚愕表情を使用。そして、上に表示されているターゲット顔と同じ表情の顔を下に表示されている2つの顔から選択してもらいました。

統制課題では表情のマッチングではなく、幾何学的図形のマッチングを行いました。

DNAは唾液から採取。セロトニントランスポーター遺伝子(SLC6A4)近位プロモーター領域のメチル化を調査。メチル化修飾はCpG配列/CpGサイト(シトシン-リン酸-グアニンサイト)で起こりやすいことが知られています。なので、SLC6A4プロモーター領域のCpG配列におけるメチル化率を調査。統制はSLC6A4のエキソン1とイントロン1および、COMT遺伝子プロモーター領域のメチル化率。なお、COMTとはカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの略です。

ライフストレス尺度として学生用ライフイベント尺度(Life Events Scale for Students:LESS)を使用。LESSでここ1年以内に起こったライフイベントとその影響を評価。他の使用尺度は小児期心的外傷質問紙(Childhood Trauma Questionnaire:CTQ)。

○実験1の結果

SLC6A4プロモーター領域のメチル化率が高いほど、怒り表情+恐怖表情に対する左扁桃体の活動が高くなりました(右扁桃体は有意傾向)。これは性別、年齢、小児期外傷体験、1年以内のストレスイベント、精神疾患の有無を統制しても変わりませんでした。20個のCpG配列を調べていたのですが、その内14番目のCpG配列である転写開始点上流の188塩基対のメチル化率が最も扁桃体活動と強い正の相関関係を示しました。

また、アレルタイプが3つ(LG/LA/S)の5-HTTLPR(セロトニントランスポーター遺伝多型)/rs25531を統制してもSLC6A4メチル化率が扁桃体活動を予測しました⇒SLC6A4メチル化は5-HTTLPR/rs25531とは独立した影響力を有する。

SLC6A4のエキソン1とイントロン1およびCOMT遺伝子プロモーター領域のメチル化率は扁桃体活動と相関しませんでした。

○追試(実験2)

白人で11~15歳の児童青年96人(女の子が48人で平均年齢が14歳)。

課題は実験1と同じ。ただし、刺激は怒り表情と恐怖表情のみ。また、DNA採取は血液から。

○追試結果

実験1の結果が再現されました。すなわち、SLC6A4プロモーター領域メチル化が強いほど怒り表情+恐怖表情への左扁桃体の活動が高まりました。ただし、右扁桃体は有意ではありませんでした。これは年齢、性別、小児期ストレス、精神疾患リスク、5-HTTLPR/rs25531を統制しても有意でした。また、CpG配列の14番目が最も扁桃体活動と関連しました。

○死後脳の調査

死亡時に服薬していなかった白人35人(女性が10人で平均年齢は50歳:範囲は22~69歳)。うつ病患者も含まれましたが、それは統制。

扁桃体からRNA抽出。SLC6A4に注目。

○結果

20個のCpG配列すべてを合わせるとSLC6A4プロモーター領域メチル化率と扁桃体のSLC6A4メッセンジャーRNA(mRNA)濃度に有意な関係はありませんでした。しかし、14番目のCpG配列のメチル化率が扁桃体のSLC6A4mRNA濃度と負の相関関係にありました。

これは年齢、性別、死後の経過時間、精神疾患の診断、pH、RNA比、5-HTTLPR/rs25531を統制しても有意でした。

★コメント

以上をまとめると、

・セロトニントランスポーター遺伝子のSLC6A4プロモーター領域のメチル化率が高いほど、怒り表情+恐怖表情に対する左扁桃体の活動が高くなる

・SLC6A4メチル化と扁桃体活動の関係は遺伝子多型の5-HTTLPR/rs25531とは独立したもの

・14番目のCpG配列のSLC6A4メチル化率が最も扁桃体の興奮と関係し、死後脳の扁桃体のSLC6A4mRNA濃度と負の相関関係にある


となります。プロモーター領域のメチル化が強いと遺伝子発現が抑制されますから、これらの結果はSLC6A4遺伝子発現量が低いほど扁桃体が賦活することを意味します。なお、セロトニントランスポーター遺伝子の発現量が低いと、セロトニン再取り込み能力が低下すると考えられます。

14番目のCpG配列のメチル化率が最も扁桃体の活動と関連したのですが、最初の実験に関しては少々疑問の余地があります。というのも、たしかに右扁桃体の興奮に関しては14番目のCpG配列メチル化が一番関連性が高くなっていましたが、左扁桃体に関してはp値が.799と全然有意ではありません(ちなみに、実験1で左扁桃体活動と最も関連したのは10番目のCpG配列)。もっとも、再現実験では右半球だけでなく、左半球の扁桃体も14番目のCpG配列メチル化との関連性が最も強くなっており、この点では実験1と再現実験とで結果が異なっています。

ところで、社交不安障害(社会不安障害)で、セロトニントランスポーター遺伝子が短い人は公の場でスピーチをしている時の扁桃体血流量が右半球でだけ増加する(Furmark et al., 2004)という研究があります。脳血流量と脳活動(BOLD)は違いますが、本研究成果を踏まえると、社交不安障害でセロトニントランスポーター遺伝子のメチル化と脳血流量や脳活動の関係を調査すべきかもしれません。

また、社交不安障害全般型でSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)であるパロキセチン(パキシル)やフルボキサミン(ルボックス・デプロメール)による薬物療法の効果はセロトニントランスポーター関連遺伝子のタイプによって異なる(Stein et al., 2006)とされていますが、もし仮に遺伝子型→脳→薬物療法の効果という媒介関係があった場合、遺伝子型の代わりにDNAメチル化が来てもおかしくありません。すなわち、DNAメチル化が薬物療法の効果を予測するかどうか今後の検討課題になります。

さらに、6~13歳の不安障害児への認知行動療法の効果はセロトニントランスポーター遺伝子多型がSL/LL型よりもSS型の方が高いという研究(Eley et al., 2012)があります。これも遺伝子型→脳→認知行動療法の予後という媒介関係を仮定した場合、やはりDNAメチル化が認知行動療法の予後を予測するかどうか検証しなければなりません。

ただし、パニック障害や全般性不安障害での認知行動療法では、情動制御課題での扁桃体以外の脳領域の活動で個人ごとの効果の「予言」が可能(Ball et al., 2014)となっており、必ずしも扁桃体だけにこだわる必要はありません。

遺伝子型は認知行動療法や薬物療法を受けても変化しません。しかし、エピジェネティクス的な変化は環境の影響を受けて生じます。したがって、脳血流量と脳活動は異なるものの、本研究成果を踏まえると、社交不安障害で認知行動療法や薬物療法(SSRI)の後にスピーチ中の扁桃体や海馬の脳血流量が減少した(Furmark et al., 2002)背景にはDNAメチル化の変化が生じている可能性があり、今後の研究課題となります。

参考記事⇒セロトニン遺伝子メチル化の変化がCBTの予後の良悪で異なる

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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