両親の育児方法は認知行動療法で変化するか? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)、序論の一部、研究方法、研究結果を読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は不安障害児に対する認知行動療法で両親の育児認知や育児行動が変化するかもしれないという研究です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒高齢出産の女性は長生きする

Esbjørn, B. H., Sømhovd, M. J., Nielsen, S. K., Normann, N., Leth, I., & Reinholdt-Dunne, M. L. (2014). Parental changes after involvement in their anxious child's cognitive behavior therapy. Journal of Anxiety Disorders, 28(7), 664-670. doi:10.1016/j.janxdis.2014.07.008.

デンマークのコペンハーゲン大学心理学部の研究者による論文です。

○研究の背景と目的

因果の方向は不明ですが、親の行動や認知は子供の不安と関連しています。本研究の目的は子供の不安障害に対する心理療法後に親の行動や認知が変化するかどうかを調査することとしました。

○方法

子供の平均年齢は9.59±1.7歳(範囲は7~12歳)。26人(48%)が女児(全体の人数は54人)。母親と父親の両方が参加。

以下の2群をランダムに割り当てて設定(両者ともに最初と最後は家族セッション)。年齢と性別は層化(Stratification)。層化とは母集団を属性別(年齢・性別等)にわけることですが、ここでは母集団ではなく、標本を分けていますね(割当)。おそらく各群に均等配分したのでしょう。実際、性別・年齢に群間の有意差はありませんでした。診断数や主診断の症状の重篤度にも有意差は検出されませんでした。

・コファシリテーター認知行動療法群:子供が認知行動療法を受ける(12セッション)。ここでのコファシリテーターとは認知行動療法を円滑に進めるための役を担う人といった意味でしょうか。コ(co)が接頭語になっています。

・親参加型認知行動療法:親と子供が「個別に」認知行動療法を受ける(各々6セッション)。親の認知行動療法は児童不安障害のリスク要因である過剰関与を標的にしたもの。

●質問紙

・子供の不安障害の評価に児童不安関連情動障害尺度改訂版(Screen for Child Anxiety Related Emotional Disorders-Revised:SCARED-R)を使用。SCARED-R得点は母親の得点と父親の得点で平均値を算出。

・両親の有能感(sense of competence,feeling of competence)は育児コンピテンス感尺度(Parenting Sense of Competence Scale:PSOC)という質問紙で評価。PSOCとは親としての有能感を効力感と満足感の2次元で評価する尺度のことです。本研究では親の効力感信念という下位尺度を用いました。

・両親の育児スタイル(養育スタイル)は養育行動質問紙(Rearing Behavior Questionnaire:RBQ)で評価。RBQは心理的制御(psychological control)、拒絶-受容(rejection vs. acceptance)、過保護-自律性付与(overprotection vs. autonomy granting)の3次元尺度です。本研究では過保護-自律性付与に注目しました。自律性付与とは子供に自分の意思でさせるといった意味合いで、過保護とは反対になります。

●行動観察

育児行動の観察はタングラム課題(Tangram Task)で実施。タングラムとは答えがないパズルのことですが、今回は5分以内に指定された図形をできるだけ多く作るということでオリジナルのタングラム課題とは異なります。親の付き添いありで子供がタングラムパズルに取り組んでいる時の様子をビデオに記録し、子供の診断を知らない研究者が親子の交流を観察、評定しました。今回は父親と母親のそれぞれで実施しました。特に育児行動のネガティビティと関与に注目。親への教示は「助けが必要不可欠になったときだけ、子供をサポートするように」としました。

質問紙調査と行動観察は認知行動療法(CBT)前、CBT後、6か月の追跡後の3回実施。

○結果

認知行動療法終了後にコファシリテーター群と親参加型群とで子供の不安障害が有意に改善しました。また、群間に有意な子供の不安症状(自己報告)の違いは検出されませんでした。しかし、親が評価した子供の不安症状は親参加群の方がコファシリテーター群よりも認知行動療法後に高くなりました。

心理治療前に質問紙調査(親の効力感信念・過保護-自律性付与)とタングラム課題での行動観察で群間の有意差は検出されませんでした。

親の効力感信念は治療前後で変化せず、群間の差も検出されませんでした。ただ、母親の効力感信念は治療前よりも治療後に高まりました。しかし、この上昇は6か月の追跡後に消失しました。これに群間の有意差はありませんでした(母親と父親を別々に書いていましたが、論文の書き方が曖昧で何と何を比較したのかイマイチ分かりませんでした)。

育児スタイルの質問紙調査では両親とも両群で自律性付与が時間とともに増加しました。ただし、これは治療前後の比較では生じず、治療後と6か月の追跡後の間に生じました。また、母親では親参加群よりもコファシリテーター群の方が治療後から6か月の追跡後の間に自律性付与が増加しました。一方、親参加群の母親はどの期間でも自律性付与が増加した模様でした。しかし、父親では何も有意ではありませんでした。

タングラム課題の行動観察では治療前と比較して治療後に過剰関与行動が減少しましたが、群間の違いはありませんでした。治療終了後から追跡後の過剰関与の減少は父親よりも母親によりました。母親だけで分析しても群間の違いはありませんでした。父親では治療前から治療後の過剰関与の減少が顕著だったのは親参加群でした。対照的に、治療前後に父親の過剰関与の変化が認められず、治療後から追跡後にかけて過剰関与の減少が生じたのはコファシリテーター群でした。

タングラム課題でのネガティビティ(ネガティブ行動)では何の有意な結果も得られませんでした。

○コメント

論文中には不安障害の内訳が示されていませんでした。全般性不安障害、分離不安障害、特定恐怖症、社交恐怖症(社会恐怖症,社交不安障害)とだけ書かれているだけで、人数については何も記述がありません。こんな論文は初めてです。

せっかく認知行動療法の効果をSCARED-Rでチェックしたのに、児童不安障害の改善と両親の育児スタイル質問紙や行動観察の結果との関係が探求されていませんでした。今後の課題です。

子供だけが認知行動療法を受けたコファシリテーター群でも治療後から6か月の追跡後の間に、母親の自律性付与(質問紙調査)が増加し、父親の過剰関与(行動観察)が減少しました。これは子供の不安が親の育児行動や認知に影響を与えているという間接的な証拠になりそうです。事実、親参加群よりもコファシリテーター群の方が親の育児行動や育児認知に変化が生じるまでに時間がかかっています。これは子供への認知行動療法の効果が生じるのと親の育児スタイル・育児行動の変化が生じるのとで時間差があるということを意味し、子供の不安が親の育児に影響するという主張を補強するものです。

しかし、誰も認知行動療法を受けない統制(コントロール)群を設けていなかったことから単なる時間経過の影響を排除できません。特にタングラム(知恵の板)パズルでの行動観察は課題への慣れが交絡要因(confounder)として機能している可能性があり、より質の高い研究が求められます。

様々な限界があるとはいえ、父親を含めた子供の不安研究は少ないのに対し、本研究は母親と父親の両方が参加しています。また、子供の不安障害の認知行動療法研究といえば、子供の変化ばかりが調査されており、親の変化を調べた研究は少ないのが現状です。本論文はこの2点の限界を克服したものとなっており、貴重な文献といえるかもしれません。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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