コルネリア・デ・ランゲ症候群は場面緘黙の合併率が40% | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

非常に驚くべき学位論文を見つけてしまいました。といっても、驚いたのは私だけで、実は皆さんはすでにご存じか、またはこの記事で初めて知ったとしても驚かないかもしれませんが…。なんとコルネリア・デ・ランゲ症候群は場面緘黙(選択性緘黙)の有病率が40%だというのです!これは場面緘黙症の発症率が1%未満だとされることに比べると非常に多い割合です。

*場面緘黙症の有病率が1%以上(1.5%)という研究(Bufferd et al., 2011)もあります。ただし、Bufferd et al. (2011)は調査対象がすべて3歳児でした。なので、小学生なんかも対象となっている研究報告(Sharkey & McNicholas, 2012)よりも場面緘黙症の有病率が高めにでてもおかしくありません。

訂正(2015年3月11日):以前は場面緘黙症の罹患率(incidence rate)という表記をしていましたが、どうやら有病率(prevalence)の間違いだったようです。罹患率とは特定期間中の疾患の新規発生症例数のことで、有病率とは特定時点における疾患を有する人口のことです。ある方からご指摘を受けました。

Nelson, L. K. (2010). Mood and sociability in Cornelia de Lange syndrome. Ph.D. Thesis, University of Birmingham, Birmingham, West Midlands county.

○コルネリア・デ・ランゲ症候群とは何ぞや?

コルネリア・デ・ランゲ症候群についてはよく知らないので、勉強してみました。コルネリア・デ・ランゲ症候群の症状は顔が特徴的(両側の眉毛がつながっている・濃い眉毛・上向き鼻孔・薄い唇等)であることや低身長、発達の遅れ、胃食道逆流などです。小児慢性特定疾病の一種です。英語名がCornelia de Lange syndromeであることからCdLSという略語で表記することもあります。原因は5番染色体のNIPBL遺伝子の変異やX染色体にあるSMC1A遺伝子の変異などが報告されています。

ついでに後に出てくる脆弱X症候群、アンジェルマン症候群、ルビンシュタイン・テイビ症候群についても解説をしておきます。といってもネット上からかき集めた付け焼刃の情報にすぎないのですが。

・脆弱X症候群とは知的障害や自閉症症状などが現れる遺伝性疾患のことです。原因はX染色体にあるFMR1という遺伝子の異常です(もしかしたら他にも病因があるかもしれませんが私は知りません)。2015年2月13日に厚生労働省が厚生科学審議会(疾病対策部会指定難病検討委員会)の第8回で指定難病を検討しましたが、そのなかに脆弱X症候群関連疾患/脆弱X症候群という項目が含まれています。順調にいけば2015年5月には正式に指定難病リストに追加され、難病医療法に基づいて医療費が助成される予定です。これは以下のアンジェルマン症候群も同様です。

・アンジェルマン症候群とは発達の遅れや言語障害、運動障害、突飛な行動(笑いすぎる・多動性を示す・手を羽ばたかせる等)などを症状とする奇形症候群のことです。原因は母親由来の15番染色体上にあるUbe3a遺伝子の欠損です(もしかしたら他にも病因があるかもしれませんが私は知りません)。先に述べたように2015年5月にアンジェルマン症候群が指定難病になる可能性があります。

・ルビンシュタイン・テイビ症候群とは精神運動発達遅滞、特異顔貌、幅広い拇指趾などを症状とする奇形症候群のことです。原因は16番染色体にあるCREBBP(CBP:CREB-binding protein)遺伝子の異常です(もしかしたら他にも病因があるかもしれませんが私は知りません)。ルビンシュタイン・テイビ症候群は指定難病の扱いです。

下記にはダウン症候群と自閉症スペクトラム障害も出てきますがそれらの説明については省略します。ただ、ダウン症候群については21番染色体のトリソミーが原因だとされています。なので、自閉症スペクトラム障害よりかは原因がはっきりしています。なお、ダウン症候群は難病の中でも小児慢性特定疾患に指定されています。

○学位論文の構成

この学位論文はバーミンガム大学の博士論文です。その構成はコルネリア・デ・ランゲ症候群に関する文献をレビューし、続いて3つの研究成果を報告し、最後に考察をまとめる形になっています。3つの研究とはコルネリア・デ・ランゲ症候群のムード、興味、喜びに関する追跡研究(A Follow-up Study of Mood, Interest and Pleasure in CdLS)とコルネリア・デ・ランゲ症候群の社交性に関する比較研究(Sociability in Cornelia de Lange syndrome: A comparative study)、コルネリア・デ・ランゲ症候群の社交性に関する実験的研究(An Experimental Study of Sociability in Cornelia de Lange Syndrome)のことです。

3つの研究の内、「コルネリア・デ・ランゲ症候群の社交性に関する比較研究」で場面緘黙の有病率が報告されていたので、それについて書きたいと思います。

○学位論文の2つ目の研究内容

データ分析が有効になったのはコルネリア・デ・ランゲ症候群患者98人、脆弱X症候群患者142人、アンジェルマン症候群患者66人、ダウン症候群患者117人、ルビンシュタイン・テイビ症候群患者88人、自閉症スペクトラム障害(自閉症スペクトラム症)患者107人。診断は小児科医や臨床遺伝学者などの専門家によって確認済み。

年齢は平均で13.8~22.6歳(範囲は4~62歳)。一番平均年齢が低かったのが自閉症スペクトラム障害群で13.8歳、一番平均年齢が高かったのがダウン症候群で22.6歳。65.7%が男性。脆弱X症候群患者では男性の方が多くなりましたが、これは研究参加者の選別手続きによるもの。また、自閉症スペクトラム障害患者も男性の方が多くなりました。

セルフヘルプが高い順に脆弱X症候群・ダウン症候群(・自閉症スペクトラム障害)>ルビンシュタイン・テイビ症候群>アンジェルマン症候群・コルネリア・デ・ランゲ症候群

モビリティ(移動性)が高い順に脆弱X症候群・自閉症スペクトラム障害>ルビンシュタイン・テイビ症候群>コルネリア・デ・ランゲ症候群・アンジェルマン症候群

視覚障害・聴覚障害が軽度な順に脆弱X症候群・アンジェルマン症候群・ルビンシュタイン・テイビ症候群・自閉症スペクトラム障害>コルネリア・デ・ランゲ症候群・ダウン症候群(聴覚障害では脆弱X症候群・アンジェルマン症候群>ルビンシュタイン・テイビ症候群という有意差もあり)

*セルフヘルプ、モビリティ、視覚障害・聴覚障害にはウェセックス尺度(Wessex Scale)の下位尺度を使用。ウェセックス尺度とは知的障害者の社会的能力や身体的能力を評価するための質問紙のことです。なお、以下のスピーチ能力は人口統計学的質問紙(demographic questionnaire)によりました。

スピーチ(発話)能力が高い順に脆弱X症候群・ダウン症候群・自閉症スペクトラム障害>ルビンシュタイン・テイビ症候群>コルネリア・デ・ランゲ症候群>アンジェルマン症候群

なじみのない社会的場面での社交性が高い順にアンジェルマン症候群・ダウン症候群・ルビンシュタイン・テイビ症候群>コルネリア・デ・ランゲ症候群・自閉症スペクトラム障害>脆弱X症候群

なじみのある社会的場面での社交性が高い順にアンジェルマン症候群・ダウン症候群・ルビンシュタイン・テイビ症候群>コルネリア・デ・ランゲ症候群(・脆弱X症候群)>(脆弱X症候群・)自閉症スペクトラム障害

ただし、自分から交流を仕掛ける場合に限っては馴染みレベルの高低に関係なく、社交性が高い順にアンジェルマン症候群>ダウン症候群・ルビンシュタイン・テイビ症候群

*社交性/シャイネスの評価には知的障害者のための社交性質問紙(Sociability Questionnaire for People with Intellectual Disabilities:SQID)を使用。

ダウン症候群では年齢が低い群よりも年齢が高い群の方がなじみのある人(知人)に示す社交性が低くなりました。また、コルネリア・デ・ランゲ症候群・自閉症スペクトラム障害・脆弱X症候群の12歳未満群と比較して、12歳未満のダウン症候群は知人に対する働きかけを頻繁にするのに対し、18歳以上では有意差が検出されませんでした。これらのことから論文著者は知人への交流の働きかけが多いのはダウン症候群でも年齢が低い方に限られるとしています。

コルネリア・デ・ランゲ症候群では知らない人に対する社交性が一番低かったのは12~18歳のグループで、12歳未満では一番社交性が高くなりました(有意傾向)。

各種症候群/障害/症状における極端なシャイネスと極端な社交性の割合は次の通りです。1つ目の表が馴染みのない社会的場面、2つ目の表が馴染みのある社会的場面となります。百分率(パーセンテージ)に幅があるのは複数の指標で得られた値の範囲を記述しているからです。

・馴染みのない社会的場面におけるシャイネスと社交性
各種症候群/障害極端なシャイネス極端な社交性
コルネリア・デ・ランゲ症候群14.4~24.5%0.0~3.1%
アンジェルマン症候群1.5~4.5%4.5~13.6%
脆弱X症候群27.5~47.2%0.7~1.4%
ダウン症候群2.6~11.1%6.8~14.5%
ルビンシュタイン・テイビ症候群8.0~10.2%5.7~9.1%
自閉症スペクトラム障害14.2~25.5%0.0~1.9%

・馴染みのある社会的場面におけるシャイネスと社交性
各種症候群/障害極端なシャイネス極端な社交性
コルネリア・デ・ランゲ症候群1.0~3.1%6.1~14.3%
アンジェルマン症候群0.0~0.0%37.9~53.0%
脆弱X症候群0.0~4.9%4.9~21.1%
ダウン症候群0.0~0.9%22.2~58.1%
ルビンシュタイン・テイビ症候群0.0~1.1%19.3~42.0%
自閉症スペクトラム障害0.0~5.7%5.7~9.3%
なお、原著の学位論文中にはもっと細かい分析がされていましたが、省略します。

○場面緘黙症状の分析

長くなりましたが、いよいよ場面緘黙症状の分析です!

アンジェルマン症候群の場面緘黙は統計的に分析しませんでした。これはアンジェルマン症候群の特徴の1つに重度の言語障害(特に言語表出障害)があるためです。

場面緘黙のスクリーニングには知的障害者のための社交性質問紙(SQID)を使用。回答者は保護者で、質問内容はここ2ヵ月でなじみのある人(保護者など)やなじみのない人との社会的場面でどのようにふるまったかというもの。ここでの社会的場面とは社会不安/社交不安(障害)の診断基準(DSM-IV-TR)に挙げられているもの(すなわちパフォーマンス状況と交流状況の2つ)。

この研究はユニークで「普段より話さない」という場面緘黙の前兆も調べています。また、場面緘黙の質問項目に一定の状況でしか話さない/ある人としか話さないだけでなく、手話?身振り?(sign)をある特定の状況でしかしない/ある人にしかしないというのも含めています。状況と人とは別々の質問項目になっていますが、両方とも当てはまった人だけ場面緘黙があると判断しました(正式な診断ではないことに注意)。なお、これらの質問項目への回答は子供が30語以上喋るか手話?ができる場合にのみ親への回答を求めました。

さて、結果ですが、コルネリア・デ・ランゲ症候群では場面緘黙の併発率が40%、脆弱X症候群では17.8%、ダウン症候群では7.5%、ルビンシュタイン・テイビ症候群では13.6%、自閉症スペクトラム障害では18.2%となりました。脆弱X症候群・ダウン症候群・ルビンシュタイン・テイビ症候群と比較して有意にコルネリア・デ・ランゲ症候群の方が場面緘黙の合併者が多くなりました(オッズ比はそれぞれ3.08、8.22、4.35)。

コルネリア・デ・ランゲ症候群・脆弱X症候群・自閉症スペクトラム障害を1つにまとめた「障害グループ」内で場面緘黙がない群と場面緘黙がある群とに分けました。その結果、場面緘黙がない障害群と比較して場面緘黙を合併している障害群は知らない人に対するシャイネスが高くなりました。

○研究3:コルネリア・デ・ランゲ症候群は発話時間と実行機能障害感覚が関連

社会的課題(social tasks)を用いてコルネリア・デ・ランゲ症候群の社会的障害を実験的に検証したのが研究3の「コルネリア・デ・ランゲ症候群の社交性に関する実験的研究」です。さらっと読んだだけなので、間違っているかもしれませんが、興味深いのでふれておきます。なお、私が読んだのは本博士論文のアブストラクトと研究2・3だけで、最初の文献レビューと研究1、一番最後の全般的考察・総合議論(General Discussion)は未読です。悪しからず。

研究3によると、コルネリア・デ・ランゲ症候群はダウン症候群よりも発話が少なかったようです。コルネリア・デ・ランゲ症候群は会話の相手が知人であろうが、知らない人であろうが発話が少なかったみたいです。また、ダウン症候群よりもコルネリア・デ・ランゲ症候群の方がポジティブな表情が多く、知人を見る時間が長かったようです。

もっともこれらは発話への負荷や会話相手が誰かによって異なるようですし、群との交互作用もあるようです。実験の被験者には明示的に発話を求めないけれども、実験協力者が被験者の祝日の時に撮影した写真を見ながらコメントする低負荷条件でダウン症候群よりもコルネリア・デ・ランゲ症候群の方が発話が多かったのは会話相手が知人である場合でした。しかし、知らない人が写真についてコメントしている時はダウン症候群の方が発話が多くなったそうです。

また、実験協力者が漫画のお話をした後に被験者がそのお話を繰り返し語らなければならない高負荷条件ではダウン症候群よりもコルネリア・デ・ランゲ症候群の方が知人や知らない人が相手の反応を促したり、被験者の発話に対して答えることが多くなりました。低負荷条件では知人はダウン症候群よりもコルネリア・デ・ランゲ症候群に対して反応を促したり、情報を与えましたが、知人ではないとコルネリア・デ・ランゲ症候群よりもダウン症候群の方に質問を投げかけたり、被験者のコメントに言語的応答をしたりしました。

さらに、高負荷条件の被験者の発話時間を実験協力者が知人か否かを問わないで平均化して、認知機能との相関をもとめました。その結果、コルネリア・デ・ランゲ症候群では発話時間と受容語彙/表出語彙能力が正の相関を示しました。一方、ダウン症候群では発話時間と正の相関関係を示したのは受容語彙・コミュニケーション・日常生活スキル・社会化でした。

*受容語彙は英国絵画語彙テスト第2版(British Picture Vocabulary Scale – Second Edition:BPVS-2)で、表出語彙は表出1単語絵画語彙検査(Expressive One-Word Picture Vocabulary Test:EOPVT)で評定。なお、ダウン症候群では表出語彙検査を実施せず。また、コミュニケーション・日常生活スキル・社会化はヴァインランド適応行動尺度第2版(The Vineland Adaptive Behavior Scale-II:VABS-II)で評価。

コルネリア・デ・ランゲ症候群では発話時間とワーキングメモリ・プランニング・抑制に負の相関関係があったのに対し、ダウン症候群では相関関係が有意ではありませんでした(以下の評価方法を読まなければ誤解する可能性が高いので、読み飛ばさないように!)→コルネリア・デ・ランゲ症候群では発話時間が短いほど実行機能障害の感覚が強いが、ダウン症候群では関連しない。

*ワーキングメモリ・プランニング・抑制は実行機能行動評定質問紙就学前児版(Behaviour Rating Inventory of Executive Function-Preschool version:BRIEF-P)で評定。得点が高いほど実行機能障害の感覚が強いことを意味。ワーキングメモリ・プランニング・抑制以外にもシフティング・情動制御も評価しましたが有意な関係なし。なお、抑制・シフティング・情動制御は行動制御指標(Behavioural Regulation Index:BRI)で、ワーキングメモリ・プランニングは始発(initiate)・資料体制化(organisation of materials)・モニタリングと合わせてメタ認知指標(Metacognition Index:MI)となります。BRIとMIの合計が全般的実行構成得点(Global Executive Composite score:GECS)となります。

○コメント

コルネリア・デ・ランゲ症候群の場面緘黙率が多い結果となりました。ただし、場面緘黙の有無の判断を保護者への質問紙調査(SQID)だけに頼っており、専門家による鑑定がされていない点に注意が必要です。また、場面緘黙の質問項目の検者間信頼性/評価者間信頼性(Inter-rater reliability)が.44~.51と少し低いような感じがします。私は各種症候群/症状のことを詳しく知らないのでよく分かりませんが、サンプルの多くに発達遅延や知的障害があったり言語能力が低かったりする可能性があり、公式な場面緘黙症の診断基準に該当すると断定することはできません。しかし、それにしてもこの研究、手話(身振り?)も含めているとはすごいですね。手話の緘黙症ですよ。

脆弱X症候群は他の障害と比較してなじみのない社会的場面で極端な社交性を示す人が少なくなり、極端なシャイネスがある人が多くなりました。また、脆弱X症候群の場面緘黙率は17.8%と、通常の場面緘黙症の発症率である1%未満と比較して多くなりました。これは脆弱X症候群患者で場面緘黙を併発している男性が28.1%、女性が21.1%だったという疫学調査(Cordeiro et al., 2011)よりも低いですが、それでも一般的な場面緘黙症の有病率と比較したら高い方です。なお、Cordeiro et al. (2011)は平均年齢が13.07歳(範囲5.0–26.7:SD= 5.60)の男性58人と平均年齢が12.35歳(範囲5.5–33.3:SD = 6.17)の女性39人を合わせた脆弱X症候群患者97人がサンプルで、自閉症スペクトラム障害がある脆弱X症候群患者の方が場面緘黙の併発が多くなったという結果も得られています。

脆弱X症候群は馴染みのない社会的場面において極端なシャイネスが27.5~47.2%と一番多くなりました。一方、場面緘黙は17.8%と確かに多いのですが、コルネリア・デ・ランゲ症候群には及びません。もしも場面緘黙とシャイネスの関連が強いのであれば、コルネリア・デ・ランゲ症候群よりも脆弱X症候群の方で場面緘黙の併発率が高くなるはずです。しかし、そうはなりませんでした。これは少なくてもこれらの難病では場面緘黙とシャイネスはそれほど強く関連していないということを意味するかもしれません。しかし、コルネリア・デ・ランゲ症候群・脆弱X症候群・自閉症スペクトラム障害を1つにまとめた「障害グループ」内で場面緘黙がない障害群と比較して場面緘黙を併発している障害群は知らない人に対するシャイネスが高くなったことからこの可能性は排除できそうです。

あるいは脆弱X症候群ではシャイネスが高くそれが場面緘黙とつながっているが、コルネリア・デ・ランゲ症候群ではシャイネスそのものよりも染色体的因子や遺伝的因子が関係していると考えることもできます。この場合には場面緘黙の遺伝研究の端緒としてコルネリア・デ・ランゲ症候群の研究が必要になってきます。しかし、シャイネスの計測方法の問題やサンプリングの問題、サンプルサイズの問題等もあり、本研究だけではまだ結論づけるのは早そうです。

コルネリア・デ・ランゲ症候群が一番場面緘黙との関係が強いとの結果が得られたのですが、それ以外の症候群/障害も通常の場面緘黙症の発症率と比較すると多くなっています。いったいなぜなのかは分かりません。とはいえ、コルネリア・デ・ランゲ症候群やアンジェルマン症候群、ダウン症候群、ルビンシュタイン・テイビ症候群で場面緘黙の併発率が調べられたのはもしやこれが初めて?と思ってしまいます。

また、結構多い人数(88人)で自閉症スペクトラム障害での場面緘黙の併発割合を調べたのもこれが初めてかもしれません。自閉症スペクトラム障害の人が親戚にいる場面緘黙児が43%という研究(Sharkey & McNicholas, 2012)もあり、自閉症と場面緘黙症の関係は今後も見逃せない研究テーマです。

*自閉症スペクトラム障害でデータ分析が有効になったのは107人ですが、場面緘黙の合併率の推定ができたのは88人の集団でした。同様に場面緘黙の併発率の計算で分母となったのはコルネリア・デ・ランゲ症候群で40人、脆弱X症候群で118人、ダウン症候群で106人、ルビンシュタイン・テイビ症候群で59人でした。

○場面緘黙の動物モデルは可能か!?

ところで、コルネリア・デ・ランゲ症候群ではないのですが、自閉症では15番染色体の15q11-q13の異常が認められる事例があります。事実、15q11-q13重複モデルマウスは社会的相互交渉の質的異常、コミュニケーションの質的異常、興味の限局と反復的行動という3つの自閉症症状の特徴を示します。調べてみたところ、コルネリア・デ・ランゲ症候群のモデル動物もあるみたいです。また、コルネリア・デ・ランゲ症候群は遺伝子疾患です。なので、もし仮にコルネリア・デ・ランゲ症候群で場面緘黙に関わる遺伝子異常が見つかったとしたら、場面緘黙のモデル動物の作製が可能かもしれませんね。

ちなみに、自閉症の1%は16p11.2のコピー数多型(CNV)である16p11.2微小重複/微小欠失に起因すると言われています。事実、16p11.2欠損モデルマウスが自閉症の研究に使われています。なお、16p11.2重複は統合失調症の原因CNVともなります。 また、22q11.2重複と自閉症・統合失調症が関連しているとされています。22q11.2欠失症候群の子供は自閉症スペクトラム症状が強いようです。

またまたちなみに自閉症のモデルマウスは少なくとも26種類あるとされますが、これらはすべて頭頂-側頭葉・小脳皮質・前頭葉・視床下部・線条体の異常を示し、3つのクラスターに分けられます(Ellegood et al., 2015)。ただ、注意すべきなのは自閉症のモデル動物はマウスだけではないということです。神経発達障害のモデルとしてキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)が使用されることもあります(Kaur et al., 2015)。

脇道にそれました。場面緘黙のモデル動物の作製の話でしたね。ところが、マウスやラット等の動物は言葉を話さないので場面緘黙のモデル動物の作製なんか不可能だ!という人もいるでしょう。しかし、あきらめる必要はありません。というのも学習障害の一種であるディスレクシア(ディスレキシア)の動物モデルが作製されている(Centanni et al., 2014)からです。したがって、普通は読み書きのできないとされる動物でもディスレクシアと似たような異常を作ることは可能です。このモデル動物はディスレクシアの候補遺伝子の発現を抑制することで作製したものなので、場面緘黙症の候補遺伝子を発見できれば、モデル動物の作製に一歩近づきます。

*ここでの異常とは英語の発話の音素弁別障害のことです。Kiaa0319というディスレクシアの候補遺伝子の発現を子宮内RNA干渉(RNAi)で抑制したラット(KIA- rats)は英語の単語音素の弁別学習が苦手になるようです(Centanni et al., 2014)。なお、RNA干渉とは特定の遺伝子の発現を人工的に抑制する方法のことです。ディスレクシアの原因の1つとして音韻処理の異常があるとされています。また、ディスレクシアは聴覚時間処理障害も原因の1つとされています。事実、両耳順序判断課題(dichotic temporal order judgment:TOJ)の訓練を5日間実施し、聴覚時間処理の能力が向上すると、音韻認識力が高まること(Fostick et al., 2014)から音韻処理障害の背景には聴覚時間処理障害があると考えられます。

*また、厳密にいうとマウスやラットは超音波の鳴声でコミュニケーションをとることも可能です。これを専門用語で超音波発声(ultrasonic vocalizations)といいます。超音波発声を「発話」だとみなすのならば場面緘黙症の動物モデルが直接作製できます。

ところで、場面緘黙症には聴覚系の異常が関与していると主張する研究者もいます。具体的に書くと、21人の場面緘黙児の内、耳小骨筋反射(中耳筋反射:MEAR)か内側オリーブ蝸牛束反射(MOCB反射)に異常があったのは15人(71%)で、健常児の16%(24人中4人)と比較して、多くの緘黙児に聴覚異常が認められます(Henkin & Bar-Haim, 2015)。したがって、場面緘黙症関連の染色体異常やゲノム変化・遺伝子変化(SNPs・CNVs・de novo mutations)が発見され、それをもとにしたモデル動物で聴覚の異常が見つかれば場面緘黙症の聴覚異常説の説得力が増します。さらにいうならば、耳小骨筋反射や内側オリーブ蝸牛束反射の遺伝的な基礎研究にも貢献することになります。

*場面緘黙児のすべてに聴覚異常があるわけではありません。あくまでも健康児と比べたら場面緘黙児の中に聴覚異常を示す子供が多いというだけです。

関連記事⇒統合失調症で場面緘黙症状のある人は86%

○引用文献:アブストラクトと研究方法や研究結果の一部だけ読みました。ただし、Henkin & Bar-Haim(2015)は全文読みました。
Bufferd, S. J., Dougherty, L. R., Carlson, G. A., & Klein, D. N. (2011). Parent-reported mental health in preschoolers: findings using a diagnostic interview. Comprehensive Psychiatry, 52(4), 359-369. doi:10.1016/j.comppsych.2010.08.006.

Centanni, T. M., Chen, F., Booker, A. M., Engineer, C. T., Sloan, A. M., Rennaker, R. L., LoTurco, J. J., Kilgard, M. P. (2014). Speech Sound Processing Deficits and Training-Induced Neural Plasticity in Rats with Dyslexia Gene Knockdown. PLoS ONE 9(5): e98439. doi:10.1371/journal.pone.0098439.

Cordeiro, L., Ballinger, E., Hagerman, R., & Hessl, D. (2011). Clinical assessment of DSM-IV anxiety disorders in fragile X syndrome: prevalence and characterization. Journal of Neurodevelopmental Disorders, 3(1), 57-67. DOI:10.1007/s11689-010-9067-y.

Ellegood, J., Anagnostou, E., Babineau, B. A., Crawley, J. N., Lin, L., Genestine, M., DiCicco-Bloom, E., Lai, J. K., Foster, J. A., Peñagarikano, O., Geschwind, D. H., Pacey, L. K., Hampson, D. R., Laliberté, C. L., Mills, A. A., Tam, E., Osborne, L. R., Kouser, M., Espinosa-Becerra, F., Xuan, Z., Powell, C. M., Raznahan, A., Robins, D. M., Nakai, N., Nakatani, J., Takumi, T., van Eede, M. C., Kerr, T. M., Muller, C., Blakely, R. D., Veenstra-VanderWeele, J., Henkelman, R. M., & Lerch, J. P. (2015). Clustering autism: using neuroanatomical differences in 26 mouse models to gain insight into the heterogeneity. Molecular Psychiatry, 20(1), 118-125. doi:10.1038/mp.2014.98.

Fostick, L., Eshcoly, R., Shtibelman, H., Nehemia, R., & Levi, H. (2014). Efficacy of temporal processing training to improve phonological awareness among dyslexic and normal reading students. Journal of Experimental Psychology: Human Perception & Performance, 40(5), 1799-1807. doi:10.1037/a0037527.

Henkin, Y., & Bar-Haim, Y. (2015). An Auditory-Neuroscience Perspective on the Development of Selective Mutism. Developmental Cognitive Neuroscience, 12, 86–93. doi:10.1016/j.dcn.2015.01.002.

Kaur, K., Simon, A., Chauhan, V., & Chauhan, A. (2015). Effect of bisphenol A on Drosophila melanogaster behavior–A new model for the studies on neurodevelopmental disorders. Behavioural Brain Research, 284, 77–84. doi:10.1016/j.bbr.2015.02.001.

○本博士論文のURL(2015年2月27日現在)
Nelson, L. K. (2010). Mood and sociability in Cornelia de Lange syndrome. Ph.D. Thesis, University of Birmingham, Birmingham, West Midlands county.
http://etheses.bham.ac.uk/1037/1/Nelson10PhD_A1a.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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