場面緘黙の疑いのある小学生が4.1%であるという論文 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙(選択性緘黙)の疑いのある小学生が4.0%~4.1%であるという論文があります。私が知る限りこれが最も場面緘黙の割合を多く報告した研究なので、取り上げてみたいと思います。なお、4%以上の研究をご存知の方はぜひコメント欄などで教えていただけたら幸いです。

Posserud, M. B., & Lundervold, A. J. (2013). Mental health services use predicted by number of mental health problems and gender in a total population study. The Scientific World Journal, 2013, 1-8. doi:10.1155/2013/247283.

★概要

この論文の内容は精神衛生事業サービスの使用を精神症状や性別で予測したというものですが、それは本記事の趣旨とは関係ないので省略します。ただ、男児よりも女児の方が児童青年メンタルヘルスサービス事業にアクセスする可能性が低く、その差は2倍だったということを述べておきます。

○方法

データは縦断デザインのBergen Child Study(ベルゲン児童研究,BCS)。Bergen Child Studyとはノルウェーのベルゲンが誕生地の子供を大学生になるまで追跡した縦断コホート研究のことです。2002年にプロジェクトが開始しました。7~9歳児のメンタルヘルスの問題に関してはN=9,430と膨大なサンプルサイズとなっています。質問紙への回答は親と先生です。

本調査では質問紙への先生の回答がN=9,152で、親の回答がN=6,295でした。回答方法はリッカート尺度の3件法。主な質問紙は以下の通り(下には書いていませんが、当然場面緘黙症状についても調べられています!)。

・子供の強さと困難さアンケート(Strength and Difficulties Questionnaire:SDQ):Peer Problem(仲間関係の問題)尺度とEmotional(情動)尺度を使用。
・自閉症スペクトラムスクリーニング質問紙(Autism Spectrum Screening Questionnaire:ASSQ)
*ADHD(注意欠陥多動性障害)とODD(反抗挑戦性障害)に関してはDSM-IVの診断基準を使用。
*強迫性症状の問題やチック症、言語困難(≒言語障害?)、摂食障害症状、睡眠問題、活動性低下(機能低下?)も調査。

○結果

場面緘黙に関する結果だけを書きます。場面緘黙症状は親への質問紙では調査せず、教師への質問紙でのみ調査しました。したがって、N=9,152です。場面緘黙の質問に「一部当てはまる(partly true)」、「まさにその通りである(definitely true)」と回答した場合に場面緘黙の問題があると判断しました。これは場面緘黙の96パーセンタイルに相当。

その結果、場面緘黙症の疑いがある子供が4.1%になりました。この数字から計算すると9,152人の小学生(7~9歳)の内、375人が場面緘黙の可能性があるということになります。

*先生と親の両方が質問紙に回答した子供だけに限定すると4.0%(N=6,295)。4.0%は6,295人中252人に相当。

★コメント

一番気になるのは「一部当てはまる」が含まれていることです。できれば場面緘黙で「一部当てはまる」と「まさにその通りである」のそれぞれの割合を明示してほしかったのですが、そこまでやると他の症状も含めたら膨大な量になりできなかったのかもしれません。それにしても「一部当てはまる」とはいったいどういう状態を指すのでしょうか?以下、「一部当てはまる」抜きに考察しましょう。その方が問題が複雑化しないので(なかば投げやり)。

一般に幼稚園児・保育園児~小学校初学年での場面緘黙症の有病率は1%未満だとされます。アイルランド共和国で場面緘黙症の有病率を調べた世界初の研究(Sharkey & McNicholas, 2012)では小学生の全ての学年を合わせて有病率が0.18%でした。本研究成果は正式な場面緘黙症の診断がされていないものの、場面緘黙の疑惑がある小学生(7~9歳児)が4%ほどいることを示唆しており、多いです。

逆にいえば専門家に場面緘黙症と診断される事例よりも場面緘黙症の診断を除外されるケースの方が多いということなのかもしれません。たとえば、自閉症スペクトラム障害(ASD)児に場面緘黙症状があってもASDの方が上位診断になりますし、吃音症やその他コミュニケーション障害のある子どもは場面緘黙症の診断基準に満たないため、疫学調査では有病率のデータの中に入っていません。今回の調査結果はこれらの子供を含めたら大体4%ぐらいが場面緘黙症状を示しているということを意味している可能性があります。事実、ASDでは場面緘黙の併発率が18.2%であるという調査(Nelson, 2010)があり、一般的な場面緘黙症の出現率である1%未満よりも高くなっています(それでもASD自体の有病率を考慮すれば、普通はASDと場面緘黙の合併者はそう多くはないはずですが…)。

バイリンガルは場面緘黙症のリスクとされているので、バイリンガル児などのマルチリンガル児の割合も知りたいですね。ただし、バイリンガル自体が場面緘黙症のリスクと決まったわけではなく、バイリンガルと関連した人種と居住地のミスマッチや移民特性などが関係している可能性は残されていますが。

また、場面緘黙症の診断を下すまでは症状が重くないものの、特定の場所や人、状況で声が小さくなる子供や同じ状況でも喋れる時と喋れないときの落差が激しい子供、非常に限定された状況で喋れなくなる子供がいるとも考えられます(最後の1つも場面緘黙症じゃないか!と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「一部当てはまる」の意味が不明確なので仕方なく分けています)。あとは自分から進んで話すことがないが、相手から話しかけられれば受け答えができる子供では話しかけられるまで一種の緘黙状態ですから、人によっては場面緘黙と感じてしまうこともあるかもしれません。

あるいは教師の場面緘黙症の知識が不十分なのにもかかわらず、このような調査を行った結果、変な数字が出てきたとも考えられます。なので、きちんと場面緘黙症の症状を説明したうえでの調査なのかどうか気になります。ただ、日本の研究ですが、公立小学校の一般教諭・養護教諭で場面緘黙症の症状を知っているのは96.7%だという調査報告(杉森・石原, 2011)もあり、「先生は場面緘黙症のことを知らない」と決めつけるのもどうかと思います。

様々な方法論的限界があるにしろ、N=9,152とこれほど大規模な場面緘黙の調査結果は珍しいです。もっとも場面緘黙の結果は副次的なものなのですが…。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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