関係性攻撃は抑うつよりも不安との関係の方が強い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

児童青年で関係性攻撃と内在化問題行動の関係を調べた論文を読みました。一部だけ読む予定だったのに、ほとんど全文読んでしまいました。私が具体的に攻撃研究についての論文を読んだのはこれが初めてです。なので間違いがある可能性がありますので、ご注意ください(といっても間違いがある可能性があるのはこの記事だけではないのですが…)。

内在化問題行動とは抑うつや不安のことですが、関係性攻撃(relational aggression)という単語は耳慣れないですね。関係性攻撃とは他者の人間関係を意図的に操作することで相手を傷つける行動のことです。具体例として無視や仲間外れ、陰口といった行動があげられます。関係性攻撃は身体的攻撃や直接的な暴言とは異なる概念であることに注意が必要です。

Marshall, N. A., Arnold, D. H., Rolon-Arroyo, B., & Griffith, S. F. (2015). The Association Between Relational Aggression and Internalizing Symptoms: A Review and Meta-Analysis. Journal of Social & Clinical Psychology, 34(2), 135-160. doi:10.1521/jscp.2015.34.2.135.

アメリカ合衆国のマサチューセッツ大学アマースト校の研究者らによる論文です。

本論文によると、攻撃性にも間接的攻撃(indirect aggression)や社会的攻撃(social aggression)といったようにいろいろな種類があります。

間接的攻撃とはゴシップを流す、社会的に排斥するなどで拒絶や排斥をし、相手を傷つける行動のことです(Feshbach, 1969; Lagerspetz, Björkqvist & Peltonen,1988)←論文から孫引き。関係性攻撃との違いは間接的攻撃に社会的関係を壊す意図を持った行動だけでなく、持ち物を壊すなどの人間関係とは直接関係のない言語的、身体的攻撃行為が含まれる点です…と論文中にありましたが、日本語で調べてみると関係性攻撃と間接的攻撃はほぼ同じ意味で使っているようなページがあり、よく分かりません。

社会的攻撃とは他者の自尊心や社会的地位を直接傷つける行動のことで、言語的拒絶や否定的な表情、身体の動き等の直接的方法のほか、中傷的な噂を流す、社会的排斥をするといった間接的形態も含まれます(Galen & Underwood, 1997)←論文から孫引き。

○方法

メタアナリシス(メタ分析・メタ解析)+レビュー。メタアナリシスとは複数の研究からデータを収集、統合して分析する統計学的方法のことです。

5~17歳の児童青年で攻撃性と内在化問題行動の関係を調べた英語文献が対象。正式には未公刊の学位論文も含めました。

ピアソンの相関係数を効果量として使用。

○結果

論文データベースから該当サンプルが44個見つかりました(25本がジャーナル論文で、学位論文が17本、また2本の論文はそれぞれ別のサンプルを含んでいました)。以下、研究の主な特徴(省略あり)。なお、用いた論文データベースはPsycINFOとERIC(Education Resources Information Center)でした。

児童青年の総人数は24,622人。ほとんどの研究はアメリカ合衆国のものだったが、8つは国際研究。内在化問題行動は自己報告が多くなったが、先生の報告が8つ、親の報告が5つ、仲間の報告(peer-report)が3つ、複数の関係者による報告が3つ。関係性攻撃も自己報告が多かったが、先生の報告が8つ、仲間の報告が11個、親の報告が3つ、複数の情報筋からの報告が7つ。

攻撃性と内在化問題行動で全サンプルのピアソン相関係数の範囲は-.17~.62(平均=.24:標準偏差=.16)。95%信頼区間は.23~.26。その他、サンプリングエラーでは効果量のばらつきの全てを説明できないとの結果も得られました。

*95%信頼区間とは同じ研究をすれば95%の確率で「標本平均」が信頼区間の間の値におさまるという意味です。「真の値(母平均)」が95%の確率で信頼区間の間の値になるという説明は間違っています(Hoekstra et al., 2014)ので、ご注意ください。Hoekstra et al. (2014)によると、心理学者さえ信頼区間の意味を誤解している人がいます。

サンプリングエラーでは効果量のばらつきの全てを説明できないとしたら、相関係数が研究ごとに違うのはなぜなのでしょうか?それを今度は調整変数分析で調べました。

・被験者の年齢:サンプルサイズで重みづけた分析では年齢が上の子よりも年齢が下の子の方が攻撃と内在化問題行動の相関が強い(ただし、重みづけなければ有意ではないが、結果が逆転)。

・内在化問題行動の種類:関係性攻撃と不安の相関係数は.22(標準偏差は.13)で関係性攻撃と抑うつの相関係数は.19(標準偏差は.14)でした。この2つに5%水準で有意差がありました。つまり関係性攻撃と抑うつの関係よりも関係性攻撃と不安の関係の方が強いということです。

・性別:男女差なし

・民族性(エスニシティ):民族ごとの違いを調べた研究は1つしかなく、ヨーロッパ系アメリカ人(r=.16)よりもアジア系アメリカ人(r=.37)の方が攻撃と内在化問題行動の関係が強くなりました。国別ではオーストラリアが.12と.25、カナダが.13と.25と.33、日本が.28と.38、ロシアが.06。これらを平均するとr=.23となり、アメリカの研究と同程度の効果量になりました。

・質問紙への回答者:他者報告(r=.21)よりも自己報告(r=.23)の方が攻撃と内在化問題行動の関係が強くなりました(p<.001)。また、攻撃と内在化問題行動の報告者が同一人物だとr=.30で、報告者が別人だとr=.12でした(p<.001)。

・攻撃性の種類:内在化問題行動と間接的攻撃の相関係数はr=.25で、内在化問題行動と関係性攻撃との相関係数はr=.22でした(p=.001)。

・正式なジャーナル論文では相関係数がr=.23だったのに対し、学位論文ではr=.21と0.1%水準で有意差がありました。

○コメント

攻撃性の種類による定義の違いがイマイチぴんと来ませんでした。私の勉強不足の所以です(もしくは研究者の意見の一致が低い等、研究者のせい?)。以下、抑うつは無視します(と書きながら、抑うつという言葉が登場します!)。これは本来のブログ主旨は場面緘黙症で、不安(障害)に関する研究がメインテーマとなるためです。もちろん、場面緘黙症と抑うつの関係も重要な研究テーマとなり得ますが、現時点では深く追求した調査がありません。

さて、不安や抑うつが強いほど関係性攻撃が強いことが示されたわけですが、因果の方向が不明です。不安・抑うつ→関係性攻撃なのか関係性攻撃→不安・抑うつなのか。あるいは両者に共通の遺伝的・環境的因子があるのか。これらすべてが要因として関与しているのか。思春期の内在化問題行動と外在化問題行動(非行、攻撃行動、注意の問題など)に共通の遺伝的要因・非共有環境要因がある(Cosgrove et al., 2011)という研究は共通因子の存在を示唆します。共通因子の1つとして、ネガティブ感情の存在が双生児研究から示唆されています(Mikolajewski et al., 2013)。また、不安・抑うつ→関係性攻撃についてはもしかしたら不安→脅威知覚→不正行為(Kouchaki & Desai, 2015)という研究が参考になるかもしれません。攻撃性と不正行為は異なりますが、不安が高いと脅威を知覚しやすくなるので、結果として関係性攻撃が高くなるというのはもっともらしい説明です。関係性攻撃→不安・抑うつはなんとなく分かりますね。他者を無視したり、陰口を言ったりすると、周囲の人から非難の目でみられ孤立したり、そうでなくても罪悪感から抑うつになりそうです(ただし、平気で人を傷つける人の場合はこの限りではありません)。

いずれにしろ、因果関係の方向を明確にしようと思ったら、横断研究ではなく縦断研究の方が研究デザインとして好ましいです。横断研究よりも縦断研究の方が時間と手間がかかりますが、今後の研究課題です。

本メタ解析を踏まえると、不安が高い=攻撃性が低いという固定観念は捨てた方が良いかもしれません。ただ、相関係数は0.22ですから、そんなに関係は強くありません。なので、不安が高い=攻撃性が高いということを意味するものでもありません。あくまで平均的に不安が高い児童青年は関係性攻撃が強いということを意味しているだけです。ちなみに、たとえ最初の研究が強い効果量だったとしても、メタ分析をしてみたら弱い効果量がでてくるのは心理学に限らず、他の科学分野なんかでもよくあるパターンです(といっても全ての科学分野の論文に目を通しているわけではありませんが)。

時々インターネット上で場面緘黙症と攻撃性の関係を指摘する声が聞かれますが、このメタアナリシスを踏まえると本当に関係があるような感じがしてきます。というのも、1つの研究だけだとp-hackingの可能性が否めませんが、本論文は学位論文も含め42本の文献を統合して得られた知見で、なおかつメタアナリシスで得られた効果量と比較して、p-hackingの効果は弱いという論文(Head et al., 2015)があるからです。ただ、本メタアナリシスでは出版バイアス・公刊バイアス(publication bias)の評価・調整がされていないのが心配の種になります。

p-hackingとは研究者の仮説にあう結果になるまで何回も統計的検定を繰り返すことです。たとえば、有意差がでなかったけど、サンプルサイズを増やした時やデータをいくつか除外した時に、有意差が出た!という時にその結果を論文に掲載するという慣行があげられます。何回も統計的検定をしたら「嘘の結果(偽陽性:false positive)」が出る可能性がグーンと高まりますからね。また、結果報告バイアス(outcome reporting bias)というものもあります。結果報告バイアスとは様々な心理的、行動的尺度で計測したのに、その内有意になったものだけを報告することです。

出版バイアスとはネガティブな結果がポジティブな結果よりも発表されにくいという問題のことです。類語にお蔵入り問題(file-drawer problem)があります。お蔵入り問題とは有意でない結果が研究室の奥深くに眠っているだけで、広く公表されないという問題のことです。

話がアカデミックの闇に逸れました。場面緘黙症と攻撃性のお話でしたね。本研究で注意しなければならないのは攻撃性の定義です。というのも、場面緘黙症と攻撃性の関係を心配している人はもしかしたら身体的攻撃性のことだけを懸念しているのかもしれませんからね。関係性攻撃は身体的攻撃を含まないで、相手を仲間外れにしたり、悪い噂話を流したりといった要素が中心であることに注意が必要です。それだと、喋れないのにどうやって相手を仲間外れにしたり、ゴシップを流せるのだ!という反論の方に一理ありと思われるので、結局のところ、堂々巡りになります。

関連記事⇒矯正施設にいる少年の13%が場面緘黙症

関連記事⇒反社会性人格障害と社会不安障害の合併患者は多い

○引用文献:どちらも全文は読んでいません。しかし、アブストラクトを読み、中身を少しかじりました。
Head, M. L., Holman, L., Lanfear, R., Kahn, A. T., & Jennions, M. D. (2015). The Extent and Consequences of P-Hacking in Science. PLOS Biology, 13(3): e1002106. doi:10.1371/journal.pbio.1002106.

Hoekstra, R., Morey, R. D., Rouder, J. N., & Wagenmakers, E. J. (2014). Robust misinterpretation of confidence intervals. Psychonomic Bulletin & Review, 21(5), 1157-1164. DOI:10.3758/s13423-013-0572-3.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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