セロトニン遺伝子メチル化の変化がCBTの予後の良悪で異なる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

DNA発現は環境の影響を受けて変化します。DNA塩基配列の変化なしに遺伝子のスイッチが切り替わる現象をエピジェネティクスと呼びます。遺伝子の発現を調整する仕組み(エピジェネティクス)にはメチル化修飾とヒストン修飾とが知られています。一般にメチル化はシトシン+メチル基→メチル化シトシン(5-メチルシトシン:5mC)のことです。しかし、少なくとも緑藻、ワーム(蠕虫)、ハエではメチル化アデニン(N6-メチルアデニン:6mA)もエピジェネティクスに関与するというミニレビューが学術ジャーナル『セル(Cell)』に掲載されました(Heyn & Esteller, 2015)。

ミニレビュー論文→Heyn, H., & Esteller, M. (2015). An Adenine Code for DNA: A Second Life for N6-Methyladenine. Cell, 161(4), 710–713. DOI:10.1016/j.cell.2015.04.021.

上記のミニレビューはどうやら以下の3つの論文を軸に論を展開しているようです。
緑藻(クラミドモナス)→Fu, Y., Luo, G. Z., Chen, K., Deng, X., Yu, M., Han, D., Hao, Z., Liu, J., Lu, X., Doré, L. C., Weng, X., Ji, Q., Mets, L., & He, C. (2015). N6-Methyldeoxyadenosine Marks Active Transcription Start Sites in Chlamydomonas. Cell, 161(4), 879–892. doi:10.1016/j.cell.2015.04.010.

ワーム(カエノラブディティス・エレガンス:C. elegans)→Greer, E. L., Blanco, M. A., Gu, L., Sendinc, E., Liu, J., Aristizábal-Corrales, D., Hsu, C-H., Aravind, L., He, C., & Shi, Y. (2015). DNA Methylation on N6-Adenine in C. elegans. Cell, 161(4), 868–878. doi:10.1016/j.cell.2015.04.005.

ハエ(ショウジョウバエ)→Zhang, G., Huang, H., Liu, D., Cheng, Y., Liu, X., Zhang, W., Yin, R., Zhang, D., Zhang, P., Liu, J., Li, C., Luo, Y., Zhu, Y., Zhang, N., He, S., He, C., Wang, H., & Chen, D. (2015). N6-Methyladenine DNA Modification in Drosophila. Cell, 161(4), 893–906. doi:10.1016/j.cell.2015.04.018.

精神医学の分野においてもエピジェネティクスへの関心は高く、論文の出版が続いています。今回は不安障害児のセロトニン関連遺伝子の発現の変化が認知行動療法の予後が良かった群と悪かった群とで異なるという論文です。

Roberts, S., Lester, K. J., Hudson, J. L., Rapee, R. M., Creswell, C., Cooper, P. J., Thirlwall, K. J., Coleman, J. R., Breen, G., Wong, C. C., & Eley, T. C. (2014). Serotonin tranporter methylation and response to cognitive behaviour therapy in children with anxiety disorders. Translational Psychiatry, 4, e444; doi:10.1038/tp.2014.83.

★概要

○手続き

研究参加者は116人の不安障害児(不安症児)。平均年齢は9歳(範囲6~13歳)。男児が51.7%。オーストラリアのシドニーが88人、イギリスのレディングが28人。

主診断の不安障害の内訳は全般性不安障害が48.3%、特定恐怖症が17.2%、分離不安障害が13.8%、社交不安障害(社会不安障害)が12.1%、強迫性障害が7.8%、パニック障害/広場恐怖症が0.9%。

*不安障害の診断は不安障害面接基準DSM-IV:子供・親バージョン(Anxiety Disorders Interview Schedule for DSM-IV: child and parent versions:ADIS-Ⅳ-C/P)による。なお、DSM-5から強迫性障害は不安障害でなくなった点に注意が必要です。

治療は主診断の不安障害に対する認知行動療法。個人認知行動療法が81.9%、集団認知行動療法が7.8%、指導付きセルフヘルプが10.3%。フォローアップは6か月後。

綿棒による口内からのDNA採取は治療前と治療後。フォローアップ後はDNAサンプルの採取をせず。セロトニントランスポーター遺伝子プロモーター上流領域に注目。6つのCpG部位を調査。

○結果

主診断の不安障害で寛解率は治療後で48.3%、追跡後で70.7%。副診断も含めたすべての不安障害の寛解率は治療後で29.3%、追跡後で51.7%。寛解群と非寛解群で人口統計学的違いは検出されず。

主診断の不安障害:追跡後に治療反応性があった群は治療前から治療後にかけてセロトニントランスポーター遺伝子プロモーター領域のメチル化率が4番目のCpG部位で1.1%増加し、無反応者は同部位のメチル化率が5.9%減少していました(p=.037,d=0.499)。ただし、6つのCpG部位をすべて平均化すると有意傾向にとどまりました(p=.059,d=0.395)。また、治療後から追跡後の6か月間に症状の軽快が続いた群と軽快がない/再燃(悪化)した群とでCBT前後のメチル化率の変化に有意差が検出されました(p=.003,d=0.591)。

副診断も含めたすべての不安障害:追跡後に治療反応性があった群となかった群で治療前から治療後にかけてのセロトニントランスポーター遺伝子プロモーター領域のメチル化率の変化に違いが検出されました。全領域を平均化するとd=0.554(p=.004)で、4番目のCpG部位に限定すると反応群はメチル化率が平均して3.48%高まり、無反応群はメチル化率が5.44%減少しました(p=.002,d=0.65)。

主診断だけでも副診断を含めても、治療反応性の有無をCBT後の状態から判断すると、メチル化率の変化に群間差はありませんでした⇒認知行動療法の効果を追跡後で検証しなければ、メチル化率の変化に違いが検出されない。

また、集団全体では治療前のDNAメチル化率と治療後のDNAメチル化率に有意差は検出されませんでした。さらに年齢や性別、治療場所(シドニー vs. レディング)によってDNAメチル化率の変化に違いはありませんでした。

★コメント

以上をまとめると

・認知行動療法(CBT)終了後の寛解状態の有無はCBT中(CBT前からCBT後)のセロトニントランスポーター遺伝子プロモーター領域のメチル化率の変化と関連しない。しかし、6ヵ月の追跡後に治療反応があった群はCBT中に同遺伝子のメチル化率が増加し、反応なしだった群はメチル化率が減少。

・特に4番目のCpG部位で顕著。

・CBT終了後から追跡後の6か月間に症状の軽快が続いた群と軽快がない/再燃(悪化)した群とでCBT中のメチル化率の変化に有意差


となります。

集団全体では治療前のDNAメチル化率と治療後のDNAメチル化率に有意差はありませんでした。しかし、6か月の追跡後に治療応答性があった群となかった群を比較すると、有意差が検出されました。したがって、本論文で報告されたセロトニントランスポーター遺伝子メチル化の群間差は認知行動療法を受けたことそのものではなく、その効果が追跡後まで持続しているかどうかを反映していると考えられます。

治療終了後の寛解状態から反応者と無反応者に群分けすると、メチル化率の変化に群間で有意差は検出されず、追跡後の寛解状態から群分けした場合のみ有意差が検出されました。このことは認知行動療法の効果が先に生じ、次にメチル化率が変化するのではなく、治療中に生じたメチル化率の変化が先行し、次に認知行動療法の効果(の持続)が伴う可能性を示唆します。治療終了後から追跡後の6か月間に症状の緩和が続いた群と緩和がない/再燃(悪化)した群とで、治療開始前から終了直後のメチル化率の変化に有意差があったのもこの考え方を支持します。

どうせなら心理療法を何も受けない不安障害児との比較も実施してほしかったですが、論文として出てしまった以上は仕方ありません。今後の検討が望まれます。

過去にはメチル化ではなく、5HTTLPR(セロトニントランスポーター遺伝子多型)が不安障害児の認知行動療法の予後を予測するという先行研究(Eley et al., 2012)が出版されていたので、遺伝子型の統制が欲しかったです。興味深いことにリンク先の先行研究(Eley et al., 2012)でも本研究と同様、治療直後では5HTTLPRの違いが反応者と無反応者で生じず、追跡後に初めて現れています。

NGF(神経成長因子)の遺伝子多型も認知行動療法終了直後では寛解児と非寛解児の違いが検出されず、追跡後だけ有意差が生じるという報告(Lester et al., 2012)があります。もしかしたら、NGFメチル化も関与しているかもしれません。

成人の社交不安障害では認知行動療法の後にスピーチ中の扁桃体、海馬の血流量の減少が報告されています(Furmark et al., 2002)。この変化にエピジェネティクスが関与している可能性があり、DNAメチル化の変化と脳機能の変化を同時に調査しなければなりません。事実、11~15歳の児童青年でセロトニントランスポーター遺伝子のSLC6A4のプロモーター領域のメチル化率が怒り表情+恐怖表情への左扁桃体活動を予測するという実験結果(Nikolova et al., 2014)があり、DNAメチル化と脳機能は関連していると考えられます。

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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