神経症傾向が高くてもSSRIを7日間服薬すると顔を見るようになる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は神経症傾向についての論文です。不安に関する論文ではありませんが、神経症傾向は抑うつや不安のリスクですし、なにより実験結果が興味深いのでとりあげることにします。なお、神経症傾向とはストレッサーに対して情動的に過敏に反応する傾向のことです。

*恥かしいことに、いままで神経症傾向を神経質傾向だとばかり思っていました。2つの言葉が性格心理学の世界で混在していることに最近気づいた次第です。私の手元にある東京大学の丹野義彦教授著『性格の心理―ビッグファイブと臨床からみたパーソナリティ(コンパクト新心理学ライブラリ)(サイエンス社)』では性格の5因子(ビッグファイブ)モデルの第4次元として神経症傾向(Neuroticism)という言葉を使っており、本記事ではそれにのっとって、神経症傾向と翻訳することにします。なお、性格の5因子モデルとは性格を5つの因子によって説明できるとする理論のことです。その5因子とは外向性、神経症傾向(情緒不安定性)、勤勉性、協調性、開放性です。丹野義彦教授は臨床心理士という肩書もお持ちのようです。


Di Simplicio, M., Doallo, S., Costoloni, G., Rohenkohl, G., Nobre, A. C., & Harmer, C. J. (2014). ‘Can you look me in the face?’ Short-term SSRI Administration Reverts Avoidant Ocular Face Exploration in Subjects at Risk for Psychopathology. Neuropsychopharmacology, 39(13), 3059–3066. doi:10.1038/npp.2014.159.

★概要

○実験1

うつ病既往歴がある人を除外するなどして、最終的に44人のデータが解析されました(平均年齢30歳)。神経症傾向が低い人が24人(男性10人)、神経症傾向が高い人が20人(男性7人)。

*神経症傾向はアイゼンク性格検査(Eysenck Personality Questionnaire:EPQ)で評定。

実験は性別弁別課題。500ms呈示される顔の性別を判断させました。表情は中性(無表情)、恐怖、幸福の3種類で、強度は30%、60%、100%の3種類。

課題中の眼球運動の計測は赤外線アイトラッキング(infrared eye-tracking)を使用。指標は眼球停留(eye fixation)、注視軌跡(scanpath)、走査時間(scanning time)、視線保持(gaze maintenance)。これらの指標の分析は表情強度ごとにせず、全体を平均化。

本実験での眼球停留とは注視する頻度のこと。注視軌跡とは視線の総移動距離のこと。走査時間とは視線が動いている時間のこと、視線保持とは口や目などの顔パーツあるいは顔全体を1試行全体で何秒間見ていたかということ。

その結果、低神経症傾向群と比較して、高神経症傾向群は目を見る時間が短く、口を見る時間が長くなりました(表情の種類や強さは関係なし)。なお、顔全体に対する眼球運動に群間差は検出されていません。

また、高神経症傾向群で敵意が強いほど幸福表情や恐怖表情の目を見る時間が短くなりました。

*敵意は視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale:VAS)で課題実施前に評価。

○実験2

神経症傾向が高い人だけ参加。うつ病の既往歴がある人を除外するなどして、最終的にデータ解析に用いられた参加者は33人(男性が20人,平均年齢24歳)。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のシタロプラム(セレクサ)を服用した群が16人(男性10人)。プラセボ(偽薬)群が17人(男性10人)。服薬量は20mgで、服薬期間は1週間。

性別弁別課題と眼球運動の記録は実験1と同じ。実験1と異なるのは表情認知課題を実施した点。表情認知課題では500ms呈示された顔の表情を回答。表情強度は10~100%。指標は表情認知に必要だった表情レベルの閾値。表情認知課題では眼球運動の記録はなし。

*手続きの箇所に表情認知課題で用いた表情の種類に関する記述がありませんでした。しかし、結果を読むとポジティブ表情(幸福と驚愕)とネガティブ表情(悲しみと怒りと恐怖)への言及があります。

実験2の結果、プラセボ群よりもシタロプラム群はポジティブ表情(vs. ネガティブ表情)を認知するのに必要な表情レベルが低くなりました。

プラセボ群と比較してシタロプラム群は顔の全領域を見る時間が長くなり、これは表情の種類や強さとは無関係でした。また、目や口を見る時間もシタロプラム群の方が長くなりました。

注視軌跡は中程度の強さの表情で最も距離が長くなりました(vs. 弱い/強い表情強度)。ただし、群と表情強度の交互作用を調べると、プラセボ群でのみ中程度の表情強度の顔刺激の注視軌跡が長くなりました。また、プラセボ群と比較してシタロプラム群は中程度の恐怖表情の注視軌跡が短くなりました(有意傾向)。

走査時間では表情の種類や強さとは関係なく、シタロプラム群の方が長くなりました(vs. プラセボ群)。

恐怖表情での性別弁別成績と走査時間に正の相関関係。恐怖表情での性別弁別成績と注視軌跡の距離に負の相関関係。

幸福表情の認識に必要な表情レベルの閾値と幸福表情の顔全体への視線保持時間に負の相関関係。幸福表情の誤分類数と幸福表情の顔全体への視線保持時間・走査時間に負の相関関係。

★コメント

以上をまとめると

・性別弁別課題で、神経症傾向が低い群と比較して神経症傾向が高い群は目を見る時間が短く、口を見る時間が長い。これは表情が中性でも恐怖でも幸福でも同じで、表情レベルによる差もない。

・高神経症傾向群は敵意が強いほど幸福/恐怖表情の目を見る時間が短い

・神経症傾向が高い人がSSRIのシタロプラムを7日間服用すると、ポジティブ表情(vs. ネガティブ表情)を認知するのに必要な表情レベルが低下

・神経症傾向が高い人はシタロプラム服用で目や口、さらには全体的な顔を見る時間が長くなり、顔の上を視線が移動する時間も増加。これに表情の種類や強さによる差はない。

・神経症傾向が高い人は性別弁別課題で、恐怖表情の上を視線が移動する時間が長く視線の総移動距離が短いほど性別の区別が得意

・神経症傾向が高い人は、性別弁別課題で幸福表情の顔全体を見る時間が長いほど、表情認知課題で幸福表情の認識に必要な表情レベルが低い。また、幸福表情の顔全体を見る時間が長く、視線を動かす時間が長いほど、幸福表情を正しく認識できる


ということになります。長ったらしく、全然まとめになっていませんね(笑)。なお、論文にはSSRIの効果はムードや不安の変化が起きていないのに生じたと書かれています。この点に関して本文中にはNatureのホームページに載せたSupplemental Materials(補足資料)を見ろということで詳述されていませんが、SSRIの効果発現には2~4週間は必要といわれていることと符合します。

この類の論文にはSSRI服用後の表情処理、表情認知の変化が症状の改善に貢献していると考えられるというようなことが書かれていることがありますし、今回の論文もそうでした(しかも、SSRI投与で顔を見るようになることから、抗うつ薬は認知行動療法での暴露療法と同じメカニズムで効果を発揮する可能性にまで言及されています)。実際、今回の実験ではムード・不安の変化が起きていないにもかからわず、表情処理、表情認知に変化が生じました。しかし、それはあくまで推測にしかすぎません。本当にSSRI服用後の表情処理、表情認知の変化が不安症状や抑うつ症状の改善に寄与しているかどうかを検証する実験を設計する必要があります。ただ、この推測が確からしいならば、SSRIを服用しなくても表情処理、表情認知の訓練で抑うつ症状や不安症状の改善を促すプログラムが開発できそうな予感がします。注意バイアス修正トレーニングはその一種といえるかもしれません。

*注意バイアス修正トレーニングに関しては「ネガティブ表情から笑顔を見つける訓練で社会恐怖が低下」、「注意バイアスはトップダウンで修正可能」、「スマートフォンで注意バイアス修正訓練→社会不安が減少?」などの記事を参考のこと。

実験2では眼球運動と表情認知能力の関係が結果としてでてきましたが、これはあくまで相関関係です(論文中には回帰分析の結果もありますが、回帰分析は因果関係を意味するものではなく、予測のための分析です)。私が読んだ論文の中で視線の向け方と表情認知能力との間の関係に因果関係があることを最も説得力をもって実証したのは「扁桃体損傷患者SMに恐怖の表情を認識させる方法」という記事で書いた論文です。もっとも恐怖表情についてだけ因果関係が示唆されたということですが…。

本実験では不安やムードの変化なしにSSRI服用で表情への視線の動きや表情認知が変化しました。もし仮に神経症傾向が高い人が1週間以上SSRIを服用して、不安やムードに変化が起きるならば、表情処理・表情認知の変化が先行し、次に心理的変化が生じるということになります。SSRIは抗うつ作用・抗不安作用を発揮するのに時間がかかりますが、もしかしたらこのようなメカニズムが関係しているのかもしれません。ここで、興味が出てくるのは抗うつ薬のケタミン(ケタラール)の効果です。ケタミンは即効性の抗うつ薬で、24時間以内にうつ症状の軽減が生じたり、あるいは低用量でも2時間以内に効果を発揮するなどと言われています。効果が現れるのに時間がかかるSSRIと同じようにケタミンが表情処理・表情認知に影響するかどうか気になります。なお、私の知る限り、ケタミンに抗不安作用があるかどうか直接調べた臨床試験はほとんど皆無に近いです。

実験2の結果はあくまでも神経症傾向が高い人のものです。仮に神経症傾向が低い人がシタロプラムを服用したとしても同じ結果になる保証はありません。ただ、健常者を対象とした実験でも、SSRI/NARI(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)の7日間服薬で怒りや恐怖などのネガティブ表情を認知する能力が低下するといった結果(Harmer et al., 2004)が報告されていますから、神経症傾向が低い人でも同様の効果が生じる可能性は十分あります(臨床上は意味のないことかもしれませんが…)。

実験2の表情認知課題でポジティブ表情に驚愕表情が含まれているのに疑問を覚えました。というのも、驚きの表情はポジティブにもネガティブにも解釈できる曖昧な表情だとされているからです。事実、子供の頃は驚愕表情をネガティブに評価する一方で、青年は驚きの表情をポジティブに評定するという実験結果(Tottenham et al., 2013)が報告されています。

シタロプラムの服用は7日間でした。一般に急性投与のSSRIは不安を高め、慢性投与をしてから抗不安作用を発揮するといわれています。事実、SSRIのシタロプラムを静脈投与した女性は笑顔だけでなく、恐怖表情に対する認知力も高まる(Harmer et al., 2003)という研究報告があります。また、健康な女性でもSSRIのエスシタロプラムを21日間服薬すると、恐怖/怒り表情に対する扁桃体の活動が低下(Arce et al., 2008)しますし、社交不安障害(社会不安障害)患者でも、シタロプラムを9週間服用し症状が寛解すると、スピーチ中の扁桃体や海馬の血流量が減少(Furmark et al., 2002)します。しかし、シタロプラムの急性投与(ここでは静脈投与)は逆に憤怒・恐怖・驚愕の表情を用いた課題で扁桃体の興奮を促進(Bigos et al., 2008)します。したがって、急性投与だと少なくとも一部は逆の結果になりそうです。

関連記事⇒SSRIの慢性服用でネガティブな感情が減少、協力的になる

メリーランド州ボルチモアに本部があるジョンズ・ホプキンス大学の研究チームの論文(Rahn et al., 2015)によれば、げっ歯類(ネズミ)の実験でSSRIのフルオキセチン(プロザック)の急性投与によるネガティブな影響(不安様行動の高まり)がセロトニン(5-HT)1A受容体のアンタゴニスト(拮抗薬)であるWAY-100635との共投与で防止できたとのことです。しかし、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(NERI)のレボキセチン(ナリボックス,ジェネリック医薬品だとベスプラ)投与マウスではWAY-100635の効果がありませんでした。つまり、SSRIの急性投与による不安(様行動)の高まりはセロトニン1A受容体アンタゴニストの投与によって予防できる可能性が動物実験で確認されているのです。SSRIの副作用?を薬で凌ぐというまさに多剤処方につながるような実験です(笑)←笑いごとじゃないぞ!

*マウスの不安様行動試験は高架式十字迷路テスト(Elevated Plus Maze test,EPM試験)で実施。

しかしながら、セロトニン1A受容体アンタゴニストの処方は小児には許可されていないそうです。なので、Rahn et al. (2015)は別の調査を実施しています。その結果、半減期が長い抗うつ薬は自殺関連事象(衝動的行動や自殺念慮・希死念慮のことかな?)が生じにくいことが示唆されました。調査した抗うつ薬の中で最も半減期が長いのはフルオキセチンでした。なお、児童青年の自殺念慮?希死念慮?(suicidal ideation)ではフルオキセチンが最もリスクが少ないSSRIとして知られています。

○引用文献(つまみ食いしました)
Rahn, K. A., Cao, Y. J., Hendrix, C. W., & Kaplin, A. I. (2015). The role of 5-HT1A receptors in mediating acute negative effects of antidepressants: implications in pediatric depression. Translational Psychiatry, 5, e563; doi:10.1038/tp.2015.57.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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