社交的でシャイな大学生と非社交的でシャイな大学生の違い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

1980年代にはすでにシャイネスと社交性は関連性はあるものの、シャイだからといって社交性が低いとは限らないことが示唆されていました。つまり、シャイな人にも社交性が高い人や社交性が低い人が存在するわけです(抽象的に書くと、シャイネスと社交性は独立しているという表現になります)。この知見は1980年代以降でも数々の研究で繰り返し示されてきた再現性の高い結果です。

ドイツのフンボルト大学ベルリンの心理学者、ジェンス・アセンドルフ教授(Prof. Jens B. Asendorpf)の以下の図式が比較的有名でしょうか。


シャイネス(回避)
社交性(接近)
高い低い
高い葛藤社交的
低い回避的内向的

Matsuda et al. (2013)によると、この図式は以下の文献によります(←孫引き)。また、マックマスター大学心理学のルイス・A. シュミット助教授(現在は教授)とジョージタウン大学のジェイ・シュルキン教授(生理学/生物物理学)が編集した『Extreme Fear, Shyness, and Social Phobia (Series in Affective Science)(オックスフォード大学出版局)』という本にもこの図式が登場します(なお、この本は『社会不安障害とシャイネス―発達心理学と神経科学的アプローチ』という翻訳書が日本評論社から出版されています)。
・Asendorpf, J. B. (1990). Beyond social withdrawal: Shyness, unsociability, and peer avoidance. Human Development, 33(4-5), 250-259. doi:10.1159/000276522.
・Asendorpf, J. B. (1990). Development of inhibition during childhood: Evidence for situational specificity and a two-factor model. Developmental Psychology, 26(5), 721-730. doi:10.1037/0012-1649.26.5.721.

シャイネス(社会的回避動機づけ)×社交性(社会的接近動機づけ)の4類型はそれぞれリスクの高い精神病理が異なっているとされます。不安リスクが高いのはシャイネスと社交性がともに高い葛藤型です。これは不安が接近と回避の葛藤に起因するからと考えられています。今回取り上げる論文の序論によれば、物質使用や物質乱用のリスクが高いのも葛藤型で、抑うつや孤独感のリスクが高いのは回避型(シャイネスが高いが、社交性が低いタイプ)だそうです。

しかし、神経生物学的、脳科学的にシャイネスと社交性という2次元の性格特性の特徴がどの程度分かっているかというと、まだまだ未解明なことが多いそうです。特にコルチゾールの結果は一貫していません。このような現状にかんがみ、シャイネスと社交性の神経生物学的調査が実施されました。

*シャイネスの日本語訳は何が良いのかは難しい問題です。私が少し調べただけでも、内気、恥ずかしがりや、照れ屋、はにかみ屋、人見知り、引っ込み思案といった訳語が出てきます。果たしてどの邦訳が良いのか分からないため、ここでは単にシャイネスと表記します。ネバダ大学ラスベガス校のクリストファー・A・カーニー教授著で立教大学現代心理学部の大石幸二教授監訳の『親子でできる引っ込み思案な子どもの支援(学苑社)』ではシャイネスの日本語訳に「極度の引っ込み思案」というものを当てていますが、研究分野や文脈の微妙な違いによって適切な邦訳が異なると考えられるので、本記事では「極度の引っ込み思案」という訳語は採用しません。


Tang, A., Beaton, E. A., Schulkin, J., Hall, G. B., & Schmidt, L. A. (2014). Revisiting shyness and sociability: a preliminary investigation of hormone-brain-behavior relations. Frontiers in Psychology: Personality & Social Psychology, 5:1430. doi: 10.3389/fpsyg.2014.01430.

★概要

○実験手続き

被験者は大学生24名。内、シャイネスが上位25%のシャイな人が12名(女性5名)、シャイネスが下位25%でシャイレベルが低い人が12名(女性4名)。両者に年齢、性別比の有意差なし。

*シャイネスはCheek & Buss Shyness Scale(チーク&バスシャイネス尺度)で評価。これはCheek, J. M., & Buss, A. H. (1981). Shyness and sociability. Journal of Personality & Social Psychology, 41(2), 330-339. DOI:10.1037/0022-3514.41.2.330.という論文がオリジナルの尺度。実際にはCheek & Buss Shyness and Sociability scales(チーク&バスシャイネスと社交性尺度)といって社交性の下位尺度もあり、これも使用。

朝の唾液採取でコルチゾール濃度を計測。唾液は3日分でストレスフルでない日に採取し、平均値を算出。1日に5回採取。その5回とはベースライン(目が覚めたけどベッドから抜け出ていない時間帯)、起床後60分経過時、午後(起床後8時間経過時)、夕暮れ時(起床後10時間経過時)、就寝時間。 これらのデータからコルチゾール起床反応(CAR,cortisol awakening response)を計算。

ここでのコルチゾール起床反応とはベースラインのコルチゾール濃度と起床後60分経過後のコルチゾール濃度の差のこと。コルチゾールは起床後に最も濃度が高く、徐々に低下していくことが知られています。本研究では3日間のコルチゾール濃度の平均値を指標としました。一応書いておきますが、コルチゾールとはストレスホルモンと呼ばれるホルモンのことです。コルチゾールは糖質コルチコイド(グルココルチコイド)に分類されます。糖質コルチコイドは副腎皮質から分泌される副腎皮質ホルモンの一種です。ストレス反応にはHPA軸(HPA系)という視床下部-脳下垂体-副腎皮質系が関わり、コルチゾールもHPA軸を構成します。視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH,Corticotropin-Releasing Hormone)が分泌されると、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH,AdrenoCorticoTropic Hormone)の分泌が促進されます。ACTHは副腎皮質を刺激し、コルチゾールの分泌を促すという流れになります。

脳イメージングの実験はfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で実施。表情写真は怒りと中性(無表情)を使用。顔刺激はペアで呈示。一致試行では怒り-怒りペアを、不一致試行では怒り-中性ペアを呈示。2つの表情が同じ表情か違う表情かの判断を要請。顔刺激の呈示時間は2,700ms。

○結果

コルチゾールと脳活動(BOLD信号)の関係の分析については部分最小二乗法解析(Partial Least Squares Analysis:PLS分析・PLS解析)という方法を用いていました。残念ながら私には何のことだかさっぱりわからない統計解析法でした。インターネットのサイトを参考にするとPLS解析とは計量化学の分野で開発された回帰分析手法のことらしいです。重回帰分析とは異なり、PLS解析はスコア(潜在変数・成分)への回帰を行う点が特徴的だとか。本論文では行動PLS解析(Behavioral Partial-Least Squares Analysis)という言い方もされています。特異値分解(Singular Value Decomposition:SVD)が云々という話も登場します。

ともかく、PLS解析の知識はほとんどないのですが、論文から読み取れることを以下に記します(こんなことして大丈夫でしょうかね)。ただし、コルチゾールと社交性の関係の分析はカイ二乗検定(χ2乗検定)でした。カイ二乗検定の際にはCheek & Buss(1981)の社交性得点およびコルチゾール起床反応を中央値分割しました。

脳活動(BOLD)とコルチゾール起床反応の関係は高シャイ群でのみ有意で、低シャイ群では有意な相関が検出されませんでした。高シャイ群での脳活動とコルチゾール起床反応の相関は試行が怒り-怒りペア(r=-0.69:95%信頼区間は-0.94~ー0.67)でも、怒り-中性ペア(r=ー0.72:95%信頼区間はー0.97~ー0.72)でも生じました。ちなみに低シャイ群の相関係数rは怒り-怒りペアでー0.29(95%信頼区間ー0.89~0.16)、怒り-中性ペアでー0.07(95%信頼区間ー0.71~0.44)。

以下はシャイネスが高い人の中での脳活動の違いです。

・シャイネスが高くコルチゾール起床反応が強い群と比較して、シャイネスが高くコルチゾール起床反応が弱い群は表情課題で左扁桃体や右後帯状皮質、島皮質、両側下前頭回、内側前頭回、中前頭回が賦活。

・シャイネスが高くコルチゾール起床反応が低い群と比較して、シャイネスもコルチゾール起床反応も高い群は両側吻側前帯状皮質が賦活。

シャイネスが高い群は12人でしたが、その内コルチゾール起床反応が高かったのは6人、低かったのは6人でした。カイ二乗検定によると、シャイでコルチゾール起床反応が高かった人の全員が社交性が高くなり、シャイでコルチゾール起床反応が低かった人の全員が社交性が低くなりました(両群に社交性レベルの有意差あり)。

高シャイ群全体では社交性が低くなりました(vs. 低シャイ群)。しかし、コルチゾール起床反応が高くシャイな群はシャイネスが低い群と社交性が同等でした。

★コメント

以上をまとめると

・シャイネスが高い人だけ、脳活動とコルチゾール起床反応が相関し、これは顔刺激が怒り-怒りペアか怒り-中性ペアかを問わない。シャイネスが低いと表情課題での脳活動とコルチゾール起床反応には有意な関係が検出されない。

・シャイネスが高いという共通性があってもコルチゾール起床反応の高低によって怒り顔を用いた表情課題での脳活動が異なる。シャイでコルチゾール起床反応が低いと左扁桃体や右後帯状皮質、島皮質、両側下前頭回、内側前頭回、中前頭回が興奮。一方、シャイでコルチゾール起床反応が高いと両側吻側前帯状皮質が活発に。

・シャイでコルチゾール起床反応が低いと非社交的で、シャイでコルチゾール起床反応が高いと社交性が高く、シャイネスが低い群と社交性が変わらない。


ということになります。論文ではシャイな人の朝のコルチゾールの分泌が脳に作用し、社交性に影響するというようなことが議論されていますが、さてどうだか。本研究で示唆されたのはあくまで関連性であって、因果関係ではありませんからね。理論上はそうかもしれませんが、実証主義者の私からすると説得力に乏しいです。脳-コルチゾールが「素因(diathesis)」となってそれぞれ特有の精神病理のリスク因子となるという主張もされていますが、これも同様で推測でしかありません(これは論文著者自身も認めていることです)。

ストレスホルモンと呼ばれることからコルチゾールの分泌が少ない方が良いと思う方もおられるかもしれません。しかし、コルチゾールは生理的に1日の活動を準備する機能を持っているとされます。なので、今回のようにコルチゾール起床反応が高い方がその日の社会生活への準備をしている(≒社交性が高い)と考えられます。あるいは社交性が高いシャイな人はこれから始まる1日という(心理社会的)ストレッサーによってコルチゾールが分泌されているとも考えられます。なにせ大学生ですから、友人関係や教授陣との関係、アルバイトなどシャイな人にとっては日常生活でも結構ストレスになるかもしれません。

慢性的なコルチゾール暴露の悪影響も考慮する必要がありますね。長期間のコルチゾール暴露は海馬の委縮をもたらします。なので、シャイな大学生の中で社交性の高低により海馬体積に差がでるかどうか検証してみる価値はあります。

論文には、シャイで非社交的な大学生のコルチゾール起床反応の弱さはストレスへの適応の結果だという解釈も記されています。いわゆる、ネガティブフィードバック制御というやつです。ただ、これは社交性が高いシャイな大学生でなぜネガティブフィードバック制御が起きていないのか?(あるいは起きていたとしても社交性が低いシャイ群よりも効果が小さいのか?)という点を説明していません。

シャイでコルチゾール起床反応が高いと社交性が高かったのですが、脅威表情を用いた課題での吻側前帯状皮質の活動も活発になっていました。前帯状皮質はコンフリクト(葛藤)モニタリングに関与しているとされ、まさに冒頭に述べた4類型で接近-回避の葛藤型とされたことと一致します。ただ、前帯状皮質には下位領域があり、それぞれ機能が異なるとされます。事実、社交不安障害(社交不安症)への認知行動療法+注意バイアス修正トレーニングの予後1年の予測は腹側前帯状皮質の活動ではなく、背側前帯状皮質の活動で可能だという研究(Månsson et al., 2015)があります。吻側の機能はどうだったのか、文献を探してみないとダメですね(本論文には少し手がかりが書かれてあります)。

○限界&注意点

シャイネスが低い人を入れてもサンプル数は大学生24人と決して多いとは言えないのに、12人のシャイな大学生をコルチゾール起床反応が高かった群とコルチゾール起床反応が低かった群の2つに分けるという荒っぽい統計解析でした。たしかにコルチゾール起床反応レベルの高低で表情課題での脳活動や社交性レベルに違いがある(かもしれない)という結果は興味深いものですが、いかんせんサンプルが少なすぎます。サンプル数を増やして似たような結果がでれば、もっとIF(インパクトファクター)が高いジャーナルに載るような気がします。縦断的研究法を用いればなお良いです。

シャイネスは上位25%、下位25%の集団で、社交性の分類は中央値分割であり、少し方法が異なるので、一口にシャイネスが高い(低い)、社交性が高い(低い)といってもその意味するところは微妙に異なる点に注意が必要です(←やたら細かいツッコミ)。

○引用文献
Matsuda, Y-T., Okanoya, K., Myowa-Yamakoshi, M. (2013). Shyness in Early Infancy: Approach-Avoidance Conflicts in Temperament and Hypersensitivity to Eyes during Initial Gazes to Faces. PLoS ONE, 8(6): e65476. doi:10.1371/journal.pone.0065476.
この論文は埼玉の国立研究開発法人科学技術振興機構創造科学技術推進事業(ERATO,Exploratory Research for Advanced Technology)岡ノ谷情動情報プロジェクトの松田佳尚特任准教授(同志社大学赤ちゃん学研究センター)、岡ノ谷一夫教授(東京大学大学院総合文化研究科)、明和政子教授(京都大学大学院教育学研究科)が共同執筆者となっていますが、以下の科学技術振興機構(JST)のリンク先から概要を読むことが可能です(2015年6月12日現在)。なお、松田佳尚特任准教授と岡ノ谷一夫教授は理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI,RIKEN Brain Science Institute)情動情報連携研究チームの一員です。

赤ちゃんの「人見知り」行動 単なる怖がりではなく「近づきたいけど怖い」心の葛藤(JSTトップ > プレス一覧 > 共同発表)(URLはhttp://www.jst.go.jp/pr/announce/20130606/)

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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