日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   社交不安(社会不安)に関する興味深い研究  »  日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

ここでは、社交不安(障害)の最新の研究成果を取り上げます。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は日本語版の褒められ恐怖尺度(Fear of Positive Evaluation Scale)が翻訳、開発されたという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒心から許すとマナー違反者を表す形容詞を忘れるようになる
↑水に流すという意味の英語イディオムとして「forgive and forget(許して忘れよ)」という表現がありますが、それと呼応する実験結果になります。

前田香・関口真有・堀内聡・Weeks, J. W., 坂野雄二(2015). Fear of Positive Evaluation Scale日本語版の信頼性と妥当性の検討 不安症研究, 6(2), 113-120. doi:10.14389/jsad.6.2_113.
英語表記:Maeda, K., Sekiguchi, M., Horiuchi, S., Weeks, J. W., & Sakano, Y. (2015). Reliability and Validity of a Japanese Version of the Fear of Positive Evaluation Scale. Anxiety Disorder Research, 6(2), 113-120. doi:10.14389/jsad.6.2_113.

富山大学大学院医学薬学研究部神経精神医学講座所属、心理学・認知神経科学教室の前田香技能補佐員、北海道医療大学大学院心理科学研究科の関口真有氏(臨床心理士)、岩手県立大学社会福祉学部の堀内聡講師、オハイオ大学心理学部のジャスティン・W・ウィークス准教授(Assistant Professorだから直訳は助教授だけど…)、北海道医療大学心理科学部の坂野雄二教授による論文です。

○背景と目的

近年、社交不安と肯定的評価恐怖に関連性があることが分かってきています。しかし、これまで日本語では肯定的評価恐怖を測定する尺度がありませんでした。一方、英語版には肯定的評価恐怖尺度(Fear of Positive Evaluation Scale:FPES)という1因子8項目の自記式尺度があります。英語版は内的整合性や再検査信頼性、収束的妥当性、弁別的妥当性、増分妥当性、交差妥当性、構成概念妥当性を確認済みです(詳細は「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?」を参考のこと)。なので、FPESを翻訳し、その信頼性や妥当性をチェックすることを目的としました。

○方法

私立大学の学生324名(男性114名,女性209名,性別無記入1名)のデータを分析(ただし、再検査信頼性の検討は49名)。平均年齢は20.32±2.90歳。

FPES日本語版は10項目ですが、逆転項目が2つあり、それらは得点算出に使用しませんでした。これはオリジナル版と同様の処置です。10件法で0(全く当てはまらない)~9(とても当てはまる)の範囲で行いました。

FPES日本語版の収束的妥当性は日本語版社会的相互作用不安尺度(Social Interaction Anxiety Scale:SIAS)と日本語版否定的評価恐怖尺度(Fear of Negative Evaluation Scale:SFNE)で検証。

FPES日本語版の弁別的妥当性は日本語版DSM-IV用全般性不安症質問紙(Generalized Anxiety Disorder Questionnaire for DSM-IV:GADQ-IV)と日本語版ペン状態心配質問票(Penn State Worry Questionnaire:PSWQ)、日本語版ベック抑うつ質問紙-Ⅱ(Beck Depression Inventory-II:BDI-II)で検証。

再検査信頼性の期間は5週間。統計分析は確認的因子分析など。

○結果

・FPES日本語版の内的整合性と8項目1因子のモデル適合度が高かった。

・FPES日本語版の合計得点は正規分布。得点に性差なし。

・5週間の再検査信頼性および、収束的妥当性、弁別的妥当性、増分妥当性は原版と同程度。

○コメント

日本語版FPESは構成概念妥当性の内の因子的妥当性が保証されなかったようで、今後の検討課題となります。また、本研究はあくまで大学生を対象としたものです。海外ではすでに大学生(Weeks et al., 2008a)以外にも、社交不安障害(Fergus et al., 2009; Weeks et al., 2012a)や14~17歳の青年(Lipton et al., 2014)で研究が進められており、日本語圏での調査は遅れています。

本論文の考察部に原版(Weeks et al., 2008a)では肯定的評価恐怖よりも否定的評価恐怖の方が社交不安に影響したが、日本語版では肯定的評価恐怖の方が影響力が強かったと書かれています。この点に関しては、イランのマハッラート大学の学生を対象とした研究において、社交不安が高い大学生は否定的評価よりも肯定的評価を恐れるという報告(Niquee et al., 2013)と一致します。したがって、欧米諸国では否定的評価恐怖の方が重要だが、イランや日本などア中東・アジア圏では肯定的評価恐怖の方が社交不安への影響が強い可能性があります。文化差の検討が今後の研究課題です(原著論文も比較文化研究の可能性に言及)。

冒頭で述べたように、場面緘黙児は社交不安障害が併発していることが多いか、または社交不安が高い傾向にあります(ただし、現時点では大人の場面緘黙症当事者で社交不安が高いかどうかは不明)。したがって、場面緘黙児でも褒められ恐怖が存在する可能性があり、ぜひ前田香さんらの肯定的評価恐怖尺度を場面緘黙症の研究にも使っていただけたらと思います。

ただし、これよりも優先順位が高い研究事項があります。それは日本語版SMQ-R(場面緘黙質問票)の信頼性と妥当性の確認です。SMQ-Rはかんもくネットが翻訳し、長野大学の高木潤野講師がSMQ-Rを用いた研究(高木, 2015)を発表されましたが、日本語版の信頼性と妥当性を検証した研究はまだ1つも論文になっていません。したがって、SMQ-R日本語版を使用した場面緘黙症研究の質が担保されていないのが現状です。

*かんもくネットによると、SMQ-Rの質問項目はクリストファー・A・カーニー(著)・大石幸二・松岡勝彦・須藤邦彦(訳) (2015). 先生とできる場面緘黙の子どもの支援 学苑社という本に掲載されているそうです。ただし、私は未読のため日本語版SMQ-Rの信頼性や妥当性の検証結果が記述されているのかどうかは確認していません。



なお、FPESの具体的な質問項目(例:人の前で上手くできたら、「上手過ぎる」かどうか気になる)については「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?」をご覧ください。これは私の勝手な日本語訳です。なぜ前田・関口・堀内・Weeks・坂野(2015)に掲載された日本語の質問項目(例:魅力を感じている人から褒め言葉をもらうと不安になるだろう)を記載しないのかというと、そのまま転載するのは気が引けるからです。また、「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?」には英語の原文も載せていますので、オリジナルのFPESもチェックしたい方にはおすすめです。

関連記事⇒社交不安→ポジティブ評価恐怖尺度得点が高い→注意バイアス

前田他(2015)は以下のURLからダウンロードできます(2015年6月7日現在)。サイトはJ-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)のもので、PDFファイルです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsad/6/2/6_113/_pdf

○引用文献
高木潤野(2015). 家庭における場面緘黙児のコミュニケーションの特徴 長野大学紀要, 36(3), 13-21. Permalink:http://id.nii.ac.jp/1069/00023840/.

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP