夜に恐怖が強まるのは暗いからではない | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)、実験方法、実験結果を読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です(今回は考察部も斜め読みしました)。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は夜に恐怖反応が強まるのは暗いからではないという研究です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒暗闇でも目を閉じると体性感覚知覚が敏感になる
↑部屋の電気を点けているか否かに関わらず、目を閉じると体性感覚が敏感になるという実験です。この暗闇実験から視覚情報の遮断ではなく、目を閉じることそのものが体性感覚に影響している可能性が考えられます。また、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)により、目を閉じると脳が視覚処理モードから体性感覚処理モードに切り替わることが示唆されました。ただ、暗闇でも目の順応(暗順応)が働くので、そのあたりはどうなのでしょうか?

Li, Y., Ma, W., Kang, Q., Qiao, L., Tang, D., Qiu, J., Zhang, Q., & Li, H. (2015). Night or darkness, which intensifies the feeling of fear?. International Journal of Psychophysiology, 97(1), 46-57. doi:10.1016/j.ijpsycho.2015.04.021.

重慶市にある中国国務院の中華人民共和国教育部認知性格重点実験室、西南大学心理学部、上海市宝山区のチャイナモバイル(中国移動通信)雲南株式会社、深圳市の深圳大学脳機能心理科学研究所の研究者達による論文です。

○実験手続き

最終的にデータ解析に用いられたのは120人の右利きの女子大生(平均年齢は実験課題によって異なるが、大体22歳ぐらい)。

*右利きかどうかはエディンバラ利き手検査(Edinburgh Handedness Inventory:EHI)で評価。

実験課題は視覚課題と聴覚課題の2つ(被験者内計画,Within-Subjects Design)。実験条件は時間(日中 or 夜)×照明(明るい or 暗い)の4通りで、それぞれ約30人ずつランダムに割り当て(被験者間計画,Between-Subjects Design)。なので、実験課題2種類×実験条件4種類=8通りの実験となります。日中は8:00a.m.から、夜は8:00 p.m.から実験を開始。実験は2月に行われたので、夜8時はお外が真っ暗闇。

視覚刺激は恐怖写真20枚(蜘蛛の写真など)と中性写真20枚。これらはパイロット実験(予備実験)の結果から選別。聴覚刺激もパイロット実験の結果から、恐怖音20種類(悲鳴や叫び声など)と中性音20種類を選別。写真でも音でも中性刺激と比較して、恐怖刺激は恐怖レベルと嫌悪レベルが高く、情動価(Valence)がネガティブでしたが、覚醒度(Arousal)に有意差はありませんでした。

*情動写真は中国感情写真システム(Chinese Affective Picture System:CAPS)から抜粋。情動音は中国感情音システム(Chinese Affective Sound System:CASS)から抜粋。

視覚課題、聴覚課題共に皮膚コンダクタンス反応と心拍数を計測。皮膚コンダクタンス反応の計測は左手の中指の中節骨と薬指の中節骨に装着した皮膚コンダクタンス/ガルバニック皮膚反応センサーから。心拍数の計測は左手の人差し指に装着した血液容積パルスセンサーから。

実験は窓のない防音室で実施。実験パラダイムはoddball(オドボール課題)。オドボール課題とは呈示する2種類の感覚刺激の出現頻度に差をつけ、両者で求める反応を変える課題のことです(オドボールとは変わり者、奇人、変人という意味の英単語です)。このオドボール課題は実験に集中させるために行ったので、詳しい実験手続きを知る必要はないかもしれませんが、以下に書いておきます。

視覚オドボール課題では恐怖画像や中性画像とは別に標準刺激を呈示。標準刺激の出現頻度は60%、恐怖画像、中性画像の出現頻度はそれぞれ20%。標準刺激が出現したら右人差し指での反応を求め、恐怖画像/中性画像が出現したら反応しないように求めました。聴覚オドボール課題では標準刺激としてホワイトノイズを使用(後は視覚オドボール課題とほとんど同じ)。

課題終了後、刺激の情動レベルを9件法で評定。

○実験結果

・実験課題を行う前の自己報告や皮膚コンダクタンス反応、心拍数に群間の有意差なし。

・視覚課題でも聴覚課題でも次のような結果が出ました。すなわち、日中でも夜でも中性刺激よりも恐怖刺激の方が恐怖の評価や皮膚コンダクタンス反応、心拍数が高くなりました。しかし、日中よりも夜の方が恐怖刺激の情動評価や皮膚コンダクタンス反応、心拍数が高まりました(中性刺激では日中と夜の差が有意でない)。これは部屋の照明条件の違いの影響を受けませんでした。

・視覚課題では恐怖写真で皮膚コンダクタンス反応と恐怖評定が相関(r=.191)しましたが、中性写真では有意な相関関係が検出されませんでした。一方、心拍数は中性写真の恐怖評価(r=.242)と恐怖写真の恐怖評価(r=.392)の両方と正の相関関係を示しました。

・聴覚課題ではどの刺激でも皮膚コンダクタンス反応と恐怖評定が有意に相関することはありませんでした。一方、心拍数は恐怖音の恐怖評価と正の相関関係(r=.256)にありましたが、中性音では有意な相関関係が検出されませんでした。

○コメント

これらの実験結果から何が言えるのか?まず、日中よりも夜の方が主観的にも客観的にも恐怖刺激の影響が強まることが示唆されました。これは視覚刺激でも聴覚刺激でも同様で、感覚モダリティに依存しませんでした(ただし、相関関係の分析では感覚刺激の種類によって微妙に結果が異なることに注意)。また、照明条件の影響がどの実験でも確認されませんでした。したがって、夜に恐怖刺激への感受性が高まるのは単に暗いからではなく、時間帯の影響を受けていると考察できます。というのも、もしも単に暗いという理由で恐怖刺激の影響力が高まるのならば、照明を落とせば恐怖刺激の効果が高まるはずなのに、そうはならなかったからです。また、たとえ夜の実験でも実験室を真っ暗にした場合と照明を明るくした場合とで恐怖反応に違いがなかったことから、夜に明るい環境にいても恐怖は高まったままであるといえます。

要するに、夜に恐怖反応が高まるのは暗いからではない、時間帯の影響なのです。もしくは暗闇の影響があるとしても時間帯の影響力よりは弱いと考えられます。最も有力な仮説はサーカディアンリズム(概日リズム)説です。詳しくは知らないのですが、サーカディアンリズムはセロトニンとも関連しているといわれています。神経科学実験には罰感受性の高い人はセロトニンの原料となるトリプトファンを枯渇させると、右扁桃体が恐怖表情(vs.笑顔)に対して興奮するようになる(Cools et al., 2005)選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のシタロプラム(セレクサ)の静脈投与で表情に対する扁桃体の興奮が高まる(Bigos et al., 2008)という研究もあり、仮にセロトニンが概日リズムと関連しているのだとしたら、扁桃体活動も時間帯によって異なるかもしれません。

*サーカディアンリズムとは生物に備わる約24時間周期の変動のことです。生物時計の一種です。サーカディアンリズムは25時間というサイトも見かけますが、実際には24時間を少し過ぎた値(24.18時間)になるそうです。約24時間周期説は以下にあげる論文が出典みたいです。この論文はハーバード大学の病院、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women's Hospital)同大学医学大学院(ハーバードメディカルスクール)、ハーバード大学医学大学院関連の病院、マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学工学応用科学部の研究者達による共同執筆です。サーカディアンリズムの専門家でない私からするといったいどっちやねん!ということになります。

Czeisler, C. A., Duffy, J. F., Shanahan, T. L., Brown, E. N., Mitchell, J. F., Rimmer, D. W., Ronda, J. M., Silva, E. J., Allan, J. S., Emens, J. S., Dijk, D. J., & Kronauer, R. E. (1999). Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker. Science, 284(5423), 2177-2181. DOI: 10.1126/science.284.5423.2177.

他の暗闇論文⇒暗闇で状態不安が高い人は怒り顔の再認記憶が苦手になる
↑日本の心理学研究です。明るい部屋よりも暗闇の部屋で怒り表情が強く感じられるということも示唆されていますね。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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