偽薬はなぜ効くのか? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は偽薬(プラセボ)が社会不安障害に効く条件や理由を主題にした研究をご紹介したいと思います。なお、研究概要は「Genes Determine Whether Sugar Pills Work」(Science Daily)など各種のニュースサイトで把握できます。ですから、英語さえ分かれば私の拙い説明を読んで下さる必要はないと思います。

Furmark, T., Appel, L., Henningsson, S., Åhs, F., Faria, V., Linnman, C., Pissiota, A., Frans, Ö., Bani, M., Bettica, P., Pich, E. M., Jacobsson, E., Wahlstedt, K., Oreland, L., Långström, B., Eriksson, E., & Fredrikson, M.(2008). A link between serotonin-related gene polymorphisms, amygdala activity, and placebo-induced relief from social anxiety. Journal of Neuroscience, 28, 13066-13074.
★概要

8週間のプラセボ治療の前後に脳活動(局所脳血流量)を調べています。ただし、脳活動は、6~8人の聴衆の前で社会不安障害の人がスピーチしている時のものです。また、社会不安障害の人の血液を採取し、DNAの分析も行っています。分析対象となった遺伝子はセロトニントランスポーターに関するものとセロトニン合成に関わる酵素(TPH2)をコードするものの2つです。

なお、セロトニントランスポーター関連遺伝子が短ければ、不安傾向が強いと考えられています。また、セロトニン合成酵素に関する遺伝子については、GG型よりもT型の方が扁桃体の活動が活発であるとの報告があります。

その結果、プラセボで症状が寛解した人はそうでない人よりも両半球の扁桃体の活動が減少していました。また、セロトニントランスポーターが長い人や合成酵素に関わる遺伝子がGG型の人はプラセボ治療後に扁桃体の活動性が低下しました。しかし、短い遺伝子の人やT型の人はそうではありませんでした。

その他様々なことが明らかになっています。

★コメント

この研究のように、本来薬理作用のない偽薬を投与しても、症状の改善がみられることをプラセボ効果といいます。

大まかに言えば、社会不安障害にプラセボ効果が現れることがあるのは扁桃体に作用するからという結果が得られています。ただし、扁桃体の活動性が低下するのはセロトニントランスポーター遺伝子が長く、合成酵素遺伝子がGG型の人です。これがプラセボによる寛解の背景にあるのかもしれません。

研究に協力した参加者は計25名です。これをさらに長い遺伝子を持っている群、短い遺伝子を持っている群などに分け、その群内で検定も行っています。したがって、どうしても標本数が少なくなってしまいます。しかし、プラセボ効果を社会不安障害で生物学的に検証した研究として評価できると思います。

しかし、素人的意見ですが、SSRIで薬物療法を施した結果が「プラセボ効果」によることはないのでしょうか?被治療者は自分が飲んでいる薬がプラセボかどうか分かりません(盲検法)。しかし、プラセボ効果は各人の期待によると考えられ、本物の薬を服用していてもいわば「疑似プラセボ効果」というものがあるのではないでしょうか。

表にしてみると、

SSRIの効果=真の効果+疑似プラセボ効果+個人差+誤差
プラセボ効果=プラセボ効果+個人差+誤差


という感じです。とすると、Stein et al.(2006)の結果を今回の研究と合わせて考えると、SSRIの真の効果が本当に遺伝子に依存するのか、それとも(疑似)プラセボ効果が遺伝子に依存するのか、どちらなのだろうと思ってしまいます。ただ、Stein et al.(2006)は扁桃体には触れていないので、単純比較はできません。

一方、著者は研究の欠点や今後の展望を述べる中で次のように書いています。

It should also be noted that there are probably many types of placebo responses with varying biological underpinnings(Benedetti et al ., 2005), and the current findings on placebo may or may not be relevant for other settings, poulations, and target behaviors.

拙訳
生物学的基盤の違うプラセボ効果が多数存在する(Benedetti et al ., 2005) のはほぼ間違いないことにも注意する必要があり、本研究結果は他の条件、集団特性、標的とする行動にも当てはまるかもしれないし、そうでないかもしれない。

注 文字の装飾は管理人独自のものです。



要するに、過度な一般化は禁物だというわけです。Furmark et al.(2004)のように一人でしゃべる統制条件を加えたり、スピーチ課題ではなく表情を観る課題などを用いた研究が望まれます。もちろん、患者の特性、障害や精神疾患の種類を変えた研究も必要です。ちなみに、表情を観る課題はこの種の研究ではスタンダートなものです。

小難しいことを長々と読んでくださってありがとうございます。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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