色字共感覚者は不安障害があると色が暗く見える | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)、実験方法、実験結果を読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は色字共感覚者が感じる色は感情状態によって変動し、不安障害の有無でも違うという研究です。色字共感覚とは文字や数字に特定の色を感じる能力のことです。英語では色字共感覚をgrapheme-color synesthesia(グラフィーム・カラー共感覚)といいます。書記素色覚という表現方法もあります。共感覚の本には日本共感覚研究会会長の岩崎純一氏の『私には女性の排卵が見える―共感覚者の不思議な世界(幻冬舎新書)(幻冬舎)』やジャーナリストのモリーン・シーバーグ著で和田美樹翻訳の『共感覚という神秘的な世界-言葉に色を見る人、音楽に虹を見る人(エクスナレッジ)』などがあります。どちらも共感覚の人が著者となっています。



特に岩崎純一氏は女性の性周期を共感覚で知ることができる能力を持っています。岩崎氏は女性の生理周期(月経周期)を共感覚を通して色や音によって知覚できる男性ということで、女性にとってはなかなかの難敵です。モリーン・シーバーグ氏は『31歳で天才になった男 サヴァンと共感覚の謎に迫る実話(講談社)』という書籍で強盗になぐられて脳に損傷をおい、共感覚とサヴァン症候群を後天的に獲得したジェイソン・パジェット氏と共著をされています(翻訳は服部由美氏です)。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒妊婦がお腹をなでたり、童話・おとぎ話を聞かせると胎児が反応する
↑ここでの童話・おとぎ話とは『3匹のこぶた』と『ジャックと豆の木』のことです。童話・おとぎ話を読んで聞かせるとお腹の中の赤ちゃんのあくびの回数が減少するという結果は興味深いですね。

Kay, C. L., Carmichael, D. A., Ruffell, H. E., & Simner, J. (2015). Colour fluctuations in grapheme-colour synaesthesia: The effect of clinical and non-clinical mood changes. British Journal of Psychology, 106(3), 487–504. DOI: 10.1111/bjop.12102.

イギリス、スコットランドのエディンバラ大学心理学部、イングランドのFalmer村にあるサセックス大学心理学研究室の研究者らによる論文です。

○実験1

実験参加者は色字共感覚者24名(女性21名)。平均年齢は46歳。色字共感覚の検査は2か月の期間をはさんだ2回にわたる調査による。もし、再検査のことを知らせなくても、1回目の検査と2回目の検査の一致度が高いならば、色字共感覚があると判断できます。なにしろ共感覚は主観的経験ですから、テキトウな回答や嘘の可能性を否定するためにも期間をおいた検査が必要なわけです。

実験はオンラインで実施。半数の参加者にはポジティブムードの時にセッション1を、残りの参加者にはネガティブムードの時にセッション1を行うよう教示。セッション2はセッション1終了から3日後から回答を促しました(ただし、実際にはセッション1とセッション2の間の期間は平均で23日でした)。セッション2ではセッション1とは違うムードの時にテストを実施(例:セッション1でポジティブムードならセッション2ではネガティブムード)。

セッション1でもセッション2でも最初に質問紙に回答。質問紙はポジティブ感情 ・ ネガティブ感情尺度拡張版(Positive and Negative Affect Schedule-Expanded Form:PANAS-X)とベック抑うつ質問票第二版(Beck Depression Inventory–II:BDI-II)。PANAS-Xでは情動語を呈示し、現在のムードを評価。 BDI-IIでは抑うつ症状を評価。

質問紙に回答後、色字共感覚テスト。文字を1つずつ呈示し、知覚される色を選択。選択肢となるカラープレートの色は色相(Hue)と彩度(Saturation)が異なる。輝度(luminance/brightness)は被験者自身がマウスで操作。

実験1の結果、ポジティブムードの時の回答よりもネガティブムードの時の回答の方が、ネガティブ感情が高く、ポジティブ感情が低く、抑うつ症状が高くなりました。

彩度に関してはムードの違いによって共感覚で引き起こされるレベルに違いが生じませんでした。しかし、輝度はネガティブムード条件の時よりもポジティブムード条件の時の方が高くなりました(=ネガティブムードよりポジティブムードの方が共感覚で感じる色が明るい)。

また、多重回帰分析によると、輝度では有意な結果がでませんでした。しかし、彩度に関しては有意傾向ながら予測結果がでました。具体的に書くと、ベック抑うつ質問票第二版(BDI-II)の得点が高いと彩度が低下しました。

○実験2

実験1では特定のムード状態の時に調査への協力を求めたので、参加者が調査の目的に気付くなどの弊害の恐れがありました。そこで、実験2では研究目的を隠すために、不安障害や喘息、偏頭痛などさまざまな健康状態に関する質問をしました。

実験参加者は色字共感覚者34名(女性20名)。平均年齢は22歳。6人が不安障害(自己報告)で、彼らの平均年齢は21歳(女性3人)。残りの28人は不安障害なしで、平均年齢は22歳(女性17人)。

共感覚検査は実験1と同じですが、実験2ではオンライン診断ツール、The Synesthesia Battery(http://synesthete.org/)を使用。

実験2の結果、共感覚で感じる彩度に関しては不安障害の有無による違いはありませんでした。しかし、不安障害がない共感覚者と比較して、不安障害がある共感覚者は輝度が低くなりました(=不安障害がない共感覚者よりも不安障害がある共感覚者の方が共感覚で感じる色が暗い)。

○コメント

以上をまとめると、色字共感覚者は

・ネガティブムード条件の時よりもポジティブムード条件の時の方が共感覚で感じる色の輝度が高くなる。また、抑うつ症状が強いと共感覚で感じる彩度が低下するかもしれない。

・共感覚で感じる彩度は不安障害の有無で異ならない。だが、不安障害がない共感覚者と比較して、不安障害がある共感覚者は輝度が低くなる可能性。


ということになります。つまり、共感覚で文字や数字に感じる色は一定ではなくその時の気分次第で色の特性が変わる、臨床閾値以上の不安の有無でも共感覚の色の特性が異なるということです。

実験2では不安障害の人が参加していましたが、いかんせん6人とサンプル数が少なすぎますし、専門家による精神医学的診断が保証されていない自己報告です。共感覚でなおかつ不安障害というと人数が限られてきそうなので仕方ないかもしれませんが、ちょっと説得力が弱い論文ですね。ただ、不安障害だと共感覚で感じる色が暗くなるという結果は興味深いので、今後の研究が望まれます。

実験1のネガティブムードかポジティブムードかによって共感覚で感じる色の特性が違うという結果も面白いです。ただ、色字共感覚者24名の内女性が21名でした。実験参加者が研究目的を察知していた可能性もあり、本論文だけでは明確な結論を得ることは難しいです。

共感覚がない大人でも訓練で共感覚を獲得することが可能です(Bor et al., 2014)。共感覚を鍛えるという方法を用いれば、共感覚の人をわざわざ探さなくてもいいので、先に述べたサンプルサイズの問題を克服することが可能かもしれません(そのかわり共感覚トレーニングが必要になって、これが制約になるかもしれませんが)。不安障害の人が共感覚を身につけると、不安障害がない人よりも色が暗く見えるのか?というのが研究課題の候補になります。実験操作で状態不安を高めたり、特性不安の個人差を利用してもいいですけどね。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Bor, D., Rothen, N., Schwartzman, D. J., Clayton, S., & Seth, A. K. (2014). Adults can be trained to acquire synesthetic experiences. Scientific Reports, 4:7089. doi:10.1038/srep07089.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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