場面緘黙児の予後1年(認知行動療法) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙(選択性緘黙)児が認知行動療法を終了してから1年間追跡調査した研究を読みました。この論文は「心理社会的介入を場面緘黙児にしたRCT論文」という記事で紹介した臨床試験研究に参加した場面緘黙児24人の予後1年を調べた文献になります。ノルウェーの研究です。元の臨床試験では12人を心理社会的介入を受けた群、残りの12人を統制(待機)群として両者を比較していました。今回は待機期間が終了した統制群の場面緘黙児も治療を受けた結果の報告なので12人の予後ではなく、24人の予後となっています。

なお、本論文では認知行動療法という表記になっているため、このブログ記事でも認知行動療法と記載します。元のRCT論文が心理社会的介入(心理社会的治療)という書き方なのに急に認知行動療法という書き方になった理由は分かりません。

Oerbeck, B., Stein, M. B., Pripp, A. H., & Kristensen, H. (2015). Selective mutism: follow-up study 1 year after end of treatment. European Child & Adolescent Psychiatry, 24(7), 757-766. DOI:10.1007/s00787-014-0620-1.

★概要

○方法

参加者は場面緘黙児24人。女の子が16人。平均年齢6.5歳(SD=2.0)。年齢の範囲は3~9歳。3~5歳の就学前児童が9人、年齢が6~9歳で(日本なら)小学生の子供が15人。バイリンガル児が6人。

治療方法の詳細は「心理社会的介入を場面緘黙児にしたRCT論文」で書いた内容を参考のこと。

評価時期は以下の通り
・ベースライン(基準値:治療開始前)
・治療開始3か月後
・治療開始6か月後(治療終了直後)
・治療終了から1年後(予後1年)
*認知行動療法の期間は最大で6ヵ月間。

主な評価尺度は以下の通り
・母親評定による臨床全般印象尺度(Clinical Global Impressions Scale:CGI):ベースラインはCGI-重症度(CGI-Severity:CGI-S)で場面緘黙児の重症度を評定し、後はCGI-改善度(CGI-Improvement:CGI-I)でベースラインからの改善度/悪化度を評定。
・先生による学校での発話頻度の評価は学校発話質問紙(School Speech Questionnaire:SSQ)で実施。
・母親による幼稚園・保育園/小学校、公共の場、家での発話頻度の評価は場面緘黙質問票(Selective Mutism Questionnaire:SMQ)で実施。
・子供のライフイベントの評価は母親が行い、ライフイベント質問紙青年版(Life Events Questionnaire for Adolescents:LEQ-A)で評定。ただし、ライフイベントの数が少なく、ストレスレベルも低かったので解析せず。
*SSQの内的整合性(α係数)が0.64と0.70よりも低かったので、心理計量学的に微妙でした。

○結果

主要評価項目である学校発話質問紙(SSQ)の結果(先生評定):時間経過とともに発話頻度の増加が認められました。特にベースラインから治療開始3か月後で顕著な発話の増加がありました。追跡後でもSSQ得点は向上したままでした(治療効果が1年後も持続)。特に年齢が下の場面緘黙児で発話頻度の向上が著しくなりました。また、診断時の場面緘黙症状が重篤である子供ほど治療効果が芳しくありませんでした。

場面緘黙質問票(SMQ)の結果(母親評定):時間経過とともにSMQ総得点、学校現場、公共の場、家で発話頻度の増加が認められました。特にベースラインから治療開始3か月後の改善が顕著でした(SMQ総得点)。年齢の効果はSMQ学校下位尺度でだけ微妙にありました。

以下は治療終了から1年後(予後1年)のお話です。

50%の子ども(12人)が場面緘黙症の診断基準に該当しなくなりました。17%(4人)はすべての大人や学校のすべての状況で喋れるわけではないけれど、部分的に改善したということで場面緘黙症の寛解期だと判断されました。残りの33%(8人)は場面緘黙症の診断基準に該当していました。

また、3~5歳児9人の内7人(78%)が場面緘黙症の診断基準に該当しなくなったのに対し、6~9歳児では15人中5人(33%)が場面緘黙症の診断基準に該当しなくなりました。
一方、治療前の共存症は場面緘黙症の寛解に影響しませんでした。また、家族に場面緘黙症の経歴者がいることの影響もありませんでした。

母親評定による臨床全般印象尺度-改善度(CGI-I):改善度が高い(悪化度が低い)順に場面緘黙症の診断が消失した12人・場面緘黙症が寛解した4人>場面緘黙症のままの8人

ただ、治療終了から1年後でも社交恐怖症(社会恐怖症,社会不安障害,社交不安障害)を併存している子供が19人、分離不安障害の併存児が4人、全般性不安障害にいたってはベースラインの2人よりも1人増えて3人となっていました(その他は省略します)。社交恐怖症はすべての場面緘黙児がベースラインで併存していたのですが、社交恐怖症が寛解した子供5人はすべて1年の追跡後に場面緘黙症の診断が消失していた子供でした。なお、本研究での治療前の場面緘黙児の共存疾患については「心理社会的介入を場面緘黙児にしたRCT論文」をご覧ください。

*場面緘黙症の合併症という表現がありますが、実は合併という訳語は正しくありません。英語のcomorbidityを合併症と訳すのは間違いです。合併症はcomplication(s)でcomorbidity(comorbidities)とは意味が異なります。なので、本ブログのように元の文献をたどるとcomorbidityなのに、場面緘黙症の合併症、合併症と連呼することは医学的素養がないことを自らひけらかしていることも同然であり恥ずかしいことです。注意しなければなりません。なお、comorbidityは併発症、併存症、並存症、共存症などの日本語訳が考えられますが、どれがいいのか私には分かりませんからあまり気にしないでください。私の理解に間違いがなければ、合併症とは疾患の診断後の有害事象となる病気・症状のことで、併発症とは主診断の疾患の結果ではない病気・症状のことです。特に合併症は「ある病気が原因となって起こる別の病気(国立国語研究所)」といった定義に代表されるように、2つの病気の間に因果関係を想定していることが多いようです(といっても、参考サイトや参考文献によって定義がまちまちでよく分からないのですが)。

★コメント

以上を私なりにまとめると

・認知行動療法に参加した場面緘黙児は時間経過とともに発話頻度が向上。これは学校での発話頻度(先生評定SSQ・母親評定SMQ)だけでなく、SMQの総得点やその他の下位尺度(公共の場・家)でも生じる。特にベースラインから治療開始3か月後の改善が顕著。SSQでは1年の追跡後も場面緘黙症状が改善したまま。

・緘黙症状の改善を予測するのは年齢(SSQ・診断)、診断時の場面緘黙症状の重篤度(SSQ)。年少児は緘黙症状が改善しやすく、重度の緘黙児は改善しにくい。治療前の共存症、家族に場面緘黙症の経歴者がいるかどうかは追跡1年後の場面緘黙症の寛解に影響せず(診断)。

・追跡1年後に場面緘黙症でなくても社交恐怖症(社交不安障害)があるままなのが12人中7人(58%)など、緘黙症が改善しても他の不安障害などの疾患を抱えたままである子がいる(場面緘黙症の診断が消失しなかった患者では言わずもがな)。


となります。本論文によると、後に述べるBergman et al. (2013)はクリニック基盤型で、今回は学校基盤型とのこと。ただ、Bergman et al. (2013)も学校の先生方やクラスメート(クラスメイト)の協力が必要なことに変わりません。また、本研究では地元のクリニックのセラピスト、すなわち場面緘黙症の専門家でない方が主導していた点が特長的で、緘黙症のエキスパートでなくても介入できる可能性を示唆しています。

場面緘黙児への行動療法の効果をRCTで検証した世界初?の論文(Bergman et al., 2013)では治療終了から3ヵ月間の追跡でしたが、今回は1年間の追跡です。方法が異なるので単純比較はできませんが、場面緘黙児への認知行動療法の成果は少なくとも1年間は持続するというエビデンスが登場したというわけです。ただし、あくまでもグループ全体としてという意味であり、個人レベルで場面緘黙症が再発・再燃する可能性を否定するわけではありませんし、後述するようにこれが果たして認知行動療法の効果なのかどうか怪しい点もあります。

IQが50未満の場面緘黙児や精神病状態の場面緘黙児、広汎性発達障害の場面緘黙児は除外基準に該当し、研究に参加していませんでした。これらの特徴を併せ持つ場面緘黙児の治療法も今後の検討課題となります。

少なくとも追跡(フォローアップ)後の専門家による診断評価は盲検法が使用されていませんでした。また、学校基盤型の治療法ということで先生が治療を知っていたかもしれませんし、母親も今現在介入が行われているか/いたか知っていたはずです。というのも、最初の心理教育セッションで説明を実施していたからです。なので、今回の結果は治療期待効果が部分的にせよ含まれている可能性があります。

本研究の一番の欠陥は統制群がないことでしょうか。このため、発話頻度の増加が認知行動療法の効果によるのか、それとも単なる時間経過のせいなのかよく分かりません。もっとも、場面緘黙症の治療を何年も放っておくのは倫理的に問題があるため、長期的な追跡研究で統制群を設定するのは簡単なことではありません。ただ、現在のところ、追跡後はともかくとして3ヵ月間の治療後には場面緘黙症が改善するというエビデンス(Oerbeck et a., 2014)がRCTデザインででています。ただ、このRCT研究は介入群と待機群の比較のため、介入そのものではなく、ただ単にセラピストと定期的にコンタクトをとったことが治療効果をもたらしたとの解釈を否定することはできません。

また、コミュニティ成員(住民)は心理療法の科学的側面(臨床試験での有効性の実証など)よりも関係的側面(セラピストの共感など)を重視するという調査結果(Farrell & Deacon, 2016)もあり、いくら場面緘黙症に認知行動療法が有効であることが示されても一般人の臨床的エビデンスの存在に関する考え方については別途考えていかなければならないテーマです。ただ、Farrell & Deacon(2016)によると、関係困難性などの障害に依存しない問題については心理療法の科学的側面よりも関係的側面の方を強く重視する(効果量がd=1.24)が、不安障害(不安症)にいたってはd=.27と効果量が小さく、それほど差が大きいわけではないそうです。それにコミュニティ成員は科学の信用性に重きをおき、セラピストはコミュニティ成員が科学的性質を重視していることを過小評価しているという結果も得られています。ですから、現在のところコミュニティの人たちはセラピストが思う以上に心理療法のエビデンスを大切に思っていると解釈できます。

年齢が若い方が場面緘黙症の改善に有利でした。また、先生が評価したSSQではベースラインの場面緘黙症が重症である子供は、認知行動療法でも症状改善が進展しませんでした。緘黙症状の重篤度を統計モデルに含めても年齢の影響があったことから、症状レベルと年齢はともに治療成果に影響する要因と考えられます。他には慢性化レベル(場面緘黙症の発症からの持続期間)も重要な要因である可能性があり、今後の調査が必要です。

なお、不安障害がある6~19歳の児童青年で認知行動療法の効果をRCTで検証した研究を集めて「分析の分析(メタ分析)」を実施したところ、年齢は認知行動療法の効果に影響しないという結果がでています(Bennett et al., 2013)。これはメタ分析(メタ解析)の中でもindividual patient data meta-analysis(IPDMA:日本語訳は個別患者データメタ分析)という方法を使用した論文です。今回の場面緘黙症の論文はRCTデザインではありませんが、年齢が若い方が予後良好だという結果になっており、緘黙症以外の不安障害での認知行動療法のRCT研究のメタ分析結果とは一致しません。この食い違いをどう考えるか悩みどころです。

*individual patient data meta-analysisとはメタ分析(メタ解析)方法の1種の分析方法のことで、RCTsで患者レベルのデータが必要になるという難点がありますが、すべてを1つのデータセットに組み込むことができるので、多くのサンプルサイズを確保でき、検定力(検出力)が高まるという長所があります。

場面緘黙症の再発や再燃はなかったようです(あくまで平均的な話)。しかし、これはあくまでも1年の予後の場合の話で、それ以上の年月が経っても再発や再燃がないことを保証するものではありません。事実、子供の頃に不安障害で認知行動療法を受けても8年後には不安障害やそれ以外の障害を持つ人の割合に認知行動療法を受けなかった群となんの有意差もないという研究(Adler Nevo et al., 2014)が存在します。

また、たとえ早期に場面緘黙症の治療に成功してもコミュニケーション能力などの問題が改善されない可能性もあります。本研究ではコミュニケーション能力の評価がされていませんでしたが、他の精神病理(特に社交恐怖症等の不安障害)については場面緘黙症の診断が下ろされた子供でもまだある場合が多かったです。なので、たとえ場面緘黙児に認知行動療法が有効だったとしても緘黙症状以外の問題については別途考えていかなければなりません。それにたとえ子供の頃に精神医学的診断を受けていて成人後に診断が消失していても、大人になってから有害事象(adverse outcome)が健康や法律制度、個人の経済的問題、社会機能などで生じるリスクが高く、これは特に子供の頃の累積的な精神疾患への暴露がある場合に顕著だという論文(Copeland et al., in press)があります。Copeland et al.(in press)によれば、たとえ臨床閾値未満の精神医学的問題があった子供でも成人後に有害事象のリスクが高いそうです。ですから、場面緘黙症の診断が外れたとしても大人になっても何らかの問題が残る可能性があります。これを場面緘黙症の後遺症と言っていいのかどうかは分かりませんが。

今回の研究は社交恐怖症を併発している場面緘黙児で場面緘黙症への対応を優先させていましたが、果たしてその必要性があるのか、あるとしてもコストパフォーマンスはどうなのかという点がよく分かりません。なぜ、場面緘黙症から対処するのでしょうか?別に社交恐怖症から治療に取り組んでもいいのでは?という疑問が生じます。たしかに、先に場面緘黙症を治した方が会話が弾むようになるので、社交恐怖症への対応に有利になるという考え方もできます。ですが、場面緘黙症はそのままにしておいて社交恐怖症から対応する方法の方が劣っていることが臨床試験で示されたことはないはずで、エビデンスが不十分です。もっとも、場面緘黙症と社交恐怖症に同時に取り組むという方法も可能ですが。

個人的に気になるのは場面緘黙症の改善の詳細についてです。たとえば、自分からは話しかけないけれども、相手から話しかけられたら答えるようになったというのでも緘黙の軽快に該当します。しかし、これでは場面緘黙症の改善が限定的です。事実、臨床発達心理士である長野大学の高木潤野准教授(社会福祉学部)は場面緘黙児が小集団活動に参加することによって非言語コミュニケーション(「身振り・表情」や「動作・態度」など)が促され緘黙児によっては話しことばの表出が生じたが、自発的なコミュニケーションはそんなに増えない子どもが多かったと報告しています(高木, 2015)。自分から喋る行動あるい自分から非言語コミュニケーションをとる行動と相手からの働きかけがあって初めてとるコミュニケーション行動の両面を測る質問紙なり、課題なりが欲しいところです。

○本研究での寛解の判断でDSM-Ⅳ/DSM-5の診断基準に関する議論

本研究での場面緘黙症の寛解とは部分的に話せるようになって、DSM-Ⅳ/DSM-5の「一貫して発話がない」という診断基準に厳密に該当しなくなったことです。論文中には寛解児をどう考えるかという記述がありますが、そこでDSMの「一貫して発話がない」という診断基準の定義が曖昧だという議論が展開されています。私はこれまで「一貫して発話がない」という表現にそんなに注目してこなかったのですが、この診断基準に疑問の余地をつける考え方もあるんだなあと思いました。今まで思いもつかなかったことです。

このような考察から論文では場面緘黙症の診断基準をもっと洗練させた方がいいのではないか?と問題提起しています。一度DSMを読んだことがある方ならお分かりかと思いますが、私自身は場面緘黙症の診断基準は他の精神疾患・精神疾病と比較して単純すぎるのではないかと思っています。たとえば、緘黙症状以外の緘動症状などの有無を「該当すれば特定せよ(Specify if)」の項目で明示するなど他の診断方法を作ってみてもいいのかもと考えたことがあります。

なお、DSM-5での場面緘黙症の診断基準に関しては「DSM-5での選択性緘黙(場面緘黙症)の詳細」で書いていますので参考にしてください。

○場面緘黙症以外の不安障害等の研究成果からの考察

場面緘黙症の論文を緘黙症の枠内だけで考えることはあまりにも視野が狭く、「井の中の蛙大海を知らず」の状態です。緘黙症以外の研究と比較することで場面緘黙症の理解が深まるのに、緘黙研究以外の論文を引用している緘黙サイトは日本語サイト/ブログだけでなく、英語圏のサイト/ブログでもほとんどないのが現状です。理由としては単なる知識不足や知識があっても活用しようとしない姿勢、緘黙症以外の研究は場面緘黙症に関係ないという誤った信念、緘黙症以外の研究を持ち出してはならないという空気・雰囲気、共有知識効果(Common Knowledge Effect:CKE)などが考えられます。なので、ここからは緘黙症以外の不安障害等に関する研究から考察を展開することにします。

*緘黙症以外の研究が場面緘黙症の研究に重要な理由は共同注意に関する場面緘黙症の研究(Nowakowski et al., 2011)などをみれば明らかです。というのも、共同注意は発達心理学の研究分野の1つなのですが、これは場面緘黙症とは関係なく独自に研究が進展しているからです。しかも共同注意は自閉症等での臨床研究が進展しているとはいえ、基礎心理学の分野でも重要な研究領域となっていますから、基礎科学が場面緘黙症の研究に重要であると思われます。

*共有知識効果とは集団意思決定において少数の人が知っている情報よりもみんなが知っている情報の方が議題に上りやすいという現象のことです。つまり、共有知識効果によれば、「集団討議が,新奇な情報を新たに共有する場になっているというよりは,すでに共有されている情報を参加者の間で再確認する場となっている(池上知子・遠藤由美『グラフィック 社会心理学』サイエンス社 1998年発行の第10章 集団と個人 コラム 知識の共有化と集団意思決定より)」のです。もっとも共有知識効果がオンライン上でも生じるかどうか私は知らないのですが。たしか共有知識効果は知らない人同士で生じやすく、知人同士では生じにくいという研究があったように思うのですが、出典となる論文が思い出せません。

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*amazon.co.jpへのリンクは最新版。私の手元にあるのは1998年発行の古い版です。

先生が評定した場面緘黙児の発話頻度はベースラインから治療開始3か月後で増加し、1年の追跡後でも維持されていました。一方、不安障害児への認知行動療法研究では治療終了から追跡後にかけて寛解率が高まりやすいという現象が報告されています(Roberts et al., 2014)。この違いは興味深いです。不安障害のタイプ(+治療方法の詳細)が違うので単純比較は禁物です。また、本緘黙研究の場合でも統計学的に有意かどうかはともかくとして、認知行動療法終了後から1年の追跡後に質問紙評定(SSQ・SMQ)の得点が発話頻度の増加を示していました。しかし、もしかしたら場面緘黙症の場合は緘黙症状の軽快が先で後に不安の低下が生じるかもしれません。今後場面緘黙症状の改善と不安症状の改善に時間差があるのか、あったとしたらどのような関係を示すのか研究が進んでほしいところです。といっても場面緘黙児・者の発話頻度ではなく、不安症状そのものに対する治療効果を直接検証した研究は少ないと思うので、まずは緘黙児・者の不安を減らすことが可能か?といったタイプの研究が必要になりますが。

次は場面緘黙症への認知行動療法の効果の大きさについてお話しします。特に時間経過に伴う効果の減退について。実はdecline effect(減退効果)という現象が科学界において知られています。decline effectとはかつては頑健だった(と考えられていた)科学的エビデンスの強さが時間経過とともに失われていく現象のことです。以下は精神医学/臨床心理学でdecline effectを示した研究例です。

不安障害への認知行動療法がQoL(生活の質)に及ぼす影響をメタ分析で検討した論文(Hofmann et al., 2014)によると、認知行動療法にQoLの改善効果が認められたのですが、論文(が掲載されたジャーナル)の発行年(publication year)の増加にともなって効果量が低下していきました。つまり、研究が最新のものになるにつれて、認知行動療法の効果が低下していったのです。また、うつ病への認知行動療法の効果は論文発行年の増加とともに減少していったというメタ分析研究(Johnsen & Friborg, 2015)もあります。これは1977年から2014年にかけて実施された研究をメタ分析した結果で、指標を患者の自己報告としても臨床家の評価としても寛解率としても、また統制試験でも治療前と治療後を集団内で比較した臨床試験でも生じました。

これらの論文の存在を鑑みれば、場面緘黙症への認知行動療法の効果も研究が進むにつれて減少していくのではないか?という疑念が頭をよぎります。

1年後の予測といえば、やはり社交不安障害(社交不安症)患者でインターネット認知行動療法+注意バイアス修正訓練から1年経過後の予後が良好な人と不良な人を治療前のfMRIにより個人レベルで識別可能であるという研究(Månsson et al., 2015)が思い出されます。現在のところ子供の不安障害で(機能的)脳画像法による個人レベルでの予後の予測研究はないものの、場面緘黙症でも脳イメージング技術による予後の予測調査がでてきてほしいです。また、パニック障害、全般性不安障害では予後の予測ではないものの、認知行動療法の効果の有無を治療前の情動制御(情動調整)課題中のfMRIの結果で個人ごとに予言可能であるという研究(Ball et al., 2014)もあります。なので、予後といわずとも、治療直後の状態の予測もしてもらいたいです。

認知行動療法の副作用に関する調査も必要です。社交不安障害患者への注意バイアス修正訓練とネット認知行動療法を組み合わせた心理療法の後にうつ症状が悪化する人が存在することが報告されており(Boettcher et al., 2014) 、場面緘黙症への認知行動療法でも有害事象(Adverse Event,AE)が生じる可能性もあります。もしかしたら場面緘黙症の暴露療法の後に「やっぱり無理じゃないかな?」とか治療後に喋れるようになっても「自分から話しかけるのになんでいつもこんなに勇気が要るんだ?先が思いやられるぅ」とか思ってうつ症状が逆に悪化する可能性も否定できません。

○引用文献(アブストラクトだけ読んだ論文が多いですが、一部は本文も少しかじりました)
Bennett, K., Manassis, K., Walter, S. D., Cheung, A., Wilansky‐Traynor, P., Diaz‐Granados, N., Duda, S., Rice, M., Baer, S., Barrett, P., Bodden, D., Cobham, V. E., Dadds, M. R., Flannery-Schroeder, E., Ginsburg, G., Heyne, D., Hudson, J. L., Kendall, P. C., Liber, J., Warner, C. M., Mendlowitz, S., Nauta, M. H., Rapee, R. M., Silverman, W., Siqueland, L., Spence, S. H., Utens, E., & Wood, J. J. (2013). Cognitive behavioral therapy age effects in child and adolescent anxiety: An individual patient data metaanalysis. Depression & Anxiety, 30(9), 829-841. DOI: 10.1002/da.22099.

Copeland, W. E., Wolke, D., Shanahan, L., & Costello, E. J. (in press). Adult functional outcomes of common childhood psychiatric problems: A prospective, longitudinal study. JAMA Psychiatry. doi:10.1001/jamapsychiatry.2015.0730.

Farrell, N. R., & Deacon, B. J. (2016). The Relative Importance of Relational and Scientific Characteristics of Psychotherapy: Perceptions of Community Members vs. Therapists. Journal of Behavior Therapy & Experimental Psychiatry, 50, 171-177. doi:10.1016/j.jbtep.2015.08.004.

Hofmann, S. G., Wu, J. Q., & Boettcher, H. (2014). Effect of cognitive-behavioral therapy for anxiety disorders on quality of life: A meta-analysis. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 82(3), 375-391. doi:10.1037/a0035491.

Johnsen, T. J., & Friborg, O. (2015). The Effects of Cognitive Behavioral Therapy as an Anti-Depressive Treatment is Falling: A Meta-Analysis. Psychological Bulletin, 141(4), 747-768. doi:10.1037/bul0000015.

高木潤野(2015). 信頼関係の形成が場面緘黙児のコミュニケーション行動の促進に与える影響の検討(健やかでこころ豊かな社会をめざして) 豊かな高齢社会の探求 調査研究報告書(ユニベール財団編), 23, 17.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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