選択性緘黙傾向を自己評価する日本語尺度の開発他 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

2015年9月22日~24日に名古屋国際会議場で開催予定の日本心理学会第79回大会(開催校名古屋大学)にて選択性緘黙(症)に関する研究発表があります。これは三重県の鈴鹿市立国府幼稚園、愛知県の名古屋学芸大学大学院子どもケア研究科、愛知県の西尾市立室場小学校、鈴鹿市立神戸中学校、名古屋学芸大学の研究者らによる一般研究発表(ポスター)です。

責任発表者は二宮奈美さんですが、彼女は卒論研究で「小学生における場面緘黙の維持及び緩衝に関する要因の検討:調査」と題するメタ認知療法の観点からの場面緘黙の研究を実施したことがあります。私が本ブログでまとめた記事「(場面)緘黙症の卒業論文、修士論文、博士論文」には残念ながら二宮さんを含めていませんでした。その他の卒論等についても把握しており、いずれ新たな学生論文一覧を作成できたら良いなと思っています。

なお、本ブログでは場面緘黙症という書き方をするのが慣例化していますが、ポスター発表の内容紹介では記述方式を合わせて選択性緘黙と表記します。

二宮奈美・杉山瑞奈・中村百花・西嶋涼花・今井正司(2015). 児童における選択性緘黙の維持及び緩衝に関する要因の検討 第79回日本心理学会大会論文集, 337.
英語表記:Ninomiya, N., Sugiyama, M., Nakamura, M., Nishijima, S., & Imai, S. (2015). Factors of Maintenance and Buffer of Selective Mutism in School Children. Proceedings of the 79th Annual Convention of the Japanese Psychological Association, 337.

○目的

・「SM傾向の自記式尺度(選択性緘黙傾向尺度)を作成すること」
・選択性緘黙の症状持続モデルや症状緩衝モデルの検討
*SMとは選択性緘黙のことです。これは選択性緘黙の英語がSelective Mutismであることによります。

○方法

「東海圏の小学生327名を対象に作成した尺度を用いた一斉調査」。内、有効回答はSMSで319人(有効回答率98%)、その他の尺度も含めると262人(同80%)。なお、SMSについては次の段落を参考のこと。

選択性緘黙尺度(Selective Mutism Scale:SMS)を作成。SMSとは児童が選択性緘黙傾向を自己評定する尺度のこと。質問項目は15個で4件法による回答方式。本論文には明確な言及はありませんが、今井(2015)によると、SMSは選択性緘黙傾向尺度という書き方でもOK牧場なようです。

その他の使用尺度一覧
・能動的注意制御尺度(VACS):出典は今井他(2015)とのことですが、探しても候補となる論文は見つかったものの断定はできませんでした。候補論文は一覧の最後に注釈として書き記しておきます。

・児童用ディタッチト・マインドフルネスモード尺度(Detached Mindfulness Mode Scale for Children:DMMS-C):「自らの感情や思考から距離をおいて観察する心的構えを測定する尺度として使用」。

・日本語版児童用BIS/BAS尺度:BISとは行動抑制系(Behavioral Inhibition System)のことで、BASとは行動賦活系(Behavioral Activation System)のことです。行動抑制系/行動賦活系については「Grayの行動抑制系と前頭前野における脳波の非対称性」や「トリプトファン枯渇で脅威に対する扁桃体/海馬の反応が増強」が参考になります。重要なのは行動抑制系は発達心理学者のジェローム・ケーガン名誉教授(ハーバード大学)がいうところの行動抑制(抑制的気質)とは異なるということです。

・日本版State-Trait Anxiety Inventory for Children(STAIC):STAIとは状態特性不安質問票のことで、今回は児童用STAI(STAIC)となっています。分析に使ったのは特性不安の項目だけでした。

・Social Anxiety Scale for Children-Revised(SASC-R)日本語版:SASCとは児童用社交不安尺度のことです。今回は改訂版(SASC-R)を使用していました。

*注釈1:今井他(2015)は『今井正司・熊野宏昭・今井千鶴子・根建金男(2015). 能動的注意制御における主観的側面と抑うつ及び不安との関連 認知療法研究, 8(1), 85-95.』のことかもしれません。
*注釈2:日本語版児童用BIS/BAS尺度とは小関・国里(2013)のことですが、それは『小関俊祐・小関真実・国里愛彦(2013). 児童の抑うつに影響を及ぼす行動活性化の効果 日本心理学会第77回大会, 395.』のことかもしれませんが、それなら小関他(2013)や小関・小関・国里(2013)になるはずであり、小関さんが1人抜けているのは解せません。

○結果

因子分析の結果、SMSは11項目となり、内的一貫性(内的整合性)もクロンバックα係数が0.809と十分高くなりました。

もう1つの統計解析は共分散構造分析(構造方程式モデリング)です。何やら難しい話になりそうなので、要点だけを書くと、

・行動抑制系は「不安(特性不安や社交不安等)」を強め、「不安」が選択性緘黙傾向を高める
・距離を置いた心的構え(ディタッチト・マインドフルネス)が行動抑制系を抑制する
・距離を置いた心的構えは能動的注意制御能力によって強くなる
*特に行動抑制系から潜在変数「不安」へのパス係数が.85と高くなっており、行動抑制系は「不安」に強く影響していることが示唆されました。ちなみに能動的注意制御能力から距離を置いた心的構えへのパス係数は.53、距離を置いた心的構えから行動抑制系へのパス係数は-.24、「不安」から選択性緘黙傾向へのパス係数は.31でした。

なお、共分散構造分析については大阪大学の狩野裕教授と東京外国語大学の市川雅教教授の『日本統計学会チュートリアルセミナー 共分散構造分析』(http://www.sigmath.es.osaka-u.ac.jp/~kano/research/application/tutorial/csa8_02.pdf)が参考になります。

○コメント

以降、選択性緘黙ではなく、場面緘黙症という表記をします(でも、質問紙の名称はどうしようか…)。

児童の場面緘黙傾向を高めるのは不安、その不安を高めるのは行動抑制系、そして、行動抑制系を抑えるのがディタッチト・マインドフルネスで、ディタッチト・マインドフルネスは能動的注意制御能力によって強まる。したがって、場面緘黙傾向を抑えるには能動的注意制御能力やディタッチト・マインドフルネスを高める方法が有効である可能性が示唆されました(間接効果ということでかなり遠回りな方法になりますが…)。

本論文(というより学会発表のポスター)ではディタッチト・マインドフルネスや能動的注意制御能力といった認知的介入と従来の行動的アプローチの併用への期待に言及されています。名古屋学芸大学の今井正司准教授(臨床心理士でもあられます)がラストオーサー(最終著者)となっていることは特筆すべき事柄です。というのも今井准教授はゼミの研究テーマの1つに「場面緘黙に関する実行機能の解明」という認知心理学的な緘黙研究をあげているからです。本論文の認知的側面からのアプローチは今井ラボの独自の研究方針で、おそらく今井准教授の指導なしにはなし得なかったことだろうと思います。今井ラボの今後の研究の進展に期待が持たれます。

詳細は不明であるものの、ポスター発表を読む限りでは場面緘黙症尺度・選択性緘黙尺度(SMS)の作成は場面緘黙児の存在を診断で確認しないまま行ったような印象を持ちます。「一斉調査」なので、普通に質問紙を配布して回答を求めただけなのかもしれません。もしそうならば、個人的には場面緘黙症尺度・選択性緘黙尺度ではなく、場面緘黙症傾向尺度・選択性緘黙傾向尺度とした方が良いと思います(さらにいえば場面緘黙症傾向尺度ではなく、場面緘黙傾向尺度の方が良いかも?)。これは場面緘黙症尺度・選択性緘黙尺度だと、まるで回答者が場面緘黙症であることを前提にしているような印象を与えるからです。また、一般児童の場面による無口・寡黙傾向を測るのならば、場面緘黙症・選択性緘黙と断定するよりかは場面緘黙症傾向・選択性緘黙傾向という方がしっくりきます。

今回の選択性緘黙尺度は小学生自らが自身の緘黙症状・緘黙傾向を評価する自己記入式尺度であることが特長です。英語圏を含めても緘黙の自己評価尺度は珍しいのではないでしょうか?たとえば、緘黙尺度といえば、場面緘黙質問票・選択性緘黙質問票(Selective Mutism Questionnaire:SMQ)や学校発話質問票(School Speech Questionnaire:SSQ)があります。しかし、SMQは親(特に母親)が回答者であることが多いですし、SSQは教師・教員が回答者であることが標準的です。ただ何事にも例外はつきものでSMQの回答者が緘黙の当事者団体に所属する成人の場面緘黙経験者(平均年齢31歳)であった研究(広瀬, 2012)もあります。

*SMQやSSQ以外にも発話状況質問紙(Speech Situations Questionnaire:SSQ)を用いた研究(Nowakowski et al., 2011)もあります。この発話状況質問紙には親版と教師版が存在します(といっても私の知る限り日本語版はありませんが)。

マインドフルネスの注意制御能力では遺伝率が算出されています。Waszczuk et al. (2015)によると、16歳でマインドフルネスの注意制御スキルの遺伝率は32%(95%信頼区間は14~41%)で、マインドフルネスとうつおよび、マインドフルネスと不安感受性の間に共通の遺伝要因が存在します。もっとも、Waszczuk et al. (2015)と本研究では用いた注意制御尺度が異なります。Waszczuk et al. (2015)はマインドフル注意意識尺度(Mindful Attention Awareness Scale:MAAS)の短縮版を使用し、本緘黙研究では能動的注意制御能力を測る質問紙にVACS(今井ら, 2015)を使用していました。なので、単純に比較することはできません。しかし、今井他(2015)の能動的注意制御スキルでも遺伝の影響があるかもしれず、遺伝率を推定してほしいところです。もしかしたら、能動的注意制御力と場面緘黙傾向との間に負の遺伝相関が存在するかもしれないですし。

ここでのディタッチト・マインドフルネスとは「自らの感情や思考から距離をおいて観察する心的構え(距離を置いた心的構え)」のことです。ところで、社交不安障害(社会不安障害)や全般性不安障害、パニック障害、特定不能の不安障害の人たちが参加した臨床試験において、インターネットマインドフルネス療法の効果(不安/うつ/不眠症状の改善やQoLの向上)が示唆されています(Boettcher et al., 2014)。いずれ場面緘黙症でもマインドフルネス療法の臨床試験なり事例研究(ケーススタディ)なりがでてくるかもしれません。

実はSMSを用いた研究発表はもう1つあって、それは児童用ディタッチト・マインドフルネスモード尺度(DMMS-C)と児童不安症状(特性不安・社交不安)、SMSとの関連を調査したものです(今井, 2015)。今井(2015)は「発達障害の要因が指摘されている不安関連症状」という位置づけで選択性緘黙を扱い、DMMS-Cとの相関分析をしています。その結果、DMMS-CとSMSに負の相関関係(r=-.28)が見いだされました。ただ、DMMS-Cと児童用能動的注意制御尺度(VACS-C)に中程度の正の相関関係(r=.57)があったので、VACS-Cを制御すると、DMMS-CとSMSの相関(偏相関)は有意になりませんでした(r=-.09)。このことからディタッチト・マインドフルネスと選択性緘黙傾向の関係を(部分的に)媒介するものは能動的注意制御ということが推察されます。

なお、他の児童不安症状(特性不安と社交不安症状)もDMMS-Cと負の相関関係(特性不安で-.26,社交不安で-.25)にあったのですが、VACS-Cを統制しても有意なままでした(特性不安で-.16,社交不安で-.20)。このことから、選択性緘黙傾向とは違って特性不安と社交不安は能動的注意制御とは独立にディタッチト・マインドフルネスとの関係を有していることになります。こんなところに不安症状と選択性緘黙傾向との違いが現れるなんて面白いですね。

○参考URL(2015年9月21日現在)
シラバス - 名古屋学芸大学
http://www.nuas.ac.jp/profile/faculty/syllabus/2015nuas_syllabus_h.pdf

○引用文献&引用URL(2015年9月22日現在):二宮・杉山・中村・西嶋・今井(2015)には2種類のURLを用意しましたが、2つめがPDFファイルです。PDF形式でのみ図が添付されています。
今井正司(2015). 児童における不安症状とマインドフルネス及び注意制御機能の関連 Detached Mindfulness Mode Scale for Childrenの作成を通して 第79回日本心理学会大会論文集, 356.
英語表記:Imai, S. (2015). Relation to Anxiety and Detached Mindfulness in Children. Proceedings of the 79th Annual Convention of the Japanese Psychological Association, 356.
http://www.myschedule.jp/jpa2015/img/figure/90367.pdf

二宮奈美・杉山瑞奈・中村百花・西嶋涼花・今井正司(2015). 児童における選択性緘黙の維持及び緩衝に関する要因の検討 第79回日本心理学会大会論文集, 337.
http://www.myschedule.jp/jpa2015/search/detail_program/id:534
http://www.myschedule.jp/jpa2015/img/figure/90279.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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