自己概念明確性は嘘の自己開示で低下する(高社交不安群) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(論文要旨)だけを読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は社交不安特性が高い人は不誠実な自己開示をすると自己概念明確性(自己明確性)が低下するという研究です。孫引きで恐縮ですが、自己明確性とは「個人の自己概念の内容がどれくらい明確に、そして自信をもって定義されているか、どれくらい内的に一貫しているか、どれくらい短期的に安定しているかの程度」という意味です(安達, 2009)。安達(2009)の時点では自己明確性を測る日本語版の質問紙の作成がされていなかったようですが、2012年に日本パーソナリティ心理学会の学会誌「パーソナリティ研究」に日本語版の自己概念明確性尺度(Self-Concept Clarity Scale:SCCS)が作成・公開されました(徳永・堀内, 2012)。

徳永・堀内(2012)によると、自己概念明確性尺度の具体的な質問項目は「私は自分の性格のいろいろな側面の間に矛盾を感じることはめったにない」や「私が持っている自分自身に関する信念は頻繁に変わるようだ」、「これまでの自分がどのような種類の人間であったかを考えても,本当にそのような者であったのかについて,確信はない」、「時々,私は日ごろの自分が本当の自分ではないという気がする」、「自分の性格を説明するように求められた場合,私が行う記述は日によって異なるかもしれない」などがあり、これに回答することで自己概念に関する信念が測れるようになっています。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒フロイトの身体になって自己カウンセリング→気分上々↑↑(身体所有感錯覚の実験)
↑実験動画もあります。透明人間の錯覚実験の先行研究では視覚刺激と触覚刺激を時間的、空間的に同期・一致させて、透明身体の所有感錯覚を引き起こしていました(Guterstam et al., 2015)。しかし、今回はバーチャル世界(仮想世界)での身体の動きを実際の被験者の動きと同期させることでフロイトの身体を所有している感覚を味わっています。

Orr, E. M. J., & Moscovitch, D. A. (2015). Blending in at the Cost of Losing Oneself: Dishonest Self-Disclosure Erodes Self-Concept Clarity in Social Anxiety. Journal of Experimental Psychopathology, 6(3), 278-296. DOI:10.5127/jep.044914.

カナダのウォータールー大学心理学部メンタルヘルス研究センターの研究者による論文です。

○背景

自己概念明確性・自己明確性(Self-Concept Clarity)という概念があります。その具体的な説明は上述しました。自己明確性は自尊心(自尊感情)を高め、適応的な社会行動を促すと考えられています。一方、社交不安特性が高い人は自己明確性が低下しているとされます。しかし、社交不安と自己明確性を結ぶメカニズムについては不明のままです。そこで本研究ではメカニズムの解明に挑みました。その際に以下の仮説を立てました。
仮説:社交不安特性が高い人で自己明確性が低いメカニズムには自分の意見よりも他者に迎合した、不誠実な意見を言う自己防衛的方略が媒介しているであろう。
○方法

ラボ(実験室)で行った社会的課題において被験者の自己開示(self-disclosures)の誠実性を操作し、その後の自己明確性の変化を測定。

○結果

誠実に自己開示した場合と比較して、自己開示が不正直だと自己明確性が低下しました。ただし、これは社交不安特性が高い人だけでした。

○コメント

これは社会心理学でいうと社会的同調(social conformity)とも関係する実験です。社会的同調とは集団に沿った行動をすることや集団の多数派の意見に沿って自分の意見や信念を曲げることです。心理学の教科書で登場するのがソロモン・アッシュという社会心理学者が行った実験です。アッシュの実験とは1つの線分と同じ長さの線分が別の3つの線分の内どれかを判断させる課題で答えが明瞭であるにもかかわらず、他者(サクラ)の多くが間違った答えをすると、実験参加者(被験者)も間違った回答をするというものです。

社交不安特性が高い人はたとえ自分の意見があっても他者に迎合したことを言うと、自己明確性が低下する(平たく言うと自分がブレる,自分を見失う)というのが本研究成果です。社交不安が高い人は同調のコストとして自分がブレブレになる現象があるというのは面白い現象ですね。逆にいえばなぜ社交不安特性が低い人は同調意見の表出で自分がブレなかったのか、その理由が気になるところです。

もっとも今回の研究はカナダの研究グループによるものであり、日本でやっても同じ結果が出る保証はありません。文化心理学的アプローチにも期待したいです。また、本研究の目的は社交不安と自己明確性を関連付けるメカニズムの探求にありましたが、本研究成果で欠けているのはそもそも社交不安特性が高い人は他者への同調が強いのか(それとも弱いのか、または何の関係もないのか)といった疑問です。この種の疑問にはもしかしたら先行研究の蓄積があるかもしれませんが、これからも研究が続きます。

○引用文献:全文は読んでいません。記事執筆に必要なところだけつまみ食いしました。
安達知郎(2009). 自己の多面性、変動性に関する研究の現状と課題 ー測定方法の観点からー 東北大学大学院教育学研究科研究年報, 58(1), 209-226.
(Adachi, T. (2009). A review of researches on Self-multiplicity and Self-variability ーfrom the viewpoint of measurementー Annual Bulletin, Graduate School of Education, Tohoku University, 58(1), 209-226.)

徳永侑子・堀内孝(2012). 邦訳版自己概念の明確性尺度の作成および信頼性・妥当性の検討 パーソナリティ研究, 20(3), 193-203. DOI:10.2132/personality.20.193.
(Tokunaga, Y., & Horiuchi, T. (2012). Development of a Japanese Version of the Self-Concept Clarity (SCC) Scale. Japanese Journal of Personality, 20(3), 193-203. DOI:10.2132/personality.20.193.)

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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