ポイント・ライト・ウォーカーが遠ざかって行くように見える高社交不安群 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(論文要旨)、実験方法、実験結果だけを読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回はバイオロジカルモーション(biological motion)知覚と社交不安の関係についての論文です。今回の研究は社交不安が高いとバイオロジカルモーションの歩行者が自分から離れていくという知覚が生じやすいという結果になっています。なお、バイオロジカルモーションとは点の動きに人などの生命体の動きを読み取ることです。点しか見ていないのに、無意識のうちにか生物の動きを検出してしまう認知システムが人間(+他の動物)には備わっています。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒おしっこを我慢すると嘘を言うのが上手くなる
↑抑制波及効果(Inhibitory-Spillover-Effect:ISE)という現象で説明できるというのが研究者の見方です。抑制波及効果とは自己制御で他の自己制御が上手になることです。

Van de Cruys, S., Schouten, B., & Wagemans, J. (2013). An anxiety-induced bias in the perception of a bistable point-light walker. Acta psychologica, 144(3), 548-553. doi:10.1016/j.actpsy.2013.09.010.

ベルギーのルーヴェン・カトリック大学実験心理学研究室の研究者らによる論文です。

○方法

実験参加者(被験者)は心理学の大学生の内、社交不安が低い人19名と社交不安が高い人18名でした(全員女性)。

*社交不安はリーボウィッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale:LSAS)で評価。

薄暗い防音室で被験者はポイント・ライト・ウォーカー(point-light walkers)を見ました。

ポイント・ライト・ウォーカーとは暗い背景に人間が歩行している様子を複数の光点を用いて表示したものです。今回は15個のドットでポイント・ライト・ウォーカーを形成しました。詳細は他の論文を見ろということで実験方法がよく分からないのですが、遠近情報も追加して複数のポイント・ライト・ウォーカーを作成したようです。通常、ポイント・ライト・ウォーカーは被験者に近づくか遠ざかるかのどちらにも解釈できるような曖昧な刺激です(注釈参考のこと)。しかし、遠近手がかりにより奥行きを与えることで、より明確に歩行方向の知覚ができるようにして、被験者の判断バイアスを計測しました。

*注釈:普通のポイント・ライト・ウォーカー刺激はたとえ同じものであっても実は接近と後退のどちらにも知覚できます。なお、通常、バイオロジカルモーションの実験ではfacing bias(対面バイアス・直面バイアス)という現象が生じます。facing biasとはポイント・ライト・ウォーカーが自分の方に向かってくるように感じる現象のことです。たとえ刺激が接近か後退か曖昧でも接近してくるように感じることがfacing biasになります。ちなみに、遠近手がかりありのバイオロジカルモーションの実験の詳細については以下の論文が詳しいとのことです。

Schouten, B., & Verfaillie, K. (2010). Determining the point of subjective ambiguity of ambiguous biological-motion figures with perspective cues. Behavior Research Methods, 42(1), 161-167. DOI:10.3758/BRM.42.1.161.

被験者はキーボードの上矢印か下矢印でポイント・ライト・ウォーカーが自分に向かってきているか、遠ざかっているかの二択で強制選択しました。時間制限は設けませんでした。

○結果

実験の結果、遠近情報が歩行方向の知覚に影響しました。また、低社交不安群と比較して、高社交不安群はポイント・ライト・ウォーカーが自分に向かってきているという判断をする割合が少なくなりました(逆に言うと、社交不安が高い群の方がポイント・ライト・ウォーカーが自分から遠ざかっているという判断をすることが多い)。

補足分析:遠近情報は反応時間にも影響しましたが、群の主効果はありませんでした。しかし、群と遠近情報の交互作用があり、これは低社交不安群が最初の3つの遠近レベル(視角視野~-50°)で反応時間が長いことによるものでした。

○コメント

(社交)不安が低い人/状況と(社交)不安が高い人/状況とでは顔(表情)処理が異なるというのは心理学や神経科学の実験でよく見かける話です。もっとも(社交)不安が高いから顔/表情処理が異常なのか、実験的に怒りの表情への注意バイアスを形成させるとストレッサー経験中の不安行動やその後の不安(質問調査)が高まりやすいという研究(Eldar et al., 2008)のように顔(表情)処理が不安を誘発するのか、それとも両方なのかという論争がでてくる話題ではありますが。あるいは別の可能性として、(社交)不安と顔(表情)処理の両方に影響する第3の要因が潜んでいるということも考えられます。

しかし、今回のバイオロジカルモーションの実験では顔情報がほとんどなく、表情にいたっては皆無です。というのも、ポイント・ライト・ウォーカーでは顔に該当する箇所が光点1つで表現されているからです。したがって、今回見いだされた社交不安の高低によるバイオロジカルモーションの知覚判断の違いは社交不安での顔?/表情知覚のバイアスでは説明できません(もっとも社交不安が高いと顔に該当する単なる光点でさえ脅威に感じたり、何らかの知覚的歪みがあるというなら話は別ですが)。

高社交不安群のバイオロジカルモーション知覚のバイアスも面白い研究ですが、両眼視野闘争での知覚バイアスも面白いですよ。本ブログ記事より⇒両眼視野闘争で笑顔が見えない社会不安障害患者

なお、7~12歳の子供ではノイズ下のバイオロジカルモーションの知覚が心の理論課題の成績と関連するという研究が今年(2015年)11月2日、実験児童心理学雑誌(ジャーナル)にオンライン公開されました(Rice et al., in press)。ここでの心の理論課題とは写真に写っている顔の目の領域から心的状態を推測する能力を測る試験とストーリーから心的状態を推測する能力を測る試験のことです。この2つの心の理論課題の成績は相関しなかったことから、それぞれ別々の社会認知を反映していると考えられ、バイオロジカルモーションの知覚は様々な社会認知のドメインと関連することが示唆されました。

そういえば、社交不安障害群はまなざしから心を読むテスト(RMET)や映画の1シーンから登場人物の心理状態を推測する課題(MASC)が苦手で、他者の思考や感情に情動や意味をより強く感じるという研究(Hezel & McNally, 2014)がありましたね。社交不安障害者でバイオロジカルモーションの知覚と心の理論(障害)とが関係するのかどうか気になるところです。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Rice, K., Anderson, L. C., Velnoskey, K., Thompson, J. C., & Redcay, E. (in press). Biological motion perception links diverse facets of theory of mind during middle childhood. Journal of Experimental Child Psychology, doi:10.1016/j.jecp.2015.09.003.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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