デフォルトモードネットワークが報酬課題で高い活動を示す高社交不安者 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

脳にはデフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)と呼ばれる神経網が存在します。DMNとは課題遂行時よりも安静時に活動が高まる神経ネットワークのことです。DMNは内側前頭前野、後部帯状皮質/喫前部、下頭頂小葉、外側側頭皮質、海馬などで構成されています。DMNの機能に「自己内省(self-reflection)」があるという仮説があります。少なくとも部分的にはDMNは社会脳ネットワークと重なります。

*自己内省とは思考や記憶、感情など自己に内的な注意を向けることを言います。自己内省で将来のことを想像することもあります。DMNが自己内省の役割を担うというエビデンスは自己参照処理課題中に内側前頭前皮質や後帯状皮質の活動が高まるなどの知見です。

さて、そんなDMNが社交不安、それも報酬処理中の活動と関連するという論文をバージニア大学心理学部の研究者が発表されています。

Maresh, E. L., Allen, J. P., & Coan, J. A. (2014). Increased default mode network activity in socially anxious individuals during reward processing. Biology of Mood & Anxiety Disorders, 4:7. doi:10.1186/2045-5380-4-7.

★概要

○方法

実験参加者は服薬していない84人(女性42人)。平均年齢は24.56歳(SD=1.17)。社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)の人はなし。

使用尺度は以下の通り(両方とも18~25歳に渡る継続的調査の結果を個人ごとに平均化)
・社交不安の評定:青年用社交不安尺度(Social Anxiety Scale for Adolescent:SAS-A)。SAS-Aは3因子構造(否定的評価恐怖・新奇状況での社会的回避と苦痛・一般的状況での社会的回避と苦痛)。
・特性不安の評定:状態特性不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)の特性項目の得点
*実験参加者は立派な大人なのに青年用の社交不安尺度を用いた理由は本研究は縦断研究プロジェクトの協力者が参加したもので、縦断研究は青年期に始まったから。

実験課題は金銭報奨遅延課題(Monetary Incentive Delay task:MID課題)。MID課題とはお金の受容(の失敗)や損失(の回避)について予期的な神経活動と結果判明段階での神経活動を計測するために考案された実験パラダイムのことです。今回はfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使用。

MID課題の試行の流れは以下の通り。

予期フェイズ(500 ms)→固視十字点の呈示(2,000~2,500 ms)→ターゲット刺激の呈示(160~260 ms)→フィードバック(1,650 ms)

予期フィズでは手がかり刺激を呈示。この手がかり刺激は図形で、その形状から金銭獲得試行なのか損失試行なのか金銭の獲得も損失もない試行(中性試行)なのかが分かりました。また、図形内にある横棒の数で獲得金額(損失金額)が分かりました($0.20か$1.00か$5.00)。また、被験者にはターゲット刺激を見た後、お金を獲得するため(損失試行なら損失を回避するため)にできるだけ早くボタン押し反応をするよう教示しました。フィードバックフェイズでは当該試行の帰結(獲得金額や損失金額)とこれまでの獲得総額をスクリーンに表示しました。

なお、すべての被験者で正反応率が約80%になるようにターゲット刺激の呈示時間を個人ごとに調整しました。

○結果

損失試行よりも獲得試行で反応が早くなりました。反応時間やhit rate(ヒット率/捕捉率)に社交不安や特性不安の影響はなし(もっとも有意傾向の結果として社交不安が高いと獲得試行で反応が遅いというものがでていますが)。

・獲得試行の予期段階
中性試行の予期段階の脳活動との比較で補足運動野、傍帯状皮質(paracingulate cortex)、前帯状皮質、上前頭回、中心前回、中心後回、右縁上回、角回、上頭頂葉、喫前部、側頭後頭紡錘状皮質、外側後頭皮質、後頭極、島皮質、被殻、尾状核、側坐核、脳幹が賦活。

社交不安が高いと右内側頭頂葉~右喫前部、後帯状皮質、角回、上頭頂葉、縁上回、外側後頭皮質の活動が高くなりました。特に報酬が大きい場合よりも小さい場合に社交不安と予期活動の関係が強くなりました。また、青年用社交不安尺度(SAS-A)の内、否定的評価恐怖と新奇状況での社会的回避と苦痛が脳活動と強い関係を示しました。

特性不安をモデルに含めても社交不安が独自に左前頭極~左中前頭回/前帯状皮質と左喫前部~左後帯状皮質の活動の高さと関連しました。

実は社交不安が腹側線条体の活動の低さと関連するという仮説を立て、関心領域解析法(Region-Of-Interest analysis:ROI解析法)で分析していたのですが、何の関係も発見されませんでした。ただ、青年用社交不安尺度の内、一般的状況での社会的回避と苦痛が右腹側線条体活動と負の関係を示しました。

・損失試行の予期段階
中性試行の予期段階の脳活動との比較で外側後頭皮質、後頭極、後頭紡錘状回、側頭後頭紡錘状回、上頭頂皮質、縁上回、角回、中前頭回、上前頭回、中心前回、傍帯状、前帯状皮質、補足運動野が活性化。

全脳解析法(Whole Brain Analysis:WBA)では社交不安と関係する脳部位が発見されませんでした。しかし、ROI解析法では社交不安と右腹側線条体活動に負の関連がありました(特性不安をモデルに投入しても同様)。特に否定的評価恐怖や新奇状況での社会的回避と苦痛との関連が強くなりました。

・獲得予期 vs. 損失予期
社交不安との関連は検出できず。

・獲得試行のアウトカム(フィードバック)段階
中性試行のアウトカム段階との比較で両側角回、縁上回、上頭頂葉、喫前部、外側後頭皮質、右中前頭回、右上前頭回、背外側前頭前皮質、傍帯状が興奮。

社交不安と正の関連があったのは左上頭葉~両側外側後頭皮質、右上頭頂葉、喫前部、左縁上回、中心前回、中心後回。社交不安が高いと金額が小さい場合($0.20)よりも金額が大きい場合($5.00)に脳活動が高くなりました。特に否定的評価恐怖や新奇状況での社会的回避と苦痛との関連が強くなりました。特性不安もモデルに投入すると社交不安と正の関連を示した脳部位は左縁上回~左上頭頂葉、角回、中心後回でした。

ROI解析法で内側前頭前皮質をROIに設定して分析しても社交不安との関係は有意になりませんでした(これは以下の損失試行のアウトカム段階の分析でも同様)。

・損失試行のアウトカム(フィードバック)段階
中性試行のアウトカム段階との比較で両側縁上回、角回、上頭頂葉、上前頭回、傍帯状、外側後頭皮質、喫部、喫前部、右前頭極、中前頭回、下前頭回、島皮質が賦活。

社交不安との関連はありませんでした。しかし、否定的評価恐怖と脳活動が正の関連を示し、一般的状況での社会的回避と苦痛と脳活動が負の関連を示しました。

・獲得アウトカム vs. 損失アウトカム
社交不安と正の関連を示した脳クラスターは左縁上回~左角回、上頭頂葉、外側後頭皮質でした。

★コメント

冒頭で述べたように喫前部や後帯状皮質などはデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の一部です。以上の結果から、論文では報酬処理、特に報酬獲得の期待や獲得フィードバックで社交不安が高いとDMNの活動も高いと結論付けています。DMNの活動は報酬処理で低下するはずなので、社交不安が高いとDMNの活動低下が弱いということになります。また、特性不安の影響を除外しても社交不安が独自にDMNの活動と関連しました。さらに、損失試行では予期フェイズで社交不安が高いほど右腹側線条体活動が低くなりました。

先に述べたようにDMNの機能に自己内省があります。ですから社交不安が高いと報酬課題中の自己焦点型注意が高いと考えられます。社交不安の内、特に否定的評価恐怖や新奇状況での社会的回避と苦痛とDMNが強く関連するようです。しかも、社会的報酬処理ではなく金銭報酬処理で、です。

社交不安が高いと報酬処理でDMNの活動低下が弱いというのが本論文の主旨ですが、これがDMN自体によるのか、それとも他の脳ネットワークによって引き起こされた現象なのかが不明です。一般にDMNは顕著性ネットワーク(Salience Network:SN)によって中央実行ネットワーク(Central Executive Network:CEN)との切り替えが図られると考えられています。なので、SNによるDMNの制御ができていないことが社交不安と関連することも十分に考えられ、今後の研究課題となってきます。

社交不安が高いとこれからターゲット刺激へ反応しなければならない報酬獲得期待フェイズだけでなく、反応が終了した後のフィードバックフェイズでもDMNの活動が高いあるいは活動低下が弱まっているという結果でした。論文では反応終了後もDMN活動が高まったままであることと社交不安が高いと褒められることが怖いという知見を結びつけて考察してあり面白かったです。報酬獲得フィードバック(≒称賛)で次も試行を上手くこなさないといけないというプレッシャーがDMNの活動によって媒介されているのではないかという議論でした。

なお、社交不安が高いと褒められることが怖いということについては「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?」や「社交不安→ポジティブ評価恐怖尺度得点が高い→注意バイアス」、「日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました」をご覧ください。特に「緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか?」では「魅力的だと感じている人から賞賛を受けると不安になりそうだ」や「人の前で上手くできたら、『上手過ぎる』かどうか気になる」といった具体的な質問項目を列挙し、それぞれの質問に対して10段階評定で答えることができるようにしているので、気になる人はチェックしてみてください。

ただ、DMNにも下位ネットワークがあるとされます。たとえば、DMNを前部のaDMN(anterior DMN)と後部のpDMN(posterior DMN)とに区分する考え方があり、それぞれ機能的な意味合いが異なる可能性があります。aDMNは内側前頭前野がハブ領域で、他には前部帯状皮質などが含まれ、pDMNは喫前部/後部帯状皮質がハブ領域です。機能的分離研究としてはaDMNは現在の内省に、pDMNは将来の内省で賦活するという論文があります(Xu et al., 2016)。したがって、DMNの下位分類の観点から社交不安との関係を探るのも面白そうです。これにより、社交不安が現在の内省と関連するのか、それとも将来の内省と関連するのか(あるいは両方か?)が見えてきます。

○社交不安とポジティブ感情の低さの関係の神経機構

社交不安はネガティブ感情の高さと関連しますが、「ポジティブ感情の低さ」とも関連することが示唆されています。また、側坐核を含む腹側線条体は報酬予測時に活性化し、内側前頭前皮質は報酬獲得時に活性化します。

したがって、社交不安と報酬予期時の腹側線条体の活動の低さや報酬獲得時の内側前頭前皮質の活動の低さが関連すると考えるのは自然な流れです。事実、ポジティブムードの誘導操作でMID課題の報酬期待時に側坐核や尾状核、被殻、外側眼窩前頭皮質、前島皮質、腹内側前頭前皮質の活動が亢進するとの研究があります(Young & Nusslock, in press)。ただし、Young & Nusslock(in press)は報酬アウトカム時や損失予測・損失アウトカム時への効果はなかったことからポジティブムードは報酬期待の神経処理に特異的な影響をもたらしたということでした。

これが腹側線条体(予期フェイズ)や内側前頭前皮質(アウトカムフェイズ)でROI解析をした理由です。しかし、仮説に反して社交不安全般とはほとんど何の関係も見つかりませんでした。損失の予期で社交不安が高いほど右腹側線条体活動が低くなるという関係性が検出されたのが例外で、内側前頭前皮質に至っては何の関係も発見できませんでした。

しかし、報酬/処罰処理と社交不安との関連を検証するのもいいですが、ポジティブ感情との関連を直接調査すべきです。本論文のロジックでいうと「ポジティブ感情の低さ」があるが故の報酬系の研究なのですから。

なお、論文の序論によると、「不安」はポジティブ感情の低さと関連しないとされます。あくまで「社交不安(障害)」は例外的にポジティブ感情の低さと特異的に関連するといわれているので要注意です。ちなみにうつ病もポジティブ感情の低さと関連します。うつ病にはアンヘドニア症状(快楽喪失症・無快楽症)があります(アンヘドニアとは喜びや快感を感じられない症状のことです)。

○本研究の強みと弱み

本研究は社交不安障害者が参加しておらず、あくまでも健康人の社交不安と脳活動との関係を探った論文です。その意味で結構貴重な研究かもしれません、というのも先行研究では社交不安障害者の報酬処理を調べたものばかりで、臨床閾値未満の社交不安での調査は少なかったからです。なお、社交不安障害患者の報酬処理研究で先駆的な論文は「社会不安障害の中学生はお金の金額に敏感」という記事でとりあげたので参考にしてください。この研究の後に社交不安障害と高機能自閉症で報酬処理を比較した研究(Richey et al., 2014)が発表されています。ただし、社交不安障害のリスク要因である抑制的気質の報酬処理に関しては社交不安(障害)の報酬処理よりも研究の蓄積があります。詳しくは「乳幼児期に抑制的気質だと青少年期に社会的な報酬系が異常」や以下のリンク先をご覧ください。

物質使用問題や不安の発現を脳イメージング技術で予測するといった臨床的含蓄のある研究は社交不安(障害)の報酬研究よりも抑制気質の報酬研究の方が多いです(「行動抑制+線条体の興奮→物質使用(薬物乱用・薬物依存)」や「ドーパミン受容体遺伝子多型と尾状核が不安の発現に関与」を参考のこと)。

社交不安・特性不安の評価方法が18~25歳の間に行った質問紙得点を平均していた点はユニークですね。最低で3回、最高で7回も社交不安・特性不安を測ってそれを平均していました。この方法をとると、個人の安定的な不安傾向が測れます。

一応、各金額の比較はありますが、基本的に3種類の金額での脳活動をすべて合算して分析しているのが疑問です。というのも社交不安障害の青年ではMID課題の予期段階で獲得金額・損失金額が高くなればなるほど尾状核と被殻が活動し、腹側線条体の側坐核も報酬金額・損失金額によって活動が異なるという先行研究(Guyer et al., 2012)があるからです。なので、少なくとも予期フェイズの腹側線条体の解析ぐらいは金額の多寡による脳活動の違いの検証結果を報告した方が良いと思いました。

○引用文献:Xu et al.(2016)はアブストラクトだけでなく、中身を一部読みましたが、Young & Nusslock(in press)はアブストラクトだけ読みました
Xu, X., Yuan, H., & Lei, X. (2016). Activation and Connectivity within the Default Mode Network Contribute Independently to Future-Oriented Thought. Scientific Reports, 6:21001. doi:10.1038/srep21001.

Young, C. B., & Nusslock, R. (in press). Positive Mood Enhances Reward-Related Neural Activity. Social Cognitive & Affective Neuroscience, doi: 10.1093/scan/nsw012.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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