愛着不安定型だった青年は怒り表情にフリージングする | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は幼少期の愛着とフリージングとの関係を調べた不安(障害)・恐怖に関する興味深い研究です。フリージングとは電気ショックなどの脅威刺激を与えることで受動的ストレス反応として表出される「身体が凍り付く」反応のことです。すくみ反応とも言います。フリージングはラットやマウス(げっ歯類)で研究されることが多いですが、実はヒトでもフリージングに似たような反応(フリージング様反応)が起きることが知られています。ヒトでのフリージング研究について詳しく知りたい方は『緘黙人の緘動-フリージングの心理学研究より』をご覧ください。

参考までにその他のフリージング記事へのリンクも貼っておきます。主に場面緘黙症(選択性緘黙症)の緘動症状との関連を議論した記事です。
河井らの緘黙本にある「行動の三つの水準」は間違っている?
河井夫妻の緘黙研究とフリージング研究の統合

今回取り上げる論文の実験結果を先に述べると、生後15か月齢に親子の愛着が不安定型だと14歳になってから中性表情よりも怒り表情に対してフリージング様反応が強く出るという研究です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒口の幅が広い人はリーダーの素質がある
↑CEO(最高経営責任者)の?口の幅の広さが会社の利益と相関するとは驚きですね。都市伝説の口裂け女が実在したとしたらリーダシップ力は半端ないはずです(笑)

Niermann, H. C. M., Ly, V., Smeekens, S., Figner, B., Riksen-Walraven, J. M., & Roelofs, K. (2015). Infant attachment predicts bodily freezing in adolescence: evidence from a prospective longitudinal study. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 9:263. doi: 10.3389/fnbeh.2015.00263.

オランダのカトリック系大学、ラドバウド大学行動科学研究所、ドンデルス研究所脳・認知・行動科学科(Donders Institute for Brain, Cognition and Behaviour)、ヘールレンのオランダ・オープン大学(Open University of the Netherlands)心理学教育科学研究科の研究者らによる論文です。

○背景と目的(論文のイントロダクションより)

げっ歯類(齧歯類)や霊長類による動物実験から母子分離経験をしたり、母親の養育行動(なめる・身づくろい)が低いとフリージングに影響することが示されていました。つまり、子供の頃にネガティブな養育経験を受けるとフリージングが増悪し、生涯にわたって不安が高く、回避行動をとり、ストレスコーピングが非適応的になるわけです。

しかし、ヒトでは幼少期の被養育体験とフリージングの関係について分かっていることはほとんどありません。したがって、本研究では前向き縦断研究デザインを用いて、幼児期の親との愛着が青年期のフリージング行動と関連するかどうかを調査することを目的としました。ちなみに、ヒトの幼少期ストレスモデルでは親子の愛着が不安定型だと防御反応(フリージングを含む)の増加が生じるとされているそうです。特に脅威・ストレスシステムの可塑性が高く、経験による変化が起きやすい生後1年は愛着不安定型の乳児に生じやすい慢性ストレスがフリージングなどの防御行動を大きくさせると予測されます。

○方法

被験者はナイメーヘン縦断研究(Nijmegen Longitudinal Study:NLS)に参加している人々。最終的にデータ解析に用いられたのは79人(少年が49%,平均年齢14.63歳,SD = 0.18)。

・愛着の評価(15か月齢)

子供が15か月の時に親子の愛着をストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure:SSP)で評定。本研究では愛着スタイルを安定型、回避型、抵抗型、無秩序型・混乱型に分類。愛着不安定型とは回避型、抵抗型、無秩序型・混乱型のいずれかに該当すること。英語にすると回避型はAvoidantなのでAタイプ、無秩序型・混乱型はDisorganized and DisorientedなのでDタイプ、安定型はSecureですがなぜかBタイプ、抵抗型もResistantなのにCタイプ。

ストレンジ・シチュエーション法とは実験室で母親が一緒にいる時、見知らぬ人物の入室後、母親が退出した後の見知らぬ人物との同室場面、母親との再会後の赤ちゃんの行動を観察し、母子関係の研究に使う実験観察法のことです。精神分析学者、ジョン・ボウルビィの愛着理論に従い、発達心理学者のエインズワース(Ainsworth. M. D. S)が開発しました。

・フリージング評価(14歳)

愛着評価からおよそ13年後の約14歳の時期にスタビロメトリック力プラットフォーム(stabilometric force platform)によりフリージング様反応を計測。心電図(ECG)で心拍数も計測。足圧中心(Center Of Pressure:COP)の前後方向と左右方向の変位を定量化。詳しくは知らないのですが、足圧中心とは床から足裏にかかる力(床反力)が作用する平均位置のことらしいです。重心動揺の定義は足圧中心の標準偏差。

*スタビロメトリック力プラットフォームとは重心動揺を測る実験装置のことで、身体のバランス状態の計測を行う手段になります。

実験手続きは裸足でプラットフォームの中央に直立し、コンピュータスクリーンに表示される顔写真を見るというもの(顔写真はグレースケールで、呈示時間は3秒)。その後に行う課題のために顔写真を記憶するよう教示。

表情刺激は幸福、怒り、中性(無表情)の3種類で、試行間間隔なしに連続して同じ表情を呈示(ブロック化)。ブロック間間隔は7秒で、各ブロックは1分間。前後方向(SD-AP)と左右方向(SD-ML)の2種類の重心動揺の平均値をそれぞれの表情刺激ブロックごとに算出。

幼少期の愛着スタイルと青年期のフリージングにユニークな関係があるかどうか調べるために、他の要因を統制。他の要因とは養育行動の質、ストレスフルなライフイベント。養育行動の質は親子の交流を記録したビデオテープに基づき第三者が2.5歳、5歳、7歳、12歳の時に評定。評定内容はサポーティブな存在(情動的サポート)、子供の自立の尊重(非侵入性)、効果的構造と限界設定、指示の質、敵愾心。ストレスフルなライフイベントは2.5歳、5歳、7歳、9歳、12歳、14歳の時に評定(評定者は親)。生活経験調査(Life Experiences Survey:LES)と児童用ライフイベント尺度(Life Events Scale for Children:LES-C)の質問項目から離婚や死別体験などを抜粋。

フリージング実験をする前に状態不安を視覚的評価スケール(Visual Analogue Scale:VAS)で評定(101件法)。

○結果

15か月の愛着が安定型だったのは56人(71%)、不安定型だったのは23人(29%)。不安定型の内、回避型は8人、抵抗型は7人、無秩序型・混乱型は8人。安定型の内、男の子は43%、不安定型の内、男の子は65%(性別を考慮した分析をしても結果は変わらず)。

左右方向の重心動揺検査の結果は表情刺激の影響を受けませんでした。これは「不安が強い人ほど怒った顔を見るとフリーズする」という記事で取り上げた先行研究(Roelofs et al., 2010)と一致します。本論文でも左右方向の重心動揺よりも前後方向の重心動揺の方が情動刺激の影響を受けやすいと議論されています。したがって、以下は前後方向の重心動揺のみを取り上げます。

前後方向の重心動揺検査では表情の主効果が検出されました(愛着の主効果は有意でない)。特に怒り表情と中性表情の対比で怒り表情の方が重心動揺が低下し、他の表情の比較は有意ではありませんでした⇒怒り顔でフリージング様反応。

また、表情と愛着の交互作用が有意で、単純主効果の検定の結果、怒り表情(vs. 中性表情)で愛着安定型よりも愛着不安定型の方が重心動揺が低下しました。また、愛着安定型では表情の種類(怒りか中性か)の影響が検出されませんでしたが、愛着不安定型だと表情の種類の影響がでました⇒15か月齢に愛着不安定型だと怒り表情でフリージング様反応がおこった(と解釈できる)。

しかし、怒り(vs. 幸福)や幸福(vs. 中性)では愛着タイプによる差が検出されませんでした。また、2つの表情の比較をせずに表情単体で愛着による重心動揺への影響を調べても何の有意な効果も検出されなかったことから、表情刺激に対する反応の相対的な差を分析しなければならないことが示唆されました。これは表情が被験者内要因なので、中性表情との比較により重心動揺の個人差を統制することが可能であるからと論文中で考察されていました。

一方、心拍数への影響は主効果、交互作用ともに有意ではありませんでした。しかし、怒り顔(vs. 中性顔)での重心動揺の低下が怒り顔(vs. 中性顔)での心拍数の減少と正の相関を示しました(r = 0.26)⇒怒り表情での身体の硬直が激しいほど心拍数の減少が大きい。

また、2.5~12歳の養育行動の質、2.5~14歳のストレスフルなライフイベントを統制すると、表情と愛着の交互作用が有意傾向に下がりましたが、主な結果は変わりませんでした⇒赤ちゃんの頃の愛着スタイルと青年期のフリージング様反応の関係は養育の質やストレスフルなライフイベントだけでは説明できない。

状態不安を統制すると、表情の主効果が有意でなくなり、表情と愛着の交互作用が有意傾向に落ちましたが、主な結果は変わりませんでした。また、愛着安定型でのみ、状態不安と怒り顔(vs. 中性顔)の重心動揺に負の相関関係(r = −0.40)が検出されました(赤ちゃん時代に愛着安定型だった青年で状態不安が高いほど怒り顔でフリージング様反応を起こす)。

○コメント

以上をまとめると、前後方向の身体の動きで…

・怒り表情(vs. 中性表情)で重心動揺が低下(フリージング様反応)

・15か月齢に愛着不安定型だと怒り表情を見るとフリージング様反応が強くでる(vs. 中性表情)

・怒り顔でフリージング様反応が強くでる人ほど心拍数が低下(vs. 中性顔)

・赤ちゃんの頃に愛着安定型だった青年は状態不安が高いほど怒り顔でフリージング様反応がでる(vs. 中性顔)


となります。本論文では2.5歳~12/14歳の養育行動の質やストレスフルなライフイベントを統制しても主な結果に変わりはなかったことから、15か月齢という年齢での愛着が後のフリージング様反応に特異的な役割を果たしていると議論されています。要するに乳幼児期の親子の愛着は青年になってからの防御行動に影響する可能性があるわけです。

ただ、データでは過去に(あるいは現在でも)愛着不安定型だと中性表情での重心動揺が大きくみえたことから、愛着不安定群の怒り顔に対するフリージング様反応は単にベースラインの中性表情で身体の動きが大きかったことの反動ではないか?という考察もされています(実際に愛着不安定型の子は落着きがなく、衝動的だという研究があるそうです)。逆に言うと、愛着安定群では中性表情で身体の動きがそんなに大きくなかったので、怒り顔にフリージング様反応を起こす余地が少なかったとも考えられます(床効果)。

生後15カ月の幼児が愛着不安定型だと青年期に怒り顔にフリージング様反応を示したという本研究成果は動物実験(特にげっ歯類の実験)やヒトの幼少期ストレスモデルによる予測と合致しています。幼少期愛着が不安定型だと将来発達問題や精神病理を抱えるリスクが高まることとフリージング様反応の関係を調べることが必要です。もっともフリージングをストレスに対する適切なコーピング方略としてとらえるならば、フリージングはレジリエンスにもなり得ます。

幼児期に愛着安定型だと14歳で怒り表情へのフリージング様反応(vs. 中性顔)が生じにくかったです。しかし、状態不安が高いとたとえ愛着が安定型でも怒り表情にフリージング様反応を示すようになったというのは興味深いですね。青年期に脅威刺激へフリージング様反応を示すのは幼児期愛着が不安定型の人と愛着が安定型で現在の状態不安が高い人の2種類がいるということです。

愛着安定型で状態不安が高いほど怒り表情に身体が凍り付いたという結果は、平均年齢20.6歳の女子大生が参加した先行研究(Roelofs et al., 2010)でも見いだされています。Roelofs et al.(2010)は愛着スタイルを考慮した研究ではありませんでしたが、状態不安が高いほど怒り顔(vs. 中性顔)でフリージング様反応が強く出るということを示しました。したがって、本研究は成人済みの人だけでなく青年期(あるいは思春期)にもフリージングが起こることを示唆したという点で般化の程度が拡大しました。ぜひどんどん年齢を下げていって最終的には場面緘黙児のフリージング研究(≒緘動研究の実験モデル?)につなげてほしいところです。

なお、日本では母子分離不安が強い場面緘黙児(登校渋りの小学4年生)の支援方法として愛着理論に着目した事例研究(伊藤・植木田, 2014)があります。独立行政法人、国立特別支援教育総合研究所の伊藤由美研究員(教育支援部主任)と同研究所の植木田潤研究員(教育相談部)による共著論文ですが、事例研究です。統計的に場面緘黙症と愛着の関係を検討したものには韓国の研究があります(Sang-Hoon et al., 2006)。Sang-Hoon et al.(2006)によると、場面緘黙児の母親には愛着安定型と軽視-回避型の人が多く、特に軽視-回避型は統制群よりも多い傾向にあったそうです。また、統制群と比較して場面緘黙児の母親の愛着の質は親密さ、依存度、不安の得点が低かったそうです。もっとも本文は韓国語の論文なので私には意味不明ですが(アブストラクトは英語で読めます)。

愛着研究一覧
愛着不安・愛着回避が高い人は集団の危険探知・逃避を早める
愛着不安が高い人は他者に援助を求めるのが早い
愛着不安が高い人は嘘を見破ることとポーカーが得意

○引用文献:全文は読んでいません。必要な箇所だけつまみ食いしました。
伊藤由美・植木田潤(2014). 緘黙児の自己表現の変容に関する一考察 ―母子分離不安への支援を通して― 国立特別支援教育総合研究所研究紀要, 41, 37-51.

Sang-Hoon, C., Sung-Hoon, J., & Un-Sun, C. (2006). Adult attachment style in mothers of children with selective mutism. Journal of the Korean Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 17(2), 106-113.
韓国語:차상훈・정성훈・정운선(2006). 선택적 함구증 환아 어머니의 성인애착유형. 소아청소년정신의학, 17(2), 106-113.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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