拒食症リスクが高い不安障害(特に強迫性障害) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)、調査方法、調査結果を読み込み、考察をさらっと流し読みした不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害になりました。

今回は不安障害は拒食症(神経性やせ症/神経性食欲不振症/神経性無食欲症)リスクを増加させるが、これは特に強迫性障害や男性で顕著というお話です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒腕時計をつける人は勤勉性が高く、時間に遅れない
↑日頃から腕時計をしている人の平均到着時間は約束時間よりも4.12分早く、腕時計をつけない人は0.90分早く到着するという結果が得られています。勤勉な人が腕時計をつけることが多いだけかもしれないと書きましたが、腕時計をはめていると時間意識が高まり、到着時刻が早くなるというenclothed cognition(服装化された認知)効果がある可能性も十分考えられます。enclothed cognitionとは服装が心や行動に影響するという意味です。

Meier, S. M., Bulik, C. M., Thornton, L. M., Mattheisen, M., Mortensen, P. B., & Petersen, L. (2015). Diagnosed Anxiety Disorders and the Risk of Subsequent Anorexia Nervosa: A Danish Population Register Study. European Eating Disorders Review, 23(6), 524-530. DOI: 10.1002/erv.2402.

デンマークのオーフス大学国立登録研究センター(National Centre for Register-based Research)&生体臨床医学研究科統合シーケンシングセンター(iSEQ)、iPSYCHのルンドベック統合精神医学研究財団イニシアティブ(Lundbeck Foundation Initiative for Integrative Psychiatric Research)、アメリカのノースカロライナ大学チャペルヒル校精神医学教室&栄養学科、スウェーデン、ストックホルムのカロリンスカ研究所医療疫学生物統計学研究科の研究者による論文です。

○方法

デンマーク市民登録システム(Danish Civil Registration System)、デンマーク精神医学中央登録(Danish Psychiatric Central Register)、デンマーク国立病院登録(Danish National Hospital Registry)のデータを関連付けました。デンマークでは移民も含め個人識別番号(personal identification number:PIN)が付与されており、PINによりデータの関連付けが可能でした。

1988年1月1日から2006年11月30日にデンマークで誕生したコホート(1,664 ,876人)を選別し、1994年1月から2012年12月まで追跡調査しました。このコホートで1994年から2012年の間に退院した入院患者または外来受診し、拒食症と診断された患者を中心にデータ解析しました。

診断は国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)による。今回はICD-8とICD-10を使用。両親の不安障害の分析はICD-10に限定。

○結果

 拒食症診断がおりたのは5,065人でした。拒食症になった女性は4,725人で、拒食症になった男性は340人でした(粗罹患率を計算すると1年で1万人あたり2.5人が拒食症の診断を受けたことになります)。5,065人の拒食症患者の内、186人(3.7%)が以前から不安障害の診断を受けていました(強迫性障害が95人、急性ストレス反応が36人、社交不安障害が30人、パニック障害が18人、全般性不安障害が13人、PTSDが9人、特定恐怖症が6人、広場恐怖症が5人)。

一般集団と比較して、不安障害で入院治療または外来診療を受けた人は拒食症罹患率比(Incidence Rate Ratio:IRR)が1.83(95%信頼区間:1.57, 2.13)でした。罹患率比は暦年、年齢、両親の年齢、性別、精神疾患の家族歴、誕生場所や年齢と性別の交互作用を調整済みなので、これらの要因の影響は排除できます。ちなみに不安障害別にみると全般性不安障害(IRR=1.83,95%信頼区間:1.01, 3.03)、社交不安障害(IRR=2.13,95%信頼区間:1.44, 3.01)、強迫性障害(IRR=2.43,95%信頼区間:1.96, 2.97)だけが拒食症リスクとなりました。

上記に加え、他の精神疾患が原因での初診も調整すると不安障害患者の拒食症罹患率比は1.81(95%信頼区間:1.555, 2.10)でした。社交不安障害(IRR=1.88,95%信頼区間:1.27, 2.66)と強迫性障害(IRR=2.65,95%信頼区間:2.14, 3.23)は拒食症リスクのままでしたが、全般性不安障害はリスクとはなりませんでした。

また、最初の調整に加えて、不安障害全般が原因での初診を調整する(他の精神疾患は調整せず)と、強迫性障害だけが拒食症リスクとなりました(IRR=1.72,95%信頼区間:1.29, 2.29)。

性別による不安障害による影響の違いも発見されました。すなわち、不安障害があると拒食症リスクが高まるのは女性よりも男性でした(女性のIRR=1.60,95%信頼区間:1.36, 1.88、男性のIRR=6.57,95%信頼区間:4.21, 10.06)。特に強迫性障害での男女差が大きく、女性で拒食症IRRが2.28(95%信頼区間:1.80, 2.84)だったのに対し、男性では拒食症IRRが9.32(95%信頼区間:8.01, 10.80)でした。

両親に拒食症歴があると子供の拒食症リスクが高まりました(IRR=2.90,95%信頼区間:1.76, 4.47)。拒食症患者の内、114人に不安障害歴がある親がいました。全般的には両親の不安障害歴(IRR=1.03,95%信頼区間:0.86, 1.22)、母親の不安障害歴(IRR=1.17,95%信頼区間:0.95, 1.42)、父親の不安障害歴(IRR=0.78,95%信頼区間:0.55, 1.06)は子供の拒食症リスクを高めませんでした。しかし、父親のパニック障害歴が子供の拒食症リスクを高めました(IRR=2.29,95%信頼区間:1.11, 4.47)。両親の不安障害が子供の拒食症リスクに与える影響では患者の性別による違いは検出されませんでした。

感度分析(Sensitivity Analysis)の結果、診断基準がICD-8の場合とICD-10の場合とで結果が異なりませんでした。また、拒食症リスクは不安障害の診断から1年間の場合でも1年以上が経過していても高くなりました。

○コメント

以上をまとめると、

・不安障害は拒食症リスクを増加させる

・拒食症リスクが高まるのは全般性不安障害、社交不安障害、強迫性障害だが、全般性不安障害は他の精神疾患を調整するとリスクでなくなる

・他の不安障害を調整しても強迫性障害は拒食症リスクを高める

・不安障害があると拒食症リスクが高まりやすいのは女性よりも男性

・父親のパニック障害歴が子供の拒食症リスクを高める


となります。強迫性障害が拒食症のリスクだというのは他の研究でも見いだされています(Buckner et al., 2010)。反対に摂食障害が不安障害のリスクとなることもあって、過食症(神経性過食症/神経性大食症)は社交不安障害やパニック障害のリスクだという報告もあります(Buckner et al., 2010)。なお、今回はあくまで拒食症の入院治療や外来診療を受けた人が対象の研究なので、精神科を診察しなかった人については不明です。

*強迫性障害はDSM-Ⅳでは不安障害に分類されていました。しかし、DSM-5では強迫性障害および関連障害群(強迫症および関連症群)という新たな章が設けられ、強迫性障害は不安障害とは別の扱いになっています。

知っている人は知っていると思いますが、拒食症と不安障害は併発することが多いです。だから本研究が画期的成果をあげたというわけではなく、わざわざ今回の論文をとりあげる必要はなかったかもしれません。しかし、論文によれば、登録データに基づき不安障害が後の拒食症リスクに与える影響を縦断的に調査したのはこの研究が初めてとのことです。それに本ブログでは不安障害との関連性が指摘される摂食障害のことについて触れる機会が少なかったので、この論文をきっかけに書いてみようかなと思いました。

実は摂食障害と社交不安障害が併発しやすい理由を実験的に検討した研究を知っているのですが、いつかこのブログでとりあげたいなあと思います。ただ、私のTwitterアカウントあるいはツイートまとめサイト『心理学、脳科学の最新研究ニュース』をご覧いただけたら分かりますが、日々最新の論文情報を得ることに追われてなかなかブログの更新が進まないので、いつになることやら。おかげで更新したい記事がたまっている状態です。

実験でなくても摂食障害(症状)と不安障害(症状)には共通の遺伝因子が働いているとされます。たとえば、Silberg & Bulik(2005)によると、女の子の摂食障害症状と過剰不安障害、うつ病、分離不安障害の各種症状には遺伝的共通性があるそうです。環境因子も共通することがあって、少女では8~13歳の早期うつ症状と早期摂食障害症状には共通した共有環境因子が働いており、14~17歳の後期摂食障害症状と早期/後期の分離不安症状にも共通した環境因子があるという研究があります(Silberg & Bulik, 2005)。

不安症状との関係を直接調べた調査ではありませんが、28~40歳の女性では摂食障害と自殺傾向に共通の遺伝因子が存在するという報告さえ存在します(Wade et al., 2015)。実際、縦断研究のメタ解析(メタアナリシス)によると、自殺と関係する抑うつも摂食障害(症状)のリスクで、なおかつ摂食障害症状は抑うつのリスクでもあります(Puccio et al., in press)。

不安障害歴があると拒食症リスクが高まりやすいのは女性よりも男性というのは興味深いですね。本研究では拒食症患者5,065人中、4,725人(93.3%)が女性となっていたように普通、拒食症の発症は女性の方が多いとされます。関係があるのか不明ですが、この前書いた『拒食症になった場面緘黙症の男子青年』の事例も男性でした。日本では2016年2月初旬時点で緘黙(症)と摂食障害(症状)の併発に関する文献は少なくとも9本はあり、そのほとんどが拒食症状と緘黙(症)の併発に関するものです。ですが、文献タイトルに女児/女性と明示あるいは文献概要に14歳女子と表記してあるのはあっても男児/男性と書かれているものはありませんでした(私は本文を読んでいません)。タイトルや概要に性別が書かれていない文献はできれば本文を読んで性別を確認したいところです(事例研究で性別を確認したところでほとんど意味はないかもしれませんが…)。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Buckner, J. D., Silgado, J., & Lewinsohn, P. M. (2010). Delineation of differential temporal relations between specific eating and anxiety disorders. Journal of Psychiatric Research, 44(12), 781-787. DOI: 10.1016/j.jpsychires.2010.01.014.

Puccio, F., Fuller‐Tyszkiewicz, M., Ong, D., & Krug, I. (in press). A systematic review and meta-analysis on the longitudinal relationship between eating pathology and depression. International Journal of Eating Disorders, DOI: 10.1002/eat.22506.

Silberg, J. L., & Bulik, C. M. (2005). The developmental association between eating disorders symptoms and symptoms of depression and anxiety in juvenile twin girls. Journal of Child Psychology & Psychiatry, 46(12), 1317-1326. DOI: 10.1111/j.1469-7610.2005.01427.x.

Wade, T. D., Fairweather‐Schmidt, A. K., Zhu, G., & Martin, N. G. (2015). Does shared genetic risk contribute to the co-occurrence of eating disorders and suicidality?. International Journal of Eating Disorders, 48(6), 684-691. DOI: 10.1002/eat.22421.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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