PTSD症状が重篤な児童はコメディを観ても無表情 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回の不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文はPTSD(心的外傷後ストレス障害)についてです。ただし、PTSDはDSM-IVでは不安障害でしたが、現在はそうではありません。DSM-5でPTSDが心的外傷およびストレス因関連障害群という新章に移行し、不安障害から分離独立しています。なので、不安(障害)・恐怖に関する興味深い研究というカテゴリーに含めるかどうか迷いましたが、思い切って同じカテゴリーにしてみました。本論文をとりあげたのは場面緘黙症(選択性緘黙症)の研究に関する含蓄があると思ったからです。今回は論文本体をすべて読みました。

なぜ不安(障害)・恐怖というカテゴリーを設けているかというと、場面緘黙児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害になりました。

今回は東日本大震災で被災した児童はPTSD症状が重いとコメディ(喜劇)を見ても無表情の時間が長いというお話です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒第一次世界大戦中は男性の自殺率が低かった(愛)
↑愛とは何事?と思われるかもしれませんが、アイルランドの研究ですので、アイルランドの漢字表記、愛蘭(土)の省略形として「愛」としました。論文ではフランスの社会学者、エミール・デュルケームの『自殺論(Le suicide:étude de sociologie)』の観点から考察されています。戦争中は個人の自殺願望(死にたい欲求)よりも外的脅威に対処する集団目標に焦点が移るので、第一次世界大戦中に自殺が少なくなったのではないかというロジックです。

Fujiwara, T., Mizuki, R., Miki, T., & Chemtob, C. (2015). Association between facial expression and PTSD symptoms among young children exposed to the Great East Japan Earthquake: a pilot study. Frontiers in Psychology: Emotion Science, 6:1534. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01534.

東京都の国立研究開発法人、国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部と三重県津市の三重大学大学院医学系研究科・医学部を兼務する藤原武男氏(社会医学研究部部長・臨床研究開発センターデータ管理部副部長・三重大学連携教授)と国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部&病院こころの診療部の水木理恵研究員、国立成育医療研究センターこころの診療部三木崇弘医員、アメリカのニューヨーク大学医学部精神医学教室の外国人研究者による共著論文です。なお、国立成育医療研究センターは国立高度専門医療研究センターの一角を占めます。

○背景と目的(論文の序論より)

感情鈍麻はPTSD症状の1つです。感情鈍麻とは感情反応が鈍いということです。楽しいはずのことへの興味も失われ感情表現が希薄になります。感情鈍麻は自己報告・自己申告(self-report)で評価することが多いです。ですが、自己報告は言語発達が未熟な子供には難しく、他の評定方法が必要です。そこで本研究の目的はコメディビデオに対する表情反応を通して東日本大震災を経験した子供の感情鈍麻を計測することとしました。

*感情鈍麻の原語はEmotional numbingでしたが、情動鈍麻あるいは感情麻痺/情動麻痺という訳語も考えられます。どれが適切か私には分かりませんから細かいことは気にしないでおきましょう←おい!しっかりしろ。

また、先行研究では観察者がビデオの録画映像を通して表情を評価する方法がとられてきましたが、これでは時間がかかります。近年、表情を自動解析する技術が開発されてきており、妥当性も確認されています。そこで表情の自動解析技術を用いて震災児の表情反応を評定し、PTSD症状との関係を検討しました。

○方法

2011年3月11日の東日本大震災を経験した子供が参加。最終的にデータ解析に用いられたのは23人(男児12人,女児11人)。震災当時は4~6歳で、実験実施時点では6~8歳(平均年齢7.2歳,SD = 1.1)。

児童精神科医や臨床心理士が被災児にトラウマ体験(心的外傷体験)を質問しました。トラウマ体験として、近親者や親戚、友達の死亡、死体の目撃、(両)親との別離、津波や火災の目撃の有無を尋ねました。トラウマ体験の重篤度は体験回数を数え上げることで算出し、暴露指標としました。また、保護者から自宅の損壊状態や居住場所(シェルターや仮設宿舎、親戚の家)についての情報を質問紙調査で得ました。

PTSD症状の評価は親報告型の児童ストレス反応尺度(Parent’s Report of the Child’s Reaction to Stress scale:PR-CRS尺度)日本語版で評価。なお、PTSD症状とトラウマ経験数は関連しませんでした。

子供はベースラインとなる自然風景の映像を2分間観た後、テレビのコメディ番組の一部を2分間鑑賞しました。コメディ映像はMr. Bean(Mr. ビーン)というイギリスのコメディ番組のエピソードの1つ、The Library(図書館)から抜粋しました。

自然風景ビデオ・コメディビデオを鑑賞中の表情を自動表情解析ソフトウェアでコード化。表情は7種類(幸福/笑顔・悲しみ・怒り・驚き・恐怖・嫌悪・中性)。各々の表情を示した総時間を2分で割り算し、表情ごとにその割合を算出。表情解析ソフトにはノルダスフェイスリーダー(Noldus FaceReader)を使用。ノルダスフェイスリーダーとは顔面動作符号化システム(Facial Action Coding System:FACS)により表情をリアルタイムで解析するソフトのことです。

*FACSとは顔面筋による顔の変化をアクション・ユニット(AU)によりコード化したシステムのことで、表情研究に使用されています。心理学者のポール・エクマン博士とウォレス・フリーセン博士により考案されました。なお、予備実験でトラウマ暴露経験がない子どもではフェイスリーダーによる表情解析結果と各表情に対応する心情(面白さや幸福、悲しみ)の相関係数が絶対値で0.9以上だったのですが、トラウマ暴露児では表情と心情の相関が最大でも0.27(絶対値)でした。

○結果

実験参加者は6段階のリッカート尺度で映像の面白さを評価しました。その結果、自然風景の映像よりもコメディ映像の方が面白さが高く評価されました。面白さ評定はPTSD症状と有意な相関を示しませんでした。

自然風景でもコメディでも中性表情(無表情)の割合が平均的に約40%と最も多くなりました。自然風景だと中性表情の範囲は16~76%(SD = 17%)で、コメディだと0.3~96%(SD = 32%)でした。

その他の表情では自然風景で悲しみ表情が36%(SD = 20%)、怒り表情が11%(SD = 11%)、幸福表情が10%(SD = 14%)でした。コメディでは悲しみ表情が25%(SD = 24%)、幸福表情が24%(SD = 26%)、怒り表情が13%(SD = 19%)でした(その他は割合が低いので省略)。なので、コメディで割合が高かった中性表情、幸福表情、悲しみ表情を中心にPTSD症状との関連を多変量線形回帰分析にかけました(年齢、性別、ベースラインの表情の個人差は統制)。なお、表情に性差は検出されませんでした。

多変量線形回帰分析の結果、PTSD症状が強いほどコメディ観賞中の無表情時間が長いことが分かりました。また、PTSD症状が重篤な子供ほどコメディ観賞中の悲しい表情の時間が短い結果となりました(幸福表情は関連なし)。

○コメント

本論文によると表情を自動解析ソフトウェアで分析した先行研究では大人ばかりが対象で子供の研究はなかったそうです。子供で表情解析ソフトを用いたのは今回が初めてとのことです。無表情との関連が疑われる場面緘黙症でもやってほしいですね。

以前、私は場面緘黙児・者が無表情であることが多いかどうか心理学的に検証する方法として自動的表情模倣の実験パラダイムをあげました。場面緘黙児・者での表情模倣の実験を提案したのは「表情筋が扁桃体活動に影響するー無表情な緘黙人は扁桃体の興奮が低いか?」という記事の後半ですから、詳しくはそちらをご覧ください。自動的表情模倣とは見ている表情で使う表情筋の活動が観察者の方にも生じるという意味です。たとえば笑顔を見ると観察者の笑顔を作る表情筋が働くことが表情模倣という現象になります(単純に言えば笑顔を見れば笑顔になるということ)。

本研究は表情模倣の実験ではありませんが、場面緘黙児・者の無表情仮説を検証する実験手法として学ぶべきものがあります。たとえばコメディ動画(マイナス統制動画)での表情反応を家と家以外(学校や実験室)で比較してみたり、あるいは周囲に喋れる相手(親等)がいる試行での表情反応と喋れない相手(クラスメートや先生等)がいる試行での表情反応とを比較する実験が考えられます。実際にクラスメートや先生を実験場面に参加させなくても彼らの写真/動画を撮って刺激として呈示するなど工夫しがいがあります。

・無表情は損か?得か?

ところで、無表情であるのは損なのか?得なのか?無表情を自己開示の少なさと捉えると、社交不安の高低にかかわらず、自己開示が少ないと第一印象が悪くなるという研究(Voncken & Dijk, 2013)がありますので、損になります(もっとも本当に無表情だと第一印象が悪くなるのかどうかは別の研究が必要ですが…)。

ただ、無表情にも利点があります。スペインのバレンシア大学の心理学者の研究チームによると、ポーカーフェイスの子供は大人から嘘を見破られる可能性が低いそうです(Gadea et al., 2015)。ただ、臨床閾値未満の依存性パーソナリティ障害特性(依存性人格障害特性)が高い大人だと子供の嘘を見破るのが得意という結果が得られたので、嘘をつく子供だけでなく、嘘発見側の特性も関わってきますから嘘の見抜かれやすさを無表情との関係だけから考えるのは思慮が浅いです。また、そもそも場面緘黙児は症状発現場面で喋れないわけですから、嘘のつきようがありません(首振りや筆談などによる嘘は除く)。

いずれにせよ、少なくとも子供では大人に嘘を見破られたくないならば、ポーカーフェイスでいる方が良いので無表情で得をすることになります。反対に相手に良い印象を与えたいならば、無表情だと具合が悪いかもしれません。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Gadea, M., Aliño, M., Espert, R., & Salvador, A. (2015). Deceit and facial expression in children: the enabling role of the “poker face” child and the dependent personality of the detector. Frontiers in Psychology: Cognition, 6:1089. doi: 10.3389/fpsyg.2015.01089.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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