声量フィードバックと暴露療法を場面緘黙の女子高生に | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は、場面緘黙症(選択性緘黙)の高校生に声量フィードバックと暴露療法を適用した事例研究です。

Okumura, M., & Sonoyama, S. (2015). Voice volume feedback and in vivo exposure intervention for a high school student with selective mutism. Journal of Special Education Research, 3(2), 55-64. doi:10.6033/specialeducation.3.55.

筑波大学大学院人間総合科学研究科の奥村真衣子氏(心身障害学専攻)と同大学人間系障害科学域園山繁樹教授による共著論文です。本研究は日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science,JSPS)の科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)から助成金をもらって実施されています。「選択性緘黙を克服した平均年齢は18歳」という記事で取り上げたポスター発表も奥村氏と園山教授による研究でした。

参考記事⇒園山繁樹教授による選択性緘黙の研究概要

○目的

声量フィードバックとin vivo暴露療法(in vivo exposure)という行動療法の技法を用いて、場面緘黙症の高校生に対する介入を大学カウンセリングとコミュニティ生活場面で検証すること。合わせて不安レベルの低下と場面緘黙症状の低下の関係を探ることも目的としました。

*in vivoとは人為的に統制していないという意味です。

高校生という青年期の場面緘黙症に焦点を当てた理由は幼児期や児童期の治療では暴露療法や刺激フェイディングなどの行動療法が有効であることが示唆されているが、青年や成人の場面緘黙症状に関する事例報告は少なく、治療方法も確立されていないからです。また、コミュニティ生活場面での介入も行ったのは、青年期の場面緘黙症では入院治療など専門機関での介入が行われることがあるが、それよりも普段の生活場面で治療的介入をした方が不安を下げ、緘黙症状の改善に効果があると考えられるからです。

○方法

・患者の状況

17歳の場面緘黙症の女子高生が参加。彼女は小学4年生の頃は声の大きさが普通で、小学5年生の時にいじめを受け、徐々に話せなくなっていきました。体育の授業では緘動症状を示しました。高校1年から時々休学するようになりました(不登校)。カウンセラーへの挨拶や音読は小声でできました。しかし、声が小さすぎて周囲の人には聞こえませんでした。家族となら外出ができ、お喋りもできましたが、家族じゃない人がいると話せなくなりました。中学生の時に摂食障害と不安症状が顕著になり、薬を服用していました。

・治療方法

大学での相談サービス(週1)と並行して、1カ月に2~4回本屋などの生活場面で実施。介入期間は4カ月で、大学でのセッション数は12回、地域社会の生活場面でのセッション数は11回。

・評定方法

介入の初めに母親が子供の行動チェックリスト(Child Behavior Checklist:CBCL)に、場面緘黙の女子高生がYouth Self-Report(YSR)に回答。

*Youth Self-Reportとはアッケンバック実証に基づく評価システム(Achenbach System of Empirically Based Assessment:ASEBA)という心理社会的尺度の自己報告質問紙のことです。YSRはCBCLの自記式版といったところでしょうか。なお、CBCLについては『子どもの行動チェックリスト(CBCL)に場面緘黙!?』を参考にしてください。

場面緘黙の女子高生が不安得点チェックリストや発話状況反応チェックリストで不安や発話レベルを自己評価。

・介入方法

女子高生が声を大きくしたいという要望を出したので、声量フィードバックを実施。カウンセリングの最初の15分間はバトミントンなどを通して緊張を和らげ、次の20分間はカウンセラーと順番を交替しながら本を音読しました(ビデオカメラによる撮影も実施)。音読は大学のカウンセリングルームで行い、1パラグラフごとに声の大きさをデシベル値でフィードバックしました。音読終了後、ビデオによるフィードバックを実施し、声量を自己評価。

生活場面での介入ではスモールステップの段階的in vivo暴露療法をカウンセラーと一緒に実施。女子高生自らがやりたい活動や場面を選択し、カウンセラーと協議の上決定。活動後に実施した大学でのカウンセリングで不安や発話レベルを自己評価。

大学でのカウンセリングでも生活場面での暴露療法でも、クライエントに反応を求めない言葉かけからYes/Noの回答が必要な質問、Yes/Noでは答えられないが単語1つで答えられる質問を女子高生に投げかけました。

○結果

介入前の母親によるCBCLの回答では引きこもり/抑うつと不安/抑うつが臨床閾値を超え、社会的問題が境界値、緘黙当事者のYSRの回答では引きこもり/抑うつが境界値。

最初に音読した時には平均声量が51dBで、聞き取りが難しい声の大きさでした。実際ビデオでも場面緘黙症の少女の声は聞こえませんでした。ちなみに、カウンセラーのデシベル値は60を超えており、これは普通の会話の音量だそうです。

しかし、セッションを重ねるとともに女の子の声量が上がっていき、最終的には60dBを達成することができました。女子高生自身も声の大きさが大きくなっていくのを実感しているようでした。

カウンセリングでも日常生活場面での暴露療法でも、不安レベルは、若干の揺り戻しがあるものの、しだいに低下していきました。しかしそれでも、両場面で発話状況反応の自己評価では改善が見られず、小声での発話しかできませんでした。

カウンセラーの語りかけへの反応数はだんだんと増加していきました。学校の先生や職員の質問にも小声ながら回答できるようになりました。

一方、カウンセラーの質問への反応率(女子高生の応答数をカウンセラーの質問数で割り算し、百分率にした値)は大学カウンセリングではそんなに変化がなさそうでしたが、日常生活場面では後半のセッションで顕著な増加を示しました。

○コメント

不安レベルはカウンセリングでも日常生活場面でも減少していきましたが、発話レベルの自己評価は改善しませんでした。このことから著者は不安が改善しても必ずしも発話レベルの向上が起こらないと考察しています。また、論文のグラフを見ると、自発的な発話の開始は特に難しく、改善もされていない結果となっています。論文では、結局のところ青年期の場面緘黙症からの回復は難しいと議論されています。

大学での音読は客観的にも主観的にも改善したのに、発話状況反応の自己評価では改善が見られませんでした。これは場面緘黙症の当事者で言われることがある「本読みなど決まったことなら喋れるけど、自分の考えや感情を表にだすなどは無理」ということと関係があるのでしょうか?

場面緘黙の女子高生の最初の平均声量が51dBだったというのは興味深いですね。事例研究ではなく、もっと大規模に場面緘黙者の声量を客観的に評価する調査をするのも一考に値します。緊張する場面だけでなく、家など安心できる場面での声の大きさを調べて比較するのも面白そうです。そして、介入前後あるいは介入中に、声の大きさがどの程度変わったのか、もっと体系的に調べてみるのも良さそうです。

本研究では青年まで場面緘黙症を持ち越すと回復が難しいという考察がされていました。しかし、何も青年期まで持ち越さなくても場面緘黙児への認知行動療法の予後1年を調べた研究(Oerbeck et al., 2015)では、3~5歳の幼児よりも6~9歳の児童の方が改善が難しいという結果も報告されています。本事例研究は10-11歳以降に場面緘黙症を発症したケースなので単純比較はできませんが、場面緘黙症の改善が難しくなる時期は青年期よりももっと早い可能性があります(本事例は場面緘黙症の持続期間が約6年である点にも注意)。

本事例での場面緘黙症の女子高生には摂食障害歴がありました。具体的には小学生高学年から場面緘黙症状が出始め、中学生になって摂食障害症状が顕著になっていました。海外でも場面緘黙症から拒食症になった男性の事例(De Santis et al., 2014)が報告されています。また、日本では2016年2月初旬時点で緘黙(症)と摂食障害(症状)の併発に関する文献は少なくとも9本あります。

参考記事⇒拒食症リスクが高い不安障害(特に強迫性障害)

摂食障害歴があると場面緘黙症状の予後にどのような影響があるのか気になるところです。もし仮に摂食障害歴がある方が予後が悪いのであれば、本事例研究における青年の場面緘黙症状の改善は難しいという結果を再考する必要がでてくるからです。要するに、場面緘黙症を青年期まで持ち越したことだけでなく、摂食障害歴も予後を悪くしている可能性も考慮しなければなりません。これは何も摂食障害だけに限った話ではありません。被いじめ体験や不登校が場面緘黙症からの回復を阻害している可能性も頭の片隅に置いておく必要がありそうです。

なお、筑波大学の奥村真衣子氏と園山繁樹教授による本論文は以下のURLから無料で入手できます(2016年3月22日現在)。総合学術電子ジャーナルサイト、J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)にあるPDFファイルです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/specialeducation/3/2/3_14-4/_pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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