柴垣文子『校庭に東風吹いて』の感想 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

柴垣文子『校庭に東風吹いて(新日本出版社)』を読みました。まず、あらすじ・内容などを書き記し、感想を書いてみたいと思います。ネタバレ注意です。

時代は1990年代3月末から1991年早春まで。京都府が舞台。主人公は三木知世という教師です。三木先生の転勤先に場面緘黙児の蔵田ミチルがいて対応に追われます。後半では三木先生の母親の世話に関する話題を挟み、最後に場面緘黙症のミチルの問題が再び話題になっています。登場人物に関する情報は以下の通りです(一部省略)。なお、著者の柴垣文子氏には京都府での小学校教員経験がおありです。

○登場人物紹介

●三木家およびその親族

・三木知世:宮崎県出身。虚弱体質で40代半ば。10人きょうだいの末っ子。佐野小学校に転勤後、三年生の担任を任される。これまで普通学級で自閉症児の担任をしたことはあったが、少人数学級での話。40人学級で障害児の担任を経験するのはミチルが初めて。場面緘黙児に会ったのもミチルが初めて。組合の婦人役員会部員。

・三木真治:知世の夫。中学校教員で数学担当。バスケ部顧問。

・三木ユリ:知世の娘。神原高校に通う高校生。獣医学科志望。趣味?特技?は川柳

・三木啓一:知世の息子。岡山の大学に通学中。高校時代に生徒会長経験あり。

・ハル江:知世の母親。84歳。持病に糖尿病。難聴が進行。短歌を嗜む。

・父:知世の父親。戦後に病死。

・司郎:知世の兄。会社員。趣味?特技?は短歌。京都市法然院町に居住。

・志保:司郎の妻。知世の義姉。

・彰:知世の兄。会社員。特技?趣味?は俳句。名古屋で生活。

・朝子:知世の姉。鹿児島県居住。

・不二子:知世の姉。横浜居住。

●蔵田家とその親族

・蔵田ミチル:佐野小学校に通う三年生。保育園から場面緘黙症状。緘動症状あり。二年生に不登校傾向。

・蔵田恵:ミチルの妹。佐野小学校に通う二年生。

・蔵田富子:ミチルの母親。パート勤務。ミチルを障害児学級に入れたくない。

・蔵田克二:ミチルの父親。会社員。実家は大阪。

・母方の祖母:幼少期のミチルを育てる。

●佐野小学校教員

・霜山苑子:校長先生。

・牛山:教頭先生。

・阿部:教務主任。奥さんは養護教諭。

・赤石:新任教員。4年生の担任。安川純平の担任。

・宮崎静香:養護教諭。前任のタク先生に恋心があり、結婚を意識。ミチルに屈折した感情を抱く。

・久米陽子:障害児学級「風の子学級」担任。退職間近。

・タク先生:二年生の頃のミチルの担任。体育主任と生徒指導主任を兼任。行方不明。

●佐野小学校の生徒

・和久夏海:ミチルの友達。ミチルと一緒のクラス。家が隣。保育園もミチルと同じ。おとなしい性格。

・大島佑子:ミチルと一緒のクラスで学級委員を務める。ある事件をきっかけにミチル、夏海と積極的に関わるようになる。特技はピアノ。

・菊井多代:ミチルの同級生。木登りが得意。不登校経験をした姉がいる。

・安川純平:四年生。ミチルや夏海と通学班が同じ。地域のサッカークラブに所属。父は国体出場経験ありの元柔道選手だが、四国へ単身赴任中。中学生の兄はサッカー選手。物語の終盤で、いじめが一因と思われる不登校になったことが発覚。

●その他

・もう1人の場面緘黙女児:佐野小学校の隣の小学校にいる場面緘黙症の女の子。六年生。障害児学級「タンポポ学級」に通う。「タンポポ学級」には他に低学年の男子生徒が2人所属。

・菊井キヨ子:多代の母親。

・福岡先生:ユリの通う高校の化学教師。生徒会顧問。ユリに生徒会長への立候補を勧める。

・ミスター正念場:ユリの担任。進路主任。

・村上美咲:ユリの同級生、友達。演劇部所属。進路希望は音楽短大。

・赤松君子:知世の幼なじみ。赤松豆腐店の孫娘。アメリカ在住。父、戦死。母、大阪空襲で死亡。

・田辺鈴代:知世のママ友。

・志摩雪絵:佐野小学校の組合の婦人部員。ニュース担当。

なお、2014年8月13日に毎日新聞(京都)が報道したように、本小説は映画化が予定されています。本作品を原作とした映画『校庭に東風吹いて(監督金田敬氏)』が有限会社、ゴーゴービジュアル企画によって製作・配給される予定です。全国公開は9月に計画されています。主役の三木知世を沢口靖子氏が、知世の母親、ハル江を星由里子氏が演じる予定です。他に遠藤久美子氏、森日菜美氏、子役に岩崎未来氏、向鈴鳥氏が出演予定です。沢口氏、星氏、遠藤氏、森氏は東宝芸能所属で、岩崎氏はセントラル株式会社所属、向氏はモデル&タレント芸能プロダクションDoor所属です。

『校庭に東風吹いて』の撮影は3月末から開始され、4月中旬にクランクアップ(撮影終了)が予定されています。撮影地は京都府相楽郡南山城村が中心。4月21日に製作発表会が全日空ホテルにて開催予定です。初めての試写会となる0号試写会は7月初旬~中旬、8月3日には完成披露試写会(東京・銀座ブロッサム中央会館ホール)が予定され、完成披露有料試写会は8月30日に行われるスケジュールが組まれています。主題歌?は「東風よ吹け(沢内氏作詞、廣岡明郎氏作曲)」らしいです。作詞の沢内氏は沢内孝夫氏のことでしょうか?

○感想

私が読んだ単行本(初版)では7ページ目という序盤から場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)の文字が登場していました。その後も一貫して場面緘黙症のミチルへの対応が描かれており、ここまで緘黙症のことを書いた小説は珍しいです(場面緘黙症が登場する小説は他にもありますが、まだ少ない印象があります)。

単行本(初版)では7~8ページ目に自閉症と場面緘黙症の違いに関する説明がありました。失語症と場面緘黙症の違いについても保健室の先生である宮崎静香教諭による説明があります。場面緘黙症が映画でどう説明されるのか注目したいです。

緘黙症状に関する描写があるのはもちろんですが、個人的には緘動症状の問題の方が際立っていると感じました。そのため、緘黙だけでなく、緘動に対する周囲の人の対応が、悪いとされているものも含め、描かれているのが印象的でした。特に社会の側の無理解が緘黙児に与える影響を描写している点が目を引きました。また、喋れないからコミュニケーションに支障が生じるのはもちろんですが、それ以外にも話せないことによる弊害が具体的に書かれています(例:バスで気分が悪いことを訴えられなくて吐いてしまう)。

先生の対応方法も割としっかりしていて、現場にいる教師が読んでも参考になりそうな本です。具体的には場面緘黙児に話しかける→家庭訪問(母親から事情聴取)→鳥居の前で緘動事件→事件への対応→不登校→不登校への対応→運動会への対応と進展していきます。不登校への対応では夏休みを挟んでスモールステップの試みがされています。場面緘黙児の不登校にスモールステップとはなかなか味のある書き方です。不登校へのスモールステップの試みが同時に場面緘黙症へのスモールステップの試みとなっているとも考えられます。

先生の対応がしっかりしているといってもすべてが成功したというわけではありません。運動会や縦笛(リコーダー)の取り組みでは失敗もあります。しかし、この失敗が逆に読者にスモールステップの原則を分かりやすく伝える効果を生んでいます。

ときどき三木夫妻が京都府知事選で革新派を応援しているという記述がでてきます。また、三木真治の声を通して憲法九条改正反対が暗示されています。これは原作が日本共産党中央委員会の『しんぶん赤旗』という機関紙に2013年5月14日から10月31日に渡って連載された小説だからでしょうか。ただ、そのことを割り引いても場面緘黙症に関してはしっかり描かれています。

それにしても三木先生はずいぶん熱心に場面緘黙児の指導に取り組まれています。子供の気持ちを第一に考える姿勢も本文から十分伝わってきます。ここまで熱心な先生は現実にはどれほどいるか、気になるところです。ただ、あまりにも熱心なため、学校から場面緘黙症に関して支援を受けたことのある人が本書を読むと申し訳ない気持ちになりそうです。

本書には成人後も緘黙症のまま社会参加が困難になる可能性を指摘している箇所があります。また、終盤には就職後に仕事を止め、引きこもり状態になった場面緘黙症の女性の例を引き合いに、母親の富子がミチルの将来を案ずる記述があります。しかし、全体として小学生の緘黙児への対応が中心であり、大人の緘黙症の問題については本書だけでは不十分です。考えてみれば、現実世界だけでなく、小説の世界でも大人の緘黙症の話(後遺症含む)が中心となることは稀です。これからに期待したいところですが、果たして…。

本小説は一貫して三木先生視点です。そのため、教師の視点から世界を眺めることになります。ですから、教育関係者よりもむしろ当事者やその家族などが読むと新たな発見があり、学校側の事情を想像する力が養われるかもしれません。また、教師目線であるため、どちらかといえば学校外の側の人間の視点であった盛田隆二『二人静 (光文社文庫)』よりも学内での教師関係や子供関係、教師と子供の関係が濃密に描かれています。もっとも、私が『二人静』を読んだのは3年前なので記憶が薄れています。違っていたらごめんなさい。

ところで、本作品は三木先生の母親(ハル江)の世話に関する話も盛り込まれていました。ハル江の世話は介護・介助といえるほどではないにしても、なにかを思い出させます。そう、奇しくも先ほどあげた『二人静』でも場面緘黙症とは別に介護問題を扱っており、『校庭に東風吹いて』と似ています。これは場面緘黙症と介護問題(の軽いバージョン)の相性が良いのか、それとも超高齢社会という時代の趨勢を反映しているのか、あるいはその両方か。はたまた私の考えの及ばない要因があるのか。この点は自閉症やその他の問題を扱った小説で介護問題(に類似するもの)が出現する頻度を調べ、介護問題と場面緘黙症の両方がでてくる小説の数と比較するなどで明らかにできます(ただし、緘黙小説が少ない現状ではやっても意味がないような気もしますが…)。また、高齢化社会・高齢社会・超高齢社会という時代背景との関連を探るならば、年次変化を調べる必要があります。

関連記事⇒盛田隆二『二人静』の感想

前述したように小説『校庭に東風吹いて』は映画化されます。映画.comの「沢口靖子『校庭に東風吹いて』に主演!」というニュース記事によると、「物語は教師、担当クラスの女児と男児の3人を軸に展開」し、「男児は貧しい母子家庭に育ち、十分に食事をとることもできない」という状況設定です。これは私が読んだ内容とは異なります。というのも、原作では三木先生の40人学級に登場する子供たちで具体的な名前があがり、その様子が描かれているは場面緘黙児の蔵田ミチルの他に和久夏海、大島佑子、菊井多代で、同級生の男の子の名前はあがっていないからです。三木先生の勤務先である佐野小学校には安川純平という男の子も登場しますが、この男子は4年生で、三木先生の担当する3年生ではありません(もっとも映画でも沢口さん演じる三木先生が3年生担任だという保証もありませんが)。どうやら原作を改変した内容が映画化されるようです。

関連記事⇒マラニックで『校庭に東風吹いて』の映画観賞券を入手しよう!

○参考サイト(2016年3月13日現在)
沢口靖子「校庭に東風吹いて」に主演! 映画.com URL:http://eiga.com/news/20160226/2/
 
製作上映支援の会だより 校庭に東風吹いての製作 URL:http://blog.goo.ne.jp/koutei01/e/ad4c0b8272ebecbd4401b2fb17f2afaf

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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