健常発達児の場面緘黙傾向、抑制的気質、(社交)不安 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

健常発達児の場面緘黙(選択性緘黙)傾向と抑制的気質(行動抑制)、(社交/社会)不安、スピーチ課題での発語数の関係を調べた論文を読みました。

Muris, P., Hendriks, E., & Bot, S. (2016). Children of few words: relations among selective mutism, behavioral inhibition, and (social) anxiety symptoms in 3-to 6-year-olds. Child Psychiatry & Human Development, 47(1), 94-101. doi: 10.1007/s10578-015-0547-x.

★概要

○方法

オランダやベルギーで研究参加者を募集。最終的に57人の幼稚園児(男児20人,女児37人)とその親が参加。子供の平均年齢は4.98歳(範囲3~6歳, SD = .74)。この子供たちは場面緘黙症ではないことに注意。

使用質問紙一覧:以下の2つ目のスピーチ課題に子供が挑戦している時に親が回答
・行動抑制質問紙短縮版(Behavioral Inhibition Questionnaire-Short Form:BIQ-SF):子供の抑制的気質を測るために使用。
・幼児用不安尺度改訂版(Preschool Anxiety Scale-Revised:PAS-R):子供の社交不安得点を独自に算出。それ以外の不安(分離不安症・全般性不安症・特定恐怖症・強迫症)得点はすべて合算。
・場面緘黙症質問紙(Selective Mutism Questionnaire:SMQ):子供の学校や家、人前での発話頻度を測る尺度。得点が低いほど場面緘黙傾向が強い。

*行動抑制質問紙については「行動抑制を測る質問紙-場面緘黙症の研究に使ってほしい!」をご覧ください。

子供が受けたスピーチ課題は以下の2種類
・スピーチ課題1:学校についてのモノローグ(独白)をする。親がお手本を見せた後に、先生などのキーワード手がかりを与えてスピーチを開始。
・スピーチ課題2:実験者2名から質問攻めにあうインタビュー課題。8つのオープン・エンド型質問(オープンエンドクエスチョン)。最初の4問は特別な教示なしで子供の自発的発話を計測。残りの4問はできるだけ詳細に語るように教示し、子供の最大反応を計測。親は質問紙に回答中で、子供に干渉できない。なお、自発的発話での発語数と最大反応での発語数の間の相関係数は.86でした。

スピーチ課題での発話はディクタホン/ディクタフォン(速記用口述録音機)で記録。記録を再生し、単語数をカウント。

研究参加者の自宅で以上の評定手続きを実施(一部例外あり)。

○結果

親の報告によると、男児よりも女児の方が行動抑制、社交不安、場面緘黙傾向が強くなりました。子供の年齢と場面緘黙症質問紙(SMQ)得点が有意傾向で正の相関関係(r = .25)を示し、年齢が低いほど場面緘黙傾向が強い結果となりました。また、年齢が低いほどスピーチ課題での単語数が少なくなりました(r = .25)。

年齢や性別との関係が検出されたので、これらの影響を統制したデータ解析を実施しました。なお、独白課題での発語数とインタビュー課題での発語数は、1つの総得点に合算しました(両者の相関係数は.68)。

年齢と性別を統制した偏相関係数が絶対値で高い順に、行動抑制と社交不安(r = .82)、社交不安と場面緘黙傾向(-.68)、行動抑制と場面緘黙傾向(-.64)、行動抑制とスピーチ課題での発語数(-.56)、社交不安とスピーチ課題での発語数(-.52)、行動抑制と社交不安以外の不安(.44)、社交不安と社交不安以外の不安(.42)、場面緘黙傾向とスピーチ課題での発語数(.35)、社交不安以外の不安と場面緘黙傾向(-.27)、社交不安以外の不安とスピーチ課題での発語数(-.27)となりました(すべて有意)。

年齢と性別を統制した線形回帰分析の結果、行動抑制、社交不安、社交不安以外の不安が場面緘黙傾向の38%を説明しました。しかし、場面緘黙傾向を有意に予測したのは社交不安だけでした。

一方、行動抑制、社交不安、社交不安以外の不安はスピーチ課題での発語数の29%を説明しました。しかし、スピーチ課題での発語数を有意傾向ながら予測したのは行動抑制だけでした。

★コメント

社交不安以外の不安と場面緘黙傾向の相関係数は-.27で、社交不安と場面緘黙傾向の相関係数である-.68の方が高くなりました(絶対値評価)。これは臨床閾値未満の場面緘黙傾向は社交不安以外の不安よりも社交不安との関係の方が強いことを示唆します。同様に、行動抑制も社交不安以外の不安(.44)よりも社交不安(.82)との関係の方が強くなりました。スピーチ課題での発語数も社交不安以外の不安(-.27)よりも社交不安(-.52)との関係の方が強くなりました。

場面緘黙傾向とスピーチ課題での発語数の相関係数は.35で、相関としては弱かったです。これはスピーチ課題がまずかったからかもしれませんが、発語数という指標がまずかったからかもしれません。たとえ発語数という指標がまずくなくても、場面緘黙症状は家と家の外など、2つ以上の状況での発話頻度の差が問題となるものなので、スピーチ課題も同じように状況による「差」を測れるようにすると、もっと場面緘黙傾向を測る方法として妥当性が増すかもしれません。あるいは、親による場面緘黙傾向の評価にバイアスがあった可能性もあります。

社交不安が場面緘黙傾向を、行動抑制がスピーチ課題での発語数を説明する可能性があるとはいえ、すべてを説明できていません。したがって、これら以外の要因が場面緘黙傾向やスピーチ課題での発語数に寄与している可能性があります(ただし、親の質問紙への回答がどれだけ正確なものかどうかは分かりませんから、質問紙自体の問題もあり得ます)。それ以外の要因としては、緘黙は何よりも喋るという行為に関わることなので言語能力が考えられます。実際、たとえ親による検査だとしても、場面緘黙児の54.5%は聴いた物語を語ったり、絵画に関するストーリーを自分で作り、物語る能力が低いことを示した研究(Klein et al., 2013)があります。したがって、臨床閾値未満の(非臨床的)健常発達児でも、場面緘黙傾向やスピーチ課題での発語数と言語能力が関連するかどうか検証すべきです。今回の論文では言語能力を場面緘黙傾向やスピーチ課題での発語数を規定する要因として調査しておらず、今後の研究が望まれます。

論文を読む限りは母親と父親の両方が実験に参加している組もあったようです(少なくとも私はそういう印象を持ちました)。また、父親よりも母親の方が参加者数が多いですが、父親もいることはいます。したがって、親の性別の影響を統制する必要があるかもしれません。また、進化心理学の理論上は、母親の(社交)不安よりも父親の(社交)不安の方が子供の(社交)不安に与える影響力が強い(Bögels & Perotti, 2011)とされるので、子供の不安(障害)の研究では父親の参加が重要になります。

(社交)不安症状や行動抑制、場面緘黙の質問紙への回答は親が実施していました。子供の年齢が3~6歳なので仕方ないかもしれませんが、親だけに頼るのは危険です。というのも、「場面緘黙児の親は子どもの気持ちがどの程度分かるか?」で書いたように、子どもと両親とで子どもの不安レベル評定の一致率が低い可能性があるからです。子供と親とで子供の問題行動の報告に不一致が生じることは、親が子供に感じる類似性や親の視点取得努力と関連するようです(Vierhaus et al., 2016)。

〇場面緘黙症質問紙(SMQ)について

本研究において、健常発達児でもSMQの内的整合性が確認されたので(クロンバックのα係数が.91)、臨床閾値未満の子供でもSMQが使える可能性が示唆されました。ただ、幼稚園での様子は先生(幼稚園教諭)の方が知っているかもしれないので、回答者を親だけに頼るのは危険です。先生が回答する形式の尺度には学校発話質問紙(学校発語質問紙,School Speech Questionnaire:SSQ)があります。SSQは場面緘黙児への行動療法の効果をRCT(ランダム化比較試験)で検証した論文(Bergman et al., 2013)場面緘黙児が認知行動療法を終えてからの1年間を追跡した研究(Oerbeck et al., 2015)で使用されたことがあります。

非臨床性の子供でも、場面緘黙症状をSMQで計測できるというのは重要なことです。というのも、これは「健常発達児でも場面緘黙傾向がある」、「場面緘黙症状はスペクトラム(連続体)である」ということを示唆するからです。したがって、本論文のように、緘黙児が1人もいなくても場面緘黙特性/傾向/症状の調査ができることになります。これは場面緘黙症の当事者・経験者を参加者として指定しなくていいということなので、研究協力者の募集にかかる労力が軽減されます。ただ、研究が少ないため、「場面緘黙スペクトラム説」はまだ学術的根拠が薄弱で、ひょっとすると私の妄想の域を出ないかもしれません。

関連記事⇒選択性緘黙傾向を自己評価する日本語尺度の開発他

○行動抑制の評定方法について

行動抑制の評価は行動抑制質問紙短縮版(BIQ-SF)に親が回答することで行っていました。しかし、行動抑制の評価方法にはインターアクティブなバーチャル世界を用いた方法(Myers et al., 2016)や行動観察法もあります。なお、行動観察法の例は「分離不安の変化と母親の養育の関係は抑制気質の高低で異なる」を参考にしてください。

私がこれまで読んだ行動抑制論文で王道の評定方法は、4カ月齢の時に新奇な感覚刺激への反応でスクリーニングをし、14・24カ月齢で新奇物体・新奇人に対する幼児の反応を観察+母親への質問紙調査をし、4・7歳で知らない同年齢児に対する寡黙行動の検査+母親への質問紙調査(Pérez-Edgar et al., 2014)というものです。質の高い行動抑制の研究をしようと思えば、乳児期から学童期まで継続的に追跡し、行動観察と質問紙調査を組み合わせなければならないため、時間や費用がかかります。

行動抑制は社会的なものと非社会的なものの2種類に分けることができるとの考え方があります。行動抑制の社会的側面と非社会的側面を分離した研究として、セロトニントランスポ一夕ー遺伝子多型(5-HTTLPR)がS'S'型の子どもが母親が過保護だと感じていると、子供の行動抑制が高いが、これは抑制的気質の社会的側面だけに限られるという報告(Burkhouse et al., 2011)があります。場面緘黙症の抑制的気質仮説を検証する際に、行動抑制の2側面を分離する必要があるのかどうかという点も今後の研究課題です。

それにしても、私が前から抱いていた疑問が論文中に述べられていたことには驚きました。この疑問というのは、抑制的気質とは「馴染みのない/見知らぬ/新奇な」人や場所、物などを警戒し、回避する行動パターンのことで、場面緘黙症は何カ月も何年も、ひょっとすると何十年も持続するものだという齟齬のことです。「馴染みのない」の定義がいまいち分かりませんが、私の勝手な考えでは、新奇な状況に身を置くようになってから数カ月経過するだけでも「馴染みのない」から「馴染みのある」となっているはずなので、場面緘黙症は「馴染みのある人や状況」でも症状が発現するものだといえます。したがって、「馴染みのない」環境(因子)に対する行動傾向を意味する抑制的気質と「馴染みのある」環境(因子)下でも症状を呈する場面緘黙症には概念的ギャップが存在すると考えられます。ただ、この議論は馴染みの高低の定義を客観的な時間とした場合のことである点に注意が必要です。というのも、時間が経過して客観的には馴染みがあるはずなのに、心理的、神経生物学的には馴染みのないままであるということがあり得るからです。この辺りの研究は心理尺度や生理学的、神経科学的指標を用いれば明らかにできるかもしれません。

○スピーチ課題について

最初のスピーチ課題は親がお手本を見せることで子供が取り組みやすいようにされていました。しかし、そもそも親がお手本を見せる影響があるのかどうかが不明で、私としてはなんだか物足りない実験でした。また、親の介入は養育態度や養育行動の影響を受けると考えられるので、養育との関係も調べなければならなくなります。

独白課題とインタビュー課題を一緒くたにしてスピーチ課題での総発語数を算出していました。これじゃ何のために2つの課題をやったのかというツッコミがとんできそうです。独白は自発的発話、インタビューは実験者から尋ねられた時の受動的発話という解釈もできるので、もっと洗練された実験方法が考案できないかな?と思います。また、スピーチ課題といわず、自然状況での会話中の発話行動を分析するといったことも考えるに値するでしょう。

場面緘黙傾向(に類似するもの)をスピーチ課題での単語数として計測するのは比較的、客観性が高いと考えられるので良い方法だと思います。しかし、場面緘黙傾向とスピーチ課題での発語数の間の相関係数が.35と高くはないので、場面緘黙傾向を測る課題としての妥当性が問われます(実際、スピーチ課題での発語数は場面緘黙傾向との相関よりも行動抑制や社交不安との相関の方が高くなっていました)。また、スピーチ課題では言語能力や知能、モチベーションなどの影響を考慮しなければならないはずで、そこら辺はどうなのかな?と疑問に感じました。

先に、スピーチ課題で計測した発語数が場面緘黙傾向の指標として妥当なのかどうかという問題が残されていると述べました。話し言葉には発語数以外にも、声の大きさや声の高さ、喉の筋肉の緊張レベル、発話の複雑性など様々な側面がありますから、他の指標を探るのも一考に値します。たとえば、場面緘黙症の女子高生への介入当初は声の大きさが51dBと、ほとんど聞き取れなかったという事例報告(Okumura & Sonoyama, 2015)があります。また、社交不安症患者ではストレスをかけると、声が高くなるという研究(Weeks et al., 2012)があります。内向性が高い人はスピーチで喉にある舌骨下筋が緊張しやすい(Dietrich & Verdolini Abbott, 2012)外向性が低い人ほど具体的な表現をする(Beukeboom et al., 2013)という研究もあります。緘黙や不安とは直接関係ありませんが、自閉症スペクトラム障害児は特異的言語障害児や健常発達児と比較して、 自閉症診断観察スケジュール(Autism Diagnostic Observation Schedule,ADOS)実施中に、間投詞(感嘆詞)のum(う~ん)を言うことが少ないという研究(Gorman et al., 2016)もあり、言語使用の方法は心理学的にも精神医学的にも重要なマーカーとなっています。

関連記事⇒ストレス下でのスピーチで発話の認知的複雑性が減少

本研究の評定のほとんどは子供の自宅で行っていました。これはどうなのでしょうか?論文中にも、親同伴の状態で家でスピーチ課題をしても場面緘黙傾向は生じにくいという考察が述べられていました。また、子供の表出語彙能力は家で検査するよりも学校で検査した方が成績が高くなるという研究(Spere et al., 2009)もあり、検査場所の影響を体系的に調べた方が良さそうな気もします。

論文中には、今回の実験よりもストレスフルな課題を用いれば、場面緘黙傾向の発現が容易にできる可能性が指摘されていました。よりストレスフルな課題として、児童用試験面接官社会的ストレス検査(Trier Social Stress Test for Children,TSST-C)が考えられます。大人を試験官とせずに、事前に録画した子供の映像を試験官とする社会的ストレス検査も開発されています(Cheetham & Turner-Cobb, 2016)。TSST-Cでの発語数や声の大きさと場面緘黙傾向の相関がどの程度になるのか調査するのも1つのアプローチ方法といえます(もちろん回帰分析でもいいですが)。

*TSST-Cとはなんぞやという方は「ストレスで離人症・現実感喪失症になりやすい社会不安障害患者」や「TSSTで発話の機能性が高まり、ポーズ時間が長くなる」をご覧ください。ただし、子供で実験したものではありません。

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Cheetham, T. J., & Turner-Cobb, J. M. (2016). Panel manipulation in social stress testing: The Bath Experimental Stress Test for Children (BEST-C). Psychoneuroendocrinology, 63, 78-85. doi: 10.1016/j.psyneuen.2015.09.013.

Gorman, K., Olson, L., Hill, A. P., Lunsford, R., Heeman, P. A., & van Santen, J. P. H.(2016). Uh and um in children with autism spectrum disorders or language impairment. Autism Research, 9(8), 854–865. doi: 10.1002/aur.1578.

Vierhaus, M., Rueth, J. E., & Lohaus, A. (2016). Parents’ Perceived Similarity to Their Children, and Parents’ Perspective Taking Efforts: Associations of Cross-Informant Discrepancies with Adolescent Problem Behavior. Frontiers in Psychology: Developmental Psychology, 7:367. doi: 10.3389/fpsyg.2016.00367.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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