勇敢さを促す親の発言は認知行動療法の後に増加する | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)だけを読んだ不安(障害)の治療法に関する最新の論文を取り上げるはずでしたが、今回は全文を読みました。

なぜ不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会が発行するDSM-5では場面緘黙症(選択性緘黙症,選択的緘黙症,選択緘黙症)が不安障害になりました。

今回は不安障害児の保護者は子供がスピーチに参加するよう促す発言(勇敢推奨発言)をすることが少なく、認知行動療法の後に保護者の勇敢推奨発言が増加し、治療前の勇敢推奨発言が多いほど不安障害児の治療後の予後が良好という論文です。

なお、不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒セラピストはメタファーを多用する
↑うつ病の認知行動療法でクライエントよりもセラピストの方がメタファーを多用するという研究です。ただし、ここでのメタファーとは暗喩(隠喩)だけでなく、明喩(直喩)も含まれます。

Silk, J. S., Sheeber, L., Tan, P. Z., Ladouceur, C. D., Forbes, E. E., McMakin, D. L.,Dahl, R. E., Siegle, G. J., Kendall, P. C., Mannarino, A., & Ryan, N. D. (2013). “You can do it!”: The role of parental encouragement of bravery in child anxiety treatment. Journal of Anxiety Disorders, 27(5), 439-446. doi:10.1016/j.janxdis.2013.06.002.

アメリカのピッツバーグ大学西部精神医学研究所クリニック、オレゴン研究所、カリフォルニア大学バークレー校公衆衛生大学院、テンプル大学心理学部、ドレクセル医科大学精神医学部の研究者らによる論文です。ちなみに、ドレクセル医科大学は旧ハーネマン大学医学部のことです。

○序論

認知行動療法は子供に不安を同定し、マネジメントするスキルを教え、恐怖場面の暴露療法でこのスキルを実践することを要求します。親がどれだけクリニックの外で不安障害児に不安状況に挑むよう促すかは治療の成否をにぎる要因の1つとして考えられます。

親が不安障害児の勇敢な行動を奨励することが治療成果を左右すると考えられる理由は、先行研究により養育行動が子供の回避行動を促進していることが示唆されているからです。また、勇敢な行動を支援することはクリニックで学んだ技術を実生活で試すことを促すことになります。逆に言えば、勇敢な行動を促さなければ、学んだスキルを活かせず治療にも悪影響を与えると考えられます。

しかし、親が子供の勇敢な行動をサポートすること、すなわち脅威を知覚している状況で接近行動を促すことを不安障害児の治療を左右する要因として調査した研究はほとんどありません。また、治療(成果)による養育行動の変化についても研究が少なく、あったとしても主観的な報告によるものが多いです。

したがって、本研究では主観的な報告に頼るのではなく、養育行動の観察法を用いました。具体的には、親が子供に回避可能な不安状況への接近を促すかどうかを調べました。また、子供の不安障害の治療経過/治療結果と養育行動の変化との関連も調査しました。さらに、心理療法前後の養育行動の変化や治療反応性との関連が認知行動療法特異的なものかどうかを調べるため、非指示的アクティブ対照群として子ども中心療法(Child Centered Therapy,CCT)を受ける群を設定しました。

○方法

参加者は向精神薬を服用していない不安障害児47名と年齢、性別、人種、世帯収入をマッチさせた健康児20名。保護者67名(母親63名,父親2名,祖母1名,継母1名)も参加。児童の52%が女の子で、平均年齢は10.49歳(範囲:9~13歳)。

不安障害の内訳は全般性不安障害が34名、分離不安障害が12名、社交不安障害(社会不安障害)が10名(重複診断あり)。

不安障害児は個人認知行動療法(CBT)か子ども中心療法(CCT)にランダムに割り当て(治療前の不安症状に群間差は検出されず)。CBT群30名、CCT群17名。CCTとはヒューマニスティックな非指示的な支持的精神療法のこと。

CBT群では全16セッション中、セッション4・9は保護者も参加し、CBTモデルを学び、クリニック外での暴露療法を指南。治療期間を通して子育て相談を実施。CBTマニュアルはCoping Cat。前半8セッションで不安マネジメントスキルを、後半8セッションで不安状況への暴露療法を実施。

5分間のスピーチ課題は治療前後に実施(健康群は1回だけ)。ビデオカメラの前で1分30秒のスピーチをしなければならないと子供に教示。さらに、もう1つのスピーチ課題が与えられましたが、今度は参加しないことも選択可能でした(実際、60%の子が参加しませんでした)。この2回目の課題で保護者に子供の意思決定を援助するよう求め、子供の参加を促すかどうかを調査。親子がスピーチへの参加の可否について話し合っている様子をビデオに記録。ビデオに基づき、不安障害群かどうかや治療条件を知らない研究スタッフがコーディング。

*スピーチ課題では子供の不安を惹起させるため、パフォーマンスを評価し、他の子供と比較すると教示。スピーチトピックも少し難しいものを用意。

2回目のスピーチへの参加(勇敢さ)を保護者が奨励する行動にはたとえば、「私はスピーチが上手くいくと思うよ」や心配する必要がない理由を説明するなどが含まれました。これらの発語頻度を1分間あたりに換算して求めました。

○結果

健康児の保護者と比較して、不安障害児の保護者は治療前で勇敢さ推奨発言が少ない結果となりました(効果量d = −.57)。

治療反応があると判断された不安障害児はCBT群で86%、CCT群で65%(有意傾向の差)。治療後の不安症状レベルもCCT群よりもCBT群で低くなりました(有意傾向の差で効果量はd = .59)。治療後に不安障害の診断基準に該当しなくなったのはCBT群で87%、CCT群で76%(有意傾向もなし)。

*治療反応は臨床全般印象尺度改善度(Clinical Global Impression-Improvement Scale:CGI-I)で評価。第三者による評定。不安症状レベルは小児不安評定尺度(Pediatric Anxiety Rating Scale:PARS)で評価。第三者による評定。

治療開始前ではCBT群とCCT群で保護者の勇敢さ推奨発言に有意差が検出されず、治療後でのみCCT群よりもCBT群の方が保護者が子供のスピーチへの参加を奨励する発話が多くなりました。各群での治療前後の比較でも、CBT群でのみ保護者の勇敢さ推奨発言が増加しました。

治療前の保護者の勇敢さ推奨発言が多いほど、治療前の子供の不安症状レベル(r = −.35)や治療後の子供の不安症状レベル(−.43)が低くなりました。治療前の子供の不安症状レベルと治療後の子供の不安症状レベルは正の相関関係を示しました(.61)。

治療前の不安症状を統制した上での階層線形回帰モデルによる検討で、CBT群のみ治療前の保護者の勇敢推奨発言が治療後の不安症状を予測しました。また、ロジスティック回帰モデルによる検討では、治療前の保護者の勇敢推奨発言がCGI-Iによる治療反応性の有無を予測しました。つまり、どちらも治療前に保護者がスピーチをするよう促す発言が多いほど治療後の予後が良好だという結果になりました。

*CGI-Iで治療反応性があると判断された子供が多かった(ばらつきが小さかった)ため、ロジスティック回帰分析では治療タイプ(CBT・CCT)による違いが統計学的に検証できませんでした。

○コメント

以上をまとめると

・健常児の保護者よりも不安障害児の保護者の方が子供にスピーチ課題に挑むよう促す発言が少ない

・CBT(認知行動療法)の後に保護者が(元)不安障害児にスピーチへの参加(勇敢行動)を促す発言が多くなり、CCT(子ども中心療法)の後では起こらない

・治療前に保護者の勇敢推奨発言が多いほど不安障害児の治療後の予後が良好(特にCBTを受けた場合)


となります。以上の結果から、不安障害児の親は子供の回避行動を強化しているなどという論述が論文中に展開されています。

不安障害児の保護者の方が子供に勇敢な意思決定を促さないというのは単なる現象論であり、メカニズムが不明です。子供が不安を示しているから保護者の方がスピーチ課題を推奨するのを控えるのか、それとも保護者が「心配ないさ、やればできるよ」と言わないので子供が不安を示すのか、あるいは両方か。それとも遺伝因子など他に何らかの(共通)要因が働いているのか。今後の検討課題です。論文では親子の相互作用が負の強化となる可能性が指摘されていました(勇敢になって脅威に立ち向かえと親が子に言う→子供が泣くなどする→親が勇敢行動を推奨しないようにすると泣くのを止める→親が子供に勇敢さを促さなくなる)。また、親自身の不安が高いと子供に勇敢さを推奨しなくなる可能性についても議論されていました。

CBTの後に保護者が(元)不安障害児に勇敢行動を促す発言が多くなり、CCTの後では生じませんでした。これはCBTとCCTに共通する特徴(例:セラピストとのコンタクト)ではなく、CBT特異的な特性が勇敢行動の促進発言の増加に寄与したことを示唆します。論文中では具体的にCBTのどの側面が関わるのか議論されています。

特にCBTで治療前に保護者の勇敢推奨発言が多いほど不安障害児の治療予後が良好だったのは、セッション外でも子供に恐怖場面に立ち向かわせ、CBTスキルを実践するよう促したからだという考察が論文中で述べられていました。

研究の限界として論文中で言及があったのは、スピーチ課題の不安レベルに関する客観的データを収集していないこと等がありました。個人的には、不安障害の内訳が全般性不安障害、分離不安障害、社交不安障害と多様だったのにスピーチ課題という単一の行動観察課題を行っていた点に疑問を持ちました。「診断横断的特性」の存在が指摘され、治療でも「診断横断的アプローチ」の有効性も実証されてきているとはいえ、個別の精神疾病にあった課題を設定するのも一考に値します。

研究協力者の保護者67名中、母親が63名と大多数であった点は残念です。というのも、進化心理学の理論上は外的世界の脅威(ここではスピーチ課題)への対処は母親よりも父親から学習するのが効率的で、おそらく子供は本能的にそのことを知っていると考えられるからです(Bögels & Perotti, 2011)。 この理論により母親の(社交)不安よりも父親の(社交)不安の方が子供の(社交)不安に与える影響が大きいという予測が成立します。この理論に関する詳しい説明は「進化心理学モデル:父親の社交不安の方が母親の社交不安よりも影響力が強い」をご覧ください。

母親だけでなく父親も参加した関連研究⇒両親の育児方法は認知行動療法で変化するか?

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187
社交不安障害女性にテストステロン(男性ホルモン)一回の投与で視線回避の改善が見られた

ttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26402923

188
Re: タイトルなし
論文情報、ありがとうございます。他にも関連研究、いろいろありますよね。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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