場面緘黙児の感覚過敏、併発症等の大規模調査 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

2016年3月31日~4月3日、アメリカのペンシルベニア州で開催された全米不安抑うつ協会(Anxiety and Depression Association of America, ADAA)の学会において、場面緘黙症(選択性緘黙)に関する大規模な調査が4件報告されました。順に触れていきましょう。いずれの調査もペンシルベニア州フィラデルフィアのラサール大学の研究者数名と場面緘黙症不安研究治療センター(Selective Mutism Anxiety Research and Treatment Center,SMart Center)のエリザ・シポンブラムドクター(Dr. Elisa Shipon-Blum)による共同研究です。共同研究者の一員であるラサール大学のシャロン・リー・アームストロング(Sharon Lee Armstrong)さん(Ph.D)は聴いた物語を語ったり、絵画に関するストーリーを自分で作り物語る能力が場面緘黙児で低いことを示唆した研究(Klein et al., 2013)でもシポンブラムドクターと論文の共著をされていますね。

なお、今年度の全米不安抑うつ協会の学会のテーマ?は研究、実践、地域社会(コミュニティ)を統合する(Integrating Research, Practice, and Community)ということでした。

○場面緘黙児の併発症/併存症に関する調査(Pantone, Armstrong, Shipon-Blum, Debski, & Steinbeck, L., 2016)

場面緘黙症の専門機関に治療しに来た子供の併発症に関する調査です。場面緘黙総合診断質問票(Selective Mutism Comprehensive Diagnostic Questionnaires,SMCDQs)に親が回答した内容に基づきます。データ収集は2002年から2015年にかけて。サンプルは1,500人より多く、平均年齢は6.7歳。女児が63.5%、白人が76.8%。

一番多い併発症は不安障害(不安症)で25%、次が感覚処理障害?(sensory processing difficulties)の8.1%、その次が自閉症スペクトラム障害(自閉症スペクトラム症)の4.5%になりました。ちなみに、健常発達児では不安障害が15~20%、感覚処理障害?が5%、自閉症スペクトラム障害が1~2%とされるそうです。他の併発症(学習障害・ADHD・うつ病・知的障害・素行障害・双極性障害・強迫性障害)の頻度は0.1%~3.4%となり、すべて健常発達児よりも低かったそうです。

参考記事⇒自閉症持ちの第一度近親者がいる場面緘黙児が約半数(愛)

○場面緘黙児の親が感じている学校側の場面緘黙症状の捉え方、及び親自身の子供の場面緘黙症状に対する考え(Pantone, M., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., & Steinbeck, L., 2016)

場面緘黙児の家族を対象に実施した質問紙調査の途中結果です(N>1,500)。調査データは場面緘黙症治療センターで収集。場面緘黙児の平均年齢は6.7歳。女児が63.5%、白人が76.8%。

学校が場面緘黙症状を不安の表れだと理解していると親が感じているのは55.7%でした。過度なシャイネス(恥ずかしがり屋?)は66.8%、故意の緘黙が34.3%。

また、2002年と比較して、2014年には学校の場面緘黙症への誤解が減っていると感じている親が多くなりました。具体的には、2002年では場面緘黙症状を支配的(controlling)だと学校が思っていると親が感じている割合は24.0%だったのが、2014年には12.0%になりました。故意に緘黙しているは43.4%から21.7%へ、他の障害のサインは9.2%から1.2%へ、トラウマの結果は11.6%から3.6%になりました。

さらに、2014年のデータによると、親が感じる先生の理解よりも親自身の理解の方が場面緘黙症状を不安の表れだとする割合が多くなり(55.7% vs. 77.7%)、過度のシャイネスや故意の行動だとする割合は少なくなりました(シャイネスが59.0% vs. 33.7%、故意行動が21.7% vs. 7.2%)。

○場面緘黙児の感覚過敏に関する調査(Steinbeck, L., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., & Pantone, M., 2016a)

対象児は場面緘黙症状の治療を求めに来た子供1,446人。女児が63.5%。平均年齢が6.74歳(SD = 3.15)。白人が79.0%。親が場面緘黙総合診断質問票(Selective Mutism Comprehensive Diagnostic Questionnaire:SMCDQ)に回答。

調査の結果、場面緘黙症の疑いがある子供の75.9%に1種類以上の感覚過敏がありました。最も多かった感覚過敏トップ3は食べ物の好き嫌いが激しいこと(picky eaters)、音への過敏、ヘアーブラッシング(髪の毛のブラシがけ)や(髪の毛の?)洗浄への過敏でした。

自閉症スペクトラム障害児や健常発達児の感覚過敏の先行研究と比較しました。その結果、食べ物の好き嫌いが多い子が多い順に自閉症スペクトラム障害児(56.2%)、場面緘黙児(35.1%)、健常発達児(9.7%)となりました。聴覚過敏が多い子が多い順に自閉症スペクトラム障害児(45.6%)、場面緘黙児(33.7%)、健常発達児(11.9%)となりました。ヘアーブラッシング/ウォッシングへの感受性が高い子が多い順に自閉症スペクトラム障害児(65.1%)、場面緘黙児(30.2%)、健常発達児(13.0%)となりました。

○場面緘黙児の問題行動(difficult behaviors)、摂食、排泄(トイレト)、睡眠に関わる問題の調査(Steinbeck, L., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., & Pantone, M., 2016b)

サンプルは場面緘黙症状を治しに来た子供1,652人。女児が63.4%。平均年齢は6.75歳(SD = 3.20)。白人が79.0%。調査は親が場面緘黙総合診断質問票(SMCDQ)に回答することで実施(10件法)。調査期間は2002~2015年。回答項目は頑固さやルーチンを変える柔軟性の欠如、先延ばし(procrastination)、泣きやまないこと(crying spells)、破壊的行動等の問題行動。

調査の結果、場面緘黙児の43.6%が寝るのを嫌がる、入眠困難を示すなどの睡眠問題を抱えていると親が申告しました。親によると、トイレットトレーニングが難しかった場面緘黙児は36.5%で、現在または過去にトイレを嫌がる、トイレで事故るなど排泄問題を抱えていた場面緘黙児は45.9%でした。食事の好き嫌いが激しい、食べないなどの摂食問題を家、または学校で経験した場面緘黙児は46.3%でした。10件法で10点満点だった問題行動の割合は頑固さで9.3%、泣きやまないことが5.3%、先延ばしが4.3%、柔軟性の欠如が3.8%、破壊的行動が0.8%でした。

○コメント

場面緘黙症状を呈する子供の併発症で不安障害の割合は25%でした。不安障害の内訳がよくわからないのですが、仮に不安障害に社交不安障害(社会不安障害)や回避性障害も入っていたとしたら、場面緘黙児は社交不安障害または回避性障害の併発率が100%などというお話し(緘黙界では有名な研究だと思いますのであえて文献は明示しません)とは食い違います(ただ、回避性障害が不安障害なのかどうか私にはわかりません)。もっとも、このお話はサンプルが少ないゆえに、その信頼性は高くないと思われます。一般的に科学研究においてはサンプルサイズが少ないと、検出力が低くなり、後続研究で再現されないか(Ioannidis, 2005)、再現されたとしても関係性が弱いという結果になりがちです(簡単にいえば初期の研究のサンプルサイズが小さいならば極端な結果がでやすく、後に訂正される可能性が高いということ)。実際に、正式な場面緘黙症の診断がされているかどうか怪しいものの、場面緘黙児14名の中で社交不安障害を併発していた子供はいなかったという研究(Nowakowski et al., 2011)もあります。もっともそれでも、14人の場面緘黙児の内、6人(43%)が分離不安障害か特定恐怖症を、1人(7%)が分離不安障害と特定恐怖症の両方を併発していました(Nowakowski et al., 2011)。これを多いと判断することができるかどうかは分離不安障害や特定恐怖症に関する疫学的知識が必要になるので私にはできませんが、今回の研究で示されたように、場面緘黙児には不安障害の併発が多いということはほぼ間違いないことのように思われます。

2002年よりも2014年の方が学校の場面緘黙症への誤解が減っていると感じている親が多くなっているのは良い兆候といえるかもしれません。その原因が分からないのですが、何らかの啓発活動やメディアの報道の成果でしょうか?ただ、これはあくまでも「親が感じている」というだけの話で、実際の学校側の理解を問うた調査ではありませんから、先生に直接質問紙調査する必要があります。日本では公立小学校の一般教諭・養護教諭に対する調査で「場面緘黙症の症状を知っている」のが96.7%、「支援方法を知っている」のが40.9%との研究成果(杉森・石原, 2011)公立中学校の一般教諭で選択性緘黙を「全く知らない」割合は約24%だが、約57%の中学校の先生が選択性緘黙を理解している/知っているという研究(成田・斉藤, 2012)があります。

日本での教職員への質問紙調査は他にもあります。詳しくは「緘黙高校生の進路・将来を心配する教員は11%」や「緘黙の4類型で緘動タイプは高学年ほど多くなる」という記事を参考にしてください。そういえば、日本では場面緘黙児/緘黙青年の親に対する質問紙調査が少ないような印象です。場面緘黙経験者に対する質問紙調査は「選択性緘黙を克服した平均年齢は18歳」や「場面緘黙の経験者への質問紙、インタビュー調査(日本)」がありますけどね。

自閉症スペクトラム障害児よりも少ないものの、健常発達児と比較すると場面緘黙児の方が食べ物の好き嫌いが激しい子や聴覚過敏の子、ヘアーブラッシング/ウォッシングへの感受性が高い子が多くなりました。不安専門のクリニックを診察した小児患者88人の内、触覚過敏・聴覚過敏の少なくとも1つがある子供が93.2%という先行研究(Conelea et al., 2014)が思い出されます。実は私も幼い頃は食べ物の好き嫌いが激しく、かっぱ寿司などでは卵寿司しか食べないということがしばしばでした(今ではけっこう何でも食べます)。床屋のバリカンも苦手でしたし、少なくとも私には思い当たるふしがあります。

○引用文献:Ioannidis.(2005)は全文ではなく一部だけ読みました。また、URLの最終アクセス日は2016年4月3日現在のことです。
Ioannidis, J. P. A. (2005). Why Most Published Research Findings Are False. PLOS Medicine, 2(8): e124. doi:10.1371/journal.pmed.0020124.

Pantone, M., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., Debski, M., & Steinbeck, L. (2016, April). What Else is Going On? Selective Mutism Comorbidities. Poster presented at Anxiety and Depression Conference, Philadelphia Marriott Downtown Philadelphia, PA. <http://www.aievolution.com/ada1601/index.cfm?do=abs.viewAbs&abs=1600>

Pantone, M., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., & Steinbeck, L. (2016, April). Perceptions are Important! Caregivers’ Perceptions of their Own and Their Schools’ Views About Selective Mutism. Poster presented at Anxiety and Depression Conference, Philadelphia Marriott Downtown Philadelphia, PA. <http://www.aievolution.com/ada1601/index.cfm?do=abs.viewAbs&abs=1599>

Steinbeck, L., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., Pantone, M. (2016a, April). Sensory Sensitivities in Children With Selective Mutism: Are They Different than the Norm? Poster presented at Anxiety and Depression Conference, Philadelphia Marriott Downtown Philadelphia, PA. <http://www.aievolution.com/ada1601/index.cfm?do=abs.viewAbs&abs=1581>

Steinbeck, L., Armstrong, S., Shipon-Blum, E., & Pantone, M.(2016b, April). The “Quad”: Eating, Sleeping, Toileting and Behavioral Difficulties in Children With Selective Mutism. Poster presented at Anxiety and Depression Conference, Philadelphia Marriott Downtown Philadelphia, PA. <http://www.aievolution.com/ada1601/index.cfm?do=abs.viewAbs&abs=1586>

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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