分離不安の変化と母親の養育の関係は抑制気質の高低で異なる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

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興味深い研究成果をすべて熟考できればいいのですが、生憎時間が許しません。そこで、抑制的気質(行動抑制)に関する興味深い論文を軽く取り上げます。ほとんどが最新の研究成果で、できるだけ全文読むよう努力します(今回も全文読みました)。

なぜ、抑制的気質なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は抑制的気質が強いという仮説があるからです。なお、抑制的気質とはなんぞやという方は「行動抑制の概念 by Jerome Kagan」をご覧ください。特に、抑制的気質は社交不安障害(社会不安障害)のリスクを7.59倍高めるというメタ解析研究があります(Clauss et al., 2012)。

今回は抑制的気質の子に母親が極端な保護的養育行動をとっても、侵入的養育行動をとっても分離不安が高まりやすく、中間的養育が最もリスクが低いという研究です。

なお、抑制的気質以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒オキシトシンの記憶への影響が恋人との破局を予測する
↑オキシトシンスプレーで現在の恋人との葛藤記憶(口論した記憶など)を思い出すことが多かった人は、その後の78週間で恋人と破局(関係崩壊)している可能性が80%ぐらいあったという研究です。

Kiel, E. J., Premo, J. E., & Buss, K. A. (2016). Maternal encouragement to approach novelty: a curvilinear relation to change in anxiety for inhibited toddlers. Journal of Abnormal Child Psychology, 44(3), 433-444. DOI:10.1007/s10802-015-0038-3.

アメリカのオハイオ州オックスフォードのマイアミ大学心理学教室、ステートカレッジのペンシルベニア州立大学心理学教室の研究者らによる論文です。

○序論

環境要因は抑制的気質の子供を不安リスクに陥れることがあります。環境要因には親の養育スタイル(育児スタイル)も含まれます。たとえば母親の侵入的養育、(過)保護、感受性の低さは子供の不安の高さと関連します。しかし、抑制的気質児では、母親が温かく反応性が高いなど感受性が高い方が抑制的気質の持続と関連することも、母親の感受性が高い方が不安が低くなることもあり、結果が一貫しません。これは侵入的養育でも同様で、研究結果に一貫性がありません。

結果が一貫しないのは、専門用語の使い方に一貫性がないことや養育と行動抑制・不安との関係を線形的にモデル化していることが原因と考えられます。したがって、本研究では養育行動を新奇への接近奨励(Encouragement To Approach Novelty:ETAN)という行動側面から捉え、養育と不安の関係を曲線的関係の次元で解析しました。

ETANとは子供の不安リスクを予測するために、新奇刺激への接近行動の奨励が低い養育行動(保護、過度な感受性など)から奨励が高い養育行動(侵入的養育など)をスペクトル(連続体)として考えるものです。ここで曲線的というのは、奨励が低い養育行動でも奨励が高い養育行動でも子供の不安リスクが高くなり、中間/中庸で不安リスクが低くなるという意味です。なお、中間的奨励の養育とは言語的奨励(子供への「交流/接近してほしいな」という親の発言)や接近のモデリングのことです。

この親の養育と子供の不安との曲線的関係は特に抑制的気質児で顕著との仮説をたて、本研究が実施されました。

○方法

2歳での評定に参加したのは110人の母親/幼児。幼児の平均月齢は24.74カ月(SD = 0.70)。48人が女児。追跡後の3歳での評定に参加したのは76人(69%)の母親と子供。追跡後の評定に参加した群と参加しなかった群で2歳での行動抑制・分離不安・シャイネス・母親の新奇への接近奨励行動に有意差が検出されませんでした。しかし、追跡後の調査に参加しなかった群の方が社会経済的地位が低くなりました(データ解析では社会経済的地位を統制)。

●2歳での評定
・行動抑制の評価はリスク部屋(Risk Room)パラダイムで実施。このパラダイムで実験者が母子を大きな部屋に連れていきました。部屋にはリスク行動が要求される品々(トンネルのおもちゃやトランポリン器具等)が置いてありました。3分間、幼児は自由遊びができました。その間、母親には子供との交流をしないよう、教示をし、雑誌を読んでもらいました。その後、実験者が幼児にリスク行動が必要な遊びをするよう要求しました(おもちゃのトンネルの中を通る、トランポリンでジャンプをする、平均台の上を歩くなど)。

リスク部屋パラダイムで実験者の退出後、初めておもちゃに触るまでにかかった時間を潜時として記録。自由遊び条件でのためらいがちな傾向や母親への接近、抱っこのお願いも評定。実験者の要求に幼児がどれだけ応じたかも実施した遊びの数で評価。これらのすべてを平均化して、抑制的気質の指標としました。

・新奇への接近奨励(ETAN)の評価は道化師と蜘蛛(Clown and Spider)エピソードで実施。抑制的気質の評価と違い、ETANでは母親に子供との交流制限を課しませんでした。道化師エピソードとは、部屋にクラウンの格好をした実験者が来て、自己紹介し、シャボン玉やキャッチボール、楽器の演奏という3種類の遊びに子供を誘い、おもちゃをしまうのを幼児に手伝ってもらい、バイバイして退出するというものです。蜘蛛エピソードとは、母親が膝に幼児を乗せている間に、大きな蜘蛛のぬいぐるみが母子への接近、停止、後退を繰り返すというものです。この蜘蛛のぬいぐるみはマジックミラーを通してリモコン操作されていました。実験者が幼児に蜘蛛に触るように促しました。

*道化師(クラウン)とピエロは違います。ピエロはクラウンの一種です。

道化師と蜘蛛エピソードで得点が低いと、保護的で、接近奨励が低いと判断されました。具体的な行動は刺激を回避するように言う、子供を刺激から遠ざけるなどです。中程度の得点は接近を言語的に促す、母親自身が刺激へ接近したり、交流したりする(モデリング)などです。そして、得点が高いと、侵入的で強引な養育(子供が嫌がっているのに身体的、言語的に接近を強要するなど)としました。道化師エピソードの得点と蜘蛛エピソードの得点を合わせて、合成得点を算出しました。

●2・3歳での評定(母親が回答者の質問紙調査)
・分離不安:乳幼児社会情動評定改訂版(Infant Toddler Social-Emotional Assessment - Revised,ITSEA-R)で評価。ITSEAとは乳幼児の問題行動の評価尺度のこと。下位尺度、分離苦痛(separation distress)で分離不安を評価。

・シャイネス:児童社会的選好尺度(Child Social Preference Scale,CSPS)のシャイネス尺度で評定。

○結果

2歳でも3歳でも分離不安とシャイネスは相関せず。2歳での行動抑制は分離不安・シャイネス(2歳)と関連しましたが、3歳での分離不安・シャイネスとは関連せず。また、母親の新奇への接近奨励(ETAN)は抑制的気質や分離不安・シャイネスと何の関係も検出されませんでした。

ところが、2歳での抑制気質が平均より1SD低かった子はETANと2歳~3歳での分離不安の変化が逆U字型の曲線を描きました。すなわち、抑制気質が低いと、母親の接近奨励レベルが低いか高いと分離不安が高まるリスクが低く、中間で分離不安が増加するリスクが高くなりました。特に、母親の侵入的養育レベルが高いと分離不安が低下しやすくなりました。ちなみに、抑制気質が平均的な子も逆U字型曲線でしたが、ETAN得点が小~中の時の分離不安の変化との正の関連は有意傾向にとどまりました。

一方、抑制気質が平均より1SD高かった子では有意な関係はありませんでしたが、逆U字型からU字型に傾向が逆転しているようでした。そして、抑制気質が平均より2SD高かった子では、完全にU字型曲線になりました。つまり、抑制気質が強いと、母親の接近奨励レベルが低いか高いと分離不安が高まるリスクが高く、中間で分離不安の増加リスクが最小になりました。特に、母親の侵入的で強引な養育レベルが高いと、抑制気質児の分離不安が増加するリスクが高くなりました。

シャイネスではETANの影響が何も有意でありませんでした。

○コメント

以上をまとめると、

・抑制気質が弱い子どもの分離不安の低下を予測するのは母親の保護的養育や接近行動の奨励の低さ及び、侵入的養育が高いこと

・抑制気質が強い子どもの分離不安の低下を予測するのは中間的な養育スタイルで、保護的養育が高かったり、侵入的養育が高かったりすると、分離不安が高まりやすい。

となります。中間的な養育スタイルといっても、保護的な養育スタイルに少しだけ傾いていることに注意が必要です(これは行動抑制の高低に依存しません)。また、抑制気質児には中間的養育が良いと言ってもほとんど分離不安が低下していないので(ほぼ現状維持)、分離不安の低下というよりは保護的養育や侵入的養育による分離不安の増加の予防といった方が適切かもしれません。同様に、行動抑制が低い幼児で中間的養育が最も分離不安の増加リスクとはいっても、ほとんど変化がないので、リスクと言えるかどうか疑問です。


乳幼児社会情動評定改訂版(ITSEA-R)の分離苦痛のクロンバックのα係数が2歳で0.66、3歳で0.76と若干低いような気がしたのですが、どうでしょうか。

今回の研究での行動抑制の評価は2歳の時のみでした。先行研究では、行動抑制が持続する子と行動抑制から脱する子が分かれる年齢は14・24ヶ月齢~4歳の間であるという結果(Fox et al., 2001)も得られています。今回の論文ではまさに2~3歳の時の評価で、この時期に該当します。したがって、2歳の時だけでなく、3歳の時も行動抑制を評価したらどうなっていただろうかと疑問に思いました。

父親が参加していないのは残念です。というのも、本研究で調べた新奇への接近奨励行動というのは母親よりも父親の方が子供への影響が高くなることが進化心理学の理論から予想されるからです。新奇への接近奨励行動を測る課題で用いた道化師や蜘蛛は外的脅威で、理論上、外的脅威は母親よりも父親から学習する方が適切で、子供の(社交)不安への影響も母親の(社交)不安よりも父親の(社交)不安の方が強いと考えられています(Bögels & Perotti, 2011)。新奇への接近奨励という養育行動が親の社交不安と同じく、父親の影響の方が大きいかどうかに予断は禁物ですが、父親も参加した実験が望ましいです。

○勇敢さとの関係は?

本論文にはbravery(勇敢さ)という単語が1回も使われていないものの、新奇への接近奨励は勇敢奨励と操作的定義が通じるものがあります。というのも、ETANの評価対象には子供に道化師や蜘蛛との交流を母親が言語的に促進するかどうかも含まれていたからです。ただ、抑制的気質児の分離不安が低下する(あるいは増加を防止する)養育はほんの少し保護的な方面に傾いていたので、行動抑制が高い子どもにやみくもに勇敢行動を促すのは危険だといえます。このことは抑制的気質児への侵入的養育が高いと、分離不安が増加しやすいことからみても明らかです。

論文に勇敢さ奨励(encouragement of bravery)というフレーズが何回も登場する先行研究では、保護者も参加した認知行動療法の後で、(元)不安障害児にスピーチへの参加(勇敢行動)を促す親の発言が多くなっていました(Silk et al., 2013)。ただ、保護者の勇敢推奨発言の増加は子供の不安症状が低下した後で生じたのか、それとも不安症状が低下する前から勇敢を推奨するようになったのかが不明でした。本研究を踏まえると、不安症状が低下した後に勇敢推奨発言が増加した方が子供に良いような気もします。しかし、先行研究では、治療前に保護者の勇敢推奨発言が多いほど不安障害児の治療後の予後が良好であった(Silk et al., 2013)ことから、勇敢推奨発言→不安の低下という経過も十分に考えられます。ただ、この先行研究、勇敢推奨レベルを1分間あたりの発語頻度として定量化しているだけで、どの程度侵入的な発言なのかという点には触れられていないんですね(残念)。

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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