アバターで行動抑制を評価する方法の開発 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

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興味深い研究成果をすべて熟考できればいいのですが、生憎時間が許しません。そこで、抑制的気質(行動抑制)に関する興味深い論文を軽く取り上げます。ほとんどが最新の研究成果で、できるだけ全文読むよう努力します(今回も全文読みました)。

なぜ、抑制的気質なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は抑制的気質が強いという仮説があるからです。なお、抑制的気質とはなんぞやという方は「行動抑制の概念 by Jerome Kagan」をご覧ください。特に、抑制的気質は社交不安障害(社会不安障害)のリスクを7.59倍高めるというメタ解析研究があります(Clauss et al., 2012)。

今回はバーチャルワールドのアバターで行動抑制をスクリーニングできるかもしれないという研究です。

なお、抑制的気質以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒マジックの仕掛けが仕組まれる局面で瞬きをする人が多い
↑マジシャンは観客が瞬きしている瞬間に手品の種を仕込むという研究です。マジックの見せ場の終了直後に瞬きする人が多いので、皆の気が緩んでいる間に手品師は次のトリックを準備している可能性があります。

Myers, C. E., Kostek, J. A., Ekeh, B., Sanchez, R., Ebanks-Williams, Y., Krusznis, A. L., Weinflash, N., & Servatius, R. J. (2016). Watch what I do, not what I say I do: Computer-based avatars to assess behavioral inhibition, a vulnerability factor for anxiety disorders. Computers in Human Behavior, 55, Part B, 804-816. doi:10.1016/j.chb.2015.07.067.

アメリカの退役軍人省ニュージャージー医療サービス制度(VA New Jersey Health Care System)、ニューヨーク州シラキュース退役軍人省ラトガース州立大学ニュージャージー医科大学薬理学・生理学・神経科学研究室&心理学教室&優等学位大学?栄誉大学?(Honors College)、ケスラー財団(ニュー・ジャージー州ウェスト・オレンジ)の研究者による論文です。

○序論

子供の行動抑制の評価は質問紙以外にも行動観察法があります。しかし、大人の行動抑制は質問紙で評定することが多いです。質問紙は社会的な標準と比較して自分がシャイだ、不安が高いなどと自己評価する方法です。しかしながら、これでは社会的標準が何なのか個人ごとに解釈が異なれば、異なった結果になります。また、この問題点を補正した質問紙もありますが、それでも社会的望ましさバイアス(social desirability bias)、反応バイアスなどの弱点を免れません。特に精神障害者では病識(insight)が低いケースもあります。さらに、注意スパンや語彙力、識字能力が低い人にも質問紙調査は不適切です。

したがって、本研究の目的はインターアクティブなバーチャル環境で行動抑制を計測することができるかどうか調べることとしました。具体的には、アバターを用いた仮想世界の社会的状況でどのように行動を選択するかで行動抑制を評定し、質問紙得点との相関を求めました。

・実験1

○方法

研究協力者は大学生114名。女子大生が64.9%。平均年齢21.4歳(SD = 5.0)。質問紙回答とコンピュータ課題実施の順序は参加者間でカウンターバランス。

行動抑制質問紙は行動抑制成人尺度(Adult Measure of Behavioural Inhibition:AMBI)を使用。子供の頃の行動抑制ではなく、成人後の現在の行動抑制を評定。質問項目は新奇な社会的状況での行動に関する質問など。

*AMBI以外の行動抑制の質問紙については『行動抑制を測る質問紙-場面緘黙症の研究に使ってほしい!』を参考にしてください。

コンピュータ課題:まず、自分のアバターを8つの選択肢から選択。アバターは自分のことだと考え、実際の生活と同じような意思決定をするように教示。課題は2つのシナリオで構成。それぞれのシナリオで複数の選択場面があり、その選択を行動抑制の指標としました(選択によって後の展開が変わることはありませんでした)。選択肢は3つ(抑制的気質が強い人がすることの多いものと抑制的気質が弱い人がすることの多いものと中間のもの)。2つのシナリオとは知らない人だらけのパーティーに参加するものと嵐で破壊された家の再建チャリティの建設現場(工事現場)での作業への参加についてのもの。

コンピュータ課題終了後、コンピュータの精通度やコンピュータゲームをしたことがあるかどうか、あるとしたらどのようなゲームで、1週間に何時間やっているかなどについて質問。

○結果

行動抑制成人尺度(AMBI)、コンピュータ課題ともに男性より女性の方が行動抑制が高くなりました。ただし、コンピュータ課題ではパーティーシナリオのみ男女差が検出されました。しかし、保守的な多重比較の補正法、Bonferroni(ボンフェローニ)法でも性差が有意なままの質問はパーティーシナリオの知らない人との会話の開始だけでなく、工事現場シナリオの危険な場所で働く意思を確認するものも含まれました。

アバターに起こることへの懸念は軽度にとどまりましたが、ほとんどの参加者はゲームでの選択はリアル世界での行動と同じものを選んだと回答しました。これらに性差は検出されませんでした。

コンピュータでの行動抑制の評価は、パーティーシナリオと工事現場シナリオを合わせると、クロンバックのα係数が.778でした(パーティだけだとα = .718, 工事現場だけだとα = .477)。総平均はすべての参加者がすべての質問に行動抑制レベルが中間の選択をした結果と有意に異なりませんでした。

コンピュータでの行動抑制の評価はAMBI得点と有意な正の相関関係を示しました(r = .783,パーティーがr = .757, 工事現場がr = .634)。課題の順序を統制しても偏相関係数は.783でした。実生活での、工場現場シナリオと似た経験の多さを統制しても、工事現場シナリオはAMBI得点と有意な正の相関関係を示しました(r = .608)。ただ、工事現場シナリオと似た経験がある人はそうでない人と比較して、AMBIでもコンピュータ課題でも行動抑制が低くなりました。

また、自分が選択したアバターを好きかどうか(アバターへの愛着)や、これまでに経験したコンピュータゲームの種類を統制した偏相関係数はそれぞれ.782、.781でした⇒アバターへの愛着やゲーム経験はコンピュータでの行動抑制の評価とAMBI得点の相関関係にほとんど影響せず。

・実験2

実験2の目的は実験1の追試を行い、さらにコンピュータ課題での選択が実生活での行動選択と類似しているかどうかを深く検証することとしました。このため、被験者を実生活での選択と同じ選択肢を選ぶように教示する群と平均的なラトガース大学の学生の選択をするよう教示した群とに割り当てた実験を行いました(実験1・2の参加者はラトガース大学の学生です)。

○方法

最終的にデータ解析された研究参加者は210人。女性が64.3%。平均年齢は21.0歳(SD = 5.2)。リアル世界で自分がするであろう選択をするよう教示をした群(「自分群」)が104人、たとえ自分の行動選択とは違っても平均的大学生の選択をするよう教示した群(「平均的大学生群」)が106人。

教示条件の設定以外の実験方法は実験1と同じ。

○結果

基本的に実験1の結果が再現され、特に「自分群」で再現性が高くなりました。

「自分群」と「平均的大学生群」でコンピュータ課題の得点に有意差が検出されませんでした。しかし、コンピュータ課題の得点とAMBI得点との相関係数は「自分群」よりも「平均的大学生群」で小さくなりました(それぞれr = .780, .480)。回帰直線の傾きも「自分群」より「平均的大学生群」の方が小さくなりました。自己報告でも、コンピュータ課題での選択とリアル世界での行動との一致度は「自分群」よりも「平均的大学生群」の方が小さくなりました。

○コメント

以上をまとめると、

・アバターを用いたバーチャル環境での行動抑制の評価得点は行動抑制成人尺度(AMBI)得点と強い正の相関関係を示す

・アバターでの評価とAMBIでの評価の相関は、質問紙回答とコンピュータ課題実施の順序や工場現場シナリオの実生活での経験、アバターへの愛着、したことのあるコンピュータゲームの種類の影響をほとんど受けない

・実験2でリアルな自分のように行動選択するよう教示をだすよりも、平均的大学生のように行動選択するよう教示を出した方が、コンピュータ課題での行動抑制得点とAMBI(質問紙)得点の相関係数が小さくなる。このことと自己報告のデータを合わせると、アバターの行動選択は実生活での行動抑制を反映している可能性が示唆される。


となります。

実験2ではリアル世界での自分の選択をする群と平均的大学生のような選択をする群とに分けていました。個人的には何も教示をしない群も設定してほしかったです。というのも、この2つの比較だけでは、アバターでの行動抑制の評価得点と質問紙得点との相関が「平均的大学生群」の方が弱くなったのが「実生活での自分のように選択してね」という教示の効果なのか、それとも「たとえ実生活での自分の選択とは違っても、平均的なラトガース大学の学生の行動を選択してね」という教示の効果なのか、あるいは両方なのかが分かりにくいからです。教示なし群の結果が「自分群」の結果に近ければ、「実生活での自分のように選択してね」という教示の効果はないかあったとしても小さいという結論を導き出せます(この場合はデフォルトでリアルな自分のような選択をする傾向があるということになります)。あるいは、教示なし群の結果が「平均的大学生群」の結果に近ければ、「実生活での自分のように選択してね」という教示が行動抑制の評価に重要な要因であることを示すことができます。

選択によってその後の展開が変わることのないコンピュータ課題でしたが、選択によって登場人物に抱く印象が変わらないかなと心配になりました。たとえば、パーティーシナリオではパーティーへの誘いを受け入れる選択肢、代わりに映画に誘う選択肢、誘いを断る選択肢がありましたが、このどれを選んでも結局パーティーに出席することになるみたいです。誘いを断っても無理やり出席させられるということは誘った人への印象を悪くする可能性があり、それが後々の質問への回答に影響するかもしれません。私の余計な勘ぐりならいいのですが…。

ところで、行動抑制が場面緘黙症の病因になり得るという仮説がありますが、場面緘黙症は幼少期に発症することが多く、親が評定する場合はともかくとして、緘黙児自身が自己報告で行動抑制を評価するのは難しそうです。今回の研究のように、アバターなどのバーチャル技術を用いた評定方法が子供でも開発されれば、楽しみながら抑制的気質のチェックができるかもしれません。

なお、論文中ではセラピーツールとしての有用性についても議論されていました。ゲームという安全な空間で抑制的気質が低い人のロールプレイング(役割演技)をしてみようというわけです。そういえば、バーチャル空間のセカンドライフで社交不安障害(社会不安障害)の治療を試みた臨床研究(Yuen et al., 2012)というのもありましたね。ただ、自分の身体に似たアバターを使うと、ティーンエイジャーはフラストレーションの誘導に影響されやすくなるという研究(Wrzesien et al., 2015)もあるので要注意です。もっとも、同研究では身体的に類似したアバターで情動制御力が高まるという結果も得られているのですから、一長一短です。

その他のアバター研究⇒アバターで他人の顔を設定すると、スピーチで生理的覚醒を感じにくい

○引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Wrzesien, M., Rodríguez, A., Rey, B., Alcañiz, M., Baños, R. M., & Vara, M. D. (2015). How the physical similarity of avatars can influence the learning of emotion regulation strategies in teenagers. Computers in Human Behavior, 43, 101-111. doi:10.1016/j.chb.2014.09.024.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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