父子の顔が似ていないと父親の特性不安が高い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、全文を軽く読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害になりました。

今回は、父親が自分の顔と子供の顔が似ていないと思っていると、父親の特性不安が高いという研究です。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒あくびの伝染は他者の存在/監視下で抑制される
↑心理学の研究テーマの1つにあくびの伝染という分野がありますが、それに関わる論文をとりあげました。

Yu, Q., Zhang, Q., Chen, J., Jin, S., Qiao, Y., & Cai, W. (2016). The Effect of Perceived Parent–Child Facial Resemblance on Parents’ Trait Anxiety: The Moderating Effect of Parents’ Gender. Frontiers in Psychology: Evolutionary Psychology & Neuroscience, 7:658. doi: 10.3389/fpsyg.2016.00658.

中国の北京師範大学心理学研究科北京応用実験心理学重点実験室、武漢市の華中科技大学大学院教育学研究科発達教育心理学教室、臨汾市の陝西師範大学(場所と大学名が一致しないので、おそらくこれは論文の間違いです)教職研究科心理学教室、北京軍区幼稚園、アメリカ合衆国フロリダ州のマイアミ大学教育人間発達研究科教授学習部門の研究者による論文です。

○方法

北京の幼稚園から参加者を募集。ひとり親家庭じゃない1人っ子家庭をサンプルとしました(全員初婚)。参加したのは父親55人、母親96人。各々の家庭から父親または母親のいずれか1人が参加(計151家庭)。平均年齢は34.83歳(SD = 3.27)。平均婚姻年数は8.49年(SD = 4.26)。子供の平均年齢は4.66歳(SD = 1.41)で、男児が75人、女児が76人。

質問紙は親が自分の顔と子供の顔をどの程度似ていると感じているかを測る尺度(10件法)と状態-特性不安質問票(State-Trait Anxiety Inventory,STAI)(4件法)を使用。親による子供との顔の類似度評価では、親自身の意見と友達や家族メンバーの立場に立った意見の両方を質問(両者の相関係数は0.85)。親の考えと(親が感じる)友達・家族の考えの尺度得点を平均化。STAIは特性不安得点を算出。

○結果

10件法で評定した親子の顔の類似度の基準点(reference point)を5.5としました。父親でも母親でも、基準点より有意に高く親子の顔が似ていると感じていました。母親の平均値は6.42(SD = 2.04)で効果量Cohen’s dが0.45、父親の平均値は8.02(SD = 1.65)でCohen’s d = 1.54と、母親よりも父親の方が、効果量が高くなりました。実際、母親よりも父親の方が子供と顔が似ていると感じていました(Cohen’s d = 0.86)。

階層的回帰分析の結果、親の年齢や健康状態、子供の性別や年齢、健康状態は親の特性不安を予測しませんでした。一方、家庭の社会経済的地位(Social Economic Status,SES)が高いほど、親の特性不安が低くなりました。また、親が感じる親子の顔の類似度が高いほど、親の特性不安が低くなりました(親の性別は有意な予測変数とはなりませんでした)。

*ここでの家庭のSESとは世帯収入や両親の教育年数のこと。

さらに、親が感じる親子の顔の類似度×親の性別の交互作用項が有意でした。すなわち、父親では子供と顔が似ていないと感じているほど、父親の特性不安が有意に高くなりました。しかし、母親では子供の顔との類似性知覚が母親の特性不安を有意に予測しませんでした。

○コメント 

この論文の背景にあるのは進化心理学理論です。論文自体がオープンアクセス誌、Frontiers in Psychology誌の進化心理学・神経科学ジャーナルに投稿されていますから、当たり前と言えば当たり前のことです。それはともかく、次の段落から理論的背景を説明しましょう。

通常、女性は体内受精をし、自らのお腹を痛めて出産します。したがって、女性にとって、子供に自分の遺伝子が受け継がれていることは自明であります。しかし、男性は子供が本当に自分の子かどうか分かりません。

女性は男性よりも子供への投資が多いとされますが、これには女性は子供が自分の子かどうか男性よりも判断が容易であるという理由があるとされます。一方、本論文によると、比較文化研究において、男性は子供が自分の子であるという信念が高い時に子供への資源の投資が多くなるという先行研究があるのだとか。その意味で、母親の投資は無条件、父親の投資は条件付きであるといえるそうです。

では、男性は何を手がかりに子供が自分の子であると判断しているのでしょうか?間接的な指標として配偶者の貞節があります。また、直接的な指標として、子供の顔や体臭と自分のそれとの類似度があります。そこで、今回は顔を指標とした研究を実施したというわけです。

先に男性は子供が自分の子であるという信念が高い時に、子育て投資が多くなるという話をしました。ということは、顔が自分の遺伝子が子供に垂直伝播しているかどうかの手がかりならば、子供の顔と父親の顔が似ているほど、父親の子供への資源投資が多くなるのではないか?という予想が成立します。実際にそれを支持する先行研究があるようです。父親の顔と子供の顔が似ていると、ドメスティックバイオレンス(DV)が少ないという研究もあるそうな。

投資云々はさておき、もし男性が自分の顔と子供の顔が似ていないと感じたとしたらどうなるでしょうか?子供が自分の子かどうか疑惑を持ち始めることになりかねません。父親としての不確かさが一種の不安状態を作り出すと考えることも可能です。社会的望ましさを鑑みれば、男性が自分が子供の生物学的父親なのかどうか疑念を持っているということを大っぴらにするのは避けられることが多いでしょう。そして、疑惑を抱いたまま、父子関係は長期間続きます。この心理的ストレスが特性不安を高めると考えられるというのが本研究です。

一方、女性は代理母出産等の生殖テクノロジーを駆使しない限りは、自分のお腹を痛めて出産するので、子供が自分の子だと確信できます。ですから、たとえ母子の顔が似ていなくてもそれほど気にせず、特性不安を高めることもないと予想されます。実際に、本研究でも、母親の子供との顔の類似性知覚は母親の特性不安を予測しませんでしたね。

さて、本調査では女性より男性の方が子供の顔と自分の顔が似ていると申告していました。これは、子供が自分の遺伝子を受け継いでいるかどうかに自信がない男性が父親としての不確実性から生じる不安に対処するための心理的防衛メカニズムなのかもしれないという議論が論文中に展開されていました。他には、父親から多くの資源を獲得するため、女性やその親族が子供が父親と似ているということを日常生活で強調し、父親もそれに乗っかった結果である可能性についても考察されていました。

私的には、父親の特性不安が高いから、子供の顔が自分に似ていないと感じる可能性についても検証してほしかったです。

ところで、進化心理学の理論では母親の社交不安よりも父親の社交不安の方が子供の社交不安に与える影響が強い(Bögels & Perotti, 2011)とされます。この理論は何も社交不安だけに当てはまるのではなく、その他の不安症状にも該当するとされます。だとするならば、父親が自分の顔と子供の顔が似ていないと感じる→父親の特性不安が高い→(父親の養育行動→)子供の不安という経路もあり得そうです。もっともこの仮説は、私の知る限り、まだ実証研究が存在しないので妄想にすぎませんが。

ただ、子供の不安が親の育児行動や認知に影響を与えている可能性(Esbjørn et al., 2014)も指摘されています。(父)親の不安→(養育行動→)子供の不安という経路だけでなく、子供の不安→親の養育行動・認知という経路も考慮しなければなりません。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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