コネクトミクス+重症度による認知行動療法反応の予測 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

近年、脳イメージング技術による精神疾患や発達障害の診断(正確にいうと精神医学的診断と脳科学的診断の一致)が可能であるという研究がでてきています。たとえば、うつ病や双極性障害(躁うつ病)、自閉症スペクトラム障害、アスペルガー症候群、アルコール依存症(アルコール中毒)、コカイン依存症に関しては、脳イメージング技術により90%以上の精度で患者と健康な人の識別、あるいは別の疾患/症状との鑑別まで可能という研究成果があります。

また、脳イメージングは薬物療法や認知行動療法の効果の予測を個人ごとに行えます(詳細は「認知行動療法や薬物療法の効果を脳イメージングで予測できる時代へ」をご覧ください)。

今回取り上げる論文もこのような研究動向を受けたものになっています。具体的には、社交不安障害(社交不安症,社会不安障害)の人への認知行動療法の後の社交不安症状の改善を脳イメージング技術を活用して、個人レベルで予測したという内容の論文を取り上げます。なお、本記事タイトルのコネクトミクスとは神経接続マップ(コネクトーム)の研究分野のことを言います。

Whitfield-Gabrieli, S., Ghosh, S. S., Nieto-Castanon, A., Saygin, Z., Doehrmann, O., , Chai, X. J., Reynolds, G. O., Hofmann, S. G., Pollack, M. H., & Gabrieli, J. D. E. (2016). Brain connectomics predict response to treatment in social anxiety disorder. Molecular Psychiatry, 21(5), 680-685. doi: 10.1038/mp.2015.109.

★概要

○方法

研究参加者は社交不安障害患者38人(男性24人,女性14人,右利き32人)。平均年齢は29.2歳(範囲18~49歳)。全米成人読解検査(American National Adult Reading Test,ANART)による平均IQ得点は117.9。社交不安障害の発症の平均推定年齢は12.2歳。平均罹患期間は17.4年。向精神薬を服用している場合は脳スキャンの2週間前までに断薬(ただし、認知行動療法セッション前にD-サイクロセリンを服用したこともありましたが、このことを考慮しても本論文の結果は変わりませんでした)。

リーボヴィッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale,LSAS)による社交不安重篤度の評定は臨床医が実施し、症状が重度であることを確認。社交不安障害の一次診断(primary diagnosis)とは別に気分障害を併発していたのが15人、不安障害を併発していたのが15人。

*詳しくは知りませんが、一次診断と主診断(principal diagnosis)は異なるとの情報がネット上にあります。

認知行動療法前の脳スキャンは3TMRI装置で実施。安静時fMRIの計測は十字の図形を固視している6分間。解析方法はseed-based connectivityとマルチボクセルパターン分析(Multi-Voxel Pattern Analysis,MVPA)。seed-based connectivityとは関心領域(Region Of Interest,ROI)を設定し、他の脳領域との相関を調べる解析方法のことです。今回は両側扁桃体をROIとして他の脳領域との結合を調べました。MVPAとは機械学習の方法で脳活動から生物の知覚や認知の状態を読み取る(デコーディングする)ことが可能な技術です。

拡散強調MRI(Diffusion-Weighted MRI,dMRI,DWI,DW-MRI)で白質路を解析。拡散強調MRIとは水分子の拡散状態から脳の白質線維束を調べる方法のことです。

予測モデルはロジスティック回帰分析で構築。一つ抜き交差確認法(Leave-One-Out Cross-Validation,LOOCV)を使用。一つ抜き交差検証法とは1つのデータだけを取り出して、残りのデータから取り出したデータを推定する方法のことです。LOOCVの利点は別のサンプルデータを取らなくても、既存のデータだけでモデルの般化可能性を調べることができることにあります。

認知行動療法は週1回のセッションを12回実施。

○結果

治療開始前のリーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS)得点が治療結果のばらつきの12%を説明しました。治療前の社交不安障害が重篤である人ほどLSAS得点が改善しました。なお、ここでの治療結果とは認知行動療法の前と後でのLSAS得点の変化のことです。

LSAS得点に加え、扁桃体の安静時結合を加えると、治療結果の33%を説明でき、統計学的にもLSAS得点だけの予測モデルよりも優秀であることが確認されました。LSAS得点の変化を説明するのに重要だった扁桃体との結合領域は膝下前帯状皮質/尾状核/被殻、両側中心溝、右下側頭/後頭皮質でした。膝下前帯状皮質/尾状核/被殻は扁桃体との結合が強いほど、両側中心溝と右側頭-後頭皮質は扁桃体との結合が弱いほど、治療反応が良くなりました。

マルチボクセルパターン分析(MVPA)での安静時結合とLSAS得点の組み合わせは治療結果の34%を説明しました。MVPAと両側扁桃体をseedとした安静時結合、LSAS得点を組み合わせると、治療結果の50%を説明できました。

拡散強調MRI(dMRI)で計測した右下縦束の形態とLSAS得点の組み合わせで治療結果の28%を説明しました。このモデルはLSAS得点だけのモデルよりも予測能が高くなりました。右下縦束のFAについては高いほど、治療反応が良好でした。

*右下縦束の形態とは第一主成分(FA・RD・MD・AD)のこと。FA(Fractional Anisotropy)とは異方性比率のことで、白質統合性の指標として使用されます。RD(Radial Diffusivity)とは放射拡散係数のことで、白質線維に垂直な水分子の拡散度合いを意味し、MD(Mean Diffusivity)とは平均拡散能のことで、3方向の固有値の平均のことです。AD(Axial Diffusivity)とは軸拡散係数のことで、軸索に水平方向の拡散を意味しています。なお、MDはADC(Apparent Diffusion Coefficient:見かけの拡散係数)とほぼ同義だそうです。また、下縦束とは後頭葉と側頭葉を結ぶ連合線維束のことです。

認知行動療法前のLSAS得点、dMRI、扁桃体の安静時結合、MVPAのすべてを組み合わせると、治療結果の60%を説明しました。これは、LSAS得点だけの予測よりも有意に優れていました。これらの予測変数は治療成果の予測のためにそれぞれ固有の情報を持っていました。一方、年齢、知能指数(IQ)、性別は有意な予測変数とはなりませんでした。

ロジスティック回帰モデルの結果、治療前のLSAS得点、dMRI、扁桃体の安静時結合、MVPAのデータで反応良好な人と反応不良な人との識別予測が個人レベルで可能でした。正確性は81%(感度84%、特異度78%)。

*ここでの反応良好とは、認知行動療法前後でLSAS得点が50%以上改善したという意味。また、反応不良とは、LSAS得点の改善が50%未満だったという意味。各々19人。


★コメント

治療開始前のLSAS得点は認知行動療法の治療反応性の12%を説明しました。ところが、LSAS得点を含めた扁桃体の安静時結合では33%、MVPAでは34%、右下縦束のdMRIでは28%を説明しました。LSAS得点の12%との差から脳イメージングによる増分を求めると、一番説明割合が少ない右下縦束のdMRIでも16%となり、ベースラインのLSAS得点そのものよりも脳画像解析の方が認知行動療法の成果を予測する能力が高いといえます。

年齢、IQ、性別は認知行動療法の成果を予測する有意な変数ではありませんでした。これは年齢やIQ、性別に依存せず、コネクトミクス+重症度で認知行動療法の結果を予測できるということを意味し、般化可能性が高いといえます。

認知行動療法が社交不安障害に効くという臨床試験はあくまでも全体としてという意味であり、個々人にとって効果があるかどうかという問題とは別です。実際、インターネットを用いた認知行動療法(+注意バイアス修正訓練)が終了した後に、社交不安障害患者の約30%は社交不安症状に何の変化もなく、4.4%が不眠や不安、うつ症状などの新しい症状が出現するなど、逆に悪化するケースがあることが報告されています(Boettcher et al., 2014)。今回、認知行動療法への治療反応性を個人レベルで予測できるバイオマーカーが示唆されたということで、精密医療(Precision Medicine)への第一歩になります。精密医療とは、簡単にいえば個別化医療のことで、患者の情報からそれぞれにあった治療計画を立案、実施する医療のことです。

社交不安障害者に対するインターネット認知行動療法+注意バイアス修正療法の実施前の【自己参照のネガティブ文ー他者参照のネガティブ文】への背側前帯状皮質と扁桃体の活動で、治療終了から1年後の予後が良好な者とそうでない者とを91.7%の精度で識別したという先行研究(Månsson et al., 2015)は臨床全般印象改善度尺度(CGI-I)によるカテゴリカルな分類を指標としており、自己報告のLSAS-SR(Self-Report version)を使うと予測は難しい結果でした。今回は臨床医が評定したLSASでの予測ということで、CGI-Iを指標としたMånsson et al. (2015)とは異なります。脳イメージングの方法もMånsson et al. (2015)は課題関連fMRI、今回取り上げた論文は安静時fMRI、dMRIと異なるため、直接比較することはできません。

本研究での反応良好性/不良性の判断はLSAS得点が50%以上改善したか否かという基準で、この基準が妥当なのか明確な根拠が論文中に記載されていませんでした。実際、論文中にもこの基準はいくらか恣意的だとの記載があります。最初からこの基準でデータ解析したのなら問題ないのですが、上手くいくまで何回も基準を変更して分析した結果、本論文ができたのなら少し問題がありますが、果たして。邪推ならいいのですが。

それにしても、脳イメージングツールを活用して治療成果を個人レベルで言い当てる研究というのは、反応が芳しくないと予測された人に対してどういう治療方法を代替案として提案するのか?というところまで行っていないことがほとんどですね。認知行動療法が効きづらいとの予想が出た人に対して、他の選択肢を提案しなければ無責任です。

社交不安障害ではありませんが、パニック障害と全般性不安障害での認知行動療法の効果の予測を情動制御課題中のfMRIで実施した研究では最大予測精度が79%(感度86%、特異度68%)でした(Ball et al., 2014)。また、全般的不安重症度・障害尺度(OASIS)、不安感受性尺度(ASI)、ペン状態懸念質問紙短縮版PSWQ-A)とfMRIを組み合わせると、予測精度が73%(感度83%、特異度58%)となり、fMRIだけよりも予測精度が低下していました(Ball et al., 2014)。これは今回のLSAS得点、dMRI、安静時fMRIを組み合わせた手法とは異なりますね。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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