電気ショックと連合した人への報復行動 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト、実験方法、実験結果だけを読んだ不安(障害)・恐怖に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ不安(障害)・恐怖なのかというと、場面緘黙(選択性緘黙)児は不安が高いか、もしくは不安障害(不安症)を併発していることが多いという知見があるからです。さらに、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5では場面緘黙症が不安障害になりました。

今回は、相手から受ける電気ショックの数が多いと、自分も報復とばかりに相手に与える電気ショックの数が多くなるという研究です。電気ショックを与える数が多い人に対して怒りを感じ、身体的攻撃性を媒介として、相手に報復をすることも示唆されました。

なお、不安(障害)・恐怖以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒認知負荷がネグレクトのリスク要因の1つとなる
↑これまで、虐待やネグレクトなどいわゆる不適切な関わり(maltreatment)のリスク要因として個人間で異なる要因についての調査が進展していました。しかし、今回は認知負荷という個人内で変動する要因に焦点を当てた実験という意味で意義深いです。普通の人でも状況によってはネグレクトをしやすくなる可能性が高まるということになります。

Molapour, T., Lindström, B., & Olsson, A. (2016). Aversive learning and trait aggression influence retaliatory behavior. Frontiers in Psychology: Emotion Science, 7:833. doi: 10.3389/fpsyg.2016.00833.

スウェーデン(ストックホルム)のカロリンスカ研究所臨床神経科学部門、スイスのチューリッヒ大学経済学研究科の研究者による論文です。

○実験1

一部の人を除外して35人のデータを解析。女性21人(除外前の平均年齢は22.76歳,SD = 3.10)。ただし、皮膚コンダクタンス反応(Skin Conductance Responses,SCR)の解析は、無条件刺激(US)である電気ショックと連合させないCS−(条件刺激−)よりも電気ショックと連合させるCS+sの方がSCRが大きくならなかったことが1回以上あった人を除外し、23人のデータを解析(女性14人,平均年齢22.57歳,SD = 3.33)。

CSは白人男性の無表情な顔写真3種類。このうち、1枚(CS++)は電気ショック2回と、もう1枚(CS+)は電気ショック1回と、さらにもう1枚(CS−)は電気ショックなしと連合しました。この電気ショックと顔刺激の随伴性のことは参加者に伝えませんでした。CSの呈示時間は9秒。

電気ショックの強さは不快だけど、痛くはないレベル。強化率は75%。USの評価は不快-快の11件法(ー5~5まで)。SCRの計測は非利き手の人差し指の内側指骨と薬指の内側指骨に取り付けた電極から実施。SCRはCS呈示後0.5~4.5秒の最大反応。

参加者の写真を撮り、スクリーン画面に映っている人が参加者自身の写真を見ていると教示しました。したがって、電気ショックを受けたならば、それはスクリーン画面に映っている人が参加者に向けて与えた罰であることになります。また、参加者の写真を相手に見せていると教示しました。これで、参加者が相手に電気ショックを与えたのならば、電気ショックを与えたのが参加者であることが相手に分かると思い込ませました。

他にも3人のプレーヤーが同時に実験に参加しており、参加者を含めた4人でオンラインを通して交流していると教示。しかし、実際には他のプレーヤーはいませんでした。「他のプレーヤー」の行動はコンピュータでプログラムされていました。実験中には「他のプレーヤー」から電気ショックを受けたり、参加者自身が相手に電気ショックを与えることができました。しかし、実験の最初(獲得フェイズ)は「他のプレーヤー」しか電気ショックを与えることができず、参加者が相手に電気ショックをあびせられるのはテストフェイズになってからでした(テストフェイズでは参加者に電気ショックが与えられることはありませんでした)。

テストフェイズではCSの呈示から5~7秒後に、相手に電気ショックを与える意思決定ができるようになりました(獲得フェイズで電気ショックを受けるまでの時間もCS呈示から5~7秒後でした)。意思決定段階ではスクリーンに写っている人に何回電気ショックを与えるか尋ねました。ただし、与えられる範囲は0~2回まででした。選択の内容にかかわらず、CSの呈示時間は9秒。

テストフェイズの最後に各々のCSを評定し、以下の質問紙に回答しました。

使用質問紙
・状態-特性不安質問票特性版(State-Trait Anxiety Inventory-Trait version,STAI-T):特性不安レベルの評定。
・バス-ペリー攻撃性尺度(Buss-Perry Aggression scale,BPAS):攻撃性特性の評定。下位尺度は身体的攻撃性、言語的攻撃性、短気、敵意の4つ。
・バランスド情動的共感尺度(Balanced Emotional Empathy Scale,BEES):共感の評定。

実験1の結果、獲得フェイズでCSに対する皮膚コンダクタンス反応が高い順に、CS++・CS+>CS−となりました⇒参加者は電気ショックの連合の有無を学習できたことが生理的に確認された

テストフェイズで相手に電気ショックを与えた回数が多い順にCS++>CS+>CS−となりました。

CS+・CS++に対する皮膚コンダクタンス反応と相手に与えた電気ショックの回数の間の正の相関係数は有意傾向となりました(r = 0.40)。

○実験2

実験1はCSと連合するUSの数が多いほど、相手に電気ショックを与えた回数が多くなることを示唆しました。つまり、相手から電気ショックを受けるほど、こちらも報復とばかりに相手に電気ショックを与えるわけです。しかし、その心理学的メカニズムは不明です。そこで、実験2では主観的な電気ショック予期レベルとCSに対する怒りを調査しました。また、CSを除去する選択肢を追加することで、回避動機づけ行動の調査も行いました(しかし、回避動機づけ行動の結果が実験結果の項目には書かれていませんでした)。

最終的にデータ解析に用いられた実験参加者は31人(女性17人)。平均年齢26.00歳(SD = 5.00)。基本的な実験手続きは実験1と同じでしたが、以下に相違点を書いておきます。

CSsからの処罰予期の評定のため、獲得フェイズで各試行ごとにUS予期度を評定。CS呈示から7秒以内にUS予期度を評定。

獲得フェイズで各CS呈示後に怒りレベルを評定。

テストフェイズで、相手に電気ショックを与えないでCSとなっている顔写真を取り除く選択肢を追加。

実験の結果、獲得フェイズでCSに対する皮膚コンダクタンス反応が高い順に、CS++・CS+>CS−となりました。

テストフェイズで相手に電気ショックを与えた回数が多い順にCS++>CS+>CS−となりました。

獲得フェイズでUS予期レベルが高い順にCS++>CS+>CS−となりました。

獲得フェイズで怒りが高い順にCS++>CS+>CS−となりました。

有意となった相関関係は以下の通り(絶対値で大きい順)
特性不安と敵意(r = 0.651)、身体的攻撃性と共感(-0.586)、身体的攻撃性と与えた電気ショックの数(0.492)、CS++とCS+での怒り評定の差とUS予期評定(0.478)、短気と言語的攻撃性(0.476)、相手に与えた電気ショックの数とUS予期評定(0.469)、身体的攻撃性と言語的攻撃性(0.450)、身体的攻撃性とCS++とCS+での怒り評定の差(0.437)、身体的攻撃性とUS予期評定(0.409)、相手に与えた電気ショックの数とCS++とCS+での怒り評定の差(0.389)、与えた電気ショックの数と共感(-0.355)。
*論文の書き方が明確でなかったので分からないのですが、一部実験1の結果も含まれているっぽいです。

媒介解析の結果、CS++とCS+での怒り評定の差→身体的攻撃性→CS+sに与えた電気ショックの数という媒介関係が検出されました。

実験後のインタビューの結果、電気ショックを相手に与えた動因として報復、仕返しに言及した人が75%を占めました。電気ショックを与えるのが楽しかったからという人が6%、相手にメッセージを送りたかったという人が8%、分からないが8%、顔写真の容姿(あるいは出現?原語:appearance of the other person)が3%でした。実験や研究者の要求だと思って電気ショックを与えた人はいませんでした。

また、実在する人物から電気ショックを受けていたと思っていたのは実験1で56%、実験2で61.3%でした。自分の電気ショックが実際に相手に与えられたと思っていたのは実験1で78%、実験2で55.9%でした。

○コメント

まとめ:恐怖条件づけの獲得フェイズで電気ショック(US)を参加者に多く与えた顔写真の人(CS)に対して、テストフェイズで報復とばかりに電気ショックを浴びせる回数が多くなりました。USと連合したCSに対して怒りを感じ、身体的攻撃性を媒介として、相手に報復をするという構図も見いだされました。

皮膚コンダクタンス反応ではCS+sに対して生理的覚醒があり、CS+sとCS-の弁別学習ができていることが示されました。また、感情に関しては、連合している電気ショックの数が多くなるほどCSに怒りを感じていました。しかし、本ブログの主題の1つである恐怖レベルの評定は調べられていませんでした。なので、恐怖が相手への報復、反社会的行動を促進するのだ!と言いたかったのですが、それは叶いませんでした。代わりに電気ショックを与える相手への怒りが身体的攻撃性を媒介として仕返しを促進するという結果になりました。今後、恐怖との関係も検討されてほしいです。

なお、CSと連合するUSの数が増すにつれて相手に与えた電気ショックの数が増加したことは報復ではなく、同調行動や規範、公平性として説明することも可能で、この可能性も排除する必要があります。電気ショックを与えてくる相手に同調するということは考え難い気がしますし、本実験のように3人の相手プレーヤーの行動がばらばらであるのに同調行動が生じやすくなると考えるのも変ですが、科学的厳密性を信条とするならば、可能性の排除が必要です。まあ、実験後のインタビューで報復が動因だと答えたのが75%だったので、少なくとも顕在的には同調などよりも報復の方が心理メカニズムとして強いでしょう。

ところで、恐怖に際して「闘争か逃走か反応/戦うか逃げるか反応(fight or flight response)」というものが動物に生じるとされています。私が恐怖が相手への報復、反社会的行動を促進すると言いたかったのは、「闘争か逃走か反応」の闘争の側面に着目した発想です。この発想を間接的に支持する研究として、社交不安障害(社交不安症)者の中で反社会性人格障害(反社会性パーソナリティ障害)を併発している人の割合が多いという調査(Galbraith et al., 2014)があります。他者からの否定的評価を恐れる男性はデートDVをしがちという報告(Hanby et al., 2012)もあります。ヒトでも恐怖で闘争心が燃えることがあるのかどうか今後の検討が望まれます。そういえば、恐怖は怒り感情の低下を妨げるという実験報告(Zhan et al., 2015)がありましたね。

なお、「闘争か逃走か反応」には「戦うか逃げるかすくむか反応(fight or flight or freeze response)」という表現もありますが、すくみ反応(フリージング反応)に関してはヒトでも似たような現象が生じることが知られています。

ヒトのフリージング研究については以下の記事を参考のこと
不安が強い人ほど怒った顔を見るとフリーズする
緘黙人の緘動-フリージングの心理学研究より
愛着不安定型だった青年は怒り表情にフリージングする

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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